障害者就労はどう変わる?厚労省「雇用と福祉の中間とりまとめ案」から読む今後の方向性

目次

はじめに

2026年9月7日、厚生労働省の「第6回障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」で、「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方(中間とりまとめ案)」が示されました。

この資料は、就労継続支援A型やB型の報酬単価を直接変更するものでも、新しい指定基準を決めるものでもありません。

しかし、私は就労系障害福祉サービスに関わる方にとって、今後を考えるうえでかなり重要な資料だと感じています。

なぜなら、今回議論されているのは個別の加算や人員配置の話よりもさらに上流にある、

「一般就労と福祉的就労は、それぞれ誰に、何を提供する制度なのか」

という基本的な役割だからです。

就労移行支援、就労継続支援A型・B型などの現在の体系が整えられてから、およそ20年が経ちました。

その間に障害者雇用は大きく広がり、短時間勤務など働き方も多様化しています。一方、就労系障害福祉サービスでは、利用者の増加、高齢化・重度化、精神障がいのある利用者の増加など、制度創設時とは異なる状況も生まれています。

今回の中間とりまとめ案は、こうした変化を踏まえて、雇用と福祉の境界をもう一度整理しようとするものと読むことができます。

この記事では、全6回でこの中間とりまとめ案を読み解くシリーズの第1回として、まず全体像を整理します。

なお、本記事執筆時点ではあくまで「中間とりまとめ案」です。今後の制度改正や報酬改定の内容が決定したものではありません。


20年前につくられた「雇用と福祉」の基本構造

現在の就労系障害福祉サービスの原型は、2005年に制定された障害者自立支援法によってつくられました。

それまで障害種別ごとに分かれていた施設・事業体系が、その機能に着目して再編され、

  • 就労移行支援
  • 就労継続支援A型
  • 就労継続支援B型

という体系が整備されました。

制度上の基本的な役割を大きく整理すると、次のようになります。

就労移行支援

一般企業等への就職が可能と見込まれるものの、必要な体力や職業能力等が不足している人に対し、作業、企業実習、職場探しなどを通じて一般就労への移行を支援するサービスです。

就労継続支援A型

一般企業等への就職は困難であるものの、適切な支援があれば雇用契約に基づいて働くことができる人に対し、雇用契約による就労機会を提供します。

能力等が高まった場合には、一般就労への移行に向けた支援も行います。

就労継続支援B型

一般企業等への就職が困難で、雇用契約に基づく就労も困難な人に対し、雇用契約を結ばず、就労や生産活動の機会を提供します。

こちらも、能力等が高まった場合には一般就労への移行支援を行うことが制度上想定されています。

つまり、制度設計上は当初から、

一般就労と福祉的就労は、対象となる人の状態像に応じて役割を分担する

という考え方がありました。

今回、まったく新しい考え方が突然登場したわけではありません。

重要なのは、その前提となる社会の側が20年間で大きく変わったことです。


一般就労の障害者は約27万人から約70.5万人へ

中間とりまとめ案では、障害者自立支援法制定当時と現在を比較しています。

2005年当時、法定雇用率が適用される一般の民間企業で雇用されていた障害者は約27万人でした。

それが2025年には約70.5万人まで増加しています。

また、就労系障害福祉サービスから一般就労へ移行した人も増えています。

2012年には7,717人だった一般就労への移行者が、2024年には28,943人となっています。

その内訳は、

  • 就労移行支援:16,827人
  • 就労継続支援A型:5,998人
  • 就労継続支援B型:6,118人

です。

これは、企業側の障害者雇用の拡大だけによって生まれた数字ではありません。

厚労省資料でも、就労系障害福祉サービス事業者や障害者就業・生活支援センターなどの関係機関が一般就労への移行を支えてきたことが、障害者雇用の拡大に大きく寄与したと整理されています。

福祉から一般就労への移行支援が積み重なった結果、一般就労の側も広がってきた。

ここは、今回の議論を見るうえで忘れてはいけない点です。


「一般就労が困難」の意味が20年前とは違ってきた

今回の資料で、私が特に重要だと考えているのがここです。

一般就労の人数が増えただけではありません。

一般就労で可能な働き方自体が変化しています。

障害者雇用の分野では、合理的配慮の提供が義務化され、短時間で働く障害者についても一定の場合に実雇用率へ算定できる制度が整備されてきました。

障害者自立支援法制定当時は、週30時間以上働けなければ一般就労の機会を得ることが難しい状況がありました。

しかし現在は、週30時間未満で働く障害者も一定割合を占めています。

厚労省は、このような一般就労における雇用機会の拡大と働き方の多様化・柔軟化によって、「通常の事業所に雇用されることが困難」と判断される状態像そのものが変化してきたと整理しています。

