就労選択支援は令和9年度報酬改定でどう位置づけられる?A型・B型・就労移行への影響を解説

目次

はじめに|「就労選択支援のその後」が報酬改定の論点へ

2026年8月27日、厚生労働省・こども家庭庁は、第62回「障害福祉報酬改定検討チーム」で、「令和9年度障害福祉報酬改定に向けた主な論点(案)」を公表しました。

その中で、就労系障害福祉サービスに関わる重要な論点が示されています。

厚生労働省は、障害者の就労を取り巻く環境について、

  • 利用者の多様化
  • 働き方の多様化
  • 新たに始まった就労選択支援
  • 障害者就労に係る雇用福祉横断検討会の議論

などを踏まえ、今後さらに就労支援のあり方を検討する必要があるとしています。

そして、想定される検討事項として示されたのが、

「障害者の希望や能力に沿った就労支援を推進するための方策」

です。

就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型にとって、これはかなり重要な論点です。

ただし、今回も最初に確認しておかなければならないことがあります。

具体的な報酬改定の内容が決まったわけではありません。

就労移行やA型・B型の報酬がどう変わるのか、新しい加算・減算が設けられるのかといった具体策は、現時点では示されていません。

今回は、すでに始まっている就労選択支援と現在進んでいる国の議論を確認しながら、令和9年度改定で「就労支援」がどのような方向から検討されようとしているのかを整理します。


そもそも就労選択支援とは?

就労選択支援は、2025年10月から始まった障害福祉サービスです。

厚生労働省は、その目的を、障害のある本人が就労先や働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して支援するものとしています。

具体的には、短期間の生産活動などを通じて、

  • 就労に関する適性
  • 知識や能力
  • 本人の就労に関する意向

などを整理し、その結果を本人と共有したうえで、必要に応じて関係機関との連絡調整等を行います。

重要なのは、

「この人はA型向き」「この人はB型向き」と第三者が振り分ける制度ではない

という点です。

厚生労働省の現在の議論でも、就労選択支援は、本人との協同によるアセスメントや情報提供を通じて、本人自身が自分の働き方を考えることを支援するものと整理されています。

つまり中心にあるのは、サービス側の都合ではなく、

「本人がどう働きたいか」

です。


なぜ今、「働き方を選ぶ」ことが重要になっているのか

背景には、障害者雇用を取り巻く環境そのものの変化があります。

厚生労働省の「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」では、障害者自立支援法が制定された当時から現在までに、一般就労の状況が大きく変化したことが整理されています。

