はじめに:なぜ「障害者支援記録の書き方」で悩むのか?
障害者支援施設や事業所にとって、「支援記録」は日々の業務の中で非常に重要な位置を占めます。
- 利用者の変化や成長を客観的に把握するため
- 支援の根拠を明確にし、質の向上を図るため
- 監査や実地指導で適正なサービス提供を証明するため
しかし、毎日の業務に追われ、「どんなことを、どこまで、どう書けば良いのか?」と悩む支援者の方が多いのも事実です。
特に、支援記録は単なる「日誌」ではありません。それは、利用者の権利擁護と、事業所の安定運営を支える専門性の高い公的な文書なのです。
🌟 支援記録の基本原則:押さえるべき3つのポイント
良い支援記録を書くために、まずこの3つの基本原則を頭に入れましょう。
1. 事実と解釈を明確に分ける
客観的な事実(いつ、どこで、誰が、何を、どうした)と、それに対する支援者の解釈・評価を混ぜないことが鉄則です。
❌ NG例: 「Aさんは今日もやる気がなく、食事を残した。」(解釈・感情が入っている)
✅ OK例: 「Aさんは、配膳された食事を半分残した。その際、目線を合わせず下を向いていた。」(事実のみ)
2. 5W1Hを意識し、具体的に記述する
「何をしたか」だけでなく、「なぜその支援をしたのか」「結果どうなったか」までを具体的に記述します。特に支援の目的と結果が重要です。
3. 専門性・目的意識を持って記述する
「大変だった」「頑張った」といった個人的な感想ではなく、専門職として「個別支援計画に沿って」「課題解決のために」どのような関わりをしたのかを記述します。
✍️ 【場面別】支援記録の具体的な記入例20選とNG表現
ここでは、支援の場面ごとに「良い記録」と「悪い記録(NG表現)」の具体的な例文を比較して解説します。
I. 日常生活支援・食事(5例)
| 場面 | 良い記録(OK例) | NG表現(悪い記録) |
|---|---|---|
| 食事の拒否 | 「食事介助時、『いらない』と首を横に振り拒否。無理強いせず、10分後再度声かけ。『一口だけ』と誘導し、大根の煮物2切れを摂取。拒否の理由について傾聴するも発言なし。」 | 「食事を拒否されて大変だった。結局あまり食べてくれなかった。」 |
| 偏食への対応 | 「個別支援計画の目標『野菜を一口食べる』に基づき、今日はかぼちゃの天ぷらを一口サイズで提供。完食後、笑顔が見られたため『美味しいね』と声をかけた。」 | 「かぼちゃをちゃんと食べた。えらい。」 |
| 誤嚥リスク | 「嚥下体操後に食事開始。プリンを嚥下時、微かにむせが見られた。直後に姿勢を90度に直し、ゆっくり咀嚼を促したところ、その後は問題なく完食。」 | 「食事中にむせて焦ったが、その後は大丈夫だった。」 |
| 食事量の変化 | 「いつもは完食するが、今日はごはんを3分の1残す。体温は平熱。食後の表情に変化なし。明日も食事量に注意して観察する。」 | 「あまり食べなかった。体調が悪いのか?」 |
| 休憩中の様子 | 「食後、ソファーで静かに過ごす。利用者Bさんが声をかけたが、無言で目を閉じたまま。大きな変化は見られないが、本日は様子を見守る。」 | 「Bさんに話しかけられても無視していた。」 |
II. 余暇・活動支援(5例)
| 場面 | 良い記録(OK例) | NG表現(悪い記録) |
|---|---|---|
| グループ活動 | 「塗り絵活動で、利用者Cさんと色の選び方で口論になりかけた。間に割って入り、『順番に選ぼう』とルールを再確認。Cさんは納得し、塗り絵を再開。トラブルを未然に防いだ。」 | 「利用者同士で喧嘩になりそうになった。介入して何とか収まった。」 |
| 外出支援 | 「電車移動中、大きな声で独り言を始める。事前に決めていた声かけサイン(肩をたたく)を実施したところ、声量が小さくなった。公共交通機関でのルール学習に効果あり。」 | 「電車でうるさかったので注意した。」 |
| 作業への集中 | 「内職作業(シール貼り)開始から15分で集中力が途切れる様子。休憩誘導せず、タイマーを使い『あと5分頑張ってみよう』と声かけ。結果、目標の20分集中を達成。」 | 「集中力がなくて困る。」 |