これは就労系障害福祉サービスにとって小さな変化ではありません。

A型やB型は、そもそも「通常の事業所に雇用されることが困難」という状態像を前提として制度設計されているからです。

一般就労の受け皿や働き方が変われば、当然、

「誰が一般就労の対象で、誰が福祉による就労支援を必要とするのか」

という境界も変わります。

今回の中間とりまとめ案の中心には、この問題があります。


一方で、福祉を必要とする人は減っていない

ここで、

「一般就労できる人が増えたのであれば、A型やB型などの福祉サービスの利用者は減るのではないか」

と思うかもしれません。

ところが実際には、逆の動きも起きています。

厚労省資料によると、直近5年間ではB型を中心として就労系障害福祉サービスの利用者数も増加しています。

しかも、その増加数は、就労系障害福祉サービスから一般就労へ移行する人の増加数を大幅に上回っています。

背景として挙げられているのが、

  • 働くことを希望する精神障がい者の増加
  • 利用者の高齢化
  • 利用者の重度化
  • 一般就労した障がい者の高齢化
  • 一般就労を続けることが難しくなり、B型等を希望するケース

などです。

特にB型では、重度障がい者が利用者の多くを占める事業所も現れており、制度創設時には必ずしも想定されていなかった状態像の人も含め、就労・社会参加の場が求められています。

ここは非常に重要です。

今回の議論を、

「福祉から一般就労へもっと送り出すための議論」

だけで理解すると、資料全体を正確に捉えられません。

一般就労の可能性が広がった一方で、福祉による就労機会を必要とする人の状態像も多様になっています。

したがって、

一般就労を広げることと、福祉的就労の必要性が高まることは、同時に起こり得る

ということです。


厚労省が示した「基本的考え方」

こうした20年間の変化を踏まえて、中間とりまとめ案では、雇用と福祉の役割について基本的な考え方を示しています。

大きく整理すると、

  • 一般就労が可能な状態像にある人には、一般就労で雇用機会を設ける
  • 一般就労が困難な人には、福祉で一般就労への移行支援、または就労の場を設ける

というものです。

文章だけを見ると、従来からある制度の役割分担を確認しただけにも見えます。

実際、厚労省自身も、この考え方は現行制度上も前提となってきたものだと説明しています。

では、なぜ今あらためて確認するのでしょうか。

理由は、先ほど見たとおり、

20年間で「一般就労が可能」「一般就労が困難」という境界が変化したから

です。

だからこそ厚労省は、単純な振り分けではなく、

  • 本人の希望
  • 本人の状態像
  • 丁寧なアセスメント
  • 地域の実情

を踏まえて支援方針を検討することを前提としています。

ここは、今回の資料を読むうえで非常に大切な部分です。


「一般就労できるか」を誰がどう判断するのか

基本的な役割分担を明確にしようとすると、当然ひとつの難題が生まれます。

一般就労が可能かどうかを、誰がどのように判断するのか。

中間とりまとめ案でも、一般就労の可能性を捉えることは容易ではないとされています。

そして今後、

  • アセスメントの標準化
  • 客観性の向上
  • 中立・公正性の担保
  • 本人の希望を踏まえた支援

などの観点から、機能強化や実施方法を検討する必要があるとしています。

また、本人の「希望」についても、単に本人が発言した内容だけをそのまま受け取るのではなく、不安に寄り添い、十分な情報提供などを行ったうえで、本当の意思やニーズを引き出す支援が必要だとされています。

