はじめに
大阪府南部の6市町(岸和田市・泉大津市・貝塚市・和泉市・高石市・忠岡町)を管轄する広域事業者指導課は、2026年8月19日、介護保険法及び障害者総合支援法の規定による行政処分等の処分基準を公式サイト上で公表しました。
ただし、今回掲載された各市町の処分基準そのものは、2025年4月1日付で定められたものです。
そのため、「2026年8月から行政処分が厳しくなった」「新しい処分制度が始まった」という意味ではありません。
今回の記事では、この公表を一つのきっかけとして、B型、放課後等デイサービス、生活介護、グループホームなどの障害福祉サービス事業所の管理者・経営者の方に向けて、
「運営指導を受けること」と「監査・行政処分に進むこと」は同じではない
という、実務上重要な違いを整理します。
「運営指導」と「監査」は何が違うのか
まず、「運営指導」と「監査」は目的や性質が異なります。
運営指導
運営指導は、障害福祉サービスの質、運営体制、自立支援給付の請求状況などを確認し、事業所が法令や基準等を遵守して適正な運営を行えるよう、必要な指導や助言を行うものです。
運営指導では、主に、
- 障害福祉サービスの実施状況
- 人員・設備・運営などの体制
- 報酬請求
などが確認されます。
その結果、法令や基準に照らして改善が必要な事項が認められれば、文書による改善指導と改善報告を求められることがあります。
また、違反の程度が軽微である場合や、文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合には、口頭で指導されることもあります。
つまり、運営指導で指摘を受けたこと自体が、直ちに監査や行政処分を意味するわけではありません。
監査
一方、監査は、人員基準違反、運営基準違反、不正請求、不正な手段による指定、障害者虐待などがある、またはその疑いがある場合に、事実関係を明らかにするために行われます。
監査では、報告や帳簿書類の提出・提示を求めたり、関係者への質問や事業所への立入検査を行ったりして、違反や不正の事実を確認していきます。
例えば、
- 著しい人員・運営基準違反
- 利用者の生命・身体の安全に危害を及ぼすおそれのある状況
- 架空請求など、不正請求またはその疑い
- 虐待またはその疑い
- 勤務予定のない職員を配置するように装った指定申請など、不正な手段による指定の疑い
といったケースが監査の対象となり得ます。
運営指導から監査に変わることもある
運営指導と監査は別の手続ですが、まったく無関係というわけではありません。
運営指導の途中で重大な問題が確認されれば、監査に変更されることがあります。
厚生労働省のマニュアルでは、例えば、
- 著しい運営基準違反があり、利用者の生命・身体の安全に危害を及ぼすおそれがある場合
- 自立支援給付の請求に著しい不正が認められる場合
などについて、直ちに監査へ変更する考え方が示されています。
ただし、ここで注意したいのは、
「運営指導で指摘された=監査へ進む」わけではない
ということです。
運営指導で確認された法令違反について、文書指導や改善報告によって是正を求めるケースと、不正や重大な違反の疑いについて監査によって事実関係を確認するケースは分けて考える必要があります。
また、監査は必ず運営指導を経てから行われるものでもありません。
通報やその他の情報などから重大な基準違反、不正請求、虐待等の疑いが生じた場合には、運営指導とは別に監査が行われることがあります。
監査の結果、どのような措置が行われるのか
監査を行った結果、不正は認められないものの、運営基準等への適合が不十分である場合には、行政指導が行われることがあります。
一方、行政処分が必要と判断された場合には、
- 命令
- 指定の一部効力停止
- 指定の全部効力停止
- 指定取消し
などの措置が取られることがあります。
ここで一つ重要な点があります。
これらが必ず「勧告→命令→一部効力停止→全部効力停止→指定取消し」という順番で進むわけではありません。
人員基準違反・運営基準違反
人員基準違反や運営基準違反については、原則として行政指導である「勧告」が基本となり、勧告に従わなかった場合には命令が行われる場合があります。
ただし、違反の内容・程度や事業所の運営体制などによって、より重い措置が検討される場合もあります。
人格尊重義務違反・不正請求・不正な手段による指定
虐待等の人格尊重義務違反、不正請求、不正な手段による指定については、それ自体が行政処分の事由となります。
