令和9年度(2027年度)の障害福祉サービス等報酬改定に向けた検討が、本格化しています。
2026年9月24日に開催された第63回障害福祉報酬改定検討チームでは「訪問系サービス」、9月28日の第64回では「就労系サービス」が取り上げられました。
今回公表された資料では、訪問系サービスへのピアサポートの評価、就労継続支援A型・B型の報酬評価、生産活動、新規指定、在宅支援、施設外就労、就労選択支援など、今後の障害福祉事業所の運営に関わる多くの論点が示されています。
一方、第63回の資料は75ページ、第64回はさらに多い資料となっており、日々事業所運営に携わる管理者やサービス管理責任者が、原資料をすべて読み込むのは容易ではありません。
そこで本記事では、第63回・第64回の一次資料に沿って、「何が検討されているのか」をできるだけ取りこぼさず、全体像が把握できる形で整理します。
詳細な実務への影響や、当事務所としての考え方については、重要度の高い論点から別の記事で順次掘り下げていきます。
重要
本記事で紹介する内容は、2026年9月29日時点で障害福祉報酬改定検討チームに示されている検討内容です。
令和9年度障害福祉報酬改定として決定した内容ではありません。
「何が変わったのか」ではなく、現時点で「どのような変更が検討されているのか」という視点でご確認ください。
令和9年度障害福祉報酬改定に向け、第63回・第64回では何が議論されたのか
第63回は「訪問系サービス」がテーマ
第63回障害福祉報酬改定検討チームは、2026年9月24日に開催されました。
議題は、
「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(訪問系サービス)」
です。厚生労働省から「訪問系サービスに係る報酬・基準について」が資料として公表されています。厚生労働省
主な対象は、
- 居宅介護
- 重度訪問介護
- 同行援護
- 行動援護
- 重度障害者等包括支援
です。
訪問系サービスに共通する課題のほか、それぞれのサービスに関する報酬・基準の見直しが検討されています。
第64回は「就労系サービス」がテーマ
第64回障害福祉報酬改定検討チームは、2026年9月28日に開催されました。
議題は、
「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(就労系サービス)」
です。厚生労働省
主な対象は、
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
- 就労定着支援
- 就労選択支援
です。
報酬体系だけではなく、生産活動、新規指定、情報公表、在宅支援、施設外就労、本人のサービス選択など、事業所運営に直接関係する幅広い論点が示されています。
今回示されたのは「検討方向」であり、改定決定ではない
今回の資料では、
「検討してはどうか」
「どのように考えるか」
といった形で、多くの方向性が示されています。
しかし、検討チームに案が示されたことと、その内容が令和9年度からそのまま実施されることは同じではありません。
今後の議論を経て、具体的な報酬・基準等が定められていきます。
現段階では、
「何が決まったのか」ではなく、「何が改定候補として検討されているのか」を把握する段階
と考えるのが適切です。
第63回|訪問系サービスで示された主な検討方向
訪問系サービスでもピアサポートを評価する方向
現在、障害者ピアサポートに関する報酬上の評価は、相談支援、自立生活援助、自立訓練、共同生活援助などで行われています。
一方、訪問系サービスは現在その対象となっていません。
第63回の資料では、在宅で一人暮らしをする障害者等に対し、同じ目線に立った相談支援を行うことがサービスの質の向上につながるとして、訪問系サービスについてもピアサポートの専門性を評価することを検討する方向が示されました。
これは、訪問系サービスに新たなピアサポート加算が創設されることが決定した、という意味ではありません。
ただし、これまで報酬評価の対象外だった訪問系サービスについて、ピアサポートの専門性そのものを評価対象として検討する段階に入った点は注目されます。
ヘルパーによる自動車移動を評価する方向
訪問系サービスでは、公共交通機関が少ない地域などにおいて、サービス提供のために自動車による移動が必要となる場合があります。
一方、ヘルパーが自動車を運転している時間は、身体介護等の支援を直接行えないため、現行制度上の評価が課題となっています。
第63回では、
サービス提供に伴って必要不可欠となる自動車による移動について、報酬上の評価を検討する方向
が示されました。
特に同行援護などでは、地域によって公共交通機関の状況が大きく異なるため、実際のサービス提供とのずれをどのように整理するかが論点となります。
ただし、運転時間をそのまま通常の身体介護等の提供時間として算定できるようになると決まったわけではありません。
居宅介護「家事援助」の適正利用を改めて確認
居宅介護の家事援助についても、利用の考え方が論点となっています。