さらに重要なのは、一般就労できるかどうかは本人の能力だけで決まるものではないと明記されていることです。

本人の能力や適性と、仕事の内容、職場環境などがどの程度合っているかによっても結果は変わります。

「この人は一般就労できる人」

「この人はB型を利用する人」

と固定的に分類できるほど、実際の就労は単純ではありません。


状態は変わる。「一方向のステップアップ」だけでは捉えられない

障がいのある人の状態や希望は一定ではありません。

中間とりまとめ案でも、

  • 成長
  • 状態の改善
  • 状態の悪化
  • 加齢

などによって、就労能力や希望は変化するとしています。

福祉サービスを利用する中で能力が向上し、一般就労を希望するようになる場合もあります。

逆に、一般就労していた人が、障がいや加齢などによって以前と同じ働き方を続けることが難しくなる場合もあります。

つまり、

福祉 → 一般就労

という一方向だけを想定すればよいわけではありません。

一般就労後に生活上の困難が生じれば支援が必要になりますし、状態が変化すれば、雇用と福祉それぞれに求められる役割も変わります。

資料では今後、精神障がい者の復職支援を含む「雇用と福祉の相互往来」や、重度障がい者の一般就労における支援などについても継続して検討するとしています。

この論点については、本シリーズ第6回で詳しく取り上げます。


事業所にとって重要なのは「制度改正を予想すること」ではない

今回の資料を読んで、

「A型はどうなるのか」

「B型は厳しくなるのか」

「利用者を一般就労へ移行させなければならなくなるのか」

と不安になる事業所もあるかもしれません。

しかし、現時点でそこまで断定することはできません。

今回示されたのは中間とりまとめ案であり、この基本的考え方を踏まえた個別施策については今後も検討が続きます。

私が事業所側として今の段階で重要だと思うのは、制度改正を先読みして何かを急いで変更することではありません。

むしろ、

  • どのような利用者を受け入れているのか
  • それぞれの利用者がどのような働き方を希望しているのか
  • アセスメントと個別支援計画がつながっているか
  • 日々の支援記録に、その人の変化が残っているか
  • 一般就労を希望する人に、必要な情報や機会を提供できているか
  • 一般就労が難しい人に、どのような就労・社会参加の機会を提供しているか

といった、現在行っている支援を説明できる状態にしておくことです。

制度の方向性が変化するときほど、結局問われるのは、日々どのような支援を行い、その理由と経過をどのように記録してきたかです。

書類だけを整えるという意味ではありません。

実際の支援と、計画・記録・説明がつながっていること。

ここは、制度がどう変わったとしても変わらない基本だと私は考えています。


今回の資料は「A型かB型か」だけの話ではない

今回の中間とりまとめ案には、多くの論点があります。

特に今後の就労系障害福祉サービスを考えるうえでは、

  1. 就労継続支援B型の役割
  2. 就労継続支援A型と一般就労の境界
  3. 就労選択支援とアセスメント
  4. 障害者雇用の「質」
  5. 雇用と福祉の相互往来

を分けて考える必要があります。

そこで本ブログでは、今回の記事を第1回として、全6回で中間とりまとめ案を読み解いていきます。

今後の記事

第2回
「就労継続支援B型は『工賃』だけで評価できるのか?高齢化・重度化する利用者と今後の役割」

第3回
「就労継続支援A型の役割はどう変わる?一般就労との境界から読む厚労省の議論」

第4回
「就労選択支援は今後どうなる?アセスメントの客観性・中立性を厚労省資料から読む」

第5回
「障害者雇用は『人数』から『質』へ?厚労省資料が示す一般就労と福祉の新たな関係」

第6回
「一般就労か福祉かの二択ではない?『雇用と福祉の相互往来』から考える障害者就労のこれから」

次回は、利用者数の増加、高齢化・重度化、工賃、一般就労への移行など複数の課題が交差する就労継続支援B型を取り上げます。


まとめ

今回の中間とりまとめ案を読んで、私が最も重要だと感じるのは、何か一つの制度を廃止したり縮小したりする話ではありません。

一般就労そのものが変化した結果として、雇用と福祉の役割を改めて整理する必要が生じている。

ここが出発点です。

この20年間で障害者雇用は大きく拡大し、短時間勤務など働き方の選択肢も増えました。

一方で、福祉サービスを必要とする人も増え、その状態像は高齢化・重度化などによって多様になっています。

だからこそ、

「一般就労へ移行させればよい」

「福祉で支え続ければよい」

という単純な二択では整理できません。

本人の希望と状態を丁寧に捉え、その時点で必要な支援を考え、状態の変化に応じて雇用と福祉が連携する。

今回の資料からは、その方向性が見えてきます。

今後、具体的な制度や報酬にどのように反映されるのかは、まだ決まっていません。

だからこそ、現段階では決定していないことを決定事項のように扱わず、国が何を課題として認識し、どの方向を向いて議論しているのかを正確に追うことが大切だと考えています。


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※制度改正や報酬改定の内容が決定する前に、対応を先取りすることを目的としたものではありません。
※現在の支援・運営状況を確認し、必要な範囲で整理や改善方法を検討します。

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この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

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