そのため、人員基準違反や運営基準違反のように、まず勧告を行うことが前提となるものではありません。
違反の内容や程度によって、指定の効力停止や指定取消しなどが検討されます。
「勧告」と「行政処分」は分けて考える
障害福祉事業所として理解しておきたいのが、「勧告」と「行政処分」の違いです。
勧告は行政指導です。
一方、命令、指定の効力停止、指定取消しなどは、事業者の権利・地位に直接影響する行政処分です。
例えば指定の一部効力停止では、新規利用者の受入停止などが行われることがあります。
指定の全部効力停止となれば、停止期間中、その指定に基づくサービス提供ができなくなります。
さらに指定取消しとなれば、その指定自体が取り消されます。
指定取消しなどの不利益処分を行う場合には、行政手続法等に基づき、処分内容に応じて聴聞や弁明の機会を設けるなどの手続も必要となります。
処分の重さは何によって決まるのか
同じ「基準違反」という言葉で表されるケースでも、その内容はさまざまです。
厚生労働省の監査マニュアルでは、行政処分等の程度を検討する際の視点として、
- 利用者への被害や影響
- 故意性
- 常習性
- 組織性
- 悪質性
- 過去の行政処分等
などが示されています。
さらに、利用者保護の必要性や事業所の運営体制なども考慮する考え方が示されています。
したがって、
「基準違反があったから指定取消しになる」
「不正請求が見つかったら必ずこの処分になる」
と機械的に決まるものではありません。
個別の事実関係を確認したうえで、違反の内容や程度などを踏まえて判断されます。
運営指導での指摘を必要以上に恐れない。ただし放置もしない
運営指導で指摘を受けることと、監査や行政処分の対象になることは同じではありません。
だからといって、運営指導での指摘を軽視してよいわけでもありません。
文書による改善指導を受けた場合には、何を改善する必要があるのかを確認し、期限までに具体的な改善を行って報告する必要があります。
指摘を受けたことそのものよりも重要なのは、
「なぜ指摘されたのかを理解し、実際の運営を適切に是正すること」
だと私は考えています。
指摘事項を放置したからといって自動的に監査になるわけではありません。
しかし、実際の違反状態が継続し、重大な基準違反や不正等の疑いにつながるような状況になれば、監査によって事実関係を確認される可能性があります。
事業所として日頃から確認しておきたいこと
監査や行政処分を過度に恐れるよりも、日頃の運営が実態と一致しているかを確認しておくことの方が重要です。
例えば、
- 実際の勤務状況と勤務表・人員配置関係書類が一致しているか
- 個別支援計画が必要な手続を経て作成され、実際の支援と整合しているか
- サービス提供記録が実際に行った支援を反映しているか
- 加算等の請求要件を満たしたうえで請求しているか
- 過去の運営指導で改善を求められた事項が、その後の運営にも反映されているか
といった点です。
特別な「監査対策」を行うというより、
実際に行っている支援・人員配置・手続・請求と、それを裏付ける記録や書類を一致させておくこと
が基本になります。
書類だけを整えて実態と異なる状態にすることは、当然ながら適切な対応ではありません。
おわりに
「運営指導」と「監査・行政処分」は、目的も法的な性質も異なります。
運営指導は、事業所が適正な運営を行えるよう、状況を確認して必要な指導や助言を行うものです。
一方、重大な基準違反、不正請求、虐待などがある、またはその疑いがある場合には監査によって事実関係が確認され、その結果によって行政指導や行政処分が行われることがあります。
大切なのは、運営指導を必要以上に恐れることでも、指摘を軽く考えることでもありません。
日々の支援、人員配置、請求、記録を実態に沿って適切に運用し、改善すべき点があればその都度是正していくことです。
書類と、実際の支援・人員配置・請求にズレはありませんか?
運営指導や監査を必要以上に恐れるよりも、勤務実態、個別支援計画、支援記録、加算・報酬請求などが、現在の運営と一致しているかを確認しておくことが大切です。
行政書士田中慶事務所では、今できている部分も確認しながら、書類・記録と実際の運営を見比べ、優先して整理しておきたい部分を一緒に確認します。
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