はじめに
厚生労働省の「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」で示された、「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方(中間とりまとめ案)」。
第1回では、一般就労と福祉的就労の役割をあらためて整理しようとしている全体像を、第2回では、就労継続支援B型について、工賃だけでは捉えきれない支援の役割を取り上げました。
第3回では、就労継続支援A型に焦点を当てます。
今回の中間とりまとめ案で、A型について特に注目すべきなのは、
「一般就労が可能な人」と「A型を必要とする人」の境界が、制度創設当時から変化している
と厚生労働省が明確に整理している点です。
A型は、雇用契約に基づいて働く障害福祉サービスです。
そのため、福祉サービスでありながら「雇用」という側面を持ち、一般就労とB型のちょうど中間に位置するように見られることもあります。
しかし、一般就労の障害者雇用が拡大し、短時間勤務など働き方の選択肢が広がってきた現在、その位置づけをあらためて考える必要が生じています。厚労省は、一般就労の機会拡大や働き方の柔軟化によって、A型の制度上の利用者像である「雇用契約に基づく就労は可能だが、通常の事業所に雇用されることが困難な人」の範囲は、制度創設当時より狭まっていると整理しています。
なお、本記事で扱う資料は現時点では中間とりまとめ案です。
さらに、後半で触れる「A型を有期利用にする」といった案は、厚労省が決定した方針ではなく、検討会構成員から出された意見です。
ここは明確に分けて読む必要があります。
A型は「雇用契約を結ぶ福祉サービス」
就労継続支援A型は、制度上、
- 通常の事業所に雇用されることが困難
- 適切な支援があれば雇用契約に基づく就労が可能
である人を対象としています。
事業所と利用者は雇用契約を結び、利用者には最低賃金を含む労働法令が適用されます。
同時に、A型事業所は障害福祉サービス事業所でもあります。
支援員等を配置し、障害福祉サービス報酬を受けながら、利用者に就労の機会を提供し、能力等が高まった場合には一般就労への移行を支援します。
つまりA型には、もともと二つの役割があります。
一つは、
一般就労が難しい人に、雇用契約に基づく働く場を提供すること。
もう一つは、
一般就労が可能となった人を、一般企業等へつなぐこと。
この二つを同時に担うことが、A型の特徴です。
一般就労の「働き方」が大きく変わった
では、なぜ今、A型の役割があらためて議論されているのでしょうか。
大きな理由の一つが、一般就労側の変化です。
障害者自立支援法が制定された2005年当時、一般企業で働く障害者は約27万人でした。
それが2025年には約70.5万人まで増加しています。
障害者雇用の対象も、身体障害者中心だった時代から、知的障害者、精神障害者へと広がってきました。
さらに、一般就労の働き方も変わっています。
2016年には雇用分野で合理的配慮の提供が義務化され、その後、短時間で働く障害者についても一定の場合に実雇用率へ算定できる仕組みが広がってきました。
厚労省は、障害者自立支援法制定当時には週30時間以上の勤務ができなければ一般就労の機会を得にくかったのに対し、現在では週30時間未満で働く障害者も2~4割を占めるなど、働き方が多様化しているとしています。
これはA型に大きく関係します。
A型の「利用者像の範囲は狭まっている」
今回の中間とりまとめ案で、A型について最も踏み込んでいる部分がここです。
厚労省は、一般就労の雇用機会が拡大し、働き方も多様化・柔軟化したことで、
「通常の事業所に雇用されることが困難」と判断される状態像そのものが大きく変化した
と整理しています。
そして、その結果として、
A型の制度上の利用者像である「雇用契約に基づく就労は可能だが、通常の事業所に雇用されることが困難な人」の範囲は、制度創設当時より狭まっている
と明記しています。
ここは重要です。
ただし、
「A型を利用できる人を減らすことが決まった」
という意味ではありません。
今回示されているのは、一般就労側の環境が変わった以上、A型と一般就労の境界も20年前と同じではない、という現状認識です。
今後、その認識をどのような制度や報酬に反映させるかは別の議論です。
