※この記事は、2026年8月時点の制度・実務に合わせて内容を全面的に更新しています。
現在は大阪市中央区で行政書士事務所を開業し、障がいのある方やご家族からのご相談、遺言書や任意後見契約などの書類作成支援を行っています。
親が亡くなった直後の手続を、誰が行うのか
障がいのある子を持つ親にとって、「自分が亡くなったあと、この子の生活はどうなるのか」は大きな心配事です。
住まい、福祉サービス、財産管理、医療、日常生活の支援など、考えなければならないことは一つではありません。
そのなかでも見落とされやすいのが、親本人が亡くなった直後に必要となる手続です。
- 葬儀や火葬の手配
- 医療費や施設利用料の精算
- 賃貸住宅や公共料金の解約
- 家財道具や遺品の整理
- 携帯電話やインターネット契約の解約
- SNSや有料サービスのアカウント整理
- 関係者や支援機関への連絡
親族などに対応を頼めない場合には、こうした事務を第三者へ託す方法として、死後事務委任契約を検討できます。
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約とは、本人が亡くなった後に必要となる事務を、あらかじめ選んだ人や法人へ委任しておく契約です。
誰に、何を、どの範囲まで任せるのかを、本人が判断能力のあるうちに契約書で定めます。
契約内容として検討される主な事務には、次のようなものがあります。
- 親族、知人、支援機関などへの死亡の連絡
- 葬儀、火葬、納骨、永代供養などの手配
- 病院や施設に残された荷物の引取り
- 医療費、施設利用料、公共料金などの支払い
- 賃貸借契約や各種サービス契約の解約
- 住居の明渡しや家財道具の整理
- ペットの引渡しや飼育先への連絡
- パソコン、スマートフォン、SNSなどの整理
実際に委任できる内容は、契約の内容、受任者の権限、相続人との関係、各手続の制度上の要件などによって異なります。
死亡届など、届出人となれる人が法令で定められている手続もあります。契約書に記載すれば、受任者があらゆる手続の当事者になれるわけではありません。
死後事務委任契約と遺言書の違い
死後事務委任契約と遺言書は、役割が異なります。
遺言書は、主に本人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものです。
たとえば、次のような内容を遺言書で定めます。
- 預貯金を誰に相続させるか
- 不動産を誰に相続させるか
- 障がいのある子へどの財産を残すか
- 遺言内容を実行する遺言執行者を誰にするか
一方、死後事務委任契約は、葬儀や住居の明渡し、契約の解約など、死亡後に発生する事務を処理するための契約です。
死後事務委任契約だけでは、相続財産の分け方を決めることはできません。
財産の承継については遺言書、死亡後の事務については死後事務委任契約というように、目的を分けて準備します。
任意後見契約との違い
任意後見契約は、本人の判断能力が不十分になった場合に備えて、財産管理や生活・療養に関する事務を任意後見人へ任せる契約です。
任意後見契約は、公正証書で締結し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
ただし、任意後見契約は本人の死亡により終了します。
そのため、生前の判断能力低下への備えとして任意後見契約を結び、死亡後の事務への備えとして死後事務委任契約を組み合わせることがあります。
親の死後事務委任契約で、子どもの支援まで任せられるのか
ここは、特に注意が必要です。
親が結ぶ死後事務委任契約は、基本的に、亡くなった親本人に関する事務を処理するための契約です。
契約を結んだからといって、受任者が当然に障がいのある子の後見人になったり、子の財産を管理したり、子に代わって福祉サービスの契約を結んだりできるわけではありません。
親の死後事務として、相談支援事業所、グループホーム、親族などへ親の死亡を連絡することは検討できます。
しかし、その後の子どもの生活や財産管理を誰が支えるのかは、別の仕組みとして準備する必要があります。
親なきあとに必要となる別の準備
遺言書
親の財産を誰に、どのような形で引き継ぐかを定めます。
障がいのある子へ財産を残す場合は、本人が財産を管理できるか、ほかの相続人の遺留分、税務上の影響なども考える必要があります。
本人の成年後見制度
障がいのある本人の判断能力が不十分で、財産管理や契約手続に支援が必要な場合は、法定後見制度を検討することがあります。
法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助があります。
本人自身の任意後見契約
本人に十分な判断能力がある場合は、本人自身が将来の任意後見人を決め、任意後見契約を結ぶ方法もあります。
親が本人に代わって任意後見契約を結ぶのではなく、本人の意思と判断能力を確認したうえで、本人自身が契約します。
信託などの財産管理
本人へ一度に多額の財産を相続させるのではなく、生活費や住居費などに使う目的で、財産を管理・給付する仕組みを検討することがあります。
信託の設計には、受託者を誰にするか、どの財産を信託するか、税務や登記にどのような影響があるかなど、専門的な検討が必要です。
福祉サービスと支援者への引継ぎ
本人が利用している福祉サービス、相談支援専門員、医療機関、日中活動先、住まいなどの情報を整理しておきます。
親しか知らない本人の特性や生活上の注意点は、支援ノートなどに記録し、将来の支援者へ引き継げるようにしておくことが大切です。
契約時に決めておきたいこと
死後事務委任契約を結ぶ際は、少なくとも次の事項を具体的に決めます。
- 誰を受任者にするか
- どの事務を任せるか
- 葬儀や納骨をどのように行うか
- 費用をどこから支払うか
- 受任者の報酬と実費の取扱い
- 親族や相続人へどのように連絡するか
- 契約内容をどのように見直すか
- 受任者が対応できなくなった場合にどうするか
死後事務には、葬儀費用、家財処分費用、住居の原状回復費用、受任者の報酬などが必要になります。
契約書を作成するだけでなく、実際に必要となる費用をどのように確保するのかも決めておかなければなりません。
行政書士へ相談する場合
行政書士は、本人の希望を聞き取り、死後事務委任契約書や遺言書などの書類作成を支援できます。
ただし、すべての行政書士が死後事務の受任や実行まで行っているわけではありません。
相談する際は、次の点を確認してください。
- 契約書の作成だけでなく、死後事務の受任も行っているか
- 受任できる事務の範囲
- 報酬と実費の見込み
- 預託金の管理方法
- 長期間にわたる契約の管理体制
- 相続や登記、税務、紛争が生じた場合の専門職との連携
不動産登記は司法書士、税務申告は税理士、相続人間の紛争や法律事件は弁護士など、手続の内容によってほかの専門職との連携が必要です。
まとめ
死後事務委任契約は、親本人が亡くなった後の葬儀、住居の明渡し、費用の精算、各種契約の解約などを、信頼できる第三者へ任せるための契約です。
一方で、障がいのある子の財産管理や福祉サービスの契約を、そのまま受任者へ任せられる制度ではありません。
親なきあとへの備えには、死後事務委任契約だけでなく、遺言書、後見制度、財産管理、住まい、福祉サービス、支援者への情報の引継ぎなどを組み合わせる必要があります。
「どの制度を使うか」を先に決めるのではなく、親が現在担っている支援を整理し、将来誰へ引き継ぐ必要があるのかを一つずつ確認することが大切です。
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