障害児支援の全職員研修が制度化へ?基礎・実践研修と人員配置の見直しを解説

2026年10月5日に開催された第65回障害福祉報酬改定検討チームでは、障害児支援に従事する職員の新たな研修体系を制度化する方向が示されました。

今回の検討で特に重要なのは、単に「新しい研修が増える」という話ではないことです。

厚生労働省は、全国どこでも質の高い障害児支援を提供できるよう、障害児支援に従事する職員に共通して求められる理念・価値観・専門性を確保するため、全国共通の研修体系を整備する方向を示しています。

予定されている体系は、

  • 基礎・実践研修
  • リーダー研修
  • コア人材研修

の3段階です。

このうち最初に導入される予定なのが、基礎・実践研修です。

厚生労働省資料では、2027年度から基礎・実践研修を導入し、その後、2028年度にリーダー研修、2029年度にコア人材研修を順次導入する予定としています。

さらに、第65回では、

受講対象となる事業に配置される全ての常勤職員に、基礎・実践研修の受講を求める

という具体的な方向も示されました。

ただし、現時点では令和9年度報酬改定に向けた検討案です。

「2027年度から全職員の受講義務化が確定した」という段階ではありません。

本記事では、今回示された研修体系の内容と、事業所運営にどのような影響が考えられるのかを整理します。


第65回・障害児支援の全体像はこちら

第65回検討チームで示された障害児支援24論点は、保存版のまとめ記事で整理しています。
令和9年度障害福祉報酬改定|第65回検討チームの重要論点まとめ

目次

なぜ障害児支援に新しい研修体系が必要なのか

背景にあるのは、障害児支援の質を地域や事業所によって大きくばらつかせないという課題です。

厚生労働省資料では、「こども未来戦略」を踏まえ、全国どこでも質の高い障害児支援を提供できるよう、人材育成を進める必要性が示されています。

その後、障害児支援における人材育成に関する検討会で、

  • 障害児支援に共通して必要な理念
  • 権利擁護
  • 本人支援
  • 家族支援
  • 地域連携
  • 支援実践

などを、全国共通の枠組みで学ぶ研修体系が検討されました。

つまり今回の研修制度は、

事業所ごとに必要な研修を考える

だけではなく、

障害児支援に携わる人なら、全国共通で最低限ここまでは学ぶ

という土台を作ろうとするものです。


新しい研修体系は3段階

新たな研修体系は、大きく3階層に分かれています。

1.基礎・実践研修

障害児支援に従事する職員に共通して必要な、

  • 基本理念
  • 権利擁護
  • 本人支援
  • 家族支援
  • 地域連携
  • 支援実践

などを学ぶ基礎的な研修です。

職種や実務経験にかかわらず、障害児支援に従事する職員全体を対象とすることが想定されています。


2.リーダー研修

事業所の中で、

  • 支援の中心となる
  • 後輩職員へ助言する
  • チーム支援をまとめる

といった役割を担う職員を対象とする研修です。

こちらは、全職員必須ではなく、事業所内で中核的な役割を担う職員が任意で受講する方向が示されています。


3.コア人材研修

事業所だけでなく、地域全体で、

  • スーパーバイズ
  • 人材育成
  • 地域づくり
  • 支援機関間の連携

などを担う職員を対象とする研修です。

リーダー研修・コア人材研修は、都道府県・指定都市が実施主体となる方向が示されています。


2027年度から「基礎・実践研修」を導入予定

今回の資料では、研修体系を一度にすべて始めるのではなく、

  • 2027年度:基礎・実践研修
  • 2028年度:リーダー研修
  • 2029年度:コア人材研修

という形で、段階的に整備する予定が示されています。

ここで重要なのは、2027年度からすぐに全体系が完成するわけではないということです。

まずは、全職員の共通基盤となる基礎・実践研修から始める考え方です。


「全常勤職員」が対象になる案

第65回で特に実務への影響が大きいのが、受講対象者です。

厚生労働省は、基礎・実践研修について、

指定障害児通所支援、指定障害児入所支援、指定障害児相談支援に配置されている全ての常勤職員に受講を求める

方向を示しています。

つまり対象は、児童発達支援管理責任者や管理者だけではありません。

制度化された場合には、

  • 児童指導員
  • 保育士
  • 看護職員
  • その他の常勤職員

など、対象事業に配置されている常勤職員全体が関係する可能性があります。

ただし、具体的にどの職種・配置をどこまで含むのかについては、今後の基準・通知等を確認する必要があります。


非常勤職員は常勤と同じ扱いではない方向

非常勤職員については、

常勤職員と同じ研修体系を一律に求めるのではなく、役割や勤務実態を踏まえ、必須受講科目を設定するなど別の枠組みを検討する

方向が示されています。

障害児支援事業所では、

  • 週数日の勤務
  • 短時間勤務
  • 送迎時間帯中心の勤務

など、非常勤職員の働き方もさまざまです。

そのため、勤務実態に関係なく全員へ同じ研修時間を課すのではなく、役割に応じて必要な部分を受講する仕組みが検討されています。

現時点では、どの科目が必須になるかは決まっていません。


研修は「動画を見るだけ」ではない

今回の研修体系で重要なのが、OJTとの一体化です。

検討会報告では、基礎・実践研修を、

研修を受講して知識を得るだけ

ではなく、

日々の支援実践やOJTと組み合わせて学ぶ

ものとして整理しています。

研修体系のイメージでは、

  • 講義動画
  • 本人による振り返り
  • 上司・先輩職員との対話
  • 日々の支援実践
  • 事業所内でのOJT

などを組み合わせる形が示されています。

つまり今後は、

「研修動画を視聴した」という受講記録だけではなく、学んだ内容を実際の支援へどう反映したか

が、人材育成の考え方として重要になります。


基礎・実践研修は「入職時に一日で終わる研修」ではない

検討会報告では、基礎・実践研修について、概ね3年程度の期間の中で受講することが想定されています。

研修体系の資料では、

  • 基礎・実践研修(Ⅰ)
  • 基礎・実践研修(Ⅱ)

