就労継続支援B型は「工賃」だけで評価できるのか?高齢化・重度化する利用者と今後の役割

目次

はじめに

厚生労働省の「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」で示された「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方(中間とりまとめ案)」。

第1回では、一般就労の広がりや働き方の多様化によって、「一般就労が困難」とされる状態像自体が変化していること、そしてその結果として、雇用と福祉の役割をあらためて整理しようとしていることを取り上げました。厚労省は、一般就労が可能な人には一般就労で雇用機会を設け、一般就労が困難な人には福祉で一般就労への移行支援または就労の場を設けることを基本としつつ、本人の希望や状態像を踏まえた丁寧なアセスメントが必要だと整理しています。

第2回では、その中でも就労継続支援B型に焦点を当てます。

今回の資料を読んでいて、B型について特に重要だと感じるのは、二つの方向が同時に示されていることです。

一つは、工賃向上や一般就労への移行をどう進めるかという従来からの方向。

もう一つは、高齢化・重度化などによって利用者像が多様になる中で、工賃だけでは測れない支援の役割をどう捉えるかという方向です。

一見すると、少し矛盾しているようにも見えます。

しかし、これからのB型を考えるうえでは、この両方を見なければいけないのだと思います。

なお、今回取り上げる資料は現時点では中間とりまとめ案であり、今後の報酬改定や制度変更の具体的内容が決定したものではありません。


B型は、そもそもどのような人を対象とする制度なのか

就労継続支援B型は、制度上、

  • 通常の事業所に雇用されることが困難
  • 雇用契約に基づく就労も困難

である人に対して、雇用契約を結ばずに就労や生産活動の機会を提供するサービスです。

また、能力等が高まった人については、一般就労への移行に向けた支援を行うことも制度上の役割とされています。

つまりB型は、単に「一般就労できない人がずっと利用する場所」として設計されているわけではありません。

一方で、すべての利用者を一般就労へ移行させることだけが目的でもありません。

ここがB型の難しいところです。

利用者一人ひとりの状態、希望、働く力、生活上の課題などを踏まえながら、

一般就労への移行を目指す支援

と、

福祉の中で就労・社会参加の機会を継続的に保障する支援

の両方を担っています。


B型を中心に、就労系障害福祉サービスの利用者は増えている

今回の中間とりまとめ案では、直近5年間の就労系障害福祉サービス利用者数について、B型を中心として全体的に増加傾向にあると整理されています。

しかも、就労系障害福祉サービスの利用者全体の増加数は、障害福祉から一般就労へ移行した人の増加数を大幅に上回っています。

一般就労が拡大しているのであれば、福祉サービスを利用する人は減っていきそうにも見えます。

ところが、現実にはそうなっていません。

その背景の一つとして厚労省が挙げているのが、働くことを希望する精神障がい者の増加です。

A型・B型の利用者では精神障がい者がおおむね半数を占め、その割合も増えているとされています。

つまり、

一般就労の選択肢が広がること

と、

福祉の就労サービスを必要とする人が増えること

は、同時に起こっています。

ここを単純な「福祉から一般就労へ」という一本の流れだけで理解すると、現在のB型の実態を見誤ります。


B型では利用者の高齢化・重度化も進んでいる

さらに厚労省は、就労系障害福祉サービスの利用者について、高齢化・重度化が進んでいることを指摘しています。

特にB型では、重度障がい者が利用者の多くを占める事業所も出てきており、従来の就労系障害福祉サービスでは必ずしも想定されていなかった状態像の人も含め、働くことを希望する人が増えているとしています。

そして、そうした人たちにとって、

就労の場

であると同時に、

社会参加の場

としての役割も、これまで以上に求められています。

この点は、B型を考えるうえでかなり重要です。

例えば、重度の障がいがあり、一日に行える作業量が限られている人。

体調によって通所できる日数が安定しない人。

高齢化によって、以前と同じような作業量を維持することが難しくなった人。

そうした利用者に必要な支援を、単純に「どれだけ工賃を生み出したか」という数字だけで評価すれば、支援の実態を十分に捉えられない場合があります。


一般就労からB型へ戻る「加齢問題」も

中間とりまとめ案では、もう一つ興味深い変化も取り上げられています。

障害者雇用が進んだ結果、企業で働く障がい者自身も高齢化しています。

その中には、個人差はあるものの、気力や体力が低下し、一般就労を継続することが難しくなった一方で、B型事業所などで働くことを希望する人も増えていると指摘されています。

