就労系障害福祉サービスの指定・監査強化と在宅支援|事業者は何を準備すべきか

目次

この記事でお伝えすること

2026年7月17日、厚生労働省の「第59回障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」が開催され、就労系障害福祉サービスについて、特定非営利活動法人全国就業支援ネットワークから意見・提案が示されました。

最初に、重要な前提を確認しておきます。

今回公表された内容は、令和9年度障害福祉サービス等報酬改定として決定されたものではありません。

関係団体へのヒアリングで示された、団体側からの意見・提案です。「指定や監査の強化が決まった」「在宅支援が制限されることになった」と受け取らないよう、決定事項と提案段階の内容を区別する必要があります。

一方で、今回の提案には、就労継続支援A型・B型などを運営する事業者にとって、実務との関連性が高い論点が含まれています。

特に、在宅支援について

  • 「なぜ在宅で支援するのか」
  • 「何を目標とするのか」
  • 「支援の効果をどのように評価するのか」

を記録で説明できる体制は、制度改正の有無にかかわらず、今から見直しておきたいテーマです。

提案の背景|事業所の増加と不適切運営への懸念

全国就業支援ネットワークは、障害福祉サービスの事業所数が全国的に増加する一方で、不適切な運営や不正請求への対応が課題になっているという問題意識を示しています。

同団体の資料によると、就労継続支援B型事業所は、平成29年度の10,315事業所から、令和6年度には17,973事業所へ増加しています。

こうしたサービス量の拡大に対して、支援の質を担保する仕組みや監査体制が十分に追いついていないのではないかという観点から、指定基準や監査体制の見直しが提案されました。

また、就労系サービス全体についても、次のような課題が挙げられています。

  • 就労継続支援B型事業所の増加
  • 就労継続支援A型事業所の廃止やB型への転換
  • 就労定着支援終了後の引継ぎ
  • 就労選択支援と相談支援との連携
  • 就労系サービスから一般就労への移行に関する地域差
  • 障害者就業・生活支援センターなどへの支援負担の集中

今回示された主な提案

今回の資料のうち、就労系事業者の運営と特に関係が深い内容は、次の6点に整理できます。

1.指定時の審査強化

事業所の指定を行う段階で、事業認可の要件を明確にし、支援実績、専門人材の配置、運営体制などを、より厳格に確認する仕組みを検討すべきとしています。

ただし、現時点で具体的な指定要件が追加されたわけではありません。

2.定期監査・実地指導の強化

事業開始後も定期的な実地指導や監査を行い、運営上の課題を早期に把握できる体制を整備することが提案されています。

これも、直ちに実地指導や監査の頻度が変更されるという意味ではありません。

3.データを活用した監査の高度化

報酬請求データや苦情件数などを活用し、リスクが高いと考えられる事業所を重点的に確認する「リスクベース監査」の導入が提案されています。

一律にすべての事業所を同じ方法で確認するのではなく、請求や運営に関するデータからリスクを把握し、不適切な運営の早期発見につなげる考え方です。

4.不適切事例・行政処分事例の全国共有

不適切な運営事例や行政処分事例を国が集約し、全国で共有する仕組みを設けることが提案されています。

その目的として、自治体間の運用差を縮小し、同様の事例の再発を防ぐことが挙げられています。

5.在宅利用に関する厳格な基準の設定

全国就業支援ネットワークは、在宅支援について、適切な評価や目的設定がないまま拡大している現状があるとして、在宅利用に関する厳格な基準を設けることを提案しています。

ここで注意したいのは、在宅支援の廃止や禁止が提案されているわけではないという点です。

資料では、在宅支援は本来補完的に用いられるべきとの考え方が示され、そのうえで、目的設定や評価のあり方を含めた基準の明確化が求められています。

6.就労系サービス全体の役割整理

就労選択支援、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、就労定着支援を、個々に独立したサービスとして見るだけではなく、利用者が地域で働き続けるための一連の支援プロセスとして捉える制度設計が提案されています。

具体的には、就労選択支援を入口として各サービスの役割を整理することや、一般就労を希望する利用者について、就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなどとの連携を強化することが挙げられています。

事業者にとって、今、何を意味するのか

繰り返しになりますが、現時点で指定基準や監査方法、在宅支援の要件が変更されたわけではありません。

そのため、今回の団体提案だけを根拠として、現在の運営方法を直ちに変更しなければならないわけではありません。

一方で、提案全体からは、単に必要書類が存在するかどうかだけでなく、実際の支援内容、支援を選択した理由、その後の評価や見直しを説明できることを重視する方向性が読み取れます。

ここから先は、今回の資料に記載された決定事項ではなく、資料の内容を踏まえた当事務所の実務上の整理です。

今後の制度検討や、現在の運営指導に備えるという観点では、次の点を確認しておくことが考えられます。

  • 在宅支援の対象者を、どのような理由で選定しているか
  • 在宅支援の目的や支援目標が、個別支援計画に位置付けられているか
  • 在宅支援による効果を定期的に評価しているか
  • 評価結果に応じて、支援内容や通所・在宅の形態を見直しているか
  • B型などの利用を継続する理由と、本人の希望を定期的に確認しているか
  • 一般就労を希望する利用者について、移行可能性や必要な支援を検討しているか
  • 就労選択支援、就労移行支援、障害者就業・生活支援センターなどとの連携経過を記録しているか
  • 報酬請求の内容と、実際の支援記録との間に矛盾がないか

