※この記事は2026年8月時点の制度・実務に合わせて内容を確認し、全面的に更新しています。
現在は大阪市中央区で行政書士事務所を開業し、障がいのある方やご家族からのご相談、遺言書・任意後見契約などの書類作成支援を行っています。
はじめに|「親なきあと」は一つの制度だけでは解決できない
障がいのある方や、そのご家族にとって、「親が高齢になった後、本人の生活はどうなるのか」という問題は、簡単に答えを出せるものではありません。
私自身も障がいがあり、母が高齢になっていく現実と向き合っています。そのため、「親なきあと」は、制度だけを説明すれば済む問題ではないと感じています。
親なきあとに備えるためには、少なくとも次のようなことを分けて考える必要があります。
- 本人の日常生活を誰が支えるのか
- 福祉サービスの利用を誰が支えるのか
- 本人の財産を誰が管理するのか
- 親の財産を本人へどのように引き継ぐのか
- 住まいをどのように確保するのか
- 本人の希望や特性を誰に伝えるのか
任意後見、法定後見、遺言、信託、障がい者扶養共済などには、それぞれ異なる役割があります。
どれか一つを利用すればすべて解決するわけではなく、本人と家族の状況に応じて、複数の方法を組み合わせることが大切です。
1.任意後見制度で備えられること
任意後見制度とは
任意後見制度とは、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、任意後見人となる人と、任せる事務の内容を決めておく制度です。
任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって締結しなければなりません。
契約を結んだだけでは、任意後見人の仕事は始まりません。
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から、任意後見契約の効力が生じます。
任意後見人へ任せられる主な事務
- 預貯金や不動産などの財産管理
- 家賃、医療費、施設費などの支払い
- 介護・福祉サービスに関する契約
- 入院や施設入所に関する契約
- 行政機関への手続
実際に任せられる事務は、任意後見契約で定めた代理権の範囲に限られます。
また、任意後見人には、本人が行った契約を取り消す権限はありません。
親の任意後見と子どもの支援は別に考える
親が任意後見契約を結んだ場合、その任意後見人が管理するのは、原則として契約を結んだ親本人の財産や生活に関する事務です。
そのため、親の任意後見契約を結んだだけで、任意後見人が障がいのある子どもの後見人になったり、子どもの財産を管理したりできるわけではありません。
たとえば、親の財産から子どもの生活費を支出することを希望する場合は、親本人の利益や意思に沿った内容として、どこまで代理権へ盛り込めるのかを慎重に検討する必要があります。
一方、障がいのある本人について財産管理や契約支援が必要な場合は、本人の判断能力に応じて、本人自身の任意後見契約や、法定後見制度などを別に検討します。
2.法定後見制度を検討する場合
すでに本人の判断能力が不十分で、任意後見契約を結ぶことが難しい場合は、法定後見制度を検討することがあります。
法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の三つの類型があります。
法定後見人等は家庭裁判所が選任します。家族が希望した人が必ず選ばれるとは限らず、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職や法人が選任される場合もあります。
法定後見制度には、本人の財産や権利を守る役割がありますが、日常生活上のすべての支援を後見人等が直接行う制度ではありません。
福祉サービス、相談支援、医療、住まい、地域とのつながりなどについては、別の支援者や機関と連携する必要があります。
3.遺言書で財産の引継ぎを決める
親が亡くなった後、親の財産は相続人へ引き継がれます。
遺言書がなければ、原則として法定相続分を前提に、相続人同士で遺産分割について話し合います。
しかし、障がいのある相続人が遺産分割協議の内容を十分に理解して判断することが難しい場合、成年後見人等の選任が必要になることがあります。
遺言書を作成しておけば、親の財産を誰に、どのような割合で引き継がせるのかを、あらかじめ定めることができます。
遺言書で検討できること
- 障がいのある子どもへ相続させる財産
- 兄弟姉妹など、ほかの相続人へ引き継ぐ財産
- 不動産を誰に相続させるか
- 遺言内容を実行する遺言執行者
- 本人を支える家族への希望
ただし、本人へ多額の財産を直接相続させても、本人自身で管理することが難しければ、別の財産管理方法が必要になります。
また、ほかの相続人の遺留分や、相続税、本人が受けている公的給付への影響なども踏まえて設計する必要があります。
4.信託を利用して財産の使い方を定める
信託とは、財産を持つ人が、信頼できる人や信託会社などへ財産を託し、あらかじめ定めた目的に従って管理・給付してもらう仕組みです。
親の預貯金や不動産を、障がいのある子どもの生活費、医療費、住居費などに使う仕組みを設計できる場合があります。
信託で検討できること
- 誰に財産を管理してもらうか