厚労省はこれを、いわゆる「加齢問題」として整理しています。

もちろん、まずは企業側で就業時間や業務内容を調整し、働き続けられる方法を検討することが求められます。

それでもなお一般就労の継続が難しい場合には、B型などの福祉サービスが再び就労や社会参加の場になることがあります。

つまり、B型は、

一般就労へ送り出す側

であるだけではなく、

一般就労から福祉へ戻る人を受け止める側

にもなりつつあります。

これは、第1回でも触れた「福祉から一般就労へ」という一方向だけでは説明できない変化です。


それでもB型には「工賃向上」が求められている

ここまで読むと、

「高齢化や重度化が進んでいるのだから、工賃はそれほど重視しなくてもよいのではないか」

と思うかもしれません。

しかし、それも違います。

B型では現在も、利用者の自立した日常生活や社会生活を支えるため、工賃水準を高めることが制度上求められています

大阪府でも、令和6年度から令和8年度までの「事業所工賃向上計画」を作成し、各年度の目標工賃月額や具体的な工賃向上策を盛り込むことをB型事業所に求めています。

そして報酬体系でも、平均工賃月額はB型の重要な評価指標となっています。

つまり、

高齢化・重度化への対応が必要だから、工賃は見なくてよい

という方向ではありません。

工賃向上は、今後もB型にとって重要な課題です。


では、B型は「工賃」だけで評価できるのか

ここで今回の検討会資料が面白くなります。

参考資料として公表された「個別施策に関する構成員からのこれまでの御意見」では、B型について、

  • 利用者の加齢、高齢化・重度化が進む中、平均工賃月額だけでなく、その他の支援も評価すべきではないか
  • 平均工賃月額による評価は、能力の高い利用者を事業所に留めることにつながるため、一般就労への移行実績で評価すべきではないか

という意見が掲載されています。

ここは注意が必要です。

これは厚労省が決定した方針ではなく、検討会構成員から出された意見です。

しかし、現在のB型が抱える難しさをかなり端的に表しています。


工賃を上げるほど、能力の高い利用者を残したくなるという矛盾

就労継続支援には、生産活動による収支改善や工賃向上が求められています。

中間とりまとめ案では、安定した事業運営を続けるために、事業者側が生産活動能力の高い利用者を確保せざるを得ない場合があるという指摘まで記載されています。

これはかなり重い指摘です。

例えば、作業能力が高く、生産活動の中心になっている利用者がいたとします。

その人が一般就労へ移行すれば、本人にとっては大きな前進かもしれません。

しかし事業所側では、

  • 生産量が下がる
  • 売上が減る
  • 平均工賃の維持が難しくなる
  • 新たな利用者への作業指導が必要になる

といった影響が出る可能性があります。

つまり制度上、

一般就労へ移行できる人は送り出してほしい

と求めながら、

工賃も上げてほしい

と求めると、事業所側に相反するインセンティブが生まれ得ます。

ここは「事業所の意識が低い」という話だけでは片付けられません。

制度設計そのものの問題として考える必要があります。


さらに、高齢・重度の利用者も受け入れる

そこにもう一つ条件が加わります。

今回の資料では、高齢化・重度化する利用者についても、就労・社会参加の場が必要だとされています。

するとB型事業所には、

工賃を上げる

一般就労できる人は一般就労へつなぐ

高齢・重度の人にも就労・社会参加の機会を提供する

という複数の役割が同時に求められることになります。

もちろん、この三つは必ずしも両立不可能ではありません。

ただし、簡単でもありません。

利用者像も、地域も、生産活動の内容も、事業所規模も違う中で、すべてのB型を一つの数字だけで評価することには限界があります。

今回、「工賃だけで評価できるのか」という議論が出ている背景には、こうした構造があるのだと思います。


大阪府の「優良取組表彰」にも見える複数の評価軸

この議論とあわせて見ておきたいのが、大阪府の動きです。

大阪府は2026年9月7日、令和8年度「大阪府就労継続支援優良取組表彰」の候補事業所募集を開始しました。

対象は、大阪府内に所在し、2026年4月1日時点で指定等から3年以上経過しているB型事業所です。

大阪府が示している着目ポイントには、

  • 前年度の平均工賃月額が、令和6年度全国平均工賃月額24,141円を上回ること
  • 就労支援
  • 目標工賃達成
  • 長期継続支援
  • 重度障がい者支援

