言葉の変化が支援のカタチを変える──福祉専門行政書士が感じる現場のリアル

はじめに｜「言葉」には、その時代の“まなざし”が現れる

私が福祉の世界に触れ始めたのは、もう30年近く前。当時、学生だった頃に耳にしたのが「バリアフリー」や「ノーマライゼーション」という言葉でした。
どれも新しくて、社会全体が「誰ひとり取り残さない支援」へと動き出した空気を感じたのを、今でもよく覚えています。

でも、当時の“やさしさ”と、今の“やさしさ”って、実は中身がちょっと違う。
その変化を言葉の変遷からたどると、支援のあり方や社会の価値観の変化が、ぐっと見えてくるんです。

昔よく聞いた「バリアフリー」「ノーマライゼーション」の本当の意味

私が二十歳前後の頃、「バリアフリー」や「ノーマライゼーション」という言葉が福祉の現場で頻繁に使われるようになりました。

• バリアフリー＝障がいや加齢によって生じる生活上の“障壁（バリア）”を取り除こうという考え方。
• ノーマライゼーション＝障がいの有無に関係なく、すべての人が“ノーマルな暮らし”を送るべきだという理念。

これらの言葉には、「健常者のように」「普通に近づける」という前提がありました。つまり、“0を基準とした物差し”があって、そこに近づけるよう支援する──という考え方だったんです。

もちろん、当時としてはとても革新的で、人を「閉じ込める」から「社会へ出す」へと向かう重要な転換点だったと思います。

価値観のアップデート──「基準」がなくなった時代のキーワードたち

そして今、耳にするようになったのが次のような言葉たちです。

• インクルージョン（包摂）
• ダイバーシティ（多様性）
• ユニバーサルデザイン（誰にとっても使いやすい設計）

これらの言葉に共通しているのは、「基準がない」ということ。
「普通」に近づけるのではなく、「そもそもみんな違っていて当然」という前提からスタートしています。

「障がいがある」「年齢を重ねている」「性的マイノリティである」──それぞれの特徴は“修正すべき弱さ”ではなく、“その人らしさ”として社会の一部に受け入れられるべきものなんです。

言葉の変化＝社会の“支援のかたち”の変化

こうした言葉の変化は、単なる流行ではなく、支援の「前提」や「まなざし」そのものの変化を表しています。

昔は、「支援する側／される側」という非対称の関係性が、暗黙のうちに前提にありました。でも今は、「支援する／される」ではなく、「共に在る」「共に考える」というスタンスが求められています。

言葉が変わることで、支援の姿勢も変わる。
だから私は、言葉に敏感でいたいし、現場で使う一つひとつの言葉を大切にしたいと思っています。

「ピア行政書士」という生き方──違いを知っているから、寄り添える

私は障がいのある当事者でもあり、福祉の現場を知る行政書士でもあります。
だからこそ、“ピア行政書士”という立場を大切にしています。

ピア（＝仲間）として、制度の説明だけではなく、相手の人生に寄り添う。
「正しさ」ではなく、「その人らしさ」に光を当てる。

そして、社会にまだ残る「暗黙の基準」や「見えないバリア」に気づき、その人自身が“その人のままでいられる”ようサポートする。それが、私の目指す支援のかたちです。

おわりに：あなたにとって「普通」ってなんですか？

社会における“やさしさ”の定義は、少しずつ変わってきました。
でも、支援において本当に大切なのは、「相手を理解しようとする姿勢」なのかもしれません。

福祉の現場で使われる言葉をひも解くことは、ただの用語解説ではなく、その時代の“こころのかたち”に触れることだと、私は思います。

これからも、私は「言葉」と「人」との間に立ち、支援のあり方をともに考え、つくっていく行政書士でありたいと願っています。

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