障がいのある子に財産を残す遺言書|遺言執行者の選び方を行政書士が解説

障がいのある子や家族の将来を考えたとき、

「自分が亡くなったあと、生活に困らないよう財産を残したい」

と考える方は少なくありません。

ただし、財産を多く残せば、それだけで安心できるとは限りません。

誰に、どの財産を、どのような割合で残すのか。預貯金や不動産の名義変更を誰が進めるのか。本人が財産を管理することが難しい場合、誰がその後の生活を支えるのか。

こうした点を整理せずにいると、せっかく財産を残しても、実際の相続手続きで家族が困ることがあります。

遺言書は、財産の承継方法について、自分の意思を残すための有力な手段です。

この記事では、障がいのある子や家族へ財産を残す場合の遺言書と、遺言の内容を実行する「遺言執行者」の選び方を解説します。

目次

遺言書がない場合はどうなる?

遺言書がない場合、亡くなった方の財産は、原則として民法で定められた相続人が相続します。

相続人が複数いる場合は、遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを決めることになります。

しかし、障がいのある相続人がいる場合には、本人の判断能力や成年後見制度の利用状況などによって、手続きが複雑になることがあります。

例えば、本人が遺産分割協議の内容を十分に理解して意思表示することが難しい場合、成年後見人等の選任が必要になることがあります。

また、成年後見人と本人の利益が対立する場合には、別途、特別代理人等の選任が必要になる可能性もあります。

遺言書があれば遺産分割協議を完全に避けられるとは限りませんが、誰にどの財産を取得させるかを明確にすることで、相続手続きを進めやすくできます。

遺言書で決められること

遺言書では、主に次のような内容を定められます。

  • 特定の相続人に預貯金や不動産を相続させる
  • 法定相続分とは異なる割合で財産を分ける
  • 相続人以外の人や団体へ財産を遺贈する
  • 遺言執行者を指定する
  • 子の認知など、法律で認められた身分上の事項を定める

一方、遺言書で決められるのは、主として財産の承継や法律上の事項です。

「毎週、本人の様子を見に行ってほしい」

「この福祉サービスを利用してほしい」

「兄弟姉妹が生涯にわたって生活を支えてほしい」

といった生活上の希望を書いても、それだけで家族へ法的義務を負わせられるわけではありません。

遺言書は大切ですが、遺言書だけで親なきあとに必要な支援のすべてを整えられるものではない、という点には注意が必要です。

自筆証書遺言と公正証書遺言

一般的に利用される遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書の本文、作成日、氏名を自書し、押印して作成します。

財産目録については、パソコンで作成した書面や不動産の登記事項証明書、預金通帳のコピーなどを添付することもできます。ただし、自書しない財産目録の各ページには、遺言者の署名と押印が必要です。

自筆証書遺言は、自分で作成できるため、費用を抑えやすい方法です。

一方で、日付や署名、財産の特定方法などに不備があると、遺言の一部または全部が無効になるおそれがあります。

また、自宅で保管している場合は、紛失、破棄、改ざん、相続人に発見されないといったリスクもあります。

法務局の遺言書保管制度

自筆証書遺言は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管することもできます。

この制度を利用すると、遺言書の原本と画像データが法務局で管理され、紛失や改ざんを防ぎやすくなります。また、法務局で保管された遺言書については、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要です。

ただし、法務局が確認するのは主に形式面です。

保管された遺言書の内容が法的に有効であることや、遺言内容が本人の希望を適切に実現できることまで保証する制度ではありません。

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言者本人が公証人と証人2名の前で遺言内容を伝え、公証人がその内容を公正証書として作成する方法です。

公証人が本人の意思を確認し、法律で定められた方式に従って作成するため、自筆証書遺言に比べて方式不備のリスクを抑えやすいという特徴があります。

原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配も少なく、相続開始後の家庭裁判所による検認も必要ありません。

一方で、財産額などに応じた公証人手数料がかかり、証人2名を用意する必要があります。推定相続人や遺贈を受ける人、その配偶者や直系血族などは証人になれません。適切な証人がいない場合は、公証役場に相談できます。

障がいのある子への財産の残し方や、遺言執行者の指定など、検討事項が多いケースでは、公正証書遺言が有力な選択肢になります。

障がいのある子への財産の残し方

障がいのある子へ財産を残す場合も、単純に預貯金の金額だけを決めればよいわけではありません。

次のような点を整理する必要があります。

  • 本人が預貯金を自分で管理できるか
  • 不動産を相続して管理・売却できるか
  • 兄弟姉妹など、ほかの相続人との関係
  • 現在利用している福祉制度
  • 成年後見制度の利用状況
  • 相続税や不動産登記などの手続き
  • 本人の生活費として、いつ、どのように使うか

例えば、自宅不動産を残しても、本人がその家で暮らさない場合は、固定資産税、修繕、売却などの管理が必要です。

反対に、生活費として預貯金だけを残しても、本人が大きな金額を管理することが難しければ、別の財産管理方法を検討する必要があります。

大切なのは、財産を「いくら残すか」だけでなく、本人がその財産を実際に使える状態にすることです。

遺留分にも注意する

遺言書を作成するときは、ほかの相続人の遺留分にも注意が必要です。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の法定相続人に認められた、最低限の遺産取得分です。

例えば、障がいのある子にすべての財産を相続させる遺言書を作成した場合でも、ほかの子や配偶者から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

遺留分を侵害する遺言書が直ちに無効になるわけではありません。

ただし、相続開始後に金銭の請求が発生すると、障がいのある本人や遺言執行者が対応しなければならなくなることがあります。

本人に多くの財産を残したい場合でも、ほかの相続人との関係や遺留分を踏まえて設計することが重要です。

遺言執行者とは

遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を実現するために、相続手続きを行う人です。

具体的には、遺言内容に応じて、

  • 相続人や受遺者への通知
  • 相続財産の調査と財産目録の作成
  • 預貯金の解約や名義変更
  • 不動産の相続登記に必要な手配
  • 遺贈の実行
  • 関係者への報告

などを行います。

遺言執行者がその権限内で行った行為は、相続人に対して直接効力を生じます。相続法改正では、遺言執行者の権限も明確化されています。

遺言書を作るだけでなく、誰が実際の手続きを進めるのかまで決めておくことが大切です。

家族を遺言執行者にしてもよい?