という段階も示されており、職員が支援実践を重ねながら学ぶ構成です。

したがって、

入職した日に全研修を一気に受けて完了

という設計ではなく、

勤務・支援経験の中で段階的に学んでいく人材育成体系

として考えられています。


事業者には「研修を実施するための措置」を求める案

第65回では、運営基準上、

事業者に対し、この研修を実施するための措置を講じることを求める

方向も示されています。

ここが制度化されれば、事業所側には、

  • 誰が受講対象なのか把握する
  • いつ受講するのか計画する
  • 受講状況を管理する
  • OJTにつなげる
  • 新規採用職員の受講時期を管理する

といった運用が必要になる可能性があります。

つまり今回の研修制度は、

職員個人が自主的に受ける研修

というより、

事業所として受講を管理する仕組み

になる可能性があります。


研修が増えると「人員配置」が問題になる

障害児通所支援事業所では、サービス提供時間を通じて必要な人員配置を確保する必要があります。

そのため、

研修に職員を出したい
しかし、その職員が抜けると配置基準を満たせない

という問題が起こります。

厚生労働省もこの問題を認識しており、第65回資料では、

外部研修の受講により一時的に人員配置へ影響が生じる場合、必要な直接支援体制が確保されることを前提に、人員基準を柔軟に取り扱うこと

を検討してはどうかとしています。


「研修なら人員欠如でもいい」という意味ではない

ここは発信上、特に注意が必要です。

今回の案は、

研修へ行っている職員は配置しなくてもよい

と決まったわけではありません。

条件として、

必要な直接支援体制が確保されていること

が前提として示されています。

また、どの程度の研修、どの時間、どの職種について、どこまで柔軟な取扱いを認めるのかも現時点では未確定です。

したがって、正式な基準改正前に、

外部研修だから配置基準を満たさなくても大丈夫

と判断することはできません。


法定休暇時の人員配置見直しとも方向は共通している

第65回では別の論点として、児童指導員・保育士が法定休暇を取得した場合の人員配置についても、柔軟化する案が示されています。

研修受講と法定休暇は制度上別の論点ですが、背景にある課題は共通しています。

障害児支援の質を高めるには、

  • 職員が研修を受ける
  • 有給休暇等を適切に取得する
  • 人材を定着させる

ことが必要です。

一方で、人員基準が厳格すぎれば、

研修へ出せない
休暇を取らせにくい

という状況になりかねません。

今回の検討には、支援の質を確保しながら、人材育成や働き続けやすい環境も成立させるという課題があります。


現在の「法定研修」と同じものなのか

今回の基礎・実践研修は、虐待防止研修や身体拘束適正化研修など、現在事業所に求められている研修とは別の体系です。

既存の法定研修がなくなって、この研修へ一本化されると示されたわけではありません。

むしろ、

  • 虐待防止
  • 権利擁護
  • 支援技術
  • 本人支援
  • 家族支援
  • 地域連携

などを含む、障害児支援従事者としての基礎的専門性を体系的に学ぶ仕組み

と考えた方が適切です。

今後、既存の研修義務とどのように整理されるかは、具体的な運営基準や通知を確認する必要があります。


事業所の年間研修計画はどう変わる可能性があるか

制度化された場合、実務上大きな影響が出る可能性があるのが、年間研修計画です。

現在でも事業所では、

  • 虐待防止研修
  • 身体拘束適正化研修
  • 感染症対策
  • BCP関係研修
  • その他の事業所内研修

など、多くの研修を行っています。

そこへ新たな基礎・実践研修が入る場合、

単純に研修本数を増やすだけでは、職員負担が大きくなります。

そのため今後は、

  • 外部研修
  • 動画研修
  • 事業所内OJT
  • ケース検討
  • 既存の法定研修

をどう年間計画の中で整理するかが重要になる可能性があります。

まだ具体的な制度が決まっていないため、現段階で年間計画を変更する必要はありません。

ただし、制度化された場合には、「研修を追加する」のではなく、事業所全体の人材育成計画を再設計するという視点が必要になるでしょう。


受講記録だけでなく「OJTの記録」も重要になる可能性

今回の研修体系がOJTと一体的に実施される方向である以上、

制度化された場合には、

  • 研修をいつ受けたか
  • 何を学んだか
  • 上司・先輩とどのように振り返ったか
  • 実際の支援でどう生かしたか

といった記録の在り方も論点になる可能性があります。

ただし、現時点で、

この様式でOJT記録を残さなければならない

という具体的な書式は示されていません。