などが挙げられています。事業所自身による自薦も可能で、募集期間は9月7日から10月30日までです。

ここで注目したいのは、工賃だけを見ていないことです。

工賃向上は重要な評価軸ですが、それと並んで、

一般就労への支援

長く働き続けるための支援

重度障がい者への支援

なども「優れた取組」として見る設計になっています。

もちろん、この表彰制度がそのまま今後の報酬評価になるわけではありません。

表彰されなかった事業所が「質の低い事業所」という意味でもありません。

ただ、大阪府がB型の「質」をどう見ようとしているかを考える材料にはなります。


大阪では「指導強化」と「良い取組の可視化」が同時に進んでいる

大阪府では一方で、B型事業所について、生産活動収支や工賃の支払いなど適正な運営を確認するための体制強化も進めています。

大阪府の令和8年度事業資料では、B型事業所の増加を背景として、就労支援事業会計の専門家を活用し、不適切な事業所を指導する体制を構築するとされています。

一方で今回、良質な取組を行う事業所を表彰し、可視化する仕組みも動いています。

私は大阪府の現在のB型政策を、

不適切な運営に対する確認・指導の強化

と、

良質な事業所・取組の可視化

の両側から進めている、と見るのが妥当だと思います。

「厳しくなる」という一言だけでは、少し雑です。

むしろ今後は、

何をしている事業所なのか

利用者にどのような価値を提供しているのか

を、事業所自身が説明できることがますます重要になるのではないでしょうか。


B型事業所が今、確認しておきたいこと

今回の厚労省資料を読んだからといって、現段階で新しい制度に合わせて何かを変更する必要はありません。

しかし、現在の運営を振り返る材料にはなります。

例えば、

1.利用者像を把握できているか

年齢、障がい特性、体力、作業能力だけではなく、

  • どのように働きたいのか
  • 一般就労への希望があるのか
  • 今後どのような生活を望んでいるのか

まで把握できているでしょうか。

2.工賃向上策が利用者支援とつながっているか

工賃目標を設定すること自体が目的になっていないでしょうか。

生産活動の内容と利用者の能力・希望が合っているか、工賃を上げるための取組が利用者支援と矛盾していないかを確認する必要があります。

3.一般就労の可能性を固定的に見ていないか

利用開始時には一般就労が難しいと考えられていても、支援や経験によって状態は変わります。

逆に、以前は一般就労できていた人でも、加齢や状態変化によって福祉的就労が適するようになる場合があります。

4.「工賃以外の支援」を説明できるか

重度障がい者への支援、長期継続支援、社会参加、生活リズムの形成、対人関係への支援など。

事業所が日々行っている支援の価値が、個別支援計画や支援記録に具体的に残っているでしょうか。

ここは今後、かなり重要になると思います。


「工賃が低い=支援の質が低い」ではない。しかし工賃を無視してもいけない

今回の議論で一番避けたいのは、両極端な理解です。

一つは、

工賃が高ければ、それだけで良いB型事業所である

という理解。

もう一つは、

B型は福祉なのだから、工賃は低くても仕方がない

という理解です。

どちらも適切ではありません。

工賃は、利用者が行った生産活動に対する大切な成果であり、利用者の生活にも直接関わります。

工賃向上に取り組むことは、B型の重要な役割です。

その一方で、高齢化・重度化する利用者への支援や、一般就労への移行、長期的な就労・社会参加など、工賃額だけでは測れない価値もあります。

だからこそ必要なのは、

工賃か支援か

という二者択一ではなく、

どのような利用者に、どのような支援を行い、その結果としてどのような就労・社会参加を実現しているのか

を総合的に見ることなのだと思います。


まとめ

厚労省の中間とりまとめ案を見ると、B型を取り巻く環境は明らかに複雑になっています。

一般就労の機会は広がりました。

その一方で、B型を中心として就労系障害福祉サービスの利用者は増えています。

利用者の高齢化・重度化も進み、一般就労からB型へ移る「加齢問題」も指摘されています。

そして検討会では、平均工賃月額だけではなく、利用者に対して行われるその他の支援も評価すべきではないかという意見が出ています。

一方で、工賃向上そのものの重要性がなくなるわけではありません。

大阪府の優良取組表彰を見ても、工賃を重視しながら、就労支援、長期継続支援、重度障がい者支援など複数の観点からB型事業所を見ています。

これから問われるのは、単に「工賃がいくらか」だけではなく、

その事業所が、誰に、どのような就労・支援の機会を提供しているのか

ではないでしょうか。

そして、その支援を個別支援計画や日々の記録、生産活動の実態などを通じて説明できること。

制度の具体的な変更内容がまだ決まっていない今だからこそ、私はそこを丁寧に確認しておく価値があると考えています。

次回は、就労継続支援A型と一般就労の境界を取り上げます。


シリーズ記事

第1回
「障害者就労はどう変わる?厚労省『雇用と福祉の中間とりまとめ案』から読む今後の方向性」

第2回
「就労継続支援B型は『工賃』だけで評価できるのか?高齢化・重度化する利用者と今後の役割」

第3回
「就労継続支援A型の役割はどう変わる?一般就労との境界から読む厚労省の議論」

第4回
「就労選択支援は今後どうなる?アセスメントの客観性・中立性を厚労省資料から読む」

第5回
「障害者雇用は『人数』から『質』へ?厚労省資料が示す一般就労と福祉の新たな関係」

第6回
「一般就労か福祉かの二択ではない?『雇用と福祉の相互往来』から考える障害者就労のこれから」


一次情報・参考資料

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この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

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