「次の報酬改定で、B型の報酬が下がるのではないか」
「事業所数を減らす方向に進むのではないか」
「今の運営を続けていて、本当に大丈夫なのだろうか」
2026年7月21日に政府の「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる骨太方針2026が閣議決定されたことを受け、このような不安を感じている障がい福祉事業所の管理者・経営者も少なくないのではないでしょうか。
今回、特に注目されているのが、次の方針です。
障害福祉サービス等の費用の急伸への対応を含め、サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性のための報酬・制度の在り方を検討する。
「費用の急伸への対応」という強い表現が使われたため、一部では報酬の適正化、つまり報酬の引下げを含む議論に発展するのではないかという見方も出ています。
しかし、最初に明確にしておかなければならないことがあります。
今回決まったのは、障害福祉サービス費の伸びを踏まえ、サービスの質と制度の持続可能性を両立させるために、今後の報酬・制度の在り方を検討するという方向性です。具体的な対象サービスや報酬単位、算定要件などは、まだ決まっていません。
それでは、事業所は何もせずに今後の発表を待っていればよいのでしょうか。
私は、そうは考えていません。
行政書士として障がい福祉事業所の運営支援に携わり、自分自身も福祉サービスを利用してきた当事者として、今後重要になるのは、単に書類をそろえることではなく、自分たちが行っている支援を、記録と数字を使って説明できる状態にしておくことだと考えています。
この記事では、骨太方針2026で決まったことと、まだ決まっていないことを整理したうえで、特に就労継続支援B型事業所の管理者・経営者が、今から確認しておきたいポイントを解説します。
1.骨太方針2026で「決まったこと」
政府文書を読む際に最も注意したいのは、「決定事項」と「今後検討する事項」を混同しないことです。
骨太方針2026では、医療・介護・障害福祉などについて、主に次の方向性が示されています。
- DXやAIの活用、生産性向上を進めること
- 経営情報の見える化を進めること
- 事業者の経営の安定を図ること
- 介護・障害福祉職員の処遇改善を進めること
- 賃上げや事業者の経営状況を把握すること
- 物価変動に適切に対応すること
- 障害福祉サービス費の急伸への対応を検討すること
- サービスの質と制度の持続可能性を両立できる報酬・制度を検討すること
つまり、政府は一方で職員の処遇改善や経営の安定を目指しながら、もう一方で、増加を続ける障害福祉サービス費についても検証を進める方針を示したことになります。
ここで決まったのは、あくまで今後の検討の方向性です。
現時点では、次のようなことは決まっていません。
- 就労継続支援B型の基本報酬を引き下げる
- 児童発達支援や放課後等デイサービスの報酬を削減する
- 特定のサービスについて事業所数を制限する
- 特定の法人類型を報酬上不利に扱う
- 新しい減算や加算要件を設ける
報道では、障害福祉分野に絞って「費用の急伸」という厳しい表現が使われたことから、報酬の適正化も視野に入る可能性があると分析されています。
ただし、これは今後の展開についての分析です。政府が具体的な報酬削減を決定したわけではありません。
「報酬削減が決まった」と断定してしまうと、事実とは異なる情報を事業所や利用者に伝えることになります。
2.それでも「何も決まっていない」で終わらせてはいけない理由
具体的な報酬改定の内容が決まっていないのであれば、今は何もしなくてもよいのでしょうか。
私は、そうではないと考えています。
骨太方針は、翌年度以降の予算編成や制度改革の基本的な方向を示す文書です。
そこに「障害福祉サービス等の費用の急伸への対応」が明記された以上、今後の報酬改定の議論では、少なくとも次のような点が検証される可能性があります。
- どのサービスの費用が伸びているのか
- 費用の増加は利用者数の増加によるものか
- 1人当たりの給付費が増えているのか
- 加算が制度の趣旨に沿って算定されているか
- 人員配置と実際の支援内容が一致しているか
- 支援の質や成果をどのように評価するか
- 事業者の経営状況は実際に厳しいのか
- 処遇改善が職員の賃金にどう反映されているか
令和9年度の障害福祉サービス等報酬改定に向けた検討は、すでに厚生労働省の報酬改定検討チームで始まっています。
今後は、関係団体からのヒアリング、各種調査、経営実態の把握などを通じて、サービスごとの課題が整理されていくことになります。
したがって、現在の段階で重要なのは、報酬が上がるか下がるかを予想することではありません。
どのような改定になっても、自事業所の運営を説明できる状態をつくっておくことです。
3.B型事業所の管理者・経営者に確認してほしい5つの質問
ここからは、就労継続支援B型事業所を想定して、今のうちに確認しておきたいポイントを挙げます。
