障害福祉の行政処分事例から考える|監査対応・事実と異なる記録・不正請求で何が問題になるのか

2026年10月末、大阪市、東大阪市、千葉県から、障害福祉サービス・障害児通所支援に関する複数の行政処分が公表されました。

今回の事例には、

  • 監査における聴取の忌避
  • 重大な人格尊重義務違反
  • 架空のサービス提供記録
  • 介護給付費・障害児通所給付費の不正請求
  • 監査での虚偽報告・虚偽答弁
  • 実際にサービスを提供した事業所と、請求した指定事業所の不一致

など、性質の異なる問題が含まれています。

ここで注意したいのは、これらをすべて、

「記録に不備があった事例」

として一括りにしてはいけないことです。

単なる記載漏れと、実際には提供していないサービスについて架空の記録を作ることは同じではありません。

また、監査への対応を誤ることと、不正請求も別の問題です。

行政処分事例から実務上学ぶのであれば、何がどのような違反として評価されたのかを正確に分けて考えることが重要です。

本記事では、大阪市・東大阪市・千葉県が公表した一次資料をもとに、事業所運営で見落としたくないポイントを整理します。


目次

今回確認する行政処分

今回取り上げるのは、主に次の3自治体が公表した事例です。

大阪市

2026年10月30日、大阪市は、児童福祉法、障害者総合支援法、介護保険法に基づく監査結果として、複数の事業者に指定取消し等の処分を公表しました。

障害福祉・障害児支援に関係する主な内容は、

  • 障害児通所支援事業者の指定取消し
  • 短期入所事業者の指定の一部効力停止
  • 介護保険事業と障害福祉サービス事業を一体的に運営する事業者の指定取消し

です。

なお、短期入所の指定の一部効力停止期間については、同日20時30分に大阪市が訂正を公表しています。

正しい期間は、3か月です。


東大阪市

東大阪市は、居宅介護、重度訪問介護、同行援護を行う事業者について、2026年11月1日付で指定を取り消しました。

市の公表資料では、

  • 架空のサービス提供記録の作成
  • 介護給付費の不正請求・受領
  • 不正に算定した単位数をもとにした処遇改善加算の請求
  • 監査における虚偽の報告
  • 監査における虚偽答弁

が処分理由として示されています。


千葉県

千葉県は2026年10月30日、児童発達支援・放課後等デイサービスを運営する2事業者について、指定の効力の一部停止3か月の処分を公表しました。

いずれの事例も、

実際には未指定の別事業所で提供されたサービスを、指定を受けている別の事業所が提供したものとして障害児通所給付費を請求した

ことが不正請求として認定されています。

処分内容は指定取消しではなく、新規受入停止3か月です。


1.監査への対応は「単なる事務手続」ではない

まず、大阪市の障害児通所支援事業者の事例です。

大阪市は、監査において必要な聴取を求めたにもかかわらず、

正当な理由なくこれに応じず、聴取を忌避した

として、指定取消しの処分を公表しています。

ここから分かるのは、

監査への対応そのものが、指定事業者としての重大な義務の一部である

ということです。

運営指導や監査では、

  • 書類を提出する
  • 職員が説明する
  • 質問へ回答する
  • 事実関係を確認する

といった対応が求められます。

その場で答えが分からないことがあることと、監査自体を拒むことは全く違います。


「分からない」と「答えない」は違う

監査対応では、

今すぐ確認できない
担当者へ確認が必要
原本を探して後日提出したい

ということが起こる場合があります。

その場合には、事実を正直に説明し、必要な確認や提出を行えばよい場面もあります。

一方、

答えたくない
資料を出さない
聴取に応じない

という対応は別です。

今回の大阪市の処分は、「書類が一枚足りなかった」という事例ではなく、監査に必要な聴取を正当な理由なく忌避したこと自体が処分理由になっています。


2.人格尊重義務違反は「研修記録があるか」だけでは判断できない

大阪市の別の事例では、短期入所事業者について、

重大な人格尊重義務違反

が認定され、指定の一部効力停止3か月の処分が公表されました。

ここで重要なのは、

虐待防止研修を実施していたか
虐待防止委員会を開催していたか

だけで判断する問題ではないということです。

もちろん、法定研修や委員会の実施・記録は重要です。

しかし、

研修を開催したという記録が存在することと、日常の支援が適切であることは同じではありません。


「制度を回すこと」と「支援を適切に行うこと」は両方必要

事業所では、

  • 虐待防止研修
  • 虐待防止委員会
  • 身体拘束適正化
  • 職員への周知
  • 内部ルール

などを整備します。

これらは重要です。

一方で、それだけではなく、

  • 実際にどのような支援が行われているか
  • 職員の言動に問題がないか
  • 管理者が現場を把握しているか
  • 問題が起きた際にどのように対応したか
  • 再発防止が機能しているか