- どの財産を信託するか
- 本人へ毎月いくら給付するか
- 医療費や施設費をどのように支払うか
- 本人が亡くなった後の残余財産を誰へ渡すか
信託は、財産の管理方法を柔軟に設計できる可能性があります。
一方で、信頼できる受託者を確保できるか、長期間にわたって適切に管理できるか、税務や不動産登記にどのような影響があるかなど、専門的な検討が必要です。
信託だけで、本人の身上保護や福祉サービス契約などのすべてを担えるわけでもありません。
5.障がい者扶養共済制度を利用する
障がい者扶養共済制度は、障がいのある方を扶養している保護者が掛金を納め、加入者である保護者が死亡または重度の障がいとなった場合に、障がいのある方へ終身にわたり年金を支給する制度です。
制度への加入は任意で、加入者の年齢、健康状態、障がいのある方の要件などが定められています。
大阪府の制度では、年金額は1口当たり月額2万円で、障がいのある方1人につき2口まで加入できます。
掛金は加入者の加入時年齢によって異なり、世帯の所得状況などに応じて減免を受けられる場合があります。
確認しておきたい点
- 加入できる保護者の年齢と健康状態
- 障がいのある方が対象要件を満たすか
- 毎月の掛金額
- 掛金の減免制度
- 加入者が死亡・重度障がいとなった場合の給付条件
- 脱退した場合の取扱い
制度内容や申請窓口は居住地によって異なるため、自治体の障がい福祉担当窓口で確認する必要があります。
6.住まいと日常生活の支援を準備する
財産管理の仕組みを整えても、本人が暮らす場所や日常生活の支援が決まっていなければ、親なきあとへの準備として十分とはいえません。
住まいの選択肢
- 現在の自宅で暮らし続ける
- 兄弟姉妹や親族と暮らす
- 共同生活援助(グループホーム)を利用する
- 一人暮らしと居宅介護などを組み合わせる
- 障害者支援施設などへの入所を検討する
グループホームは、空きがあればすぐ入居できるとは限りません。
本人の障がい特性、必要な支援、医療的ケア、日中活動、立地、費用、職員体制などによって、合う住まいは異なります。
親が支援できなくなってから初めて探すのではなく、本人が元気なうちから見学や体験利用を行い、地域とのつながりをつくっておくことが大切です。
本人の情報を「引き継げる形」にしておく
親や家族の頭の中にしかない情報は、その人が支援できなくなったときに失われる可能性があります。
エンディングノートや生活支援ノートなどを利用し、本人に必要な情報を書き残しておくことも重要です。
書き残しておきたい情報
- 本人の希望する暮らし方
- 障がいや病気の状態
- 服薬内容と通院先
- 苦手なことや不安になりやすい場面
- 落ち着くために有効な方法
- 食事、睡眠、金銭管理などの日常生活上の注意点
- 利用している福祉サービス
- 相談支援専門員や事業所などの連絡先
- 本人と親族・支援者との関係
- 財産、保険、年金、契約などの情報
エンディングノートには、遺言書のような法的効力はありません。
財産の相続方法は遺言書で定め、本人の生活や支援に関する情報はエンディングノートなどで伝えるというように、役割を分けて考えます。
親なきあとへの準備は、順番を決めて進める
親なきあとへの備えを一度にすべて決める必要はありません。
まずは、次の順番で現在の状況を整理します。
- 本人が現在どのような生活をしているか
- 家族が現在担っている支援は何か
- 将来、その支援を誰に引き継ぐ必要があるか
- 本人の判断能力と意思確認の状況
- 本人と家族の財産・収入・支出
- 利用できる福祉サービスと相談先
- 必要となる契約や書類
財産管理だけを先に決めるのではなく、本人の生活、住まい、福祉サービス、支援者、医療、権利擁護などを一つずつ整理することが大切です。
相談先は一つに限定しない
親なきあとへの準備には、複数の専門職や支援機関が関わります。
- 市区町村の障がい福祉担当窓口
- 相談支援事業所
- 基幹相談支援センター
- 社会福祉協議会
- 成年後見支援センター
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
- 社会福祉士
行政書士は、本人や家族の希望を整理し、遺言書、任意後見契約、財産管理等委任契約などの書類作成を支援できます。
一方、家庭裁判所へ提出する申立書類の作成や申立代理、紛争の解決、信託や相続に伴う税務申告、不動産登記などは、それぞれ弁護士、司法書士、税理士などとの連携が必要です。
まとめ
障がいのある方の親なきあとに備えるためには、任意後見制度だけでなく、法定後見、遺言書、信託、障がい者扶養共済、住まい、福祉サービスなどを組み合わせて考える必要があります。
親の任意後見契約と、障がいのある本人の財産管理・生活支援は、同じ問題ではありません。
誰の財産を、誰が、どのような権限で管理するのか。本人の日常生活を誰が支え、希望を誰に伝えるのか。それぞれを分けて整理することが重要です。
すべての不安を完全になくすことは難しいかもしれません。
それでも、本人と家族が元気なうちに話し合い、必要な制度や支援者とのつながりを少しずつ準備しておくことで、将来の選択肢を増やすことはできます。
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