結論――雇用率算定や助成金から外れると決まったわけではない
結論からお伝えします。
現時点で、就労継続支援A型の利用者を障害者雇用率の算定対象から外すことや、A型事業所を特定求職者雇用開発助成金の対象から外すことが決まったわけではありません。
2026年7月14日、厚生労働省の「第4回障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」が開催されました。
今回の議題は、「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方について」です。
その資料では、就労継続支援A型の制度的位置づけについて、障害者雇用率への算定、障害者雇用調整金・報奨金、特定求職者雇用開発助成金などを含む、複数の異なる意見が整理されています。
今回は、A型事業者の皆さまに向けて、どちらか一方の意見だけを取り上げることなく、その内容を整理します。
なお、今回示された資料は、制度改正の決定内容を公表したものではありません。
検討会におけるこれまでの議論や意見を整理した段階であり、今回の資料によって、A型の雇用率算定や助成金の取扱いが変更されたわけではありません。
厚労省資料に示されたA型の論点
資料では、就労継続支援A型について、主に次のような論点が示されています。
- 一般就労とA型との間で、利用者像や役割分担が不明瞭になっているのではないか
- 最低賃金の上昇や物価高騰などにより、A型事業所の経営環境が厳しくなっている
- 一般就労への移行を積極的に進めるほど、事業運営が難しくなる構造があるのではないか
- A型利用者を障害者雇用率の算定対象とする現在の取扱いを、今後も維持することが適切か
- A型事業所に対する障害者雇用調整金・報奨金や、特定求職者雇用開発助成金の取扱いをどう考えるか
特に、障害者雇用率の算定や助成金の取扱いについては、一方向の結論ではなく、異なる立場からの意見が示されています。
雇用率算定などの取扱いを見直すべきという意見
資料では、A型利用者の障害者雇用率への算定などについて、見直しを求める趣旨の意見が示されています。
A型利用者を雇用率算定から外すことも検討すべきではないか
就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を結ぶ一方で、障害福祉サービスとして福祉報酬も受ける制度です。
この制度的な特徴を踏まえ、一般企業における障害者雇用と同様に雇用率へ算定する現在の取扱いを見直し、算定対象から外すことも検討すべきではないかという意見が示されています。
障害者雇用調整金・報奨金の取扱いを見直すべきではないか
障害者雇用調整金・報奨金についても、福祉報酬を受けるA型事業所に支給する現在の仕組みが適切か、検討すべきではないかという意見があります。
特定求職者雇用開発助成金は制度趣旨に合っているのか
特定求職者雇用開発助成金については、就職が特に困難な人を継続して雇用する事業主を支援するという制度趣旨と、福祉サービスの利用者を雇用するA型事業所への支給との関係を、改めて整理すべきではないかという意見が示されています。
ただし、これらは、見直しを求める立場からの意見です。
厚生労働省が、A型を雇用率や助成金の対象から外す方針を決定したという意味ではありません。
現在の取扱いを維持すべき、または慎重に検討すべきという意見
一方で、現在の取扱いを維持すべき、または見直しには慎重であるべきという趣旨の意見も示されています。
雇用契約を結んでいる以上、雇用率算定から外すべきではない
A型利用者は、事業所と雇用契約を締結し、労働関係法令の適用を受ける労働者です。
そのため、雇用契約を結んで働いている以上、障害者雇用率の算定対象から外すことは適切ではないという意見があります。
雇用率算定から外した場合の影響も考慮する必要がある
A型利用者を雇用率の算定対象から外せば、A型事業所の経営だけでなく、そこで働く利用者の雇用機会にも影響が及ぶ可能性があります。
制度を見直す場合には、A型事業所の経営や、利用者の働く場が失われる可能性も含めて、十分に検討すべきという趣旨の意見が示されています。
