2026年9月24日に開催された第63回障害福祉報酬改定検討チームでは、訪問系サービスについて、ピアサポートの専門性を報酬上評価する方向が示されました。
厚生労働省は、ピアサポーターによる支援について、利用者と同じ目線に立った相談・助言などを通じて、本人の自立に向けた意欲の向上や、地域生活を続ける上での不安の解消等が期待できると整理しています。そのうえで、訪問系サービスについてもピアサポートの専門性を評価することを検討してはどうか、と明記しました。
今回の報酬改定シリーズでは、B型の報酬評価、生産活動、新規指定、在宅支援、施設外就労、就労選択支援と追ってきました。
最終回となる今回は、少し性質の違うテーマです。
制度や書類の見直しだけではなく、
「障害当事者としての経験を、専門性としてどう福祉サービスの中に位置付けるのか」
という論点だからです。
ただし、最初に重要な点を確認しておきます。
今回示されたのは、あくまで**「訪問系サービスでもピアサポートの専門性を評価することを検討する」方向**です。
現時点では、
- 新しい加算の名称
- ピアサポート体制加算になるのか、実施加算になるのか
- 対象となる具体的な訪問系サービス
- 報酬単位
- 人員配置
- 利用者ごとの算定要件
などは決定していません。
「訪問系サービスにピアサポート加算が新設された」と受け取るのは早い段階です。
第63回・第64回の全体像をまとめて確認する
訪問系・就労系サービスで示された主要論点は、保存版のまとめ記事で一覧できます。
令和9年度障害福祉報酬改定|第63回・第64回検討チームの重要論点まとめ
現在、ピアサポートはどのサービスで評価されているのか
障害福祉サービスでは、ピアサポートはすでに一部のサービスで報酬上評価されています。
現在の仕組みには、大きく、
- ピアサポート体制加算
- ピアサポート実施加算
があります。
ピアサポート体制加算は、自立生活援助、計画相談支援、障害児相談支援、地域移行支援、地域定着支援などで設定されています。
一方、ピアサポート実施加算は、就労継続支援B型のほか、令和6年度改定で自立訓練や共同生活援助にも対象が広がりました。厚生労働省の令和8年4月実績では、実際の算定事業所数はまだ限定的です。
つまり今回の議論は、
障害福祉全体で少しずつ広がってきたピアサポートの報酬評価を、訪問系サービスにも広げるか
という流れの中にあります。
ピアサポートとは「障害がある職員を配置すること」ではない
ピアサポートという言葉は、単に、
障害当事者が職員として働いている
という意味ではありません。
厚生労働省では、ピアサポートについて、障害や疾病の経験を持つ人が、その経験を生かしながら他の障害者を支援するものとして位置付けています。
既存の加算でも、単に当事者職員がいるだけでなく、
- 障害者ピアサポート研修を修了している
- 支援を行う職員等も研修を受ける
- 他の職員への研修を行う
- 事業所全体の支援の質につなげる
といった要件が設けられています。
つまり評価されているのは、
当事者であることそのものではなく、その経験を支援に生かす専門性
です。
なぜ訪問系サービスでピアサポートなのか
訪問系サービスは、利用者の生活の場そのものに入って支援を行います。
居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護などでは、利用者と支援者の距離が非常に近くなる場面があります。
そのため、制度や支援技術だけでは解決しにくい、
- 支援を受けながら生活することへの葛藤
- 他者へ援助を求める難しさ
- 自立生活への不安
- 支援者との関係づくり
- 地域で暮らし続けることへの迷い
といった問題が生じることがあります。
第63回資料では、ピアサポートによって、自立に向けた意欲の向上や地域生活を続ける上での不安の解消等が期待できることが、訪問系サービスへの評価拡大を検討する理由として示されています。
関係団体からは「訪問系にも加算を」という提案があった
令和9年度報酬改定に向けた関係団体ヒアリングでは、全国脊髄損傷者連合会から、
居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護についても、ピアサポート体制加算またはピアサポート実施加算を創設すべき
との提案が出されています。
ヒアリングでは、具体的なイメージとして、
- ヘルパーとピアサポーターが一緒に訪問する
- ピアサポーター自身が利用者を訪問し経験を共有する
- 利用者の思いを支援者へ伝える橋渡しをする
といった説明もありました。
ただし、これは関係団体が示した提案・イメージです。
第63回検討チームで、この実施方法まで厚生労働省案として決定したわけではありません。
