就労継続支援A型事業所の経営について、
- 利用者はいるのに資金繰りが苦しい
- 売上はあるのに生産活動収支が改善しない
- スコアが下がり、基本報酬に影響している
- 賃金を上げたいが、生産活動の収益が追いつかない
- 報酬改定後、以前より経営が難しくなった
と感じている事業所もあるのではないでしょうか。
A型事業所は、障害福祉サービス事業所であると同時に、利用者と雇用契約を締結して就労の機会を提供する事業所です。
そのため、福祉サービスとして適切な支援を行うだけでなく、雇用の維持、生産活動の収益確保、利用者への賃金支払い、人員配置、基本報酬の管理を同時に行わなければなりません。
厚生労働省令では、A型事業者に対して、生産活動に係る事業収入から必要経費を控除した額が、利用者に支払う賃金総額以上となるよう求めています。A型経営の難しさは、福祉サービス費だけで事業全体の赤字・黒字を見るのではなく、生産活動収支と利用者賃金の関係も別に管理しなければならないことにあります。
この記事では、A型事業所の経営が厳しくなりやすい理由と、赤字や基本報酬の低下を防ぐために見直したい5つのポイントを整理します。
A型事業所の経営が厳しくなりやすい理由
A型事業所の経営は、単純に「障害福祉サービス費がいくら入るか」だけでは判断できません。
大きく分けると、次の2つの活動を同時に成立させる必要があります。
福祉サービスとしての運営
- 利用者への支援
- 個別支援計画の作成
- 支援記録の整備
- 職員の配置
- 法定研修・委員会・訓練
- 加算・基本報酬の要件管理
- 指定基準への対応
雇用・生産活動としての運営
- 利用者との雇用契約
- 最低賃金以上の賃金支払い
- 仕事の受注
- 商品やサービスの販売
- 原材料費や外注費の管理
- 生産性の向上
- 生産活動収支の確保
福祉サービス部門の収支が黒字であっても、生産活動収支が利用者賃金総額を下回っていれば、A型の運営基準上の課題が残ります。
反対に、生産活動に一定の売上があっても、利用率が低い、基本報酬のスコアが低い、職員配置が過剰であるといった状態では、事業全体の収支が厳しくなることがあります。
A型事業所の経営を見るときは、少なくとも、
福祉サービス部門の収支
生産活動部門の収支
利用者賃金
基本報酬
利用状況
人員配置
を分けて確認する必要があります。
令和6年度改定で生産活動の評価が厳格化
A型の基本報酬は、利用定員や人員配置区分だけでなく、事業所ごとの評価点によって決まります。
令和6年度報酬改定では、A型事業所の質の確保・向上を図るため、生産活動収支が利用者賃金総額を上回った場合を高く評価し、下回った場合は評価を厳しくする見直しが行われました。
生産活動の評価は、前年度、前々年度、前々々年度の実績に応じて、次のように配点されます。
| 生産活動収支と賃金総額の関係 | 点数 |
|---|---|
| 3年度すべてで生産活動収支が賃金総額以上 | 60点 |
| 前年度・前々年度で賃金総額以上 | 50点 |
| 前年度のみ賃金総額以上 | 40点 |
| 前々年度のみ賃金総額以上 | 20点 |
| 前年度・前々年度とも賃金総額未満 | マイナス10点 |
| 3年度すべてで賃金総額未満 | マイナス20点 |
生産活動収支が利用者賃金総額を下回る状態が続くと、単に生産活動部門が赤字になるだけではなく、スコアが下がり、基本報酬にも影響する可能性があります。
これが、A型事業所の経営が一度悪化すると立て直しに時間がかかりやすい理由の一つです。
「事業所全体が黒字」でも安心できない
A型事業所では、
事業所全体の収支が黒字だから問題ない
とは限りません。
運営基準上、確認されるのは、生産活動に係る事業の収入から、その活動に必要な経費を控除した額と、利用者賃金総額との関係です。
たとえば、障害福祉サービス費を含めた事業所全体では利益が出ていても、
- 生産活動の売上が低い
- 原材料費や外注費が高い
- 採算の取れない仕事を続けている
- 利用者賃金に対して生産活動の利益が足りない
という場合、生産活動収支の基準を満たせない可能性があります。
まずは、事業所全体の損益計算とは別に、生産活動について、
- 売上
- 材料費
- 外注費
- 運送費
- 販売手数料
- その他の生産活動経費
- 利用者賃金総額
を整理する必要があります。
A型事業所が見直すべき5つのポイント
1.生産活動収支と利用者賃金を月次で確認する
最初に確認したいのが、生産活動収支です。
年度末になってから、
今年度も生産活動収支が賃金総額を下回っていた
と気づいても、短期間での改善は難しくなります。
月ごとに、
生産活動売上-生産活動に必要な経費
を計算し、利用者賃金総額と比較しましょう。
月次で確認したい項目
- 生産活動の売上