一般企業で雇用される障害者の数は増え、短時間勤務を含めた働き方も多様になっています。

その結果、以前であれば、

「一般就労は難しい」

と考えられていた人でも、勤務時間や職務内容、合理的配慮などを調整することで一般就労の可能性が生まれるケースがあります。

逆に、障害の状態や生活状況などから、A型・B型等で継続的に支援を受けながら働くことが本人に合っているケースも当然あります。

だからこそ、

最初からサービスを固定して考えるのではなく、本人の希望や能力、適性、生活状況等を確認したうえで選択する

という考え方が重要になっています。


A型・B型を利用している人にも関係する

就労選択支援という名前から、

「これから障害福祉サービスを利用する人だけの制度」

と思われるかもしれません。

しかし、国の議論を見る限り、それだけではありません。

2026年8月の雇用福祉横断検討会の資料では、すでに就労継続支援を利用している人についても、定期的に就労選択支援に関する情報を提供することが整理されています。

そして、サービス利用を続ける中で一般就労が可能になったと見込まれる場合には、本人の希望を尊重しながら、

  • 就労移行支援
  • 一般就労

などを選択する機会を提供することとされています。

ここは、今後のA型・B型運営を考えるうえで非常に重要です。


「利用を続けてもらうこと」と「本人に合った選択」は同じではない

事業所運営には、当然ながら経営があります。

利用者が減れば、事業所の収入にも影響します。

しかし、障害福祉サービスとして考えた場合、

本人に一般就労の可能性が出てきたにもかかわらず、事業所を利用し続けてもらうことを最優先にする

という考え方は、制度本来の目的とは一致しません。

一方で、

「一般就労できそうだから、すぐ一般就労へ移行させればよい」

という話でもありません。

本人が何を希望しているのか。

働く時間や仕事内容はどうなのか。

体調や生活との両立は可能なのか。

どの程度の支援があれば働けるのか。

本人にとって現在のA型・B型での就労にどのような意味があるのか。

こうした複数の要素を見ながら判断する必要があります。

だからこそ、「選択支援」という考え方が入ってきています。


国は「一般就労か福祉的就労か」という境界そのものを検討している

2026年に設置された「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」では、さらに踏み込んだ議論が進んでいます。

8月24日の第5回検討会の中間とりまとめ素案では、一般就労における雇用機会が拡大し、働き方も柔軟になったことで、

「通常の事業所に雇用されることが困難」という状態像が、制度創設時と比べて変化している

という問題意識が示されました。

特にA型については、

適切な支援があれば雇用契約に基づいて働くことができる一方、一般企業での就労は困難である人を対象とする現在の利用者像について、制度創設当時に比べて境界が分かりにくくなっていると整理されています。

ただし、これは、

「A型を廃止する」

「A型利用者を一般就労へ移す」

と決まったという意味ではありません。

あくまで、雇用と福祉の役割を改めて整理するための検討が行われている段階です。


B型についても「一般就労だけ」がゴールではない

一方、B型について考える際にも注意が必要です。

「希望や能力に沿った就労支援」と聞くと、

B型から一般就労へ移行することが一律に求められる

ように感じるかもしれません。

しかし、現在の国の資料は、そのような単純な整理にはなっていません。

雇用福祉横断検討会では、就労系障害福祉サービス利用者の高齢化や重度化が進み、特にB型では、従来想定されてこなかった状態像の人も含めて、働くことや社会参加を希望する人が増えていることも指摘されています。