家事援助は、一般的な家事代行サービスではありません。
本人または同居家族が家事を行うことが困難であり、家事援助を行わなければ日常生活に支障が生じる場合に提供される障害福祉サービスです。
今回の検討では、この基本的な考え方を改めて周知するとともに、計画相談支援のモニタリングなどを通じて、家事援助の必要性を継続的に確認していく方向が示されました。
資料では家事援助利用者の障害種別に関するデータも示されていますが、特定の障害種別について家事援助の利用を制限する方向が示されたものではありません。
利用者本人の状態や生活環境を踏まえ、サービスの必要性を適切に確認することが中心となっています。
重度訪問介護にも「同一建物等減算」を導入する案
現在、居宅介護では、事業所と同一敷地や隣接敷地にある建物等に居住する利用者へサービスを提供した場合、一定の条件のもとで報酬を減算する仕組みがあります。
一方、重度訪問介護には同様の仕組みがありません。
第63回では、
重度訪問介護についても、居宅介護と同様に同一建物等減算の仕組みを設けること
が検討案として示されています。
仮に導入された場合、特定の集合住宅等に利用者が集中している重度訪問介護事業所では、報酬への影響が生じる可能性があります。
ただし、導入そのものも含め、対象範囲や減算率等は現時点で確定していません。
第64回|就労系サービスで示された主な検討方向
A型・B型の報酬評価を見直す方向
就労継続支援A型・B型では、現在の報酬評価の考え方について重要な見直しが検討されています。
B型は「平均工賃だけで評価しない」仕組みへ
現在のB型では、平均工賃月額が基本報酬の評価における大きな指標となっています。
今回の資料では、平均工賃月額だけでは、障害の程度が重い利用者への支援などを十分に評価できないという課題を踏まえ、
主たる評価項目として
- 平均工賃月額
- 1日当たりの平均サービス提供時間
- 利用者の障害の程度
従たる評価項目として
- 地域連携活動
- 個別支援
- 職員の経験・資格等の支援体制
などを組み合わせる方向が示されています。
施設外就労についても、地域連携活動の中で評価する方向が示されています。
また、平均工賃月額を算定する際の年間開所日数について、利用者の年間利用上限を踏まえ、269日までとする案も示されています。
現段階では評価項目や配点、具体的な基本報酬単位が確定したわけではありません。
A型では「支援の質」の評価を高める方向
A型では、現在のスコア方式について、労働時間や生産活動の配点割合が大きく、福祉的な支援を十分に評価できていないという課題が示されています。
検討方向として、
- 労働時間の配点割合を見直す
- 生産活動の配点割合を見直す
- 利用者の障害の程度を新たに評価する
- 支援の質に関する評価を高める
- 施設外就労をスコア項目で評価する
ことなどが示されています。
一方、生産活動収支を重視する考え方そのものをなくす方向ではありません。
B型にも「生産活動収支≧工賃総額」を求める案
B型について特に重要な論点の一つが、生産活動収支と工賃の関係です。
現在、A型では、生産活動に係る収入から必要経費を控除した額が、利用者に支払う賃金総額以上となるよう求められています。
今回、B型についても、
生産活動の収支が利用者に支払う工賃総額以上となること
を指定基準に位置付ける案が示されました。
ここで重要なのは、単なる報酬上の評価項目ではなく、指定基準として位置付けることが検討されている点です。
さらに、法人資金や寄付など、生産活動以外の財源から利用者へ支払われた金額については、基本報酬算定上の平均工賃月額から除外する方向も検討されています。
ただし、現段階で法人資金等から工賃を補填する行為そのものが禁止されたわけではありません。
A型・B型の「生産活動シート」やスコア表等の公表を強化する方向
A型・B型については、生産活動や事業運営の実態を外部から確認しやすくする方向も示されています。
検討されている内容には、
- 生産活動シートの作成
- 指定権者への提出
- 事業所ホームページ等での公表
- スコア表の公表
- 財務関係情報の公表
- 第三者評価
などがあります。
第三者評価については、一律の義務化ではなく、実施を努力義務とし、実施・公表した場合に報酬上評価する方向が検討されています。
利用者が事業所を選択するための情報を充実させるとともに、生産活動や運営状況の透明性を高める方向といえます。
新規指定・事業計画の確認を強化する方向
就労系サービスの新規指定についても、重要な見直しが検討されています。
就労継続支援事業所向けのガイドライン等で示されてきた事項の一部について、より実効性を持たせるため、施行規則や指定基準等への位置付けが検討されています。
主な内容として、
- 管理者が指定申請書や事業計画書を作成、または内容を把握する
- 他事業所の申請書類や事業計画書を安易に流用しない
- 定員の根拠、職員研修、地域連携等を事業計画に記載する
- 開設予定地域の市区町村や協議会等へ事業開始を説明する
