はじめに
2026年8月19日、社会保障審議会障害者部会(第158回)とこども家庭審議会障害児支援部会(第21回)で、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の改正を踏まえた基本指針の改正案などが示されました。
今回の法改正では、支援対象の拡大や支援施策の充実、医療的ケア児支援センターの機能強化など、幅広い見直しが行われます。
その中でも、生活介護、グループホーム(GH)、相談支援、就労系サービスなど成人期の障がい福祉に関わる事業所にとって注目したいのが、医療的ケアが必要な人を児童期から成人期へ切れ目なく支えるという考え方が、これまで以上に明確になったことです。
この記事では、改正内容すべてを取り上げるのではなく、「医療的ケア児が18歳になった後の支援」という視点を中心に整理します。
まず確認:法改正は成立済み、基本指針は「改正案」の段階
最初に、現在どこまで決まっているのかを整理しておきます。
「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の改正法は、2026年7月の第221回国会で成立しています。
改正法の施行日は、**2027年4月1日(令和9年4月1日)**です。
一方、2026年8月19日の両部会では、この法改正を踏まえた「障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針」の具体的な改正案などが示されました。
つまり、
法律の改正と2027年4月1日の施行は決定済み。
基本指針については具体的な改正案が示された段階。
と分けて理解する必要があります。
8月19日時点で示されている基本指針は最終的な告示そのものではないため、今後の正式な告示等を引き続き確認する必要があります。
「医療的ケア児等」へ支援対象が広がる
今回の法改正の大きなポイントの一つが、支援対象の拡大です。
これまでの法律では、「医療的ケア児」とその家族への支援が中心となっていました。
改正後は、「医療的ケア児等」と「重症心身障害者」へ支援対象が広げられます。
「医療的ケア児等」には、次のような人が含まれます。
- 医療的ケア児
- かつて医療的ケア児であり、現在も日常生活・社会生活を営むために恒常的な医療的ケアが不可欠な人
- 日常生活・社会生活を営むために恒常的な医療的ケアが不可欠であり、かつ、それによって自立した日常生活または社会生活を営むことが困難な状態にある人
さらに、重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している重症心身障害者も、法律上の支援対象に加えられます。
これに伴い、法律の題名も、
「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」
へ変更されます。
単純に「医療的ケア児が成人した後も対象にする」というだけではなく、支援対象そのものをより幅広く捉え直す改正だと理解しておく必要があります。
「18歳になった後も切れ目なく」が基本理念に
今回の改正で、成人移行という観点から特に注目したいのが基本理念です。
改正法では、
18歳に達した後等も、切れ目なく適切な保健医療サービス・福祉サービスを受けながら、希望する地域で日常生活・社会生活を営むことができるようにする
という考え方が基本理念に加えられています。
医療的ケアが必要な人の支援ニーズは、18歳になったからといって突然なくなるものではありません。
一方で、制度上は児童期の障害児支援から、成人期の障害福祉サービス等へ移っていく節目があります。
今回の改正では、その境目で支援が途切れないようにすることが、法律上の基本理念としてより明確に位置づけられたことになります。
いわゆる「18歳の壁」が、この法改正だけで直ちになくなるわけではありません。
しかし、児童期から成人期までを切れ目なく支える方向性が、法律上より明確になったことには大きな意味があると私は考えています。
生活・就労・住まいなど支援施策も拡充
今回の改正は、対象者の範囲を広げるだけではありません。
生活・就労等に関する施策として、
- レスパイトや通学支援等を含む日常生活支援
- 切れ目ない医療の提供
- 就労支援
- 住居の確保
- ピアサポート
なども法律上位置づけられています。
成人後の生活を考える場合、医療だけではなく、どこで暮らすのか、どのように日中活動や就労につながるのか、本人や家族を誰が支えるのかといった複数の課題が関係します。
生活介護、GH、就労系サービス、相談支援などに携わる事業所にとっても、今回の改正は「医療分野だけの話」ではなく、地域生活全体を支える仕組みの方向性として確認しておきたい内容です。
医療的ケア児支援センターも拡充へ