雇用保険料を負担しているA型だけを助成金から除外できるのか
特定求職者雇用開発助成金は、雇用保険二事業を財源とする助成制度です。
A型事業所も雇用保険料を負担していることから、雇用保険制度に加入し、保険料を負担しながら、A型事業所だけを助成金の対象から除外することは難しいのではないかという意見も示されています。
このように、今回の資料には、現在の取扱いを見直すべきという意見と、維持すべき、または慎重に検討すべきという意見の双方が掲載されています。
一般就労への移行を進めるほど経営が難しくなる構造
今回の資料では、A型の雇用率や助成金だけでなく、一般就労への移行と事業経営の関係についても意見が示されています。
A型には、利用者に雇用の場を提供する役割がある一方で、本人の希望や状態に応じて、一般企業などへの就職を支援する役割もあります。
しかし、生産活動の中心を担える利用者が一般就労へ移行すると、事業所では、
- 生産活動を支える人材が減る
- 新たな利用者を受け入れ、作業を習得してもらう必要がある
- 一般就労への移行支援に職員の時間が必要となる
- 利用者の入れ替わりによって、生産活動が安定しにくくなる
といった経営上の課題が生じる可能性があります。
そのため、一般就労への移行という制度上期待される役割を誠実に果たすほど、事業運営が難しくなるのであれば、制度設計そのものを見直す必要があるのではないか、という問題意識が示されています。
ただし、これも具体的な報酬改定や制度変更が決まったという意味ではありません。
ここからは行政書士としての実務的な考察
ここまでが、厚労省資料に示された意見の整理です。
ここからは、当事務所が資料を読んだうえでの、行政書士としての実務的な考察です。
現時点で、A型事業所が、今回の資料を理由に雇用率算定や助成金の申請方法を変更する必要はありません。
今回の検討会資料によって、現行制度が変更されたわけではないためです。
一方で、A型の制度的位置づけについて、次のような根本的な論点が公の検討会で取り上げられていることは、今後の経営を考えるうえで無視できません。
- A型が障害福祉サービスとして果たす役割
- 一般就労との違い
- A型の利用が適している対象者像
- 福祉報酬と雇用関係助成金との関係
- 一般就労への移行を適切に評価する報酬設計
- 最低賃金の上昇に対応できる事業運営
- 生産活動収支と福祉サービスとしての支援との両立
今すぐ将来の制度変更を予測して行動する必要はありません。
現段階で重要なのは、「助成金がなくなるらしい」といった不確かな情報に反応することではなく、厚労省の正式な検討状況を継続して確認することです。
A型事業所が今のうちに確認しておきたいこと
制度変更が決まっていない以上、今回の資料だけを理由に、事業計画や人員配置を急に変えることは適切ではありません。
ただし、制度の将来像にかかわらず、次の点は確認しておく価値があります。
1.A型を利用する必要性を説明できるか
アセスメントや個別支援計画を通じて、
- 本人がどのような働き方を希望しているか
- 一般就労ではなく、現時点でA型利用が適している理由は何か
- A型でどのような支援を受ける必要があるか
- 将来的な一般就労への希望や可能性をどう捉えているか
を説明できる状態にしておくことが重要です。
すべての利用者を一般就労へ移行させるという意味ではありません。
本人の希望と状態像を踏まえ、なぜ現在のA型利用が適しているのかを整理するということです。
2.生産活動と支援内容を区別して説明できるか
A型事業所では、利用者が労働者として行う生産活動と、障害福祉サービスとして事業所が提供する支援の双方があります。
日々の記録や個別支援計画が、単なる作業管理や勤怠管理だけになっていないでしょうか。
- 障害特性に応じてどのような配慮を行ったか
- 職業生活上の課題に対してどのような支援を行ったか
- 本人の能力や働き方にどのような変化があったか
- 一般就労を希望する人にどのような支援を行ったか
を、支援として説明できることが必要です。
3.助成金に依存しすぎた収支構造になっていないか