| 好きな活動 | 「趣味の将棋を30分間熱心に行う。対戦相手のDさんと和やかな雰囲気で会話。本人の自信と意欲向上につながっている様子。」 | 「今日も将棋をしていた。楽しそうだった。」 |
| 疲労への配慮 | 「午後のレクリエーション中、頻繁にあくびが見られたため、個別に声をかけ別室で30分の休憩を促す。休息後、表情が改善したため活動へ戻る。」 | 「疲れているようだった。」 |
III. 行動障害・体調不良への対応(5例)
| 場面 | 良い記録(OK例) | NG表現(悪い記録) |
|---|---|---|
| 自傷行為 | 「自分の手の甲を叩く行為が5回発生。原因として『職員の交代』と特定。新しい職員が席を立つ際、手を握り『また戻るからね』と声かけ。その後、行為は止まった。」 | 「突然手を叩き始めた。原因不明。」 |
| 拒否・抵抗 | 「入浴介助時、強く抵抗(浴槽の縁を掴む)。入浴の必要性を伝え、好きな歌を歌いながら誘導。約5分後に抵抗が収まり、入浴成功。本人の不安軽減が課題。」 | 「入浴を嫌がって大変だった。無理やり入れた。」 |
| 突発的な発言 | 「突然、『家に帰りたい』と大声を出す。落ち着くまで背中をさすり、静かな場所へ移動。『不安なことはあるか』と傾聴し、5分後落ち着きを取り戻した。」 | 「感情的になっていた。」 |
| 発熱時の対応 | 「10:00検温時、37.8℃の発熱。平熱は36.5℃。顔面紅潮が見られるため、午前中の活動を中止し臥床を促す。11:00、医師に状況報告。指示待ち。」 | 「熱が出たので休ませた。病院に電話した。」 |
| 服薬管理 | 「19:00、頓服薬(頭痛薬)服用を希望。発熱はなく、頭痛の訴えのみのため、医師の指示書に従い内服確認。内服後30分で『楽になった』と発言あり。」 | 「薬をあげた。」 |
IV. 家族・他機関との連携(5例)
| 場面 | 良い記録(OK例) | NG表現(悪い記録) |
|---|---|---|
| 家族との面談 | 「母親と面談。家庭での排泄状況について情報共有。自宅でも日中は1時間ごとのトイレ誘導を試みるとの合意を得る。来週月曜日に再度状況確認の電話をする。」 | 「お母さんと色々と話した。家でも頑張るらしい。」 |
| 医療機関連携 | 「歯科受診に同行。虫歯治療完了。歯科医より『定期的なフッ素塗布を』と指示あり。次回の定期受診は3ヶ月後で予約済み。」 | 「歯医者に行った。治療が終わった。」 |
| 他事業所連携 | 「(移動支援事業所)〇〇ヘルパーステーションと情報交換。移動中の利用者Fさんの表情が先週から硬いとの情報。原因を探るため、今週はレクリエーション中の表情に注力して観察する。」 | 「ヘルパーさんから変な情報をもらった。」 |
| 苦情・意見 | 「利用者Gさんより『午後の活動がつまらない』との意見あり。活動内容のアンケート実施を検討し、管理者に報告。次週、本人に改善策を説明する予定。」 | 「クレームが入った。」 |
| 個別支援計画会議 | 「サービス担当者会議実施。行動障害支援計画の変更について、主治医と意見交換。『支援者の統一した関わりが重要』との助言を得た。」 | 「会議をした。」 |
⚠️ 監査や実地指導で指摘されるNG表現と対処法
支援記録で最も問題になるのは、「サービス提供の根拠が不明確」な記述です。特に以下のNG表現は、実地指導で必ず指摘されます。
| NG表現(一例) | 指摘理由 | 代替するOK表現 |
|---|---|---|
| 「通常通り」 | 何をもって「通常通り」なのか不明確。支援の質が伝わらない。 | 「個別支援計画に沿った排泄誘導を実施。発語なく排泄完了。笑顔が見られた。」など、具体的に記述。 |
| 「頑張った」 | 支援者の主観・感情であり、客観的な事実ではない。 | 「職員の声かけに対し、自力での着替えに成功。自尊感情の向上につながった。」など、客観的事実と効果を記述。 |
| 「問題なし」 | 観察の視点や、異常がなかったことの根拠が不明確。 | 「体温・脈拍に変化なし。特に変わりなく穏やかに過ごす。活動にも意欲的であった。」など、観察内容を記述。 |
🚨 あなたの事業所の支援記録、本当に大丈夫ですか?