一般就労へ移れば、必ず本人のメリットが大きいのか
ここで話は単純ではなくなります。
厚労省資料では、A型と一般就労の間で、本人に支払われる賃金額に大きな差がない場合があることも指摘されています。
A型から一般就労へ移行しても、
- 賃金がそれほど増えない
- 非正規雇用や契約社員となる
- 福祉サービスとして受けていた支援が薄くなる
といった場合もあり得ます。
そのため、当事者の立場から見れば、一般就労へチャレンジするメリットが必ずしも大きくないケースもあるとされています。
また、地域によっては、そもそも一般就労の場が十分に存在しないという問題もあります。
制度上、
「一般就労できるなら一般就労へ」
という考え方は理解できます。
しかし、本人にとって一般就労が本当により良い選択肢なのかは、
- 賃金
- 労働時間
- 雇用形態
- 支援体制
- 通勤
- 職場環境
- 本人の希望
などを含めて考えなければいけません。
単に「一般企業で働く方が上」という序列で判断できる話ではありません。
A型には「受け皿」としての役割もある
一方で、A型には一般就労への橋渡しだけでは説明できない役割があります。
参考資料の構成員意見では、
- 就労移行支援を利用しても一般就労につながらなかった人
- 一般就労で離職・転職を繰り返した人
がA型を利用しており、そうした人の就労の受け皿として意義があるとの意見が示されています。
一般企業で働いた経験があるからといって、その後も一般就労を安定して続けられるとは限りません。
環境が合わなかった。
体調を崩した。
人間関係でつまずいた。
仕事の要求水準とのミスマッチがあった。
そうした経験を繰り返すことで、働くことへの自信を失う人もいます。
構成員意見では、そうした人に対し、A型で働きながら自信を回復し、
「もう一度一般就労に挑戦してみよう」
と思えるように支援することも重要な役割ではないか、という指摘があります。
私は、この点はA型の価値を考えるうえでかなり重要だと思います。
A型は、単なる「一般就労へ行けない人の雇用先」でも、
「一般就労までの通過点」
でもありません。
その人が今どこにいて、どのような働き方を必要としているのかによって、役割は変わります。
「受け皿」で終わってよいのかという議論
ただし、ここでも反対方向の論点があります。
構成員意見では、
A型が受け皿であること自体をゴールにしてよいのか
という問題も示されています。
A型の利用を通じて本人の状態が安定し、能力が高まり、一般就労の可能性が生まれたのであれば、その選択肢を本人に示す必要があります。
現行制度でも、就労継続支援を利用している人には就労選択支援に関する情報提供を行い、一般就労が可能となったと見込まれる場合には、本人の希望を尊重しながら就労移行支援や一般就労などの選択機会を提供することとされています。
つまり、
A型で安定して働けているから、そのままでよい
というだけではなく、
本人に別の選択肢が生まれていないかを継続して確認する
ことが求められます。
一般就労へ送り出すほど、A型の経営が難しくなる可能性
ここでA型特有の難しい問題が出てきます。
A型事業所は、利用者に最低賃金以上の賃金を支払う必要があります。
一方で、事業運営を安定させるためには、生産活動を成立させる必要があります。
そのため厚労省資料では、就労継続支援事業所が安定した事業運営を続けるために、生産活動能力の高い利用者を確保せざるを得ない場合があることも指摘されています。
ここに制度上の矛盾が生まれます。
作業能力が高まり、一般就労できる可能性が高くなった利用者ほど、事業所にとっては生産活動を支える重要な人材になっている可能性があります。
その人を一般就労へ送り出せば、本人には新たな選択肢が広がる一方で、A型事業所の生産活動には影響が出るかもしれません。
構成員意見でも、
一般就労が可能となった利用者を一般就労へ橋渡しするというA型本来の役割を誠実に果たすほど、結果として事業運営が難しくなるのであれば、制度自体を見直す必要があるのではないか
という趣旨の意見が出ています。
これは現場の努力だけで解決できる問題ではありません。
支援政策と事業経営の仕組みが矛盾していないかという、制度設計上の課題です。
最低賃金の上昇もA型経営に影響する