という運営実態が必要です。

書類が整っていても、実態が伴わなければ意味がありません。


3.「記録ミス」と「架空記録」は明確に分けて考える

今回の事例の中で、特に強調したいのがこの点です。

東大阪市は、重度訪問介護について、

実際には提供していないサービスについて架空のサービス提供記録を作成し、介護給付費を不正に請求・受領した

と認定しています。

これは、

支援記録の日付を書き間違えた
記載事項の一部が抜けていた

という通常の記録不備とは性質が違います。


事実と違う記録を「後から整える」ことはできない

事業所運営では、記録の不足が見つかることがあります。

その際、

過去の支援について、覚えている範囲で事実を確認して補足する

ことと、

実際にはなかった支援を、あったことにして記録する

ことは全く違います。

後者は、単なる書類不備の是正ではありません。

今回の東大阪市の事例でも、架空記録と不正請求が直接結び付いています。

行政書士田中慶事務所でも、過去に実施していない研修・会議・支援等について、実施したことにする記録を作成することはできないという線引きを重視しています。


4.サービス提供記録と請求は切り離せない

東大阪市の事例では、架空の記録をもとに介護給付費を請求し、さらに不正に算定された単位数を基礎として、福祉・介護職員等処遇改善加算も請求・受領したとされています。

市が公表した不正請求額は、

6,179,925円

で、加算額を含めた返還額は、

8,651,895円

です。

ここから分かるのは、

基本報酬の請求に問題があれば、それを前提に算定される加算にも影響が及ぶ場合がある

ということです。


記録は「請求の根拠」でもある

サービス提供記録は、単なる支援日誌ではありません。

報酬請求の根拠にもなります。

特に訪問系サービスでは、

  • サービス提供日時
  • 提供時間
  • サービス内容
  • 担当職員
  • 利用者の状況
  • 算定するサービス区分

などが、実際の支援と一致している必要があります。

つまり、

支援実態 → 記録 → 請求

が一本につながっていなければなりません。


5.監査で虚偽の資料を出すことは、さらに別の問題になる

東大阪市の処分では、不正請求だけではなく、

  • 監査で事実と異なるサービス提供記録を提出した
  • 監査で虚偽の答弁を行った

ことも処分理由として認定されています。

ここは非常に重要です。

運営上の問題が見つかったとき、

行政に知られたら困るから、書類を整えよう

という判断をすると、問題がさらに大きくなる可能性があります。


問題が見つかったときほど「事実」を基準にする

運営指導や監査に備えて記録を確認した結果、

  • 記載漏れがある
  • 手続が遅れている
  • 実施できていないものがある
  • 根拠資料が見つからない

ことが判明する場合があります。

その際に必要なのは、

事実を基準に現状を整理すること

です。

できていないことを、できていたことにはできません。

事実を隠すために新しい資料を作れば、元の問題とは別に、虚偽報告等の問題を生む可能性があります。


6.「実際にサービスを提供した場所」と「請求した事業所」は一致しているか

千葉県の2事例は、別の角度から非常に参考になります。

県の公表によると、

未指定の障害児通所支援事業所で実際に提供されたサービスについて、指定済みの別事業所が提供したものとして請求した

ことが不正請求と認定されています。

1事例では約656万円、もう1事例では約1,246万円の障害児通所給付費について、事実と異なる請求があったとされています。


「法人としてサービスを提供した」では足りない

複数事業所を運営している法人では、

同じ法人だから問題ないのでは?

と感じることがあるかもしれません。

しかし、障害福祉サービス・障害児通所支援の指定は、法人単位ではなく、原則として事業所ごとに行われます。

そのため、

  • どの指定事業所で
  • どの利用者に
  • いつ
  • どのサービスを提供したのか

が重要です。

法人内の別事業所で実際に提供したサービスを、指定を受けている別の事業所の実績として請求してよいということにはなりません。


7.大阪市の「事案3」は読み方に注意が必要

大阪市の10月30日の行政処分には、介護保険事業と障害福祉サービス事業を一体的に運営していた事業者への指定取消しも含まれています。

大阪市は、

  • 人員基準違反
  • 運営基準違反
  • 介護給付費の請求に関する不正
  • 虚偽答弁

を認定しています。

ただし、ここは発信上、慎重に扱う必要があります。

大阪市の公表内容をもとに、

「障害福祉サービスでも不正請求が認定された」とそのまま読み替えることは適切ではありません。

一体的に運営していた介護保険事業側での違反等が、障害福祉サービス側の指定取消しにも影響した事案として整理する必要があります。


一体運営では「他制度の違反が無関係」とは限らない

介護保険サービスと障害福祉サービスを同じ事業所・法人で運営している場合、

介護保険の話だから障害福祉には関係ない

とは限りません。

法令上、他法令違反等が指定処分へ影響する場合があります。

複数制度を一体的に運営している事業者は、

それぞれの制度を別々に見るだけでなく、法人・事業所全体のコンプライアンスとして確認する必要があります。


8.行政処分事例を「普通の記録不備」と結び付けすぎない

ここまで読むと、

記録に少しでも不備があれば指定取消しになるのでは?

