障がい福祉事業所の開設を考えたとき、最初に物件を探そうとする方は少なくありません。
ところが、障がい福祉事業では、
良さそうな物件が見つかった
法人も設立した
必要な職員も集まりそうだ
という段階まで進んでいても、希望するサービスの指定を受けられるとは限りません。
大阪市内で障がい福祉サービスを提供するには、サービスの種類と事業所ごとに大阪市の指定を受ける必要があります。指定は、人員基準、設備基準、運営基準などを満たしていることを前提に行われます。
さらに、サービスによっては、指定申請前の事前協議が必要です。
そして2026年7月29日時点では、大阪市の就労継続支援B型について、新規指定を停止する総量規制も実施されています。
そのため、開設準備の順序を誤ると、
- 契約した物件を使えない
- 改修費が無駄になる
- 採用した職員を配置できない
- 開設予定日が大幅に遅れる
- そもそも希望するサービスの指定を受けられない
という事態になりかねません。
この記事では、大阪市で障がい福祉事業所の開設を検討する際に、物件契約より先に確認すべき指定可否を整理します。
最初に決めるのは「場所」ではなく「サービスの種類」
障がい福祉事業所と一口にいっても、サービスの種類によって対象者、必要な職員、設備、指定手続が異なります。
たとえば、通所系のサービスだけでも、
- 生活介護
- 自立訓練
- 就労移行支援
- 就労選択支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
などがあります。
共同生活援助、居宅介護、相談支援、児童発達支援、放課後等デイサービスでは、さらに異なる基準が適用されます。
大阪市も、提供しようとするサービスに応じて適切な事業を選び、その事業に必要な人員配置基準や設備基準などを満たしたうえで指定申請を行う必要があると案内しています。
したがって、最初に確認するのは、
どこで事業をするか
ではなく、
誰に、どのサービスを、どのような体制で提供するか
です。
サービスの種類が決まらなければ、必要な広さ、部屋、職員、資格、事前協議の有無も決まりません。
希望するサービスが新規指定の対象か確認する
サービスの種類を決めたら、そのサービスについて、現在も新規指定を受けられるかを確認します。
障がい福祉サービスの指定は、基準を満たせば必ず受けられるとは限りません。
法律上、一定のサービスについては、地域の供給量が計画上必要とされる量に達している場合などに、自治体が新規指定を行わないことがあります。
これが、一般に「総量規制」と呼ばれるものです。
大阪市の就労継続支援B型は総量規制中
大阪市は、就労継続支援B型の供給量が、第7期障がい福祉計画で定めた必要見込量を大幅に超えているとして、総量規制を実施しています。
対象期間は、次のとおりです。
- 新規指定:2026年8月1日指定分から2027年7月1日指定分まで
- 利用定員の増加:2026年7月1日変更分から2027年6月1日変更分まで
この期間中は、大阪市内におけるB型事業所の新規指定と、既存事業所の定員増加に係る申請受付が停止されています。規制の解除または継続については、毎年検証される予定です。
つまり、2026年7月29日時点で、
大阪市内で新しいB型事業所を開設したい
と考えても、通常の新規指定を受けることはできません。
物件を探したり、法人を設立したりする前に、まずこの事実を確認する必要があります。
区を変えても解決しない
総量規制は、浪速区、中央区、西区など特定の区だけを対象としたものではなく、大阪市全体に対する取扱いです。
そのため、
浪速区で指定を受けられないなら中央区へ移す
西区なら新規指定を受けられるのではないか
という問題ではありません。
大阪市内である限り、同じ総量規制の対象になります。
「需要がありそう」と「指定を受けられる」は別の問題
開設予定者が行う市場調査では、次のような情報が重視されることがあります。
- 障がい者人口
- 既存事業所数
- 相談支援事業所の意見
- 地域の交通事情
- 利用希望者の有無
- 近隣事業所の定員充足状況
これらは事業計画を考えるうえで重要です。
ただし、
地域に利用希望者がいる
相談支援専門員から不足していると聞いた
独自性のある作業を提供できる
という事情だけで、指定を受けられるわけではありません。
特に総量規制が実施されているサービスでは、個別の事業計画が優れているかどうかとは別に、新規指定自体が停止されています。