次の質問に、自信を持って答えられるでしょうか。
① 個別支援計画と日々の支援記録はつながっていますか
個別支援計画には具体的な目標が書かれているものの、日々の支援記録には、その目標に関係する支援内容や利用者の変化がほとんど記載されていないケースがあります。
反対に、支援記録には多くの出来事が書かれていても、個別支援計画の内容が長期間見直されず、実際の支援と計画がずれていることもあります。
個別支援計画、日々の支援記録、モニタリングは、それぞれ独立した書類ではありません。
本来は、
という一連の流れになっている必要があります。
形式上すべての書類が存在していても、このつながりを説明できなければ、支援の実態が見えにくくなります。
② 毎日の支援記録から、事業所の支援内容を説明できますか
支援記録が毎日ほぼ同じ文章になっていないでしょうか。
「変化なし」「作業に取り組まれた」「声かけを行った」といった記載だけが続いている場合、その記録から具体的な支援内容を読み取ることは難しくなります。
支援記録には、長い文章を書く必要はありません。
重要なのは、少なくとも次の関係が分かることです。
- 利用者がどのような状態だったか
- 職員がどのような支援をしたか
- 支援に対して利用者がどのように反応したか
- 次の支援で何を確認する必要があるか
支援の質は、書類の文字数だけで決まるものではありません。
しかし、実際に行った支援が記録に残っていなければ、第三者に対して、その支援が存在したことを説明するのは難しくなります。
③ 加算の算定根拠を、すぐに提示できますか
加算は、届出を提出すれば自動的に算定できるものではありません。
加算ごとに定められた人員配置、支援の実施、会議、記録、情報共有などの要件を、継続して満たす必要があります。
管理者やサービス管理責任者だけが仕組みを把握しており、現場職員は「なぜこの記録が必要なのか」を理解していない事業所もあります。
その状態では、担当者が不在になったときや、職員が入れ替わったときに、必要な記録が途切れる可能性があります。
少なくとも、算定している各加算について、
- なぜ算定できるのか
- どの書類が根拠になるのか
- 誰が作成・確認するのか
- いつまでに作成するのか
- どこに保管するのか
を説明できる状態にしておく必要があります。
④ 勤務実績と人員配置を説明できますか
勤務予定表の上では必要な職員数を満たしていても、欠勤、遅刻、早退、兼務、外出、休憩などを反映した実際の勤務状況まで確認すると、人員配置の説明が難しくなる場合があります。
確認すべきなのは、予定上の配置だけではありません。
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 資格証
- 勤務予定表
- 出勤簿やタイムカード
- 給与台帳
- 職員の兼務状況
- サービス提供時間中の配置
これらが相互に矛盾していないかを確認する必要があります。
人員配置に関する問題は、基本報酬や加算の算定にも影響する可能性があるため、単なる労務管理上の問題では済まない場合があります。
⑤ 経営情報と現場の実態がつながっていますか
今後、障害福祉分野では、経営情報の見える化がさらに進むと考えられます。
ここでいう経営情報は、単に売上や利益だけではありません。
例えば、
- 利用者数
- 利用率
- 職員配置
- 人件費
- 処遇改善の状況
- 加算の算定状況
- 支援内容
- 記録の整備状況
- 生産活動の状況
- 工賃の実績
などは、それぞれ無関係な情報ではありません。
「利用者は増えているが、職員配置は変わっていない」
「加算収入は増えているが、必要な支援記録が残っていない」
「処遇改善加算を算定しているが、職員への説明が十分に行われていない」
このような状態があれば、数字上の経営情報と実際の運営との関係を説明しにくくなります。
経営情報の見える化が進むほど、数字だけでなく、その数字がどのような運営から生まれたのかも問われるようになると、私は考えています。
4.今後、確認が厳しくなる可能性がある事業所とは
ここからは、現時点で決定された内容ではなく、私自身の見解です。
今後の報酬改定や制度見直しでは、単純に「営利法人だから」「B型だから」という理由だけで評価されるのではなく、実際の運営内容がより細かく確認されていく可能性があります。
特に注意が必要なのは、次のような状態です。
- 個別支援計画と支援記録がつながっていない
- モニタリングが形式的に作成されている
- 支援記録が毎日ほぼ同じ内容になっている
- 加算の算定根拠が担当者の頭の中にしかない
- 勤務表と実際の出勤状況が一致していない
- 在宅支援の実施内容を具体的に説明できない
- 会議、委員会、研修、訓練が実質的に行われていない
- 経営情報と現場の運営実態に大きなずれがある
- 管理者やサービス管理責任者に業務が集中している
これらは、必ずしも不正を意味するものではありません。
日々の支援や職員対応に追われた結果、記録や運営体制の整備が後回しになっている事業所も多いと思います。
