はじめに
2026年9月17日、厚生労働省の第159回社会保障審議会障害者部会が開催され、「令和9年度障害福祉報酬改定の議論の状況について」が資料として示されました。
この資料で示された内容そのものは、8月27日に開催された第62回障害福祉サービス等報酬改定検討チームで整理された論点を基礎としています。
そのため、9月17日に突然、新しい報酬制度や加算・減算が決まったという話ではありません。
ただし、今回あらためて障害者部会へ報告されたことで、令和9年度報酬改定に向けて国が何を課題として捉え、今後どこを議論しようとしているのかが見えやすくなっています。
特に注目したいのが、**「サービスの質の確保・向上」と「制度の持続可能性」**です。
今回は、第159回障害者部会の資料をもとに、令和9年度障害福祉報酬改定に向けて示されている4つの主要論点と、障害福祉事業所が現時点でどのように受け止めておくべきかを整理します。
令和9年度障害福祉報酬改定は、まだ「検討段階」
最初に押さえておきたいのは、今回示された資料が改定内容の決定版ではないという点です。
資料では、令和9年度障害福祉報酬改定に向けた「主な論点」として、次の4つが整理されています。
- 持続可能なサービス提供体制の確保
- 希望する地域等での生活の支援や多様なニーズへの対応
- サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性の確保
- 地域差や人口減少への対応等
しかも資料には、これらの論点について、現時点のものであり、今後の議論によって変更される可能性があることも明記されています。
つまり現段階で、
「この加算が新設される」
「このサービスの基本報酬が下がる」
「質の低い事業所には減算が導入される」
といった具体的な制度変更が決まったわけではありません。
ここは、制度改正情報を読むうえでかなり重要です。
「国が問題として認識していること」と「実際に制度として決まったこと」は、分けて考える必要があります。
なぜ今、「サービスの質」が大きな論点になっているのか
今回の資料では、障害福祉サービスをめぐる現状として、かなり大きな数字が示されています。
障害者自立支援法の施行から20年が経過し、現在の障害福祉サービス等の利用者は約170万人、国の予算額は約2兆3千億円となり、制度施行時と比較して約4.5倍に拡大したとされています。
さらに、令和6年度障害福祉報酬改定後については、
- 総費用額:+12.1%
- 一人当たり総費用額:+6.0%
- 利用者数:+5.8%
という伸びが示されています。
障害福祉サービスの利用が広がること自体を問題視しているわけではありません。
一方で、費用が大きく伸びる中でも人材確保が課題となり、サービスの質の低下も懸念されていることから、国は必要なサービスを持続的に提供できる制度にすることと、サービスの質を確保することを同時に考える必要があると整理しています。
つまり今回の報酬改定では、
「いくら支払うか」だけではなく、「どのような支援に報酬を使うのか」
という部分も重要なテーマになっていると考えられます。
国が問題意識を示した「十分に質が確保されていないサービス」
今回の資料で、特に目を引く部分があります。
厚生労働省・こども家庭庁は、令和6年度報酬改定以降、障害者本位ではないサービス提供が明らかになった事案があることに触れています。
さらに、新規参入を促す際に、専門的な知識や経験がなくても参入できる、利益を得られるといった趣旨で事業参入を働きかける例が見られることも問題として示しています。
そのうえで、十分な質が確保されていないサービスを提供する事業者も参入する中、障害福祉にかかる総費用の増加や人材確保の難しさに拍車がかかっていると整理しています。
そして令和9年度報酬改定について、
必要な支援を行っていない事業者ではなく、質の高い支援に資源が使われるようにする見直しが必要
という方向性を示しています。
ここは、今回の資料を読むうえで非常に重要な部分だと思います。
「指定・指導監査」だけではなく「報酬」からも質を見る方向へ
これまで事業所の適正な運営という話になると、
- 指定基準
- 人員基準
- 運営基準
- 運営指導
- 監査
といった行政上のチェックを思い浮かべる方が多かったのではないでしょうか。
しかし今回の資料では、事業者指定や指導監査等に関する取組だけではなく、報酬上もサービスの質の確保・向上に向けた取組を進め、メリハリのある報酬体系とする必要があるのではないかという考え方が示されています。
これはかなり大事な視点です。
ただし、ここで注意が必要です。
現段階で、
「質の高い事業所は加算、質の低い事業所は減算」
という具体的な仕組みが決定しているわけではありません。
今示されているのは、あくまで今後の報酬改定を検討する際の基本的な考え方です。
具体的に何をもって「質」と評価するのか。
どのサービスについて、どのような指標を用いるのか。
報酬にどの程度反映するのか。
これらは、これから各サービスの具体的な報酬・基準の議論が進む中で確認していく必要があります。
4つの論点を、事業所運営の視点から見てみる