今回の資料だけを理由に、特定求職者雇用開発助成金がなくなると想定する必要はありません。
ただし、制度の将来とは別に、特定の助成金が終了した後も事業を継続できるか、収支構造を把握しておくことは経営上重要です。
助成金は、それぞれ支給期間、支給要件、対象労働者などが定められています。
恒久的な収入として扱うのではなく、支給終了後も含めた資金計画を確認しておく必要があります。
なお、助成金の個別の受給可否や申請については、社会保険労務士や管轄の労働局・ハローワークへの確認が必要です。
4.一般就労への移行支援を記録できているか
本人が一般就労を希望している場合には、
- 本人の希望を確認した経緯
- 一般就労に向けて設定した目標
- 職業能力や課題の把握
- 求職活動や職場見学などの支援
- 関係機関との連携
- 本人の希望が変化した場合の経緯
を記録しておくことが重要です。
一般就労への移行人数だけでなく、本人の希望に沿ってどのような支援を行ったかを説明できる状態にしておく必要があります。
今回の資料から断定してはいけないこと
今回の検討会資料から、次のように断定することはできません。
- A型利用者が障害者雇用率の算定対象から外れる
- A型事業所への障害者雇用調整金・報奨金が廃止される
- A型事業所が特定求職者雇用開発助成金を受給できなくなる
- A型制度そのものが廃止される
- A型利用者は全員、一般就労へ移行しなければならなくなる
- 次回の制度改正で、今回の意見がそのまま採用される
いずれも、現時点では決まっていません。
また、「A型が助成金対象から外れる」という表現には注意が必要です。
「助成金」という言葉には多くの制度が含まれますが、今回の資料で具体的に取り上げられているのは、主に特定求職者雇用開発助成金です。
正確に発信するなら、次のような表現が適切です。
厚労省の検討会資料では、A型利用者の障害者雇用率への算定や、A型事業所に対する障害者雇用調整金・報奨金、特定求職者雇用開発助成金の取扱いについて、見直しを求める意見と、現在の取扱いを維持すべき、または慎重に検討すべきという意見が示されました。いずれも今後の検討に向けた意見であり、制度変更が決定したものではありません。
一部の意見だけを取り出して、「廃止が決まった」「対象外になる方向だ」と発信すれば、事実と異なる印象を与える可能性があります。
まとめ
今回の厚労省検討会資料のポイントは、次のとおりです。
- A型利用者の障害者雇用率への算定を見直すべきという意見が示された
- 一方で、雇用契約を結んで働く以上、算定対象から外すべきではないという意見も示された
- 障害者雇用調整金・報奨金や特定求職者雇用開発助成金の取扱いについても、見直しを求める意見と慎重な意見がある
- 一般就労への移行を進めるほど事業運営が難しくなる構造も、検討すべき課題として挙げられている
- いずれも検討会における意見であり、制度変更が決定したわけではない
- 今回の資料によって、現在の雇用率算定や助成金の取扱いが変更されたものではない
A型事業所が現時点で行うべきことは、不確かな情報を前提に経営判断をすることではありません。
厚労省の正式な検討状況を確認しながら、現在の制度に沿った適正な運営を継続することが基本です。
そのうえで、
「なぜ、この利用者には現在A型の利用が適しているのか」
「生産活動だけでなく、福祉サービスとしてどのような支援を提供しているのか」
「本人が一般就労を希望した場合、その希望に沿った支援ができているか」
を、アセスメント、個別支援計画、モニタリング、日々の支援記録を通じて説明できる状態にしておくことには、制度動向にかかわらず実務上の価値があります。
当事務所では、就労系障害福祉サービス事業所を対象に、個別支援計画と日々の支援記録の整合性を確認するレビューを行っています。
過去の記録を実施済みであるかのように作り直すのではなく、現在の書類と運用を確認し、本人の希望、支援目標、実際の支援内容が一貫する形へ整える方法を、事業所の皆さまと一緒に整理します。
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