事業所を分けて運営したいと考えたとき
「現在は多機能型事業所として運営しているが、就労継続支援B型と児童発達支援を別の場所に分けたい」
「多機能型の中から、放課後等デイサービスだけを別の事業所として運営したい」
事業規模の拡大や運営体制の見直しに伴い、このような事業分離を検討することがあります。
しかし、多機能型事業所の一部サービスを別の場所へ移す場合、単なる変更届では済まず、新たな指定が必要になることがあります。
2026年7月13日、厚生労働省は「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.2」を公表しました。
その問1では、多機能型事業所としてすでに運営されている次のサービスを分離し、別の場所で運営する場合の取扱いが示されています。
- 就労継続支援B型
- 児童発達支援
- 放課後等デイサービス
今回は、このQ&Aの内容と、事業者が実務上確認しておきたい点を整理します。
厚労省Q&Aに示された内容
Q&A VOL.2問1では、次のケースが取り上げられています。
多機能型事業所として、すでに設置・運営されている就労継続支援B型、児童発達支援または放課後等デイサービスが、多機能型事業所から分離し、別の場所で運営する場合です。
この場合、分離したサービスについては、新規指定が必要になるとされています。
問題となるのは、その新規指定日が2026年6月1日以降になる場合です。
令和8年度報酬改定では、2026年6月1日以降に新規指定を受ける一定のサービスについて、一定程度引き下げられた「応急的な報酬単価」が適用される仕組みが設けられています。
対象となるサービスは、次の4類型です。
- 就労継続支援B型
- 共同生活援助のうち介護サービス包括型・日中サービス支援型
- 児童発達支援
- 放課後等デイサービス
ただし、重度障害児者への対応や、サービスが不足している地域など、一定の要件を満たす場合には、応急的報酬単価の対象外となる配慮措置も設けられています。
多機能型からの分離が「新設分割」に該当する場合
Q&A VOL.2問1の回答は、次のように整理されています。
多機能型事業所からの分離が「新設分割」に該当する場合は、Q&A VOL.1問12の取扱いによる。
Q&A VOL.1問12では、2024年6月21日付の事務連絡に基づいて、事業譲渡や吸収合併等により、
- 指定手続の簡略化
- 報酬上の実績の通算
などを行った場合には、応急的報酬単価の適用対象外としてよいと回答されています。
したがって、多機能型事業所からサービスを分離し、新規指定日が2026年6月1日以降になった場合でも、その分離が事務連絡にいう新設分割に該当し、事業の実質的な継続性が認められて実績通算等の取扱いを受ける場合には、応急的報酬単価の適用対象外となります。
「分離すれば新設分割」ではない
ここが、今回のQ&Aで最も注意すべき点です。
厚労省は、
多機能型事業所からサービスを分離すれば、すべて新設分割として扱う
とは回答していません。
回答は、あくまで、
お尋ねのケースで新設分割に該当する場合
という条件付きです。
したがって、たとえば同じ法人が、単に既存のサービスの一部を別の場所へ移し、新しい事業所として指定を受けるだけで、当然に新設分割になるとは限りません。
「新設分割」は一般的な意味での「事業所を新しく分けること」と同じではなく、事務連絡が対象としている組織再編等の取扱いに該当する必要があります。
事業者が日常的に使う「分離」「独立」と、行政文書でいう「新設分割」は、同じ意味とは限らない点に注意が必要です。
2024年6月21日付事務連絡の取扱い
Q&Aが参照している2024年6月21日付の事務連絡は、障害福祉サービス事業者等の次のような組織再編を対象としています。
- 吸収合併
- 吸収分割
- 新設合併
- 新設分割
- 事業譲渡
これらをまとめて、事務連絡では「吸収合併等」としています。
組織再編等によって運営法人が変わる場合、原則として、引き継いだ法人による新規指定が必要です。
一方、指定権者が、
施設・事業所の職員に変更がないなど、組織再編の前後で事業所が実質的に継続して運営される
と認める場合には、次の柔軟な取扱いが可能とされています。
- 指定申請書類の一部を省略する
- サービス等利用計画の変更を不要とする
- 一定の場合に利用契約の再締結を不要とする
- 過去の実績に基づく基本報酬、加算・減算等の実績を通算する
つまり、会社法上の新設分割等に当たるという形式面だけでなく、分割前後で同じ事業が実質的に継続しているかが重要な判断材料になります。
「既存実績を通算できる」の意味
今回のQ&Aを読むと、
新設分割に該当すれば、元の事業所の実績をすべて自由に引き継げる
と受け取ってしまうかもしれません。
しかし、その理解は正確ではありません。
実績通算の取扱いは、2024年6月21日付事務連絡に基づき、指定権者が、組織再編等の前後で事業所が実質的に継続していると認める場合に行われます。
事務連絡では、実績通算の例として、次のような項目が挙げられています。
- 就労移行支援の基本報酬における就職後6か月以上定着率
- 福祉専門職員配置等加算における職員の勤続年数
