成年後見制度改正法が成立|障がいのある本人・家族に何が変わる?

2026年6月、成年後見制度を大きく見直す改正法が成立しました。

現行の成年後見制度には、「一度利用を始めると途中でやめにくい」「本人に必要な範囲を超えて権限が与えられることがある」といった課題が指摘されてきました。

今回の改正では、現行の後見・保佐を廃止し、補助制度を基礎とした仕組みに一元化します。

本人が必要とする法律行為に応じて、補助人などの権限を個別に設定し、必要性がなくなった場合には制度の利用を終了できる仕組みへ見直されます。

ただし、法律が成立したからといって、すぐに新しい制度へ切り替わるわけではありません。

成年後見制度に関する改正部分の施行日は、今後、政令で定められます。

この記事では、改正法で決まったこと、今後の運用を待たなければ分からないこと、障がいのある本人や家族が今から整理しておきたいことを分けて解説します。

目次

2026年6月に成年後見制度の改正法が成立・公布

成年後見制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」は、2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。

法務省は、成年後見制度の主な見直しとして、後見・保佐を廃止して補助制度へ一元化し、本人にとって必要な範囲で制度を利用できる仕組みに変更すると説明しています。

改正法の成立日と公布日は、次のとおりです。

  • 成立日:2026年6月17日
  • 公布日:2026年6月24日
  • 施行日:今後、政令で決定
  • 施行期限:公布日から2年6か月以内

したがって、2026年7月時点では、具体的な施行日はまだ確定していません。

「2027年から必ず始まる」と断定できる状況ではない点に注意が必要です。

また、改正法が施行されるまでの間は、現在の後見・保佐・補助の制度が引き続き適用されます。

現在の成年後見制度には3つの類型がある

現行の法定後見制度には、本人の判断能力の状態に応じて、後見・保佐・補助という3つの類型があります。

後見

判断能力が欠けている状態が通常である方を対象とする制度です。

成年後見人には、本人の財産管理や契約などについて、広い代理権や取消権が与えられます。

保佐

判断能力が著しく不十分な方を対象とする制度です。

法律で定められた重要な行為について保佐人の同意が必要となり、家庭裁判所の審判によって代理権を付与することもできます。

補助

判断能力が不十分な方を対象とする制度です。

本人の同意を前提として、必要な法律行為について、補助人に代理権や同意権・取消権を付与します。

これらの制度を利用する場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行います。

裁判所は、申立書や診断書、本人情報シート、財産関係資料などを確認し、本人の状態や必要な支援内容を踏まえて判断します。

改正法で後見・保佐が廃止される

今回の改正で最も大きな変更は、現行の後見・保佐を廃止し、補助制度を基礎とした仕組みに一元化することです。

これは、後見・保佐・補助という3つの名称を、単純に一つへまとめるという意味ではありません。

現行の後見制度では、後見開始の審判を受けると、成年後見人に広い代理権や取消権が与えられます。

しかし、本人が支援を必要としているのは、預貯金の管理、施設との契約、不動産の処分など、特定の行為だけという場合もあります。

それにもかかわらず、必要以上に広い権限が成年後見人へ与えられ、本人が自分で決定できる範囲まで狭くなってしまうことが課題とされてきました。

改正後は、本人に必要な支援内容を個別に確認し、補助人などに与える権限の範囲を定める仕組みになります。

つまり、

判断能力の程度によって大きな類型を選ぶ制度

から、

本人がどの法律行為について、どのような支援を必要としているかを個別に定める制度

へ変わると考えると分かりやすいでしょう。

必要な範囲だけ支援を受けやすくなる

改正法では、本人に必要な範囲で制度を利用できる仕組みが重視されています。

例えば、本人が日常的な買い物や福祉サービスの選択は自分でできる一方で、相続手続や不動産の処分には支援が必要という場合があります。

このような場合に、本人ができることまで一律に制限するのではなく、支援が必要な法律行為について権限を設定する方向へ変わります。

一般に「スポット後見」や「限定後見」と表現されることがありますが、これらは改正法上の正式な制度名ではありません。

正確には、補助人などに与える代理権、同意権、取消権の対象を、本人に必要な範囲へ限定する仕組みです。

そのため、

相続手続だけ利用できる制度が自動的に新設される

と理解するのではなく、

本人が必要としている具体的な法律行為を示し、その範囲に応じた権限を家庭裁判所が定める

と考える必要があります。

必要性がなくなれば制度を終了できる仕組みへ