特に重要な論点|在宅支援は記録で説明できるか

在宅支援は、現行の通知や自治体の取扱いに沿い、必要な要件を満たしたうえで適切に実施する必要があります。

そのうえで、今後さらに重要になると考えられるのが、在宅支援の必要性と支援効果を、個々の利用者ごとに説明できる記録です。

例えば、次のような内容が整理されているでしょうか。

対象者を選定した理由

なぜ、その利用者について通所だけではなく、在宅支援という形を選択したのか。

本人の障害特性、体調、生活状況、通所の困難さ、就労に向けた課題など、個別の事情に基づく理由を整理しておく必要があります。

在宅支援の目的

在宅で作業を行うこと自体が目的になっていないでしょうか。

在宅支援を通じて、作業習慣を身に付ける、体調に応じた働き方を確立する、通所に向けた段階的な準備を行うなど、本人ごとの目標を明確にすることが重要です。

支援内容と実施状況

事業所から、いつ、どのような方法で連絡や支援を行ったのか。

利用者がどのような作業を行い、職員がどのように状況を確認したのかを、具体的に記録する必要があります。

支援による効果の評価

在宅支援によって、本人の作業状況、生活リズム、体調、意欲、通所状況などに、どのような変化があったのか。

「問題なく実施した」「変化なし」といった記載だけではなく、目標に照らした評価を残しておくことが大切です。

支援内容の見直し

評価を行った結果、在宅支援を継続するのか、通所日数を増やすのか、作業内容や連絡方法を変更するのか。

評価結果が、その後の個別支援計画や日々の支援に反映されていることも重要です。

在宅支援では、単に「在宅で支援を実施した」という事実だけでなく、なぜ在宅なのか、何を目標としたのか、どのような効果があり、どのように見直したのかを、一連の記録として説明できることが求められます。

今のうちに確認しておきたい5つのこと

制度改正の結論を待つ必要はありません。

現在の運営を点検するという意味で、次の5点を確認しておくことが考えられます。

1.在宅支援の記録と個別支援計画を照合する

在宅支援の選定理由、目標、具体的な支援内容、評価が、個別支援計画と日々の支援記録の双方に反映されているか確認します。

計画には書かれているものの、日々の記録から実施状況が分からない状態や、記録には在宅支援と書かれているものの、計画上の位置付けが不明確な状態は避ける必要があります。

2.本人の希望とサービス利用の目的を確認する

A型・B型などを利用する理由や、本人が今後どのような働き方を希望しているのかを定期的に確認します。

一般就労を希望していない利用者に、形式的に一般就労を求めるという意味ではありません。

本人の希望や状況を確認し、その人にとって現在のサービス利用がどのような意味を持つのかを、支援記録やモニタリングに残すことが重要です。

3.関係機関との連携経過を残す

就労選択支援事業所、就労移行支援事業所、相談支援事業所、障害者就業・生活支援センターなどと連携した場合は、連絡日時、相手方、相談・共有した内容、その後の対応を記録します。

「連携している」という状態だけでなく、どのような目的で何を共有し、支援にどう反映したのかを確認できる形にしておきましょう。

4.現在の人員・運営体制を点検する

指定申請時から、利用者像、作業内容、職員構成、支援方法などが大きく変化している事業所もあります。

現在の利用者数や支援内容に対して、必要な人員配置や専門性、運営体制が確保されているかを、改めて確認しておくことが重要です。

5.報酬請求と支援記録の整合性を確認する

加算や報酬を請求している場合は、その算定要件を満たす支援や体制が、記録から確認できるかを点検します。

請求データを活用した監査が将来導入されるかどうかにかかわらず、請求内容と支援記録の定期的な照合は、現在の運営指導対策としても有効です。

まとめ

2026年7月17日の第59回障害福祉サービス等報酬改定検討チームでは、全国就業支援ネットワークから、就労系障害福祉サービスに関する意見・提案が示されました。

主な内容は、次のとおりです。

  • 指定時の審査強化
  • 定期監査・実地指導の強化
  • 報酬請求データや苦情件数を活用した監査
  • 不適切事例・行政処分事例の全国共有
  • 在宅利用に関する厳格な基準の設定
  • 就労系サービス全体の役割と連携の再整理

ただし、これらは令和9年度報酬改定の決定事項ではなく、関係団体からの提案段階です。

現時点で、指定基準、監査方法、在宅支援の要件が変更されたわけではありません。

それでも、日々の運営において、なぜその支援を選び、どのような支援を行い、どのような効果があり、いつ、どのように見直したのかを説明できる記録を整えておくことは重要です。

制度改正への対応というより、現在の支援と記録の質を確認する機会として、自事業所の運営を一度見直してみてはいかがでしょうか。

こんなときは、行政書士田中慶事務所にご相談ください

  • 在宅支援の記録方法に不安がある
  • 個別支援計画と日々の支援記録が合っているか確認したい
  • 就労継続支援B型の運営指導対策を見直したい
  • 関係機関との連携記録をどのように残せばよいか分からない
  • 報酬請求と支援記録の整合性を点検したい

行政書士田中慶事務所では、障がい福祉サービスの利用経験を持つ「ピア行政書士」として、書類の形式だけではなく、実際の支援内容や現場の運用を確認しながら、記録や運営体制の整理をお手伝いしています。

制度の情報をお伝えするだけで終わらせず、個別支援計画、日々の支援記録、モニタリング、運営書類の関係を一緒に整理します。

まずは、公式サイトのお問い合わせフォームからご相談ください。

※本記事は、2026年7月17日に公表された関係団体のヒアリング資料をもとに作成しています。今後の検討状況により、制度の内容や取扱いが変更される可能性があります。

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