遺言執行者に特別な資格は必要ありません。

そのため、成人している子や親族など、家族を遺言執行者に指定することもできます。

家族であれば、本人の事情や家庭の状況を理解しているという利点があります。

一方で、次のような負担が生じる可能性があります。

  • 相続人や金融機関との連絡
  • 戸籍や財産資料の収集
  • 預貯金・不動産などの名義変更
  • ほかの相続人との調整
  • 遺言内容に対する不満への対応
  • 長期間にわたる財産整理

家族自身が相続人である場合には、ほかの相続人から中立性を疑われることもあります。

遺言内容が単純で、家族関係も良好な場合は家族でも対応できますが、不動産がある場合、相続人が多い場合、遺贈がある場合などは、専門職を遺言執行者に指定することも検討できます。

遺言執行者を選ぶポイント

遺言執行者を選ぶときは、次の点を確認しましょう。

遺言内容を正確に実行できるか

遺言執行者には、戸籍、預貯金、不動産などに関する手続きの理解が必要です。

単に家族から信頼されているだけでなく、必要な事務を最後まで行えるかを考えます。

中立性を保てるか

相続人間で意見が対立する可能性がある場合は、特定の相続人だけに近い立場の人を選ぶことで、トラブルが大きくなることがあります。

長期間対応できるか

財産の種類や相続人の状況によっては、遺言執行が完了するまで時間がかかります。

遺言者と年齢が近い人を指定する場合は、将来その人が職務を行えるかも考える必要があります。

障がいのある本人の状況を理解できるか

障がいのある本人が財産を取得する場合は、形式的に財産を渡すだけでなく、その後の生活や支援者との関係を理解していることも重要です。

必要な専門家と連携できるか

不動産登記は司法書士、税務申告は税理士、相続人間の紛争は弁護士など、手続きによって必要な専門職は異なります。

すべてを一人で抱え込まず、適切な専門家へ依頼できる人が望ましいでしょう。

遺言書だけでは生活支援まで決められない

遺言書は財産の承継には役立ちますが、本人の生活を継続的に支える仕組みではありません。

本人の判断能力や支援状況によっては、

  • 成年後見制度
  • 任意後見契約
  • 日常生活自立支援事業
  • 福祉サービス
  • 家族や支援者との情報共有
  • 信託を利用した財産管理

などを組み合わせて検討する必要があります。

一定の障がいがある方の生活費などに充てるため、信託会社等へ財産を信託する「特定障害者扶養信託」という制度もあります。

一定の要件を満たす場合、信託受益権の価額について、特別障害者は6,000万円まで、それ以外の一定の特定障害者は3,000万円まで、贈与税が非課税となります。

ただし、利用できる人や財産、契約条件が決められているため、遺言書の代わりに誰でも利用できる制度ではありません。

遺言、成年後見、信託は、それぞれ役割が異なります。

一つの制度ですべてを解決しようとせず、本人の生活状況に合わせて組み合わせることが大切です。

行政書士田中慶事務所がお手伝いできること

行政書士田中慶事務所では、障がいのある子や家族へ財産を残したい方について、

  • 家族構成と相続関係の整理
  • 本人の希望や生活状況の聞き取り
  • 預貯金、不動産などの財産整理
  • 遺言内容の原案作成支援
  • 公正証書遺言作成に必要な資料整理
  • 公証役場との連絡調整
  • 遺言執行者に関する相談
  • 成年後見制度や信託など、関連制度の整理

をお手伝いします。

公正証書遺言は、最終的には遺言者本人が公証人へ意思を伝え、公証人が作成します。本人に代わって遺言をすることはできません。

また、不動産の相続登記は司法書士、具体的な相続税や贈与税の判断は税理士、相続人間に争いがある場合や紛争が予想される場合は弁護士の領域です。

必要に応じて各専門職と連携しながら、手続きを整理します。

まとめ|財産の額だけでなく、渡した後まで考える

障がいのある子や家族へ財産を残す場合、遺言書は重要な備えの一つです。

ただし、遺言書を作る目的は、単に相続人や金額を書くことではありません。

  • 誰にどの財産を残すのか
  • 本人がその財産を管理できるか
  • 遺留分への配慮が必要か
  • 誰が相続手続きを進めるのか
  • 遺言執行者を家族にするか専門職にするか
  • 遺言書以外に生活支援や財産管理の仕組みが必要か

まで考える必要があります。

遺言書を作ったあと、実際に財産を受け取る人が困らないこと。

そして、本人がその財産を生活のために使えること。

そこまで見据えて準備することが、障がいのある家族の将来を支える遺言につながります。

障がいのあるご家族へ財産を残すときは、遺言書の内容だけでなく、財産を受け取った後の管理や生活支援まで考える必要があります。

家族構成や財産、本人の生活状況を整理し、公正証書遺言や親なきあとの備えについて一緒に考えます。

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