現行制度では、成年後見制度の利用目的となった問題が解決しても、本人の判断能力が回復しない限り、制度の利用を終了しにくいという課題があります。

例えば、不動産の売却や遺産分割のために成年後見制度を利用したものの、その手続が終了した後も、成年後見人による財産管理が続くことがあります。

改正法では、制度を利用する必要性がなくなった場合に、家庭裁判所の判断によって利用を終了できる仕組みが設けられます。

これにより、本人に必要な期間と範囲に応じた利用がしやすくなることが期待されます。

ただし、どのような場合に終了が認められるのか、申立てにどのような資料が必要になるのかなど、具体的な裁判所の運用は今後示されることになります。

法律が成立した段階で、どのケースでも簡単に終了できると断定することはできません。

本人の意思を尊重する考え方がより重要になる

成年後見制度は、本人の財産や権利を守る制度です。

しかし、本人を保護することが優先されるあまり、本人自身の希望や価値観が十分に反映されないことがあると指摘されてきました。

厚生労働省の成年後見制度利用促進基本計画でも、「尊厳のある本人らしい生活の継続」と「地域社会への参加」を支える権利擁護支援が重視されています。

意思決定支援では、本人が一人で決められるかどうかだけで判断しません。

本人が理解しやすい説明方法を工夫すること、選択肢を整理すること、慣れた人や環境の中で意思を確認することなどを通じて、本人自身の意思形成と意思表明を支えます。

本人が言葉で明確に説明できない場合でも、

  • 普段の生活で好んでいること
  • 嫌がること
  • 大切にしてきた習慣
  • 家族や支援者との関係
  • 表情や行動の変化
  • これまで本人が選んできたこと

などから、本人の意思や価値観を丁寧に確認する必要があります。

厚生労働省も、成年後見制度と意思決定支援に関する資料やアセスメント様式を公表しています。

改正によって家族の負担が必ず軽くなるとは限らない

改正後は、本人に必要な範囲へ権限を限定しやすくなり、制度を終了できる仕組みも設けられます。

その意味では、現在より柔軟な利用が可能になることが期待されます。

一方で、家族や支援者には、本人がどの行為について支援を必要としているのかを、これまで以上に具体的に整理することが求められる可能性があります。

例えば、

  • 預貯金の管理にはどの程度の支援が必要か
  • 福祉サービスの契約を本人だけで行えるか
  • 不動産の処分が必要か
  • 相続手続に参加する必要があるか
  • 悪質な契約を取り消す必要があるか
  • 本人が自分で決められることは何か

などを個別に確認しなければなりません。

また、実際の申立書式、家庭裁判所の審理方法、補助人などの選任方法、報告や監督の仕組みは、今後の政令、省令、裁判所の運用によって具体化されます。

そのため、現時点では、

改正後は必ず手続が簡単になる
家族の負担が必ず減る
専門職の費用が安くなる

とまでは言えません。

現在制度を利用している人はどうなるのか

現在、成年後見人や保佐人が選任されている方については、改正法の施行に伴う経過措置が関係します。

改正法が成立したからといって、現在の成年後見人や保佐人の権限が直ちになくなるわけではありません。

施行前は、現在の法律に基づく制度が続きます。

施行後に現在の後見・保佐がどのように新しい制度へ移行するのか、どの時点で見直しが行われるのかについては、今後公表される施行準備資料や家庭裁判所の案内を確認する必要があります。

現在制度を利用中の方や家族は、報道記事や一般的な解説だけを見て自己判断せず、家庭裁判所、成年後見支援センター、現在の後見人などへ確認してください。

改正法の施行まで申立てを待つべきか

改正法が成立したことを知り、

「新しい制度の方が柔軟なら、施行まで待った方がよいのではないか」

と考える方もいるかもしれません。

しかし、現在、本人の生活や財産を守るために支援が必要であれば、改正法の施行まで待つことが適切とは限りません。

例えば、

  • 預貯金を管理する人がいない
  • 施設への入所契約を進められない
  • 遺産分割協議に参加する必要がある
  • 不動産を処分しなければ生活費を確保できない
  • 悪質な契約や消費者被害が発生している
  • 家族による財産管理が限界に達している

という場合には、現在の制度を前提として、早めに相談する必要があります。

成年後見制度を利用すべきかどうかは、改正法だけで決めるものではありません。

本人が現在どのような問題に直面しているのか、その問題を他の支援方法で解決できるのかを個別に検討することが大切です。

成年後見制度以外の支援も確認する

本人の判断や生活を支える方法は、成年後見制度だけではありません。

状況によっては、

  • 日常生活自立支援事業
  • 福祉サービスの相談支援
  • 家族による支援
  • 金融機関の代理人制度
  • 任意後見契約
  • 財産管理等委任契約
  • 見守り契約
  • 遺言
  • 信託
  • 地域の権利擁護支援

