障害福祉事業所では、利用者への支援内容を日々記録します。
ところが、現場では次のような悩みが起こりがちです。
- 毎日ほとんど同じ内容になる
- どこまで詳しく書けばよいか分からない
- 作業内容と体調だけを記録している
- 職員によって文章量や書き方が違う
- 個別支援計画との関係を意識していない
- 後から読み返しても支援の経過が分からない
支援記録は、難しい法律用語を並べる書類ではありません。
一方で、単なる職員の日報でもありません。
大切なのは、利用者に対して何を確認し、どのような支援を行い、その結果どうだったのかを、後から説明できる状態にすることです。
支援記録の一行すべてに「法律が隠れている」わけではない
障害福祉サービス事業者には、サービスの提供内容を記録し、個別支援計画に基づいて適切な支援を行うことが求められています。個別支援計画の作成に関する一連の業務が適切に行われていない場合には、個別支援計画未作成減算の対象となり得ます。
つまり、重要なのは一行の文章そのものではなく、
- 個別支援計画が適切に作成されている
- 計画に基づいた支援が行われている
- 実施した支援が記録されている
- 記録がモニタリングや計画の見直しに使われている
という流れです。
「サービス提供記録」と「日々の支援記録」は役割が違う
事業所内で「支援記録」と呼ばれている書類には、複数の役割が混在していることがあります。
サービスを提供した事実を確認する記録
サービスの提供日、提供した内容など、実際にサービスを提供した事実を確認するための記録です。
請求内容と実際の利用状況が一致しているかを説明する基礎資料にもなります。
利用者の状況と支援経過を残す記録
利用者の様子、職員が行った支援、本人の反応、目標に向けた変化などを残します。
こちらは、個別支援計画の評価やモニタリング、職員間の情報共有に使われます。
事業所の様式によっては、一つの記録用紙が両方の役割を兼ねていることもあります。
その場合でも、
利用したことを証明する欄
支援内容や経過を残す欄
を意識して書き分けることが大切です。
支援記録は個別支援計画から始まる
日々の支援記録だけを改善しようとしても、その前提となる個別支援計画が曖昧であれば、記録内容も曖昧になります。
たとえば、個別支援計画の短期目標が、
作業能力を向上させる
だけでは、何をもって向上したと判断するのか分かりません。
一方で、
職員の声かけを受けながら、袋詰め作業を30分継続する
と具体化されていれば、記録には次のような事実を残せます。
袋詰め作業を開始。開始15分後に手が止まったため、職員が手順を再確認した。その後は作業を再開し、合計30分取り組んだ。
この記録からは、
- どの活動に取り組んだか
- どこで困ったか
- 職員が何をしたか
- 支援後にどうなったか
が分かります。
支援記録に残したい基本要素
すべての項目を毎回長文で書く必要はありません。
その日の支援に応じて、次の要素を組み合わせます。
利用者の状況
- 体調
- 表情や様子
- 本人の発言
- 作業や活動への取り組み
- 他者との関わり
- 前回からの変化
「機嫌が悪かった」などの評価だけでなく、判断の根拠となった事実を残します。
職員が行った支援
- 声かけ
- 手順の説明
- 選択肢の提示
- 環境調整
- 休憩の提案
- 見守り
- 関係機関との連絡
- 本人との面談
「支援した」だけでは、具体的に何をしたかが分かりません。
本人の反応や結果
- 支援後に作業を再開した
- 本人が休憩を選択した
- 不安を言葉で伝えられた
- 説明後も拒否の意思を示した
- 前回より少ない声かけで行えた
職員が何をしたかだけでなく、それに対して本人がどう反応したかを記録します。
次回へ引き継ぐ事項
- 次回も同じ手順で支援する
- 本人の希望を改めて確認する
- サビ管へ共有する
- 個別支援計画の見直しを検討する
- 家族や相談支援専門員との連携を検討する
変化や課題があった日は、その後の対応につながる記載を残します。
避けたい支援記録の書き方
「問題なし」だけで終わる
本日も問題なく作業した。
この文章だけでは、何を行い、どのような状態だったのか分かりません。
毎日大きな出来事が起こるわけではありませんが、少なくとも取り組んだ内容や本人の様子を簡潔に残します。
職員の評価だけを書く
やる気がなかった。
わがままな発言があった。
指示に従わなかった。
これらは、職員側の評価や解釈が中心です。
たとえば、
作業開始を促したところ、本人から「今日は頭痛があり、今は難しい」と発言があった。休憩を提案し、15分後に本人の希望を再確認した。
とすれば、起きた事実と対応が分かります。
本人の尊厳を損なう表現を使う
支援記録は職員間だけで見る内部メモとは限りません。
本人への説明、家族との共有、行政による確認などに使われる可能性があります。