- 案件別または商品別の売上
- 原材料費
- 外注費
- 販売手数料
- 配送費
- 廃棄や作り直しによる損失
- 利用者賃金総額
- 生産活動収支と賃金総額との差額
赤字額だけを見るのではなく、何が赤字の原因になっているかを確認することが重要です。
たとえば、
- 受注単価が低すぎる
- 作業時間に対して売上が少ない
- 材料費の上昇を販売価格へ反映できていない
- 利用者が作業できない時間が多い
- 納品後の修正や返品が多い
- 特定の取引先に依存している
といった問題が考えられます。
「仕事があること」と「利益が出ていること」は同じではありません。
長年続けている仕事であっても、案件ごとの売上、原価、作業時間を整理し、継続する価値があるかを見直す必要があります。
2.スコア全体と基本報酬への影響を確認する
A型の基本報酬は、事業所の評価点によって区分が変わります。
評価項目には、主に次の内容があります。
- 労働時間
- 生産活動
- 多様な働き方
- 支援力向上
- 地域連携活動
- 経営改善計画
- 利用者の知識・能力の向上
生産活動の点数だけを確認するのではなく、すべての評価項目を試算し、現在どの基本報酬区分に該当するのかを確認する必要があります。
特に、経営改善計画については、指定権者から提出を求められたにもかかわらず、指定期限までに提出していない場合、マイナス50点となります。
これは「経営改善計画を提出すれば加点される」という仕組みではありません。
提出を求められていない事業所や、期限までに適切に提出した事業所は0点であり、未提出の場合に大きく減点される項目です。
また、地域連携活動と利用者の知識・能力向上については、活動や支援を実施するだけでなく、報告書を作成し、インターネットなどで公表することが評価要件に含まれています。
スコア確認時の注意点
- 点数だけでなく算定根拠を確認する
- 前年度実績を正しい期間で集計する
- 公表が必要な項目は公表日と掲載場所を残す
- 評価点とスコア公表様式を一致させる
- 基本報酬区分の届出内容と一致させる
- 根拠資料を項目別に整理する
スコアは、年度末に点数だけを作るものではありません。
日々の勤務実績、支援内容、地域連携、公表資料などを年間を通して積み上げた結果です。
厚生労働省は、スコアの評価方法に関する留意事項と公表様式を公開しています。自事業所の判断だけで点数を付けるのではなく、最新の告示・通知・様式を確認しましょう。
3.利用率と人員配置を月次で確認する
生産活動収支に問題がなくても、利用率が低ければ、障害福祉サービス費の収入は安定しません。
A型事業所では、定員を満たしているかだけではなく、実際に何人が利用し、何日サービスを提供したかが重要です。
確認したいのは、次の数字です。
- 契約者数
- 1日平均利用者数
- 月間延べ利用者数
- 利用率
- 欠席日数
- 退所者数
- 新規利用者数
- 見学者数
- 体験利用者数
- 利用開始までの期間
契約者数が定員に近くても、欠席が多ければ、月間延べ利用者数は伸びません。
反対に、利用者を増やすことだけを優先すると、支援体制や職員配置が追いつかず、記録の不備や支援の質の低下につながるおそれがあります。
職員配置も併せて確認する
職員数についても、
- 基準を満たしているか
- 基本報酬区分に必要な配置となっているか
- 常勤換算に誤りがないか
- 欠勤や退職により配置不足が生じていないか
- 管理者やサービス管理責任者の兼務が過大になっていないか
- 利用者数に対して配置が過剰になっていないか
を確認しましょう。
職員を減らせば経営が改善するとは限りません。
人員配置を必要以上に削ると、支援記録、個別支援計画、営業活動、生産管理などが回らなくなり、結果として利用者の減少や運営上のリスクにつながります。
重要なのは、
必要な支援体制を確保しながら、利用状況に合った人員配置になっているか
を確認することです。
4.案件ごとの売上・原価・作業時間を見える化する
生産活動全体の売上だけを見ていると、どの仕事が利益を生み、どの仕事が赤字を広げているのかが分かりません。
少なくとも主要な案件については、次の項目を整理しましょう。
- 取引先
- 受注内容
- 受注単価
- 月間受注量
- 材料費
- 外注費
- 配送費
- 職員の作業時間
- 利用者の作業時間
- 不良品や修正の発生数
- 案件ごとの利益
- 契約更新時期
たとえば、売上が月30万円ある仕事でも、
- 材料費が12万円
- 外注費が5万円
- 配送費が3万円
- 作業管理に職員の時間を多く使う
- 不良品の再作業が多い
という場合、見かけほど利益が残らない可能性があります。
見直しの方向性
- 取引先へ単価交渉を行う
- 最低受注量を設定する
- 作業工程を標準化する
- 不良や手戻りの原因を分析する