- 地域ニーズを確認する
- 生産活動の内容、収入見込み、継続性を裏付ける資料を提出する
といった方向が示されています。
今後、新規指定では、
「人員・設備・書類がそろっているか」だけではなく、「なぜこの地域で、この事業を、この方法で継続して行えるのか」
を説明できる事業計画が、これまで以上に重要になる可能性があります。
在宅支援の報酬・利用要件を見直す案
就労移行支援、A型、B型の在宅支援についても見直しが検討されています。
資料では、支援実態の乏しい自習や、公費による生産活動として適切とはいえない活動などが課題として示されています。
検討方向として、
- 在宅支援の基本報酬を一定程度引き下げる
- 定員に占める在宅利用者割合に上限を設ける
- 適切かつ積極的な在宅支援を行っている場合には別の取扱いとする
- 指定権者へチェックリストを提出する
- 運営指導等で支援実態を確認する
ことなどが示されています。
今後は、単に「在宅で利用している」という事実だけではなく、なぜ在宅利用が必要なのか、どのような支援を行っているのかを説明できることが、より重視される可能性があります。
施設外就労の適正化を進める方向
施設外就労についても、支援実態や契約関係を適切に確認する方向が示されています。
今回の資料では、
- 企業が自社従業員を雇用する代わりに、安価な労働力として利用するケース
- 障害福祉サービスの給付費が取引等を通じて工賃・賃金へ還流するようなケース
- 指定権者から支援実態を確認しにくいケース
などが課題として示されています。
今後、
- 施設外就労先との契約
- 作業対価
- 職員配置
- 支援内容
- 支援記録
- 個別支援との関係
などについて、より明確な確認が行われる可能性があります。
これは施設外就労そのものを否定する議論ではなく、利用者の知識・能力の向上につながる障害福祉サービスとして適切に行われているかを確認する方向です。
就労選択支援の利用対象を広げる方向
就労選択支援についても、制度の対象範囲が広がっていきます。
2027年4月以降、
- 新たに就労継続支援A型を利用しようとする人
- 就労移行支援を標準利用期間の2年を超えて利用しようとする人
について、原則として就労選択支援によるアセスメントを受けた人を対象とする方向が示されています。
また、2027年4月からA型利用を予定している特別支援学校3年生等については、進路活動に支障が出ないよう、2026年度内の就労選択支援利用を一律に求めず、暫定支給決定を柔軟に運用する案も示されています。
さらに将来的には、A型・B型の利用更新時にも、就労選択支援によるアセスメントを求めることなどが検討されています。
利用開始時だけでなく、
「なぜこのサービスを利用・継続するのか」
を本人の希望とアセスメントに基づいて確認する方向が強まっています。
就労選択支援での「囲い込み・自法人誘導」への規制を強化する方向
就労選択支援では、本人の自由なサービス選択をどのように保障するかも大きな論点です。
検討内容として、
- 複数の選択肢を比較できる形で提示する
- 本人が選択に至った過程を記録する
- 本人の希望と実際の利用先が異なる場合には理由を記録する
- 不当に選択肢を制限することを運営基準で禁止する
- 同一法人への移行率等を用いた仕組みを見直す
といった方向が示されています。
今後は、アセスメント結果そのものだけでなく、どのような選択肢を提示し、本人がどのような過程を経て最終的な利用先を選択したのかまで確認する方向が強まる可能性があります。
第63回・第64回の資料全体から見える3つの方向性
ここからは、厚生労働省資料に書かれた個別論点そのものではなく、第63回・第64回を通して当事務所が整理した共通傾向です。
個々の改定内容が確定したという意味ではありません。
1.「結果」だけではなく「支援の中身」も見る方向
特に就労系サービスでは、工賃や労働時間、生産活動といった数値だけではなく、
- 利用者の障害の程度
- 個別支援
- 支援時間
- 本人の意思決定
- 支援体制
などを評価・確認しようとする方向が複数示されています。
結果による評価がなくなるのではなく、結果と、その結果に至る支援プロセスの双方を見る方向と捉えることができます。
2.「書類があるか」だけでなく「実際の運営を説明できるか」
今回の資料では、在宅支援、施設外就労、生産活動、新規指定、就労選択支援など、さまざまな場面で「実態」を確認する方向が示されています。
個別支援計画がある。
支援記録がある。
契約書がある。
それだけではなく、
それぞれの書類と実際に行っている支援がどのようにつながっているのか
を説明できることが、より重要になる方向が見えます。
3.事業所運営の「見える化」を進める方向
生産活動シート、スコア表、第三者評価、事業計画、地域ニーズなど、事業所の運営状況を外部から確認できるようにする方向も複数示されています。
今後は、
「適切に運営していること」だけでなく、「適切に運営していることを外部へ説明できること」
も、より重要になる可能性があります。