参考資料では、A型についてもう一つ現実的な問題が指摘されています。
それが、
最低賃金の上昇と物価高騰
です。
A型は利用者と雇用契約を結ぶため、最低賃金の引上げは賃金支出に直接影響します。
構成員からは、特に地方においてA型が一般就労に代わる障害者の雇用機会を提供してきた一方、最低賃金の急激な上昇や物価高騰によって事業継続が困難となり、撤退する事業所が増えているのではないかという意見も出ています。
これも、
「A型から一般就労へもっと送り出せばよい」
というだけでは解決しません。
特に一般就労の選択肢が少ない地域では、A型そのものが重要な雇用機会になっている場合があります。
全国一律の制度でありながら、地域によってA型の果たしている役割が違う。
この点も、今後の議論では無視できないでしょう。
「A型を有期利用にする」という意見も出ている
今回の参考資料の中で、かなり目を引くのが、
「一般就労への移行を前提として有期の利用とすることも考えられるのではないか」
という構成員意見です。
ここは特に慎重に読む必要があります。
現時点で、
A型が有期利用になると決まったわけではありません。
中間とりまとめ案本文で制度変更として提示されているわけでもありません。
あくまで、検討会で出された個別意見の一つです。
また同じ参考資料には、
- A型は一般就労への移行支援だけでなく、社会参加の場として重要
- 障害者雇用促進制度とは性質が異なる
- 一般就労から離職した人の受け皿としての意義がある
という別の方向の意見も掲載されています。
つまり、現段階では、
A型を一般就労への通過点として強く位置づける考え方
と、
一般就労が難しい人の安定した就労・社会参加の場として評価する考え方
の両方が議論されています。
この段階で「A型が有期化される」と煽るのは、資料の読み方として適切ではありません。
就労移行支援との境界も曖昧になっている
A型と一般就労だけではありません。
参考資料では、就労移行支援とA型の役割分担が不分明になっているのではないかという意見も出ています。
就労移行支援は、一般就労が可能と見込まれる人に対して、一般就労への移行支援を行うサービスです。
一方、A型でも一般就労への移行支援が行われます。
そのため、一般就労への移行を重視するほど、
「就労移行支援とA型は何が違うのか」
という問題も強くなります。
さらに参考資料では、地方で就労移行支援事業所が減少している中、就労移行支援とA型を一体的に提供することも考えられるのではないか、という意見まで示されています。
ここもまだ具体的な制度案ではありません。
ただ、A型だけを単独で見直すのではなく、就労移行支援・A型・B型・一般就労を含めた就労支援体系全体の役割整理が必要になっていることは読み取れます。
A型事業所が今、確認しておきたいこと
今回の議論を受けて、A型事業所が今すぐ運営を変更する必要はありません。
制度はまだ決まっていません。
ただし、現在の支援を振り返る材料にはなります。
1.利用者の「現在地」を固定していないか
利用開始時に一般就労が難しかったとしても、その状態がずっと続くとは限りません。
働く経験を積み、体調が安定し、能力が高まることもあります。
逆に、状態が悪化することもあります。
定期的なアセスメントやモニタリングの中で、現在の状態を見直しているでしょうか。
2.本人の一般就労への希望を確認できているか
「本人が一般就労を希望していない」という結論だけで終わっていないでしょうか。
一般就労について十分な情報を知らない。
過去の離職経験から怖さがある。
自信がない。
今のA型を離れることに不安がある。
そうした背景まで含めて、本人の意思を確認する必要があります。
3.一般就労の可能性が生まれたとき、選択肢を提示できているか
一般就労へ無理に送り出すことと、一般就労という選択肢を提示することは違います。
本人の状態や希望が変化したときに、
- 就労選択支援
- 就労移行支援
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
などと連携できる体制があるでしょうか。
4.A型で支援する意味を説明できるか
最も重要なのはここかもしれません。
その利用者が、
なぜ一般就労ではなく、今A型を利用しているのか。
そして、