例文を読んで、「うちの記録はNG例ばかりかもしれない」「監査に耐えられる自信がない」と感じた方もいるかもしれません。
特に、お問い合わせが激増しているこの時期は、多くの事業所で記録の見直しや整備が急務となっています。
質の高い支援記録は、加算の根拠となり、職員の専門性向上につながり、何より利用者の未来を守ります。逆に、不適切な記録は、指導や報酬返還のリスクを高めてしまいます。
✅ 以下のチェックリストに一つでも当てはまる方は、すぐに専門家にご相談ください
- 支援記録が「何をしたか」の羅列で、「なぜそうしたか(支援の目的)」が書けていない
- 職員によって記録の質に大きなバラつきがあり、統一できていない
- 過去の実地指導や監査で「記録不備」を指摘された経験がある
専門家による支援記録のレビューと指導は、事業所の安定的な運営と支援の質の担保に直結します。
監査・実地指導対策は待ったなし!
「うちの記録は大丈夫か?」と不安を感じた今が改善のチャンスです。
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記録のプロが、監査で指摘されやすいポイントを的確にお伝えし、具体的な改善策をご提案いたします。
🎯 次の行動へ!記録を「武器」に変えるためのアクション
このブログを読んだだけで終わっては、何も変わりません。良い記録を書くための「知識」を行動に移すことが重要です。
【知識の定着】
今回紹介した「良い記録の原則」を、事業所内の支援記録フォーマットに貼り出す。
【練習と共有】
職員会議などで、NG例をOK例に直す訓練を週に一度行う。
【専門家の活用】
記録のレベルを劇的に上げるため、外部の専門家による研修や指導を受ける。
事業所の支援記録の質を一気に引き上げるには、プロの視点を取り入れた体系的な指導が最も効果的です。特に、加算取得や実地指導対応を見据えた記録の書き方は、独学では難しい部分が多いです。
支援記録の質を最短で向上させたい方へ
当事務所では、貴事業所の個別支援計画や現状の課題に合わせた支援記録の専門研修を実施しています。
現場の職員様が「監査対策」と「支援の質の向上」を両立できる記録を作成できるように、具体的な文例と指導方法をプロの視点でお伝えします。
研修実施に関するご相談・お見積もりは、どうぞお気軽にお問い合わせください。
初回相談は完全無料です。貴事業所の課題を丁寧にお聞きしてから、最適なプランをご提案いたします。
📌 まとめ:支援記録は「利用者の声」であり「事業所の命綱」
支援記録は、単なる事務作業ではなく、利用者の生活の質と、あなたの事業所の適正運営を証明する命綱です。
本日ご紹介した例文を参考に、客観的事実に基づき、目的意識を持った「伝わる記録」の作成を目指してください。
そして、より確実な実地指導対策と質の向上をお望みであれば、迷わず専門家である当行政書士にご相談ください。
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