はじめに
2026年9月17日に開催された第159回社会保障審議会障害者部会で、厚生労働省から「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会の中間とりまとめ」が示されました。
今回の中間とりまとめでは、障害者自立支援法が制定されてから約20年間で、障害者の一般就労を取り巻く環境が大きく変化したことを踏まえ、一般就労と就労系障害福祉サービスが、それぞれどのような役割を担うのかが改めて整理されています。
対象となるのは、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型などです。
ただし、最初に明確にしておきたいことがあります。
今回の中間とりまとめによって、
「A型やB型の制度が廃止・縮小されることが決まった」
わけではありません。
また、
「一般就労できる人は、すぐに福祉サービスを利用できなくなる」
という話でもありません。
現時点では、約20年間の社会状況の変化を踏まえて、雇用と福祉の役割を改めて整理し、今後の具体的な制度や施策を検討していく段階です。
今回は、この中間とりまとめから、A型・B型・就労移行支援の今後を考えるうえで重要なポイントを整理します。
なお、第159回障害者部会で示された令和9年度障害福祉報酬改定の4つの論点については、前回の記事でも整理しています。
令和9年度障害福祉報酬改定、「サービスの質」はどう見直される?第159回障害者部会から読む4つの論点
まず確認したい、A型・B型・就労移行支援の制度上の役割
今回の資料では、障害者自立支援法の制定時に整理された就労系障害福祉サービスの役割が改めて確認されています。
就労移行支援
一般就労が可能と見込まれるものの、就労に必要な体力や職業能力などが不足している方に対して、一般就労への移行に向けた訓練や職場探し、就職後の定着支援などを行うサービスです。
就労継続支援A型
「通常の事業所に雇用されることが困難」である一方、適切な支援があれば雇用契約に基づく就労が可能な方に対し、雇用契約に基づく就労機会を提供するサービスです。
能力等が高まった場合には、一般就労への移行も支援します。
就労継続支援B型
「通常の事業所に雇用されることが困難」であり、さらに雇用契約に基づく就労も困難な方に対して、雇用契約を結ばずに就労や生産活動の機会を提供するサービスです。
こちらも、能力等が高まった方については一般就労への移行を支援します。
この基本的な制度設計そのものが、今回新しく作られたわけではありません。
今回の論点は、この制度設計が作られた約20年前と、現在では「一般就労」の状況がかなり変わっているのではないかというところにあります。
一般就労する障害者は約27万人から約70.5万人へ
中間とりまとめでは、障害者自立支援法制定当時と現在を比較しています。
法定雇用率が適用される民間企業で雇用されている障害者数は、2005年当時の約27万人から、2025年には約70.5万人まで増加しています。
身体障害者だけでなく、知的障害者、精神障害者へと雇用義務の対象が広がり、障害者雇用そのものが拡大してきました。
さらに、働き方も変わっています。
以前は週30時間以上の勤務が一般就労の中心でしたが、現在は短時間勤務を含め、障害特性や状態に応じた働き方が広がっています。
つまり、
「一般企業で働くためには、一定以上の長時間勤務ができなければならない」
という状況から、
「必要な配慮を受けながら、多様な働き方で一般就労する」
ことが以前より可能になってきたわけです。
ここが、今回の議論の大きな出発点です。
A型について「制度上の利用者像の範囲が狭まってきている」と整理
今回の資料の中でも、特に注目したい記述があります。
一般就労の雇用機会が広がり、働き方も多様化・柔軟化した結果、
「通常の事業所に雇用されることが困難」と判断される状態像そのものが、制度制定当時から大きく変化している
と整理されています。
そのうえで、就労継続支援A型について、
適切な支援があれば雇用契約に基づく就労は可能であるものの、通常の事業所への雇用が困難であるという制度上の利用者像の範囲は、制度制定当時と比べて狭まってきているとしています。
ここはかなり重要です。
ただし、
「A型の利用対象者を縮小することが決定した」
という意味ではありません。