現在の「医療的ケア児支援センター」についても、2027年4月1日の法施行後は「医療的ケア児等支援センター」へと拡充されます。
改正法では、都道府県に加え、指定都市、中核市、その他政令で定める市、特別区でもセンターを設置できる仕組みとなります。
また、8月19日に示された基本指針改正案では、
- 支援対象として医療的ケア者や重症心身障害児者を追加する
- 個別避難計画の作成への協力を業務として位置づける
- 災害時に市町村と連携して情報提供等を行う
- 指定都市・中核市・特別区でも、地域の実情に応じて必要なセンター等を設置することが重要である旨を盛り込む
といった内容が示されています。
事業所側から見れば、今後、医療的ケアが必要な成人を地域で支える際の相談・連携体制がどのように整備されていくかという点で関係してくる部分です。
地域協議会も新たに法律上位置づけられる
今回の改正では、「医療的ケア児等支援地域協議会」も法律上新たに設けられます。
協議会では、医療的ケア児等や重症心身障害者、その家族に対する地域の支援について関係機関が協議し、その協議結果については関係者に尊重義務が課されます。
基本指針改正案では、都道府県について、これまでの「協議の場」に代えて、この医療的ケア児等支援地域協議会を設置することを基本とする方向性も示されています。
制度上の枠組みを作るだけではなく、医療、福祉、教育などの関係機関が地域でどう連携するかという点も、今回の改正の重要なポイントです。
今回、障がい福祉サービスの報酬や人員基準が変わったわけではない
ここで、事業所の方に特に注意していただきたい点があります。
2026年8月19日の資料によって、生活介護、GH、就労系サービスなどの報酬や人員配置基準が変更されたわけではありません。
今回示されたのは、改正法の概要、施行令の制定、そして障害福祉計画・障害児福祉計画に関係する基本指針の改正案です。
そのため、
「医療的ケア者が対象に加わったから、生活介護の人員配置が変わる」
「GHで医療的ケア者を受け入れなければならなくなる」
といったところまで、この資料から読み取ることはできません。
各障がい福祉サービスの報酬や配置基準、具体的な受入体制については、それぞれ別途示される制度・基準や今後の報酬改定等の議論を確認する必要があります。
事業所として今、何を意識すればよいのか
では、生活介護、GH、就労系サービス、相談支援などの事業所は、今の段階で何をすればよいのでしょうか。
現時点で、今回の法改正だけを理由に事業所の人員配置や運営方法を変更する必要はありません。
一方で、今回の改正が示す方向性は確認しておいてよいと思います。
例えば、
- 成人移行期にある利用者について、医療・福祉・住まい・日中活動や就労など、どのような連携ニーズがあるのかを確認しておく
- 現在の医療的ケア児支援センターや相談支援事業所など、地域の相談・連携先を確認しておく
- 2027年4月1日の施行に向け、基本指針の正式な改正内容や関係通知、今後の障がい福祉制度・報酬改定の議論を継続して確認する
といったことが考えられます。
大切なのは、まだ決まっていない実務まで先回りして変更することではありません。
現在の制度で必要な支援を適切に行いながら、2027年4月以降の地域支援体制がどう具体化されるのかを確認していく。
今はその段階だと考えています。
おわりに
医療的ケア児支援法の改正法は既に成立し、2027年4月1日の施行が決まっています。
今回の改正では、成人後も恒常的な医療的ケアを必要とする人などへ支援対象が広げられるとともに、「18歳に達した後等も切れ目なく支援する」という考え方が基本理念として明確に位置づけられました。
一方、2026年8月19日時点では、基本指針について具体的な改正案が示された段階です。また、今回の資料によって各障がい福祉サービスの報酬や人員配置基準が変更されたわけでもありません。
「18歳の壁」が今回の法改正だけですべて解消されるわけではありません。
それでも、児童期から成人期へ支援を切れ目なくつなぎ、医療・福祉・住まい・就労などを含めた地域生活を支えていく方向性が、法律上さらに明確になったことは重要な変化です。
今後、基本指針の正式な改正や関係通知、地域の支援体制がどのように具体化されていくのか、引き続き行政情報を確認しながらお伝えしていきます。
18歳以降の支援を、事業所としてどうつないでいくか整理できていますか?
医療的ケアが必要な方の成人期への移行では、生活介護、住まい、相談支援、就労など、一つのサービスだけでは整理できない課題があります。
行政書士田中慶事務所では、今後示される正式な制度や地域の支援体制も確認しながら、事業所として何を確認し、どのような準備が必要になるのかを状況に合わせて一緒に整理します。
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