などが関係する場合があります。

ただし、これらは成年後見制度と同じ効果を持つものではなく、本人の判断能力や契約内容によって利用できる範囲も異なります。

「成年後見制度は負担が大きそうだから、別の制度で代用する」と最初から決めるのではなく、本人が困っていることと、それぞれの制度で対応できる範囲を照らし合わせる必要があります。

家族が今から整理しておきたいこと

改正法の詳しい運用が示されるまで、何もできないわけではありません。

本人に必要な支援を考えるため、次の内容を整理しておくと相談時に役立ちます。

本人が自分でできること

  • 日常の買い物
  • 預貯金の出し入れ
  • 福祉サービスの選択
  • 契約内容の理解
  • 郵便物や請求書の確認
  • 医療や介護に関する希望の表明

できないことだけでなく、本人が自分でできることも整理することが重要です。

現在、家族や支援者が行っていること

  • 通帳や現金の管理
  • 家賃や公共料金の支払い
  • 福祉サービスの手続き
  • 医療機関への同行
  • 行政から届く書類の確認
  • 契約時の説明や意思確認

家族が無意識に行っている支援も含めて書き出します。

今後予想される法律上の手続き

  • 相続
  • 不動産の売却
  • 施設への入所
  • 賃貸借契約
  • 高額な財産の管理
  • 福祉サービスの利用契約
  • 消費者被害への対応

将来、誰がどの手続きを行う必要があるのかを確認します。

本人の希望や価値観

  • どこで暮らしたいか
  • 誰と関わりたいか
  • どのような支援を受けたいか
  • 大切にしている生活習慣
  • 苦手なこと
  • 本人が安心できる説明方法

本人の意思は、成年後見制度の利用を検討するときだけ確認するものではありません。

普段から記録し、家族や支援者の間で共有しておくことが大切です。

成年後見制度について相談できる場所

成年後見制度に関する相談先には、次のような機関があります。

  • 本人の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 市区町村の担当窓口
  • 成年後見支援センター
  • 社会福祉協議会
  • 地域包括支援センター
  • 基幹相談支援センター
  • 弁護士
  • 司法書士
  • 社会福祉士

家庭裁判所への申立てでは、申立書、診断書、本人情報シート、財産関係資料などが必要になります。

具体的な申立書類や記載例は、裁判所の後見ポータルサイトなどで案内されています。

申立てに関する法的判断や裁判所提出書類の作成について専門的な支援が必要な場合は、弁護士や司法書士への相談を検討してください。

行政書士田中慶事務所がお手伝いできること

成年後見制度を検討しているご家族の中には、

「成年後見制度を使うべき状況なのか分からない」

「家族が今行っている支援を、どのように説明すればよいか分からない」

「成年後見制度以外に、どのような手続きが関係するのか整理できない」

という方もいます。

行政書士田中慶事務所では、家庭裁判所への申立てを代理したり、申立書を作成したりすることはできません。

一方で、相談前の段階として、

  • 本人の生活状況
  • 家族が行っている支援
  • 財産や契約上の課題
  • 本人の希望や価値観
  • 今後必要になりそうな手続き
  • 関係する福祉制度や相談機関

を一緒に整理することはできます。

整理した結果、成年後見制度の利用や家庭裁判所への申立てについて専門的な支援が必要な場合は、弁護士や司法書士など、適切な相談先をご案内します。

成年後見制度だけでなく、遺言や福祉サービス、相続準備など、複数の課題が重なっている場合も、まず全体像を整理することが大切です。

まとめ|法律は成立したが、具体的な運用はこれから

2026年6月、成年後見制度を見直す改正法が成立・公布されました。

今回の改正では、現行の後見・保佐を廃止し、補助制度を基礎とする仕組みに一元化します。

本人に必要な範囲で権限を設定し、利用の必要性がなくなった場合には制度を終了できる仕組みへ見直されます。

一方で、具体的な施行日はまだ決まっていません。

家庭裁判所の審理方法、申立書式、制度終了の判断基準、現在制度を利用している方への経過措置など、実務上の詳細は今後示されます。

現時点で大切なのは、改正法の施行をただ待つことではありません。

  • 本人は何を自分で決められるか
  • どの法律行為に支援が必要か
  • 家族は現在どのような支援をしているか
  • 本人はどのような生活を望んでいるか
  • 成年後見制度以外の支援で対応できるか
  • 誰に相談する必要があるか

を具体的に整理しておくことです。

成年後見制度は、家族の不安をすべて解決する制度ではありません。

本人に必要な支援を考えるための一つの選択肢として、本人の意思と生活を中心に検討することが大切です。

成年後見制度の改正後も、すべてのご家庭に同じ備えが必要になるわけではありません。

本人に必要な支援や将来の不安を整理し、任意後見・遺言なども含めて、今から確認しておきたいことを一緒に整理します。

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