ここからは、今回示された4つの論点をもう少し事業所側の視点から見てみます。
1.持続可能なサービス提供体制の確保
物価高騰、賃金上昇、人材確保、事業者の経営状況などを踏まえ、必要なサービスを継続して提供できる体制をどう確保するかという論点です。
障害福祉の現場では、人材不足や処遇改善といった問題を避けて通れません。
そのため、単純に費用を抑えるという話ではなく、必要なサービス提供体制を維持しながら制度をどう持続させるのかが問われています。
2.希望する地域等での生活の支援や多様なニーズへの対応
障害のある方が希望する地域で生活するための支援や、障害特性、年齢、生活状況などによる多様なニーズへどう対応するかという論点です。
障害福祉サービスは、単に既存のサービスメニューを提供すれば終わりではありません。
利用者本人がどのような生活を希望しているのかを起点として、必要な支援を組み立てるという本来の考え方が、改めて重要になります。
3.サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性の確保
今回、特に注目したい論点です。
障害福祉の総費用が増加していく中で、必要な支援に資源が使われる制度にしていくことが求められています。
つまり、
「サービスを提供している」という事実だけではなく、「どのような支援を提供しているのか」
が、これまで以上に問われていく可能性があります。
4.地域差や人口減少への対応等
人口減少や地域差がある中でも、必要な障害福祉サービスへアクセスできる体制をどう維持するかという論点です。
特に都市部と地方では、利用者数、人材確保、事業所数、移動距離など条件が大きく異なります。
全国一律の仕組みだけでは対応しにくい課題を、制度としてどう扱うかも今後の議論になります。
では、事業所はいま何をすればいいのか
報酬改定の具体的な内容が決まっていない段階で、将来の制度を予想して書類や運営方法を大きく変更する必要はありません。
むしろ、今の段階で重要なのは、現在の支援がきちんと説明できる状態になっているかを確認することだと思います。
例えば、
アセスメント
↓
個別支援計画
↓
実際の支援
↓
支援記録
↓
モニタリング
↓
次の個別支援計画
という流れです。
これは今回の資料に、この順番で確認するよう明記されているという意味ではありません。
ただ、「サービスの質」が今後の重要な政策論点になるのであれば、事業所としてはまず、利用者のニーズを把握し、そのニーズに基づいて計画を立て、実際に支援し、その結果を記録・評価して次の支援につなげるという基本的な支援プロセスを丁寧に運用することが重要です。
書類を作ること自体が目的ではありません。
一方で、どれほど丁寧な支援をしていても、その支援の目的や経過が記録されていなければ、第三者からその内容を確認することは困難です。
だからこそ、
「良い支援」と「その支援を説明できる記録」の両方が必要
だと私は考えています。
「質」という言葉だけを恐れる必要はない
今回の資料を見ると、「質の高い支援」「質の確保・向上」といった言葉が何度も登場します。
これを見ると、
「また事業所に求められることが増えるのではないか」
と不安になる方もいるかもしれません。
ただ、現段階で具体的な新しい義務が示されたわけではありません。
むしろ重要なのは、今後の議論を追いながら、
- 何が決まったのか
- 何がまだ検討中なのか
- 自分たちのサービスに関係する論点は何か
を切り分けることです。
報酬改定の議論では、途中段階の資料が数多く公表されます。
その一つひとつに反応して運営を変えるのではなく、制度の方向性を把握しながら、決定事項が出た段階で必要な対応を行う。
それで十分です。
まとめ
第159回障害者部会では、令和9年度障害福祉報酬改定に向けた議論の状況として、
- 持続可能なサービス提供体制の確保
- 希望する地域等での生活の支援や多様なニーズへの対応
- サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性の確保
- 地域差や人口減少への対応等
という4つの論点が示されました。
中でも特徴的なのは、事業者指定や指導監査だけではなく、報酬上でもサービスの質の確保・向上を進めていく方向が示されていることです。
ただし、具体的な加算・減算や報酬単位が決まったわけではありません。
現時点では、
「令和9年度報酬改定では、サービスの質と制度の持続可能性が重要な検討軸になっている」
というところまでを正確に押さえておくのがよいでしょう。
今後、各サービスについて具体的な報酬・基準の議論が進めば、事業所への影響も少しずつ見えてきます。
当事務所でも、引き続き一次資料を確認しながら、決定事項と検討段階の内容を分けてお伝えしていきます。
「書類はある」だけでなく、支援の流れまでつながっていますか?
個別支援計画と日々の支援記録、モニタリングの内容がかみ合っているかを確認することで、 現在の支援を第三者にも説明しやすい状態に整理できます。
行政書士田中慶事務所では、障害福祉事業所向けに 「支援記録・個別支援計画の整合性レビュー」を行っています。
整合性レビューの詳細を見る