「需要があるように見えること」と「行政上、指定を受けられること」は分けて考える必要があります。
事前協議が必要か確認する
新規指定が可能なサービスであっても、すぐに指定申請書を提出できるとは限りません。
大阪市では、サービスによって指定申請前の事前協議が必要です。
事前協議は、事業所の人員配置や設備など、事前に整備しておく事項を確認するために行われます。大阪市では、対象となる事前協議を行政オンラインシステムで受け付けています。
大阪市の案内では、事前協議が必要な事業について、原則として指定を受けようとする月の3か月前に手続を行う必要があるとされています。
したがって、
物件が決まったので、来月から開設したい
という進め方は難しい場合があります。
開設希望日から逆算して、
- 事前協議
- 物件の整備
- 人員確保
- 指定申請
- 補正対応
- 指定
- 事業開始
というスケジュールを組む必要があります。
物件契約前に設備基準を確認する
指定を受けられるサービスであることを確認した後、ようやく物件の具体的な検討に入ります。
ただし、賃料、広さ、駅からの距離だけで判断してはいけません。
障がい福祉事業所には、サービスごとに設備基準があります。
確認が必要となる項目には、たとえば次のようなものがあります。
- 訓練・作業室の広さ
- 相談室
- 多目的室
- 洗面設備
- トイレ
- 事務室
- 静養スペース
- 消防設備
- 避難経路
- 建築上の用途
- バリアフリーへの対応
- 各部屋の独立性や兼用の可否
必要な設備は、サービスの種類や利用定員によって異なります。
大阪市は、サービス別の人員配置基準や設備基準について、指定申請の手引きを確認するよう案内しています。
図面上の広さだけでは判断できない
不動産広告に「50平方メートル」と書かれていても、そのすべてを訓練・作業室として使用できるわけではありません。
廊下、トイレ、収納、事務スペースなどを除くと、必要な面積を確保できないことがあります。
柱、段差、間仕切り、共用部分の取扱いなどによって、有効面積の考え方が変わることもあります。
物件を契約する前に、
- 平面図
- 各室の寸法
- 建物の用途
- 改修可能な範囲
- 消防設備
- 避難経路
- 賃貸借契約上の使用目的
を確認する必要があります。
貸主の承諾も必要
物件自体が設備基準を満たせそうでも、賃貸借契約で障がい福祉事業所としての使用が認められていなければ、事業に使用できません。
口頭で「福祉事業でも大丈夫」と言われただけではなく、契約書上の使用目的や貸主の承諾内容を確認しておくことが大切です。
人員を集める前に資格要件を確認する
指定申請では、必要な職種と員数を満たす必要があります。
たとえば、サービスによっては、
- 管理者
- サービス管理責任者
- 生活支援員
- 職業指導員
- 就労支援員
- 看護職員
- 世話人
- 児童発達支援管理責任者
- 児童指導員
などの配置が必要です。
ただし、
福祉施設で働いた経験がある
以前、管理職をしていた
資格を持っている
という事情だけで、配置要件を満たすとは限りません。
実務経験の内容、経験年数、研修の修了状況、資格、兼務関係などを確認する必要があります。
大阪市も、法人格、サービス管理責任者などの資格要件、設備要件、サービス別の基準を、新規指定前に確認する事項として案内しています。
採用後に資格要件を満たさないことが分かると、開設延期や採用計画の変更が必要になります。
内定や雇用契約を進める前に、配置予定者の経歴と研修修了証などを確認した方が安全です。
法人を先に作れば安心とは限らない
障がい福祉サービスの指定を受けるには、原則として法人格が必要です。
ただし、法人を設立すれば、指定を受けられるわけではありません。
法人設立を先に行っても、
- 希望するサービスが総量規制中だった
- 予定していた物件が設備基準を満たさなかった
- サービス管理責任者を確保できなかった
- 資金計画が成立しなかった
- 事前協議の期限に間に合わなかった
ということはあり得ます。
法人設立そのものを否定するわけではありませんが、設立前に少なくとも、
- 開設予定サービス
- 指定可能性
- 事前協議の有無
- 開設希望時期
- 必要人員
- 物件条件
- 資金計画
を整理しておく必要があります。
補助金を前提に物件や設備を契約しない
補助制度は年度ごとに対象事業、対象サービス、申請期間、補助率、上限額などが変わります。
また、
- 申請前に契約した経費は対象外
- 交付決定前に購入した設備は対象外