しかし、悪意がなかったとしても、必要な説明ができなければ、運営指導や報酬改定後の新しい要件への対応で困る可能性があります。
大切なのは、問題が大きくなってから過去の書類を作り直すことではありません。
今の時点でずれを把握し、これからの運営を修正することです。
5.当事者でもある行政書士として感じること
障害福祉サービス費が増えているからといって、それだけで障がい福祉への支出を問題視することには、私は慎重であるべきだと考えています。
支援を必要とする人が、必要なサービスにつながれるようになった結果として、利用者数や給付費が増えている面もあるからです。
私自身、福祉サービスを利用してきた当事者です。
必要な支援まで「費用」として一律に削られてしまえば、最も影響を受けるのは、サービスを必要としている利用者と、現場で支援を続けている職員です。
一方で、制度の趣旨に沿わない運営や、実態を伴わない加算算定、利用者のためになっているのか説明できない支援まで守られるべきだとも思いません。
制度を持続させるためには、本当に必要な支援に、必要な報酬が届く仕組みでなければなりません。
そのために事業所側に求められるのは、立派な言葉を並べることではなく、
- どのような利用者に
- どのような目標を設定し
- どのような支援を行い
- どのような変化があり
- 次にどのような支援を行うのか
を、日々の記録として積み重ねていくことだと思います。
これは行政への説明のためだけではありません。
利用者本人に対して、「私たちは、あなたにこのような支援を行っています」と説明するためにも必要なことです。
6.報酬改定の内容が決まる前だからこそ、できることがある
運営指導の通知が届いてから、短期間ですべての書類を確認しようとしても、できることには限界があります。
過去に実施していない支援、会議、研修、委員会、訓練を、後から実施したことにすることはできません。
過去の支援記録についても、当時の事実を確認できない状態で、内容を作り直すことは適切ではありません。
しかし、今の段階であれば、これからの運営を変えることができます。
例えば、
- 個別支援計画と支援記録のずれを確認する
- 支援記録の書き方を職員間で統一する
- 加算ごとの必要書類と担当者を整理する
- 勤務予定と勤務実績の確認方法を見直す
- 研修、委員会、訓練の年間予定を組む
- 管理者だけに集中している業務を整理する
- 運営指導前に書類全体のリスクを確認する
といった対応ができます。
制度の詳細が決まるまで待つのではなく、現在の運営を一度立ち止まって確認する。
それが、どのような報酬改定になったとしても無駄にならない、最も現実的な備えだと私は考えています。
まとめ
骨太方針2026では、障害福祉サービス費の急伸への対応を含め、サービスの質と制度の持続可能性を確保するため、報酬・制度の在り方を検討する方針が示されました。
ただし、現時点で、B型や放課後等デイサービスなどの具体的な報酬引下げが決まったわけではありません。
今後の報酬改定に向けた議論では、サービスごとの費用、経営状況、人員配置、加算の算定状況、支援の質などが検証される可能性があります。
事業所が今から備えるべきなのは、将来の報酬単位を予想することではありません。
自分たちの支援と運営を、記録と数字によって説明できる状態にしておくことです。
特に、次の項目に不安がある場合は、一度確認しておくことをおすすめします。
- 個別支援計画と支援記録が一致しているか
- モニタリングが実際の支援評価になっているか
- 加算の算定根拠がそろっているか
- 人員配置と勤務実績が一致しているか
- 研修、委員会、訓練を計画的に実施できているか
- 管理者以外の職員も運営ルールを理解しているか
自事業所の状態を、一度整理してみませんか
「書類は一応そろっているが、内容に自信がない」
「個別支援計画と毎日の記録がつながっているか分からない」
「加算の根拠書類を求められたとき、すぐに出せるか不安がある」
「運営指導の通知が来る前に、一度全体を確認しておきたい」
このような不安がある事業所について、行政書士田中慶事務所では、現在の書類や運営状況を確認し、問題点と今後の改善方法を整理するサポートを行っています。
当事務所が行うのは、書類の見た目だけを整えることや、過去に実施していないことを実施済みに見せることではありません。
現在の運営を事実に基づいて確認し、
- 何ができているのか
- どこにリスクがあるのか
- 今後、何から改善すべきか
を、事業所の方と一緒に整理します。
制度改正や運営指導への備えは、通知が届いてから慌てて始めるよりも、通常運営の中で少しずつ整えていくほうが、職員の負担も小さくなります。
自事業所の支援記録、個別支援計画、加算書類、研修・委員会などについて、一度専門家の視点から確認しておきたい方は、行政書士田中慶事務所までご相談ください。
今後も、骨太方針2026や令和9年度報酬改定に関する公表資料について、決定事項と検討中の論点を明確に分けながら、障がい福祉事業所の実務にどのような影響があるのかをお伝えしていきます。