- 採算の悪い工程を外す
- 材料の仕入先を見直す
- 自主製品の価格を見直す
- 特定の取引先への依存を減らす
- 利用者の特性と作業内容を再調整する
ただし、利益だけを理由に、利用者の状態や希望を無視して作業を変更することは適切ではありません。
A型は、利用者を雇用して就労機会を提供するとともに、その知識や能力の向上に必要な支援を適切かつ効果的に行うサービスです。作業内容の見直しは、個別支援計画や本人の希望、障害特性との整合性を確認しながら進める必要があります。
5.経営改善計画・公表資料・記録を一致させる
A型事業所では、数字を改善するだけでなく、その数字を説明できる資料を整える必要があります。
たとえば、スコア表に「地域連携活動を実施した」と記載していても、
- 何を実施したのか
- どの事業者と連携したのか
- 相手方からどのような意見があったのか
- 報告書をどこで公表したのか
が確認できなければ、評価の根拠を説明できません。
地域連携活動については、活動内容と連携先の意見を記載した報告書を作成し、公表することが要件です。
利用者の知識・能力向上についても、具体的な支援内容を記載した報告書を作成し、公表する必要があります。
整理しておきたい資料
- スコア公表様式
- 評価項目ごとの計算資料
- 生産活動収支の集計資料
- 利用者賃金総額の集計資料
- 勤怠記録
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 就業規則
- 個別支援計画
- 支援記録
- 地域連携活動報告書
- 利用者の知識・能力向上に関する報告書
- ホームページ等での公表記録
- 経営改善計画と提出控え
- 指定権者との連絡記録
- 基本報酬・加算の体制届
書類を作ること自体が目的ではありません。
公表しているスコア
指定権者へ届け出た内容
国保連へ請求している報酬区分
実際の勤務・支援・収支の記録
が一致していることが重要です。
労働時間は点数だけで決めない
A型のスコアでは、利用者の1日平均労働時間が評価項目の一つとなっています。
平均労働時間が長い区分ほど高い点数になる仕組みですが、だからといって、点数を上げるためだけに利用者の労働時間を延ばすべきではありません。
労働時間を見直す場合は、
- 本人の希望
- 障害特性
- 体調
- 通院状況
- 個別支援計画
- 雇用契約
- 支援記録
- 実際の勤務実績
が整合しているかを確認します。
短時間勤務が本人の状態や支援上の必要性に基づくものであれば、その支援を否定するものではありません。
点数だけを優先して無理に勤務時間を延ばせば、欠席や離職、体調悪化につながる可能性があります。
スコアは、利用者の状態を無視して獲得するものではなく、適切な雇用と支援を行った結果として評価されるものと考える必要があります。
加算は収益目的だけで算定しない
経営が厳しくなると、
何か新しく算定できる加算はないか
と考えたくなるかもしれません。
しかし、加算は、実際に必要な支援や体制を整え、要件を満たした場合に算定するものです。
算定前には、少なくとも、
- 対象者がいるか
- 人員・資格要件を満たしているか
- 必要な届出を行っているか
- 個別支援計画へ位置づけているか
- 支援記録が残っているか
- 算定対象日を正しく判断しているか
- 他の加算との関係に問題がないか
を確認しなければなりません。
新しい加算を増やすことよりも、まずは現在算定している基本報酬や加算について、
実際の支援
届出内容
記録
国保連請求
が一致しているかを点検することが大切です。
A型事業所が赤字になる主な原因
A型事業所の赤字は、一つの原因だけで生じるとは限りません。
よくある要因を整理すると、次のようになります。
生産活動に関する原因
- 受注単価が低い
- 材料費や外注費が高い
- 採算の悪い案件を継続している
- 作業量が安定しない
- 特定の取引先への依存が大きい
- 不良品や手戻りが多い
- 自主製品が売れていない
- 価格改定ができていない
利用状況に関する原因
- 利用率が低い
- 欠席が多い
- 退所者が多い
- 新規利用者の確保ができていない
- 見学から利用開始へつながらない
- 利用開始までの調整に時間がかかる
報酬に関する原因
- スコアが低い
- 基本報酬区分が下がっている
- 加算の届出漏れがある
- 算定要件を満たさず請求できない
- 減算が発生している
- 公表や記録の不備がある
人員・運営に関する原因
- 利用者数に対して職員配置が過剰
- 管理者やサービス管理責任者へ業務が集中している
- 職員の離職が多い
- 記録や請求に時間がかかりすぎる
- 生産活動の営業担当が不在
- 数字を確認する担当者が決まっていない