- 過去の実績に基づく加算
- 定員超過利用減算における過去3か月の平均利用人員
- 処遇改善加算に関する計画書・実績報告書
どの実績をどのように通算するかは、サービス種別や算定する報酬・加算によって異なります。
したがって、事業者側だけで判断せず、指定権者に対して、再編の形態と実質的な事業継続の状況を説明し、具体的な取扱いを確認する必要があります。
事業者にとっての実務的な意味
多機能型事業所からサービスを分離する場合には、少なくとも次の順序で整理する必要があります。
1.分離後の運営主体と組織再編の形を確認する
まず確認すべきなのは、単なる事業所所在地の変更やサービス分離なのか、それとも法人の新設分割、吸収分割、事業譲渡などを伴うのかという点です。
同じ法人のまま、サービスだけを別の場所へ移転するケースと、新たな法人へ事業を承継するケースでは、法的・行政上の整理が異なります。
「事業所を二つに分けるから新設分割」というわけではありません。
2.新規指定が必要か確認する
Q&A問1のケースでは、多機能型事業所からサービスを分離し、別の場所で運営する場合、新規指定が必要とされています。
新規指定となれば、
- 人員基準
- 設備基準
- 運営基準
- 指定申請の受付時期
- 事前協議の要否
- 既存利用者の引継ぎ
- 指定前後の請求
などを確認しなければなりません。
3.新設分割等に該当するか確認する
組織再編を伴う場合には、その形が2024年6月21日付事務連絡にいう新設分割等に該当するかを確認します。
さらに、組織再編の前後で、
- 職員体制
- 利用者
- 支援内容
- 設備
- 運営実態
などがどのように継続するのかを整理する必要があります。
4.実績通算等の取扱いを指定権者に確認する
新設分割等に該当しても、実績通算等が自動的に処理されるとは限りません。
指定申請の前段階で、指定権者に対して、
- 組織再編の方法
- 分離前後の事業所の関係
- 職員や利用者の引継ぎ
- 過去の実績
- 通算を希望する報酬・加算等
を具体的に説明し、取扱いを確認することが必要です。
5.応急的報酬単価の適用有無を確認する
新規指定日が2026年6月1日以降であれば、原則として応急的報酬単価の対象になり得ます。
そのうえで、
- 新設分割等に伴う実績通算の取扱い
- 重度障害児者への配慮
- サービス不足地域への配慮
- その他の対象外要件
のいずれかに該当するかを確認します。
今回のQ&A問1は、このうち、新設分割に該当する場合の取扱いを補足したものです。
よくある誤解
誤解1:多機能型から分ければ、すべて新設分割になる
違います。
Q&Aは「新設分割に該当する場合」と条件を付けています。
単にサービスの運営場所を分けることと、事務連絡にいう新設分割は同じではありません。
誤解2:新設分割なら、必ずすべての実績を引き継げる
これも正確ではありません。
実績通算は、組織再編の前後で事業所が実質的に継続して運営されると指定権者が認める場合に行われます。
また、通算の対象や方法は、報酬・加算等ごとに確認する必要があります。
誤解3:元のサービスが6月1日以前からあれば、応急的報酬単価は適用されない
元の多機能型事業所で以前からサービスを運営していても、分離後の事業所について2026年6月1日以降に新規指定を受ける場合は、原則として応急的報酬単価の対象になり得ます。
そのうえで、新設分割等の対象外要件に該当するかを確認するという順序です。
まとめ
今回のQ&Aのポイントは、次のとおりです。
- 多機能型事業所から就労継続支援B型、児童発達支援または放課後等デイサービスを分離し、別の場所で運営する場合は、新規指定が必要となる
- 新規指定日が2026年6月1日以降であれば、原則として応急的報酬単価の適用対象になり得る
- ただし、その事業分離が新設分割に該当し、Q&A VOL.1問12に基づく実績通算等の取扱いを受ける場合は、応急的報酬単価の適用対象外となる
- 多機能型からサービスを分離するだけで、自動的に新設分割になるわけではない
- 新設分割等の前後で事業が実質的に継続しているかについて、指定権者による個別確認が必要となる
- 組織再編、指定申請、実績通算、報酬単価の取扱いを一体として整理する必要がある
多機能型事業所の分離は、単に「新しい場所の指定を取る」というだけの手続ではありません。
分離の方法によっては、組織再編の設計、指定申請、既存利用者や職員の引継ぎ、報酬上の実績通算、応急的報酬単価の適用有無が相互に関係します。
そのため、物件契約や法人再編を先に進めるのではなく、計画段階で指定権者に相談し、必要な手続と報酬上の取扱いを確認することが重要です。
多機能型からの分離、物件や法人再編を進める前に整理できていますか?
サービスを別の場所へ分ける場合は、新規指定の要否だけでなく、組織再編の方法、既存利用者・職員の引継ぎ、実績通算、報酬単価の取扱いまで関係することがあります。
行政書士田中慶事務所では、現在の事業所と分離後の運営イメージを確認しながら、指定権者へ確認しておきたい事項や、指定申請までの進め方を一緒に整理します。
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