と不安になるかもしれません。

しかし、それは今回の行政処分事例から導ける結論ではありません。

今回公表された事例には、

  • 監査忌避
  • 重大な人格尊重義務違反
  • 架空記録
  • 不正請求
  • 虚偽報告
  • 虚偽答弁

などが含まれています。

通常の、

  • 記載漏れ
  • 計画更新の遅れ
  • 会議録の不足
  • 記録内容の不十分さ

と、故意に事実と異なる記録を作成する行為を同列に扱うべきではありません。


ただし、小さな不整合を放置しないことは大切

一方で、

不正でなければ何も気にしなくてよい

ということでもありません。

記録・計画・請求の小さな不整合を放置すると、

  • 職員ごとに運用が違う
  • 請求根拠を説明できない
  • 管理者が実態を把握できない
  • 運営指導時に資料がつながらない

といった問題につながります。

必要なのは、行政処分を怖がることではなく、

現在の運営が事実と制度に沿って説明できる状態かを確認すること

です。


9.事業所が確認しておきたい5つのポイント

今回の複数の行政処分事例を踏まえると、少なくとも次の5点は確認しておく価値があります。

1.監査・運営指導への対応体制

行政から資料提出や説明を求められた際、

  • 誰が窓口になるのか
  • どの資料をどこから出すのか
  • 分からないことをどう確認するのか

が整理されているか。

2.支援実態と記録の一致

記録に書いてあるサービスが、実際に提供されたものと一致しているか。

3.記録と請求の一致

提供時間、内容、職員、サービス区分等が請求内容と整合しているか。

4.複数事業所・複数制度の区分

同一法人内で、

  • どの事業所が提供したのか
  • どの制度で請求するのか

が明確になっているか。

5.問題発見時に事実を変えない

過去の不備が見つかった際、

事実と異なる記録を後から作って帳尻を合わせていないか。

ここは特に重要です。


まとめ|重要なのは「書類を整えること」ではなく「事実と一致していること」

今回、大阪市、東大阪市、千葉県が公表した行政処分は、それぞれ内容が異なります。

そこから共通して見えるのは、

行政が確認するのは、書類の見た目だけではない

ということです。

  • 実際にどのような支援を行ったのか
  • その内容が記録に残っているか
  • 記録と請求が一致しているか
  • 行政から確認を受けた際に事実を説明できるか
  • 問題が起きた際に適切に対応しているか

という運営実態との整合性が重要です。

一方で、今回の処分事例を根拠に、

記録の小さなミスでも指定取消しになる

と不安を煽るのも適切ではありません。

記録不備と架空記録。

算定ミスと不正請求。

説明不足と虚偽答弁。

それぞれは区別して考える必要があります。

事業所として大切なのは、

「監査で怒られない書類」を作ることではなく、実際の支援・記録・計画・請求が事実に基づいてつながっている状態を作ること。

行政処分事例は、その基本を改めて確認する材料として読むのが適切だと考えます。

支援・記録・計画・請求が、実際の運営とつながっていますか?

行政処分事例を見て、必要以上に不安になる必要はありません。
一方で、現在の運営に小さな不整合がないかを確認しておくことは重要です。

行政書士田中慶事務所では、既存の障がい福祉事業所を対象に、現在の運営状況を整理し、記録・計画・運用のつながりや確認すべきポイントを一緒に整理する「障がい福祉運営 状況整理レビュー」を行っています。

障がい福祉運営 状況整理レビューを見る

一次資料

今回の記事は、以下の自治体の公式発表をもとに整理しています。

  • 大阪市「障がい福祉サービス等事業者及び介護保険事業者の処分並びに介護給付費等の返還請求について」
    2026年10月30日14時発表。障害児通所支援の指定取消し、短期入所の指定一部効力停止、介護保険・障害福祉サービスを一体的に運営する事業者への指定取消し等が公表されています。
    大阪市の行政処分に関する公式発表
  • 大阪市「報道発表資料の一部訂正について」
    同日20時30分公表。短期入所事業者の指定の一部効力停止期間について、「6か月」から**「3か月」**へ訂正されています。
    大阪市の訂正発表
  • 東大阪市「障害福祉サービス事業者等の行政処分」
    居宅介護、重度訪問介護、同行援護の指定取消しが公表されています。
    東大阪市の行政処分ページ
  • 東大阪市「指定障害福祉サービス事業者の指定の取消しについて」
    架空のサービス提供記録、不正請求、処遇改善加算への影響、虚偽報告・虚偽答弁、不正請求額・返還額等を確認できる公式資料です。
    東大阪市の処分内容(PDF)
  • 千葉県「指定障害児通所支援事業者の行政処分について(令和8年10月30日)」
    児童発達支援・放課後等デイサービス2事業所について、未指定事業所が提供したサービスを指定済みの別事業所が提供したものとして請求した不正請求が認定され、指定の効力の一部停止3か月(新規受入停止)の処分が公表されています。
    千葉県の行政処分に関する公式発表
役に立ったら、ぜひシェアしてください
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

目次