ここは区別して理解する必要があります。
訪問系でピアサポートを評価する意味
制度として具体化されるかどうかは今後の議論を待つ必要があります。
そのうえで、私は訪問系サービスとピアサポートには、一定の相性があると考えています。
訪問支援では、利用者の「生活」がそのまま支援の場になります。
事業所内の限られた時間だけではなく、
- 自宅でどう暮らすか
- どこまで支援を受けるか
- 自分で決めたいことは何か
- 支援者とどう関係を築くか
という、日常生活そのものに関わります。
こうした場面では、制度を知っている専門職の説明だけでは届きにくい部分があります。
同じように支援を受けてきた人から、
自分はこういうことで困った
こう伝えたら支援者と話しやすくなった
こういう失敗もした
と経験を共有されることが、本人が自分の生活を考えるきっかけになる場合があります。
これは、専門職の代わりになるという意味ではありません。
専門職とは異なる立場から支援を補完できる可能性がある
ということです。
ただし「当事者だから分かる」と単純化してはいけない
ここは、ピアという立場を考えるうえで非常に重要です。
障害が同じだからといって、
- 生活環境
- 家族関係
- 経済状況
- 支援ニーズ
- 価値観
- 本人が望む生活
まで同じになるわけではありません。
「自分も障害当事者だから、あなたのことは分かる」
という姿勢は、場合によっては本人の経験を別の当事者の経験で上書きしてしまいます。
ピアサポートの価値は、
「同じ経験だから答えが分かること」ではなく、「経験を一つの材料として共有し、本人自身が考えることを支えること」
にあると私は考えます。
だからこそ、既存制度でも研修等によって専門性を確保する仕組みが設けられています。
ヘルパーとピアサポーターの役割も整理が必要
訪問系サービスにピアサポート評価を導入する場合、今後かなり重要になるのが役割分担です。
たとえば、
- ピアサポーターが身体介護等を行うのか
- 相談・助言部分だけを担うのか
- ヘルパーと同行するのか
- 別の時間に訪問するのか
- オンライン等の相談も対象になるのか
- 個別支援計画上どう位置付けるのか
など、具体的な制度設計が必要です。
現段階では、これらは示されていません。
したがって、
訪問系にピアサポート評価が入る
=
ヘルパー業務をピアサポーターが行う
という理解はできません。
「体制加算」なのか「実施加算」なのかもまだ分からない
既存制度には、
事業所としてピアサポートを提供できる体制を評価する仕組み
と、
実際に利用者へピアサポートを実施したことを評価する仕組み
があります。
訪問系サービスについて、どちらの考え方を採用するのか、あるいは別の仕組みを設けるのかは現段階では明らかではありません。
これは実務上、大きな違いです。
体制を評価するのであれば、
- 研修修了者の配置
- 人員要件
- 事業所内研修
- 公表
などが中心になります。
実施を評価するのであれば、
- 誰に
- どのような支援を
- いつ
- どれだけ実施したのか
という個別の支援実績の確認がより重要になります。
具体案が出るまでは、ここを予測で埋めない方が安全です。
既存のピアサポート加算は、算定率が高いわけではない
制度を考えるうえで、もう一つ見ておきたいデータがあります。
厚生労働省が第63回資料で示した令和8年4月実績では、ピアサポート実施加算を算定している事業所の割合は、
- 就労継続支援B型:0.1%
- 共同生活援助:0.0%
- 自立訓練(機能訓練):1.0%
- 自立訓練(生活訓練):2.7%
とされています。
ピアサポート体制加算も、サービスによって差はあるものの、広く一般化しているとは言いにくい状況です。
つまり、
対象サービスを増やせば、それだけでピアサポートが広がるわけではない
という点も考える必要があります。
制度化するなら、
- 研修を受けられる環境
- 当事者職員の確保
- 働きやすい職場環境
- 他の職員との役割分担
- 報酬と人件費のバランス
まで含めて、実際に使える制度になるかを見る必要があります。
「ピア」を単なる加算要件にしないことが大切
私は、今回の議論で最も大切なのはここだと思っています。
ピアサポートが制度化されると、
加算を取るために当事者職員を配置する
という発想が生まれる可能性があります。
しかし、それでは順番が逆です。
本来考えるべきなのは、
利用者にとって、当事者の経験を生かした支援がどのような価値を持つのか
です。
そのうえで、
その支援を継続的に提供するため、専門性を報酬で評価する
という順番であるべきです。
障害当事者であることを「人員要件を満たすための属性」にしてしまえば、ピアサポートの本来の価値から離れてしまいます。