したがって、独自の記録様式を先に作る必要はありません。


事業所はいま何をすればいいのか

結論として、今回の検討案に合わせて新しい研修を独自に始める必要はありません。

まだ運営基準への位置付けや具体的なカリキュラム、受講期限等が確定していないからです。

一方で、現在の研修運用について、

  • 年間研修計画が整理されているか
  • 誰がどの研修を受講したか確認できるか
  • 新任職員への教育方法が決まっているか
  • 研修内容を日々の支援へつなげているか
  • OJTが特定の職員の経験だけに依存していないか
  • 研修参加時に支援体制をどう確保するか

を確認しておくことには意味があります。

これらは、令和9年度改定対策というより、現在の人材育成体制そのものを確認する作業です。


今回の見直しで重要なのは「研修回数」ではない

今回の資料を、

また研修が一つ増える

だけで捉えると、本質を見失います。

厚生労働省が目指しているのは、

障害児支援に必要な基本的な専門性を、全国共通の枠組みで身につけ、それを日々の支援実践へつなげること

です。

そのため、

研修
↓
振り返り
↓
OJT
↓
実際の支援
↓
再び振り返る

という循環を作ることが重要になります。

制度化された場合に事業所へ問われるのは、

「何回研修を実施したか」だけではなく、「職員をどう育てているか」

になっていく可能性があります。


まとめ|障害児支援の研修は「一部職員」から「事業所全体の人材育成」へ

第65回障害福祉報酬改定検討チームでは、障害児支援の新たな研修体系について、

  • 2027年度から基礎・実践研修を導入予定
  • 2028年度にリーダー研修を導入予定
  • 2029年度にコア人材研修を導入予定
  • 基礎・実践研修は対象事業の全常勤職員へ受講を求める案
  • 非常勤職員は勤務実態等を踏まえた別枠を検討
  • OJTと一体的に実施
  • 外部研修参加時の人員基準を柔軟に扱う案

が示されました。

ただし、これらはまだ検討段階です。

現時点で新しい研修義務が始まったわけではありません。

その一方で、今回の方向性は明確です。

障害児支援の専門性を、一部の管理者や児発管だけが持つのではなく、事業所全体で底上げする。

そして、研修を受けること自体ではなく、

学んだ内容を日々の支援へどうつなげるか

まで含めて人材育成を考える方向です。

今は制度を先取りして新しい研修を増やすのではなく、現在の研修計画、受講管理、OJT、支援体制が整理されているかを確認しながら、今後の具体的な基準を待つ段階です。

現在の研修計画と、日々の支援はつながっていますか?

今回示された新しい研修体系は、まだ令和9年度改定として決定したものではありません。
検討案を先取りして新しい研修を追加する必要はありません。

一方、年間研修計画、実施記録、OJT、個別支援計画や日々の支援がつながっているかは、現在の適正な事業運営でも重要です。
行政書士田中慶事務所では、既存の障がい福祉事業所を中心に、法定研修・委員会、記録・計画、運営状況の整理を継続的に支援しています。

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一次資料

今回の記事は、以下の厚生労働省の一次資料をもとに整理しています。

  • 厚生労働省「第65回障害福祉報酬改定検討チーム」
    2026年10月5日開催。議題は「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(障害児支援)」です。資料一覧から今回使用した原資料を確認できます。
    第65回障害福祉報酬改定検討チーム資料一覧
  • 厚生労働省・こども家庭庁「障害児支援に係る報酬・基準について」
    「論点1 障害児支援における研修体系の創設及び制度化について」に、基礎・実践研修の対象者、運営基準への位置付け、非常勤職員の取扱い、外部研修受講時の人員基準などの検討方向が示されています。
    障害児支援に係る報酬・基準について(PDF)
  • 厚生労働省「障害児支援における人材育成に関する検討会報告書」関連資料
    基礎・実践研修、リーダー研修、コア人材研修の階層、受講期間、研修時間、OJTとの組み合わせなど、新しい研修体系の詳細を確認できる資料です。
    障害児支援における人材育成に関する検討会報告書 概要(PDF)
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この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

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