現在の一般就労の実態を踏まえれば、制度創設時と同じ感覚で「一般就労が困難」という状態を捉えることはできないのではないか、という問題提起です。
今後、A型の役割や利用者像についてどのような具体的な制度見直しにつながるのかは、引き続き議論を確認する必要があります。
では、B型の役割は小さくなっているのか
ここで、
「一般就労が広がったのであれば、B型も必要性が小さくなっているのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、中間とりまとめが示している実態は、それほど単純ではありません。
直近5年間では、B型を中心に就労系障害福祉サービスの利用者数は増加傾向にあります。
しかも、その増加数は、福祉から一般就労へ移行した方の増加数を大幅に上回っていると整理されています。
背景の一つとして示されているのが、精神障害者の利用増加です。
A型・B型の利用者のおおむね半数を精神障害者が占め、その割合も増加しているとされています。
また、就労系障害福祉サービス利用者の高齢化・重度化も進んでいます。
特にB型では、重度障害者が多く利用する事業所もあり、従来の就労系サービスでは必ずしも想定されていなかった方々も含め、「働きたい」「社会参加したい」というニーズが広がっています。
さらに、一般就労していた方が加齢によって勤務継続が難しくなり、B型などでの就労を希望するケースも指摘されています。
つまり今回の資料は、
「一般就労が増えたから福祉的就労は縮小すればよい」
とは整理していません。
むしろ、
一般就労が広がる一方で、福祉としての就労支援に求められるニーズも多様化し、増えている
という、少し複雑な状況が示されています。
一般就労できる人が、就労継続支援を利用し続けるケースも指摘
もう一つ、今回の中間とりまとめで踏み込んでいるのが、一般就労への移行が可能な方が就労継続支援を利用し続けている場合についてです。
資料では、その背景として一つの理由だけを挙げているわけではありません。
例えば、
- 一般就労とA型で時間当たり賃金に大きな差がない場合がある
- 地域によっては十分な一般就労の場がない
- 就労継続支援事業所側も、生産活動収支や賃金・工賃の確保のため、一定の生産能力を持つ利用者が必要になる場合がある
といった複数の事情が示されています。
これらが相互に作用した結果として、一般就労への移行が可能な状態にある方が、引き続き就労継続支援を利用するケースが存在すると整理されています。
ここも、「本人や事業所が悪い」という単純な話ではありません。
本人の希望、地域の雇用環境、事業所運営、一般就労との待遇差など、複数の構造的な要因が関係しています。
国が改めて示した「雇用」と「福祉」の基本的な役割
では、今回の中間とりまとめは、最終的に何を基本的な考え方として示したのでしょうか。
かなり簡略化すると、次のように整理できます。
一般就労が可能な状態にある方
一般就労で雇用機会を設ける。
一般就労が困難な方
福祉において、一般就労への移行支援または就労の場を設ける。
一見すると当たり前のようにも見えます。
実際、この考え方自体は現行制度にもともと存在しています。
しかし、一般就労のあり方が約20年間で大きく変化したため、
現在の社会状況に合わせて、この境界を改めて確認する必要がある
というのが今回の整理です。
大切なのは「一般就労へ行かせること」ではなく、丁寧なアセスメント
ここは、現場で誤解しないようにしたいところです。
今回の中間とりまとめは、
「一般就労できそうな利用者を、とにかく一般就労へ移行させる」
ことを求めているわけではありません。
資料では、本人の希望と状態像を十分に踏まえた丁寧なアセスメントを行い、地域の実情も考慮したうえで支援方針を検討することが前提とされています。
さらに「本人の希望」についても、単に本人が口にした言葉をそのまま受け取るのではなく、
- 就職することへの不安
- 自分自身に対する不安
- 必要な情報が十分に得られているか
- 本人が本当に望んでいる働き方は何か
といった点に寄り添い、情報提供やエンパワメントを行いながら、本当の意思やニーズを引き出すことが求められています。
一般就労が可能かどうかについても、本人の能力だけで決まるものではありません。
仕事内容との適合、職場環境、障害特性、必要な配慮、実際の採否など、さまざまな要素の影響を受けます。
ですから、
「能力があるから一般就労」
「能力が低いからB型」
という単純な線引きではありません。