障がい福祉事業所はいま何をすればいいのか
現時点で改定対応を急ぐ必要はない
今回示された内容は、あくまで令和9年度障害福祉報酬改定に向けた検討段階です。
たとえば、
「B型に新しい評価方式が入りそうだから、すぐに独自のスコア表を作る」
「在宅支援の報酬が下がる可能性があるから、在宅利用をやめる」
といった対応を行う段階ではありません。
正式な改定内容が確定する前に先回りすると、現在の制度との不整合を生じさせる可能性もあります。
まずは自事業所に関係する論点を把握する
一方で、何も確認しなくてよいわけでもありません。
まずは、自事業所に関係する論点を把握しておくことが大切です。
B型であれば、
- 報酬評価
- 生産活動収支
- 生産活動シート
- 在宅支援
- 施設外就労
など。
訪問系であれば、
- ピアサポート
- 自動車移動
- 家事援助
- 同一建物等減算
などです。
すべての論点を同じ深さで追う必要はありません。
現在の制度に基づく運営を確認しておく
今回の改定案を先取りする必要はありませんが、
- 個別支援計画と日々の支援記録がつながっているか
- モニタリング結果が次の支援計画へ反映されているか
- 在宅支援の必要性や支援内容を説明できるか
- 施設外就労の契約・支援・記録が一致しているか
- 生産活動の収入・経費・工賃の関係を確認できるか
など、現行制度のもとでも本来必要な運営が適切に行われているかを確認することには意味があります。
主要論点は個別記事でさらに詳しく解説します
本記事では、第63回・第64回について、一次資料の全体像を把握できることを優先して整理しました。
今後は、今回示された論点の中から、事業所運営への影響が特に大きいテーマについて、個別記事で掘り下げていきます。
B型の新しい報酬評価
平均工賃中心の評価から、支援時間、障害の程度、個別支援などを含む評価へ変わった場合、B型の事業運営にどのような影響が考えられるのかを整理します。
【詳細記事:令和9年度報酬改定|B型の報酬評価はどう変わる?平均工賃中心から「多軸評価」へ】
生産活動収支と工賃・賃金
B型への「生産活動収支≧工賃総額」の指定基準化案、生産活動シート、法人資金等による補填の取扱いなどについて詳しく整理します。
【詳細記事:公開後リンク追加】
新規指定・事業計画
地域ニーズ、生産活動、事業計画など、今後の就労系サービスの新規指定で何が重視される可能性があるのかを詳しく取り上げます。
【詳細記事:公開後リンク追加】
在宅支援
在宅支援の報酬・利用要件、在宅利用者割合、支援実態の確認などについて詳しく整理します。
【詳細記事:公開後リンク追加】
施設外就労
施設外就労における契約関係、作業対価、職員配置、支援実態、給付費の還流等の論点について詳しく整理します。
【詳細記事:公開後リンク追加】
就労選択支援と本人の意思決定
A型利用前の就労選択支援、利用更新、選択肢の提示、自法人への誘導防止などについて詳しく取り上げます。
【詳細記事:公開後リンク追加】
訪問系サービスにおけるピアサポート
訪問系サービスでピアサポートの専門性を評価する方向が示された意味について、制度面に加え、当事者の視点を支援の中でどのように位置付けるのかという観点からも考えます。
【詳細記事:公開後リンク追加】
まとめ|まず「何が検討されているのか」を正確に知る
第63回・第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、訪問系サービスと就労系サービスについて、多くの見直しの方向が示されました。
現時点では、これらがそのまま令和9年度改定として実施されると決まったわけではありません。
だからこそ、今の段階で必要なのは、
「制度が変わるらしい」と慌てることではなく、まず何が検討されているのかを正確に把握すること
です。
今回の資料全体を見ると、
- 結果だけでなく支援の中身を見る
- 書類だけでなく実際の運営を確認する
- 事業所運営を外部から見えるようにする
という方向が、複数の論点に共通して見えてきます。
一方で、具体的な要件や報酬単位など、今後の議論を待たなければ判断できない点も多く残されています。
行政書士田中慶事務所では、今後も検討状況を確認しながら、今回示された重要論点について個別の記事で詳しく整理していきます。
まず制度を正確に知る。
そのうえで、自事業所に必要な対応を、必要なタイミングで考える。
令和9年度改定についても、この順番で追っていきたいと思います。
一次資料
第63回・第64回の開催日と議題は、厚生労働省の検討チーム一覧でも確認できます。
令和9年度障害福祉報酬改定の重要論点は、今後さらに詳しく解説します
第63回・第64回で示された論点のうち、事業所運営への影響が大きいテーマについて、個別の記事で順次掘り下げていきます。
自事業所の運営や、現在の記録・計画・生産活動等について確認したい場合は、個別にご相談ください。
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