はじめに
2026年9月17日に開催された第159回社会保障審議会障害者部会で、厚生労働省から「一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時的な利用(復職支援)について」という資料が示されました。
この資料を見ると、
「一般企業で働いている人でも、就労移行支援やA型・B型を利用できるの?」
と思われる方もいるかもしれません。
結論からいうと、一般就労中であっても、一定の条件を満たす場合には、就労系障害福祉サービスを一時的に利用できる仕組みがあります。
ただし、ここで非常に重要なのは、
「休職したら誰でもA型・B型を利用して復職訓練ができる」わけではない
ということです。
また、この制度が2026年9月17日から新しく始まったわけでもありません。
一般就労中の障害者が就労系障害福祉サービスを一時的に利用できる仕組みは、2022年の障害者総合支援法等の改正によって法令上位置付けられ、2024年4月1日から施行されています。
今回の第159回障害者部会では、その現行制度について改めて整理した資料が示されました。
この記事では、その中でも特に「休職から復職を目指す場合」に利用できる復職支援型について、対象者、利用条件、必要書類、利用期間を整理します。
前回の記事では、一般就労の拡大を踏まえた「雇用と福祉」の役割整理について解説しています。
関連記事:就労継続支援A型・B型の役割は変わるのか?「雇用と福祉」の中間とりまとめを読み解く
一般就労中でも利用できる3つの類型
まず全体像を確認しておきます。
厚生労働省の資料では、一般就労中に就労系障害福祉サービスを利用する場合を、大きく3つの類型に整理しています。
1.労働時間延長支援型
企業等へ就職した後、概ね週10時間以上20時間未満の勤務から始め、段階的に労働時間を延ばしていく場合です。
就職前に利用していた就労系障害福祉サービスを一定期間継続して利用しながら、生活リズムの維持や企業との情報共有などを行います。
2.復職支援型
一般企業等に雇用されている障害者が休職し、復職を目指すために一時的な支援が必要な場合です。
今回の記事で詳しく扱うのが、この類型です。
3.短時間型
概ね週10時間未満の所定労働時間で一般就労した方について、一定の条件のもとで就労移行支援や就労継続支援を併用する類型です。
つまり、
「一般就労している=就労系障害福祉サービスは絶対に利用できない」
という理解は、現在の制度では正確ではありません。
一方で、一般就労していれば自由に福祉サービスを併用できるという意味でもありません。
それぞれの類型ごとに対象者や条件が定められています。
復職支援型とは何か
復職支援型の目的は、厚生労働省の資料では、
- 復職に必要な生活リズムの確立
- 体力や集中力の回復
- 主治医や産業医との連携
などを通じて、円滑な職場復帰を目指すこととされています。
対象となるサービスは、
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
です。
ここで重要なのは、単に「休職中だから福祉サービスを利用する」という仕組みではないことです。
あくまで、
現在雇用されている企業への復職を目指し、そのために一時的な就労支援が必要である
という位置付けです。
対象となるのはどのような人?
復職支援型の対象者は、
通常の事業所に雇用されている障害者で、休職から復職する際に、就労に必要な知識や能力の向上のための支援を一時的に必要とする人
とされています。
つまり、
「退職して次の仕事を探すために利用する」
というものではありません。
雇用関係を維持したまま休職しており、その勤務先への復職を目指していることが前提です。
さらに、対象者に該当するだけでは利用できません。
次に説明する3つの条件をすべて満たす必要があります。
復職支援型を利用するための3つの条件
厚生労働省の資料では、次の3条件が示されています。
条件1 企業・地域の就労支援機関・医療機関等だけでは復職支援が難しいこと
まず、
本人を雇用している企業、地域の就労支援機関、医療機関等による復職支援の実施が見込めない、または困難であること
が必要です。
したがって、
「福祉サービスの方が便利だから」
という理由だけで選択する仕組みではありません。
企業内の復職支援や、障害者職業センターなど地域の就労支援機関、医療機関等による復職支援で対応できるかどうかを確認したうえで、それだけでは難しい場合に福祉サービスによる支援を検討します。
条件2 本人が復職を希望し、企業と主治医も適当と判断していること
次に、
休職中の本人が復職を希望していること
が必要です。
さらに、本人の希望だけでは足りません。
本人を雇用している企業と、休職に係る診断をした主治医の双方が、
就労系障害福祉サービスによる復職支援を受けることで復職することが適当
と判断している必要があります。
復職支援は、本人、福祉事業所だけで完結するものではありません。
企業や医療との連携を前提とした仕組みになっています。
条件3 市区町村が、福祉サービスの利用により効果的に復職できると判断すること
最後に、
就労系障害福祉サービスを利用することで、より効果的に復職につなげることができる
と市区町村が判断する必要があります。
障害福祉サービスですから、最終的には市区町村による支給決定が必要です。
本人、企業、主治医が希望しているから自動的に利用できるわけではありません。
支給決定ではどんな書類が必要?