訪問系事業所はいま何をすればいいのか
現時点で、ピアサポーターを新たに採用したり、独自のピアサポート体制を作ったりする必要はありません。
まだ報酬・基準の具体案が示されていないからです。
今の段階では、
- 第63回で評価拡大が検討されていることを把握する
- 今後、対象サービスや算定要件が示されるか確認する
- 現行のピアサポート制度の考え方を知っておく
程度で十分です。
制度が具体化された段階で、
自事業所の利用者にとってピアサポートが本当に必要か
から検討すればよいと考えます。
田中慶事務所として考える「ピア」の位置付け
行政書士田中慶事務所では、制度や書類だけを見るのではなく、実際にサービスを利用する側からどう見えるかという視点も大切にしています。
ピアという言葉を前面に出せば、それだけで良い支援になるわけではありません。
一方で、制度上は適正でも、
利用者にはどう感じられるのか
本人は本当に納得しているのか
支援を受ける側から見ると何が負担なのか
という視点が抜けると、支援と本人の生活にずれが生じることがあります。
今回、訪問系サービスでピアサポートの専門性そのものが報酬改定の検討俎上に載ったことには、意味があると考えています。
ただし、評価対象を広げるだけでなく、
当事者経験をどう専門性として生かし、本人主体の支援につなげるのか
まで制度として丁寧に考える必要があります。
まとめ|訪問系へのピアサポート評価は「当事者経験を専門性としてどう扱うか」という議論
第63回障害福祉報酬改定検討チームでは、
訪問系サービスについても、ピアサポートの専門性を評価することを検討する
方向が示されました。
現時点では、
- 対象サービス
- 加算の名称
- 報酬単位
- 人員要件
- 支援方法
などは確定していません。
したがって、今すぐ事業所が対応を始める段階ではありません。
一方、この論点が示しているのは、
「障害当事者としての経験を、障害福祉サービスの中で専門性としてどう評価するのか」
という大きなテーマです。
ピアサポートは、専門職の代替でも、単なる当事者職員の配置でもありません。
当事者としての経験を支援に生かし、本人が自分自身の生活を考えるための一つの力にすること。
訪問系サービスへの評価拡大を検討するのであれば、そこを制度の中心に置いてほしいと思います。
今回で、第63回・第64回障害福祉報酬改定検討チームから取り上げてきた主要論点の深掘りシリーズは一区切りです。
今後も令和9年度報酬改定の具体案が示された段階で、「決まったこと」と「まだ検討中のこと」を分けながら、実務への影響を整理していきます。
第63回・第64回の深掘りシリーズは今回で一区切りです
今回取り上げた各論点と全体像は、ハブ記事からまとめて確認できます。今後、新たな検討資料や具体的な改定案が示された場合も、関連情報を追加していきます。
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一次資料
今回の記事は、以下の厚生労働省の一次資料をもとに整理しています。
- 厚生労働省「第63回障害福祉報酬改定検討チーム」
2026年9月24日開催。議題は「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(訪問系サービス)」です。資料一覧から、今回使用した「訪問系サービスに係る報酬・基準について」を確認できます。
第63回障害福祉報酬改定検討チーム資料一覧 - 厚生労働省「訪問系サービスに係る報酬・基準について」
全75ページの資料です。「訪問系サービスの横断的事項に係る論点」の**論点1「ピアサポートの専門性の評価について」**で、訪問系サービスについてもピアサポートの専門性を評価する方向が示されています。
訪問系サービスに係る報酬・基準について(PDF) - 厚生労働省「障害者ピアサポート」
現行の障害者ピアサポート体制加算・実施加算、障害者ピアサポート研修事業、研修ガイドブックやテキストなどを確認できる公式ページです。今回の「訪問系サービスへの評価拡大案」と、現在すでに存在するピアサポート制度を区別して確認するための基礎資料になります。
厚生労働省「障害者ピアサポート」
制度だけでなく、「実際の支援」とつながった事業所運営になっていますか?
令和9年度報酬改定は、まだ検討が続いています。
未確定の制度を先取りして運用を変更する必要はありません。
一方、個別支援計画、日々の支援記録、モニタリング、研修・委員会などが実際の支援とつながっているかは、現在の制度でも重要です。
行政書士田中慶事務所では、既存の障がい福祉事業所を中心に、運営状況の整理、記録・計画の確認、運営リスクの点検などを行っています。