就労選択支援の重要性も、さらに高まる可能性
こうした流れを見ると、2025年10月から始まった就労選択支援の位置付けも重要になってきます。
就労選択支援は、本人との協同によるアセスメントや情報提供などを通じ、本人が自分の働き方を考えるための支援です。
すでに就労継続支援を利用している方についても、就労選択支援に関する情報を定期的に提供し、一般就労が可能になったと考えられる場合には、本人の希望を尊重しながら、就労移行支援や一般就労などを選択する機会を提供する仕組みとなっています。
今回の中間とりまとめでも、福祉側において就労に関するアセスメントの機会を広く設けることが求められています。
今後、雇用と福祉の役割整理が進むほど、
「この人はなぜ今、このサービスを利用しているのか」
を本人と支援者が一緒に確認していくことの重要性は高まっていくと考えられます。
A型・B型事業所が今すぐ利用者を選別する話ではない
今回の資料を読んで、
「今後は一般就労できそうな利用者をB型から出さなければならないのか」
「A型の対象者が厳しくなるのか」
と不安になる事業所もあるかもしれません。
しかし、現時点でそこまで決まっているわけではありません。
これはあくまで中間とりまとめです。
具体的な利用要件や報酬、運営基準が今回の資料によって変更されたわけではありません。
そのため、将来を予測して利用者を機械的に振り分けたり、支援方針を急に変更したりする必要はありません。
今の段階で事業所が確認しておきたいのは、むしろ、
- 本人はどのような働き方を希望しているのか
- その希望は定期的に確認されているか
- 現在の能力や状態だけで将来の可能性を固定していないか
- 一般就労という選択肢について必要な情報提供をしているか
- 現在のサービスを利用する理由が、個別支援計画や支援記録から読み取れるか
といった、日々の支援の基本的な部分です。
「福祉から一般就労へ」という一本道ではない
今回の中間とりまとめを読むうえで、私はここを大切にしたいと思います。
就労支援を、
B型 → A型 → 就労移行 → 一般就労
という一方向の階段のように捉えると、今回の資料が示している現実を十分に理解できません。
人の状態は変化します。
福祉的就労の中で力をつけて一般就労を希望する方もいます。
一方で、一般就労を続けてきた方が、障害の状態や加齢によって福祉的就労を必要とする場合もあります。
一般就労と福祉は、どちらが上でどちらが下という関係ではありません。
重要なのは、本人の希望や状態、その時々の環境に応じて、必要な支援につながれることです。
今回の中間とりまとめも、一般就労と福祉の役割の違いを整理しながら、両者の連携を強化することを基本としています。
まとめ
第159回障害者部会で示された「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方」では、障害者自立支援法制定から約20年間の変化を踏まえ、一般就労と就労系障害福祉サービスの役割が改めて整理されました。
ポイントは、
- 障害者の一般就労は大幅に拡大した
- 短時間勤務など働き方も多様化した
- A型の制度上の利用者像を取り巻く状況が変化している
- 一方でB型を中心に福祉サービスの利用ニーズは増えている
- 利用者の高齢化・重度化など、就労支援に求められる役割も多様になっている
- 本人の希望と状態像を踏まえた丁寧なアセスメントが重要になる
という点です。
そして、今回示されたのは具体的な制度改正の決定ではありません。
現時点で正確に捉えるなら、
一般就労の環境が大きく変わった今、A型・B型・就労移行支援を含む「雇用と福祉の役割」を改めて整理し、今後の施策を検討していく段階に入った
ということになります。
今後、具体的な制度・報酬・運用の議論がどのように進むのか。
当事務所でも、引き続き一次資料を確認しながら、決定事項と検討段階を分けてお伝えしていきます。
「なぜ今、この支援を行っているのか」を説明できますか?
本人の希望やアセスメント、個別支援計画、日々の支援記録がつながっているかを確認することは、 支援の目的や経過を振り返るうえでも重要です。
行政書士田中慶事務所では、障害福祉事業所向けに 「支援記録・個別支援計画の整合性レビュー」を行っています。
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