今回の資料では、条件を確認するための資料についても具体的に整理されています。
大きく3種類です。
1.雇用先企業からの資料
企業による復職支援の実施が困難であり、
就労系障害福祉サービスによる復職支援を受けることが復職に適当である
と企業が判断していることを示す書類です。
2.主治医からの資料
休職に係る診断をした主治医から、
- 主治医が所属する医療機関での復職支援が困難であること
- 就労系障害福祉サービスによる復職支援を利用することが適当であること
を示す資料が必要です。
3.相談支援事業所からの資料
地域障害者職業センターなどの就労支援機関による復職支援の利用が困難であることや、地域の医療機関による復職支援が見込めないことを示す資料です。
セルフプランの場合には、申請者が同様の書類を作成します。
その場合、市区町村は地域の就労支援機関や医療機関における復職支援の実施状況等を調査したうえで、支給決定の可否を判断します。
この仕組みを見ると、
「B型事業所が本人から相談を受け、そのまま受け入れて復職訓練を始める」
という制度ではないことが分かります。
企業、医療、相談支援、市区町村、福祉事業所という複数の主体が関わる支援です。
利用期間は「最大2年間」だが、最初から2年決定ではない
復職支援型の利用期間については、
企業が定める休職期間の終了まで。ただし上限2年
とされています。
ここだけを見ると、
「2年間の支給決定が出る」
と思われるかもしれません。
しかし、支給決定期間は、
1か月から6か月までの範囲内で、月単位
で定められます。
つまり、
「必要だから最初から2年間利用する」
という仕組みではありません。
支援の進み具合や復職の見通しなどを確認しながら、必要な期間について支給決定を行っていくことになります。
A型・B型で何をするのか
復職支援型は、「休職中にA型やB型で働いておけばよい」というものではありません。
目的はあくまで元の職場への復職です。
厚生労働省の資料では、例えば、
- 段階的に通所頻度を増やして生活リズムを確立する
- 体力や集中力を回復する
- 支援の進捗状況を企業や医療機関等と共有する
- 企業の復職プロセスに沿って支援する
- 主治医や産業医などと連携する
といった支援が示されています。
したがって、事業所側では通常の利用者とまったく同じ支援を提供するだけではなく、
「この支援が復職にどうつながるのか」
という目的を明確にする必要があります。
個別支援計画や日々の支援記録でも、復職という目的とのつながりを意識した記録が重要になるでしょう。
「リワーク」と同じものではない
復職支援という言葉から、医療機関などで行われる「リワーク」を思い浮かべる方もいると思います。
しかし、就労系障害福祉サービスによる復職支援と、医療機関等が行うリワークを単純に同じものとして扱うことはできません。
そもそも今回の利用条件には、
企業、地域の就労支援機関、医療機関等による復職支援の実施が見込めない、または困難であること
が含まれています。
つまり、既存の復職支援との関係を確認したうえで、障害福祉サービスによる支援が必要かどうかを判断する仕組みです。
複数の制度があるからといって、本人が好きなものを自由に選択して並行利用するという構造ではありません。
事業所から「復職支援できます」と安易に案内しない
就労移行支援やA型・B型事業所にとっても、今回の制度整理は知っておく価値があります。
一般就労中の方や休職中の方から、
「B型を利用して復職の準備をしたい」
と相談される可能性があるからです。
ただし、その場で、
「利用できます」
と断定するのは避けるべきです。
確認すべきなのは、
- 現在も企業との雇用関係が続いているか
- 本人はその企業への復職を希望しているか
- 企業は福祉サービスによる復職支援を適当と判断しているか
- 主治医も同様に判断しているか
- 他の就労支援機関や医療機関による復職支援では対応が困難か
- 市区町村が支給決定できる状況か
といった点です。
事業所だけで利用可否を決める制度ではありません。
まず相談支援事業所や市区町村とも連携しながら、利用要件を確認する必要があります。
2026年9月17日に始まった制度ではない
今回の記事で、最も誤解してほしくないところです。
第159回障害者部会が開催されたのは2026年9月17日ですが、
一般就労中の障害者が就労系障害福祉サービスを一時的に利用できる仕組み自体は、2024年4月1日に施行されています。
今回の障害者部会で「B型による復職支援が新たに解禁された」わけではありません。
厚生労働省が、すでに運用されている制度を改めて整理して資料として提示したものです。
制度改正の記事では、
「資料が公表された日」と「制度が施行された日」
を混同しないことが非常に重要です。
まとめ
一般就労中の障害者であっても、一定の場合には就労移行支援、就労継続支援A型・B型を一時的に利用することができます。
そのうち復職支援型では、
- 企業や地域の就労支援機関、医療機関等だけでは復職支援が難しいこと
- 本人が復職を希望し、企業と主治医も福祉サービスによる支援が適当と判断していること
- 市区町村が、福祉サービスの利用によってより効果的に復職できると判断すること
という条件をすべて満たす必要があります。
さらに、支給決定に当たっては、企業、主治医、相談支援事業所等からの資料による確認が行われます。
利用期間は企業の休職期間終了までで上限2年ですが、支給決定期間そのものは1か月から6か月の範囲で設定されます。
したがって、
「一般就労しているからB型は絶対に使えない」
も、
「休職したらB型で復職訓練ができる」
も、どちらも正確ではありません。
重要なのは、本人の復職にとって就労系障害福祉サービスによる支援が本当に必要かを、企業、医療、相談支援、市区町村、福祉事業所が連携して確認することです。
制度の名前だけを見るのではなく、誰の、どのような課題に対して、何のためにそのサービスを利用するのか。
復職支援でも、その基本は変わりません。
支援の「目的」と、計画・記録はつながっていますか?
復職支援に限らず、障害福祉サービスでは、 「なぜこの支援を行うのか」が個別支援計画や日々の支援記録から確認できることが大切です。
行政書士田中慶事務所では、障害福祉事業所向けに 「支援記録・個別支援計画の整合性レビュー」を行っています。
整合性レビューの詳細を見る