同性介助が「努力義務」に——令和6年度報酬改定の概要
2024年(令和6年)度の障害福祉サービス等報酬改定により、「本人の意思に反する異性介助がなされないようにする」ことが制度上の努力義務として明確に位置づけられました。厚生労働省の解釈通知では、以下のように記されています:
「本人の意思に反する異性介助がなされないよう、サービス管理責任者等がサービス提供に関する本人の意向を把握するとともに、本人の意向を踏まえたサービス提供体制の確保に努めるべき」
この改定は、「利用者本人の意向を尊重する福祉」という原則に立ち返る重要な一歩です。特に入浴や排泄介助といったセンシティブな支援場面では、同性による介助を望む声は少なくありません。しかし、「努めるべき」という表現にとどまることから、現場への即時的な義務化ではなく、今後の体制整備を促すメッセージとして受け取られています。
とはいえ、この制度の方向性が利用者の権利擁護につながる一方で、実際の福祉現場では大きな課題を突きつけられているのも事実です。
人材確保の現状と男女比のギャップ——同性介助がすぐにできない理由
障がい福祉・介護業界の有効求人倍率は依然高止まり
慢性的な人手不足に悩まされている障がい福祉業界では、「同性介助」の実現に向けた人員体制を整えること自体が困難な事業所も少なくありません。たとえば、公益財団法人介護労働安定センターが2022年度に発表したデータでは、介護職全体の有効求人倍率は3.03倍と高い水準で推移しています。
また、厚生労働省「令和4年度障害福祉サービス等経営実態調査」においても、職員の確保が経営上の最も大きな課題として挙げられています。地域によっては、そもそも応募者自体が来ないという声もあるほどです。
圧倒的な女性比率——同性介助の実施が難しい現場構造
さらに、人材不足に加えて、職員の男女比の偏りも同性介助の導入を難しくしています。具体的な統計を見てみましょう。
- 介護福祉士:女性 約70%、男性 約30%
- 訪問介護員(ホームヘルパー):女性 約88.6%、男性 約7%
これらの数字は、特に男性利用者に対して同性介助を提供するための男性職員が極端に不足している現状を示しています。
こうした背景から、利用者の意向を尊重したくても、制度に即した対応が現場レベルで困難なケースが多数存在しているのが実情です。
制度と現場のギャップをどう埋める?経営者・管理者が取れるアクション
まずは「できること」から——スモールステップで進める同性介助の対応
同性介助の導入を一足飛びに行うのは難しくても、次のような「小さな改善」から始めることが可能です。
- 利用開始時の面談に「同性介助の希望」欄を追加し、記録として残す
- 異性介助の必要がある場合には、事前に本人・家族へ説明し同意を得る
- 入浴・排泄などの介助ではパーテーションや同席職員の工夫でプライバシー配慮
- 対応が困難な場合でも、その理由と代替手段をきちんと記載・説明する
同性介助の有無そのものだけでなく、「本人の意思を把握し、尊重しようとしたか」が問われる時代になってきています。
中長期的な視点での職員配置や採用戦略も必要
もちろん根本的には、職員の性別構成の見直しや配置調整が必要です。これには次のような取り組みが考えられます。
- 男性職員の採用を意識した求人票
- グループホームや生活介護等、同性介助が必要なシーンでのシフト設計の見直し
- 職員に対する「介助=性的ではない」という価値観を共有する研修の実施
- LGBTやジェンダー配慮にも対応した個別支援計画の工夫
同性介助は単なる「男女問題」ではなく、支援の質と利用者の安心感を左右する重要な課題です。
同性介助は「責めるべき問題」ではない——ともに考え、進むために
制度だけを見れば、「同性介助をもっと徹底すべき」と思われるかもしれません。 しかし、現場に立つ皆さんなら分かる通り、それがどれほど難しいことであるかも、同時に理解されるはずです。
私は、制度の専門家である行政書士であり、同時に福祉サービスの当事者として支援を受けてきた経験があります。
だからこそ、今の制度や理想だけを声高に叫ぶのではなく、「どうやったら少しでも実現に近づけるのか?」を、みなさんと一緒に考えていける存在でありたいと思っています。
同性介助は“正解のない問い”かもしれません。でも、問い続けることこそが大切なのではないでしょうか。
✅まとめ:同性介助を「現実的に」考える第一歩として
- 同性介助は2024年から制度上の努力義務に
- 介護・福祉現場では人手不足と女性比率の高さが大きな壁
- まずは意向聴取や異性介助時の配慮から始めよう
- 長期的には採用戦略・シフト見直しが必要
- 経営判断は、制度と現場をつなぐ「橋渡し」でもある
本記事が、現場で日々葛藤しながら利用者に向き合う皆さまにとって、小さなヒントや安心につながれば幸いです。同性介助という難しいテーマだからこそ、対話と共有を続けていきましょう。
行政書士(申請準備中)として、また一人の当事者として、今後も情報提供と制度活用支援を続けてまいります。
「行政書士田中慶事務所(開設申請準備中)ホームページはこちら」