A型でどのような支援を受け、どのような変化を目指しているのか。
それが個別支援計画、モニタリング、日々の支援記録から説明できる状態になっているか。
今後、A型と一般就労の境界がより意識されるのであれば、この説明可能性はますます重要になると考えます。
A型の役割は「一般就労か福祉か」の中間ではない
A型はしばしば、
一般就労とB型の中間
のように理解されます。
しかし、今回の資料を読むと、それだけでは十分ではありません。
A型には、
- 雇用契約に基づいて働く場
- 福祉サービスとしての支援
- 一般就労への橋渡し
- 離転職を経験した人の再スタートの場
- 地域によっては貴重な雇用機会
- 社会参加の場
という複数の役割があります。
だからこそ、一般就労が拡大した現在、
「A型だからこういう人」
と一律に整理することが難しくなっています。
今後の制度議論では、A型を単純に縮小するのか、一般就労への移行機能を強めるのか、福祉的な雇用の場として再評価するのか、その役割をどう整理するかが大きな論点になるでしょう。
ただし、現時点ではその答えはまだ出ていません。
まとめ
今回の中間とりまとめ案で、A型について最も重要なのは、
一般就労の働き方が広がった結果、A型の制度上の利用者像の範囲は制度創設当時より狭まっている
と厚労省が整理したことです。
一方で、
- 一般就労に移行しても賃金や待遇面で大きなメリットがない場合がある
- 地域によっては一般就労の場が十分でない
- 離転職を繰り返した人の受け皿としてA型が機能している
- 一般就労への橋渡しを進めるほど事業運営が難しくなる可能性がある
- 最低賃金上昇など経営環境も厳しくなっている
という現実も示されています。
そして構成員からは、有期利用化を含むかなり踏み込んだ意見も出ていますが、これらはまだ決定事項ではありません。
今の段階でA型事業所が行うべきことは、制度を予測して先回りすることではないと思います。
むしろ、
「なぜこの利用者が今A型を利用しているのか」
「どのような支援を行い、本人がどのような働き方を望んでいるのか」
「状態が変わったときに、別の選択肢を提示できているか」
を、支援実態と記録の両方から説明できる状態にしておくことです。
次回は、就労選択支援とアセスメントの客観性・中立性について取り上げます。
シリーズ記事
第1回
「障害者就労はどう変わる?厚労省『雇用と福祉の中間とりまとめ案』から読む今後の方向性」
第2回
「就労継続支援B型は『工賃』だけで評価できるのか?高齢化・重度化する利用者と今後の役割」
第3回
「就労継続支援A型の役割はどう変わる?一般就労との境界から読む厚労省の議論」
第4回
「就労選択支援は今後どうなる?アセスメントの客観性・中立性を厚労省資料から読む」
第5回
「障害者雇用は『人数』から『質』へ?厚労省資料が示す一般就労と福祉の新たな関係」
第6回
「一般就労か福祉かの二択ではない?『雇用と福祉の相互往来』から考える障害者就労のこれから」
一次情報・参考資料
- 厚生労働省「第6回障害者就労に係る雇用福祉横断検討会(資料)」
- 厚生労働省「資料1-1 雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方について (中間とりまとめ案)」
- 厚生労働省「参考資料2【参考】個別施策に関する構成員からのこれまでの御意見」
「なぜ今、A型で支援するのか」を、
計画と記録から確認してみませんか?
就労継続支援A型では、利用者の状態や希望は、
利用開始時からずっと同じとは限りません。
働く経験を重ねる中で一般就労の可能性が広がることもあれば、
体調や生活状況の変化によって必要な支援が変わることもあります。
大切なのは、現在の状態や本人の希望を確認し、
「なぜ今この支援が必要なのか」
「どのような変化を目指しているのか」が、
個別支援計画・モニタリング・日々の支援記録と
つながっていることです。
行政書士田中慶事務所では、
記録・個別支援計画、運営書類、研修、職員体制など、
現在の支援と運営の状況を確認しながら、
優先して整理したい点を一緒に確認します。
※制度改正や報酬改定の内容が決定する前に、対応を先取りすることを目的としたものではありません。
※現在の支援・運営状況を確認し、必要な範囲で整理や改善方法を検討します。