- 開設予定事業所は申請できない
- 一定の施設種別だけが対象
- 事前協議を行った事業者だけが申請可能
という条件が付くこともあります。
たとえば、大阪市の2026年度介護テクノロジー導入支援事業でも、補助を受けるためには事前協議が必要とされています。対象経費や上限額も、施設・事業所の種類や導入内容によって異なります。
したがって、
補助金が出る予定だから、高額な設備を先に購入する
という進め方は危険です。
補助金は、採択や交付を保証された資金ではありません。
補助金がなくても成立する事業計画を基本とし、利用できる制度があれば追加的に活用するという考え方が安全です。
物件契約前に確認する順番
大阪市で障がい福祉事業所を開設する場合は、少なくとも次の順番で確認します。
1.提供するサービスを決める
対象者、支援内容、利用定員、提供時間などを整理します。
2.新規指定が可能か確認する
総量規制、受付停止、指定方針などを確認します。
B型については、2026年7月29日時点で大阪市全域に総量規制が実施されています。
3.事前協議の有無と期限を確認する
開設希望日から逆算して、行政の手続スケジュールを確認します。
4.必要な人員を確認する
職種、員数、資格、実務経験、研修、常勤換算、兼務の可否を整理します。
5.物件条件を整理する
必要な部屋、面積、消防設備、用途、改修可能性などを整理します。
6.候補物件の図面を確認する
契約や高額な申込金の支払いをする前に、指定基準に合う可能性を確認します。
7.収支計画を作る
家賃、人件費、改修費、備品費、請求から入金までの運転資金を確認します。
8.法人設立・物件契約・採用を進める
指定可能性と全体スケジュールを確認した後に、後戻りしにくい契約を進めます。
行政書士へ相談するときに準備したい情報
開設相談を行う場合、次の情報があると状況を整理しやすくなります。
- 希望するサービス
- 開設予定地域
- 開設希望時期
- 想定利用定員
- 対象とする利用者像
- 提供予定の支援内容
- 法人の有無
- 物件の有無
- 物件図面
- 配置予定職員
- サービス管理責任者等の経歴
- 自己資金
- 借入予定
- すでに締結した契約の有無
まだ何も決まっていない場合でも問題ありません。
ただし、
この物件を明日契約しなければならない
来月から職員を雇用する
すでに改修工事を発注した
という段階になるほど、変更できる選択肢は少なくなります。
相談は、物件契約後ではなく、候補物件を探し始める前か、少なくとも契約前に行う方が安全です。
行政書士田中慶事務所が支援できること
行政書士田中慶事務所では、大阪市内で障がい福祉事業所の開設を検討している事業者に対し、次のような支援を行います。
- 開設予定サービスの整理
- 大阪市の指定状況の確認
- 事前協議の要否とスケジュールの整理
- 人員基準・設備基準の確認
- 配置予定者の資格・実務経験資料の整理
- 候補物件の図面確認
- 指定申請書類の作成
- 大阪市との事前協議・補正対応
- 開設後に必要となる運営書類の整理
- 支援記録や個別支援計画の運用準備
- 法定研修・委員会・訓練の年間計画整理
ただし、建築、消防、労務、税務、登記など、他の専門資格が必要となる事項については、建築士、消防設備関係者、社会保険労務士、税理士、司法書士などとの連携が必要です。
行政書士だけで開設準備のすべてを完結させるのではなく、必要な専門家を適切につなぎながら進めます。
まとめ|最初に確認するのは「この事業を指定できるか」
大阪市で障がい福祉事業所を開設するとき、最初に行うべきことは物件探しではありません。
最初に確認するのは、
希望するサービスについて、現在、大阪市で新規指定を受けられるか
です。
そのうえで、
- 事前協議が必要か
- いつまでに手続を行う必要があるか
- どのような人員が必要か
- 物件にどのような設備が必要か
- 資金計画が成立するか
を整理します。
2026年7月29日時点では、大阪市の就労継続支援B型は総量規制の対象となっており、2026年8月1日以降の新規指定は停止されています。
この状況でB型の開設を前提に物件契約や採用を進めると、大きな損失につながる可能性があります。
障がい福祉事業の開設準備では、
物件を見つけてから制度へ合わせる
のではなく、
指定の条件を確認してから、それに合う物件と体制を整える
という順番が重要です。
物件契約、法人設立、採用など、後戻りしにくい契約へ進む前に、指定可否と開設までの手順を確認しておきましょう。