経営改善では、これらを一度にすべて変えるのではなく、影響の大きい項目から優先順位を付けて取り組むことが重要です。
まず作成したい月次管理表
経営状況を把握するために、毎月最低限、次の数字を一覧化しておきましょう。
| 分類 | 確認項目 |
|---|---|
| 利用状況 | 契約者数、平均利用者数、延べ利用者数、利用率、欠席数 |
| 生産活動 | 売上、経費、生産活動収支、利用者賃金総額 |
| 案件管理 | 案件別売上、原価、作業時間、利益 |
| 人員 | 職員数、常勤換算、欠勤、退職、採用状況 |
| 報酬 | 基本報酬区分、加算、減算、請求額 |
| スコア | 現在の見込点、前年度との差、根拠資料 |
| 資金繰り | 現預金、固定費、支払予定、入金予定 |
数字を一覧化すると、
- 利用率は下がっているが、生産活動は改善している
- 売上は増えたが、材料費も増えている
- 生産活動は黒字だが、基本報酬が下がっている
- 利用者数に対して人件費が増えている
といった状況を分けて確認できます。
経営改善は「売上を増やす」だけではない
A型事業所の経営改善というと、仕事を増やすことや利用者を増やすことに目が向きがちです。
しかし、実際には、
- 赤字案件を減らす
- 受注単価を見直す
- 作業工程を改善する
- 利用率を安定させる
- スコアの失点を防ぐ
- 届出や公表漏れを防ぐ
- 記録と請求を一致させる
- 職員の業務負担を整理する
ことも経営改善です。
仕事量を増やしても、採算が悪ければ赤字が拡大します。
利用者数を増やしても、職員配置や作業量が追いつかなければ、支援の質や記録管理に影響します。
大切なのは、
何が経営を圧迫しているのかを数字で確認し、その原因に合った改善策を選ぶこと
です。
よくある質問
Q1.A型事業所は儲からないのでしょうか?
A型事業所だから一律に利益が出ないわけではありません。
ただし、障害福祉サービスとしての運営と、雇用・生産活動の両方を成立させる必要があるため、一般的な福祉サービスとは異なる経営管理が求められます。
利用率、スコア、生産活動収支、利用者賃金、人件費などを分けて管理することが重要です。
Q2.事業所全体が黒字なら、生産活動収支が赤字でも問題ありませんか?
事業所全体が黒字であっても、生産活動収支が利用者賃金総額を下回っている場合、A型の運営基準上の課題が生じます。
生産活動部門は、障害福祉サービス費を含めた全体収支とは分けて確認する必要があります。
Q3.経営改善計画を提出すればスコアは上がりますか?
経営改善計画の提出そのものが加点される仕組みではありません。
指定権者から提出を求められた場合に、指定期限までに提出しなければマイナス50点となります。期限までに適切に対応した場合は0点です。
Q4.地域連携活動は実施するだけで評価されますか?
実施するだけではなく、活動内容と連携先の意見を記載した報告書を作成し、インターネットなどで公表することが要件です。
Q5.利用者の労働時間を延ばせば基本報酬は上がりますか?
平均労働時間はスコア項目の一つですが、点数だけを目的として勤務時間を延ばすことは適切ではありません。
本人の状態、希望、個別支援計画、雇用契約、勤務実態との整合性を確認する必要があります。
Q6.経営が厳しくなってから何を最初に確認すべきですか?
まずは、次の4点を分けて確認しましょう。
- 生産活動収支と利用者賃金総額
- 利用率と月間延べ利用者数
- 現在のスコアと基本報酬区分
- 職員配置と固定費
「売上が少ない」という感覚だけで判断せず、どの部門・項目が赤字の原因になっているかを確認することが第一歩です。
まとめ
A型事業所の経営が厳しくなりやすいのは、障害福祉サービスとしての支援と、利用者を雇用する生産活動を同時に成立させなければならないからです。
特に確認したいのは、次の5点です。
- 生産活動収支と利用者賃金を月次で確認する
- スコア全体と基本報酬への影響を確認する
- 利用率と人員配置を確認する
- 案件ごとの売上・原価・作業時間を見える化する
- 経営改善計画・公表資料・支援記録・届出を一致させる
令和6年度報酬改定では、生産活動収支が利用者賃金総額を下回る場合の評価が厳しくなりました。厚生労働省の検討資料でも、改定後のA型給付費の動向や、経営状況の改善を促すためのスコア方式の見直しが引き続き検討されています。
A型事業所の経営改善では、仕事や利用者を増やすことだけを考えるのではなく、
どの数字が悪化しているのか
どのスコア項目で失点しているのか
どの案件が利益を生み、どの案件が赤字なのか
届出・公表・記録が実態と一致しているか
を整理することが重要です。
感覚だけで判断せず、利用状況、生産活動収支、賃金、スコア、基本報酬、人員配置を月次で確認し、自事業所の課題に合った改善を進めていきましょう。