本人が読んでも不必要に傷つかない表現になっているかという視点も必要です。
個別支援計画と関係のない記録が続く
毎日の記録が、
午前は軽作業。昼食後に休憩。午後も軽作業。
だけで続いている場合、個別支援計画の目標に対する支援経過を確認できません。
毎日すべての目標について書く必要はありませんが、その日に関連する目標や支援内容があれば、記録へ反映します。
後からまとめて作成する
時間がたつほど、本人の発言や職員の対応を正確に思い出すことは難しくなります。
サービスの提供内容については、後日まとめてではなく、提供の都度記録するという考え方が解釈通知にも示されています。
毎日同じ活動でも、同じ記録になるとは限らない
B型事業所などでは、利用者が同じ作業を継続することがあります。
同じ作業をしたからといって、文章を無理に変える必要はありません。
ただし、観察する点は毎日完全に同じとは限りません。
- 必要だった声かけの回数
- 作業を継続できた時間
- 手順の理解
- 疲労の現れ方
- 本人からの申し出
- 周囲との関わり
- 前日との変化
など、その日の事実を簡潔に残します。
記録の目的は、毎日違う文章を書くことではありません。
同じ支援を続ける中で、本人の状態や支援結果がどう変化しているかを確認できることです。
記録量は多ければよいわけではない
支援記録が短いこと自体が、直ちに問題になるわけではありません。
必要な内容が明確に残っていれば、簡潔な記録でも役割を果たします。
反対に、長文であっても、
- 事実と感想が混ざっている
- 職員の行動しか書かれていない
- 個別支援計画との関係が分からない
- 本人の反応がない
- 次の支援につながらない
のであれば、実務上使いにくい記録です。
一つの目安として、
状況 → 支援 → 反応・結果
が読み取れるかを確認します。
記録はモニタリングで使えて初めて意味を持つ
支援記録を毎日作成していても、モニタリング時に読み返していなければ、記録が蓄積されるだけになってしまいます。
モニタリングでは、一定期間の記録を確認し、
- 目標に向けて変化があったか
- 有効だった支援方法は何か
- 本人の希望に変化はないか
- 同じ課題が繰り返されていないか
- 目標の難易度は適切だったか
- 計画を変更する必要があるか
を整理します。
支援記録に具体的な事実が残っていなければ、モニタリングが担当者の印象だけで行われる可能性があります。
個別支援計画の作成や見直しに関する一連の業務は、基準に基づいて確実に行う必要があります。
記録の様式より、事業所内の運用が重要
支援記録の様式を変更しただけでは、記録の質が安定しないことがあります。
次のような運用も一緒に整える必要があります。
- 誰が記録するのか
- いつまでに入力するのか
- 誰が内容を確認するのか
- 重要事項をサビ管へどう共有するのか
- 記録の修正方法をどうするのか
- 個別支援計画の目標を職員が確認できるか
- モニタリング時にどの記録を使うのか
記録が続かない原因は、職員の文章力ではなく、記録する時間や確認方法、役割分担にある場合もあります。
大阪市も、障害福祉サービス事業者向けに、運営指導や日中活動系サービスの注意事項、各種様式を公表しています。事業所では、国の基準だけでなく、指定権者の最新案内も確認する必要があります。
行政書士田中慶事務所が支援できること
行政書士田中慶事務所では、大阪市の障害福祉事業所を対象に、個別支援計画と支援記録の整合性を確認しています。
主な確認内容は次のとおりです。
- 個別支援計画の目標が具体的か
- 計画に沿った支援が記録されているか
- 状況、支援、本人の反応が読み取れるか
- 職員の主観だけに偏っていないか
- モニタリングの根拠となる記録があるか
- 計画、支援記録、会議録の内容がつながっているか
- 事業所内で継続できる記録方法になっているか
過去に行っていない支援を、実施したように記録し直すことはできません。
一方で、現在の記録を確認し、今後どのように改善すればよいかを整理することはできます。
まとめ|支援記録は、本人への支援を次につなぐためのもの
支援記録は、運営指導のためだけに作る書類ではありません。
また、法律用語を並べたり、毎日長い文章を書いたりするものでもありません。
大切なのは、
- 本人がどのような状態だったか
- 職員がどのような支援を行ったか
- 本人がどう反応したか
- 個別支援計画の目標とどう関係するか
- 次の支援へ何を引き継ぐか
が分かることです。
支援記録、個別支援計画、モニタリングが一本の線でつながれば、日々の記録は単なる作業ではなく、支援の方向を確認するための材料になります。
まずは、最近の記録を数日分読み返し、
この記録から、本人への支援の経過を第三者が理解できるか
という視点で確認することが、見直しの第一歩です。