つまり、

一般就労への移行だけでサービスの価値を測ることはできない

という問題もあります。

一般就労を希望する人には、その可能性を閉ざさない支援が必要です。

同時に、一般就労だけでは対応できない多様なニーズを持つ人について、就労や社会参加の場を確保することもB型の重要な役割です。

この両方をどう制度として評価するのか。

ここが今後の議論で非常に重要になると考えられます。


令和9年度改定では「希望や能力に沿った就労支援」が論点

こうした状況を踏まえて、8月27日の報酬改定検討チームでは、

「障害者の希望や能力に沿った就労支援を推進するための方策」

が正式な検討事項として示されました。

ここで注目したいのは、

「一般就労への移行を増やすための方策」

とだけ書かれているわけではないことです。

「希望」と「能力」の両方が入っています。

本人の希望を確認する。

能力や適性を評価する。

必要な支援を考える。

そのうえで、本人に適した働き方やサービスを選択する。

就労選択支援が始まったことで、この流れが就労系障害福祉サービス全体の中で、より重要な位置を占めるようになってきたと見ることができます。


A型・B型・就労移行に何が求められる可能性があるのか

ここからは、今回の資料から考えられる実務上のポイントです。

なお、以下は具体的な令和9年度改定事項ではありません。

現時点の資料を踏まえ、今後重要になると私が考える運営上の視点です。

1.本人の「希望」が記録に残っているか

就労支援で非常に重要になるのが、

本人はどのような働き方を希望しているのか

という部分です。

「一般就労希望」

だけでは十分とは限りません。

どのような仕事をしたいのか。

どれくらいの時間働きたいのか。

収入をどう考えているのか。

今の仕事をどう感じているのか。

本人自身の言葉や意向を継続的に確認していく必要があります。


2.「できる・できない」だけではなく、必要な支援を考える

能力評価も、

「一般就労できる/できない」

という二択ではありません。

どのような環境なら力を発揮できるのか。

どの程度の支援が必要なのか。

時間を短くすれば働けるのか。

作業手順を明確にすれば自立できるのか。

対人関係にどのような配慮が必要なのか。

こうした条件まで含めて把握することが重要です。


3.個別支援計画を固定化させない

A型・B型等を長期間利用している場合、

個別支援計画の目標や支援内容が毎回似たものになってしまうことがあります。

しかし、利用者本人は変化します。

体調、能力、希望、生活環境、家族状況なども変わります。

その変化を日々の支援記録から把握し、モニタリングで振り返り、次の個別支援計画へ反映することが重要です。


4.「現在のサービスを使い続ける理由」も説明できるようにする

これは非常に重要だと考えています。

本人がA型・B型を継続利用すること自体に問題があるわけではありません。

大切なのは、

なぜ現在このサービスが本人に適しているのか

を説明できることです。

本人の希望。

障害特性。

現在の能力。

必要な支援。

一般就労等の可能性。

こうしたものを踏まえて現在の支援が選ばれているのであれば、それ自体が本人に沿った選択です。


書類を「一般就労へ移行させるため」に作るわけではない

ここも誤解してほしくない部分です。

就労選択支援の導入や今回の改定論点を受けて、

「これからは一般就労につながるような個別支援計画を書かなければならない」

ということではありません。

それでは本人中心ではなくなってしまいます。

個別支援計画や支援記録は、

結論を先に決めて、それを正当化するために作るものではありません。

本人の希望や状態を把握し、

必要な支援を行い、

その経過を記録し、

振り返った結果として、

次の支援を考えていく。

一般就労が適切なら、その選択肢を支える。

現在のA型・B型等が本人に適しているなら、その支援を続ける。

そのプロセスを積み重ねることが大切です。


「就労選択支援が始まったから対応する」だけでは足りない

私は、今回の改定論点で本当に重要なのはここだと思います。

就労選択支援という新しいサービスができたことだけを見るのではなく、

就労系障害福祉サービス全体を、本人の希望・能力・適性を起点として考え直そうとしている

という大きな流れを見る必要があります。

国の検討では、一般就労の環境そのものが変化していること、就労系障害福祉サービスの利用者像も変化していることが議論されています。

そして令和9年度報酬改定では、サービス内容や質に応じた評価、経営状況等を踏まえた報酬設定と並んで、障害者の希望や能力に沿った就労支援が検討事項に入りました。

今後は、この議論が具体的な報酬や基準へどのように落とし込まれるのかを追う必要があります。


今の段階で事業所ができること

現時点では、令和9年度改定を予想して新しい様式を作る必要はありません。

それよりも、

現在の支援が本当に本人の希望や状態から組み立てられているか

を確認する方が有効だと思います。

具体的には、

  • 本人の就労に関する希望を把握できているか
  • 希望や能力の変化を日々の支援で捉えているか
  • 個別支援計画と実際の支援が一致しているか
  • 支援記録から利用者の変化を読み取れるか
  • モニタリングで支援内容を振り返っているか
  • 他の働き方やサービスについて検討する必要が生じた際、本人へ選択肢を示せるか

という基本的な部分です。

これは、新制度対策というよりも、本来の個別支援の確認です。


まとめ|問われるのは「どこへ移行させたか」だけではない

令和9年度障害福祉報酬改定では、就労選択支援の実施状況や雇用福祉横断検討会の議論を踏まえ、

「障害者の希望や能力に沿った就労支援を推進するための方策」

が検討事項として示されました。

まだ具体的な改定内容は決まっていません。

したがって、

「B型から一般就労への移行が強く求められるようになる」

「A型の利用要件が変わる」

「就労移行の報酬体系が変更される」

といったことを現段階で断定することはできません。

しかし、大きな方向性として見えていることはあります。

それは、

サービスを先に決めるのではなく、本人の希望・能力・適性から働き方を考える

という流れです。

一般就労が本人に合っている場合もあります。

A型が適している場合もあります。

B型で継続的に支援を受けながら働くことに大きな意味がある場合もあります。

重要なのは、

「どのサービスにいるか」そのものではなく、「なぜ本人にとってその選択が適切なのか」

ではないでしょうか。

そのためには、本人との対話、個別支援計画、日々の支援記録、モニタリングをそれぞれ別々の書類として扱うのではなく、一つの支援の流れとしてつなげていくことが必要です。

令和9年度報酬改定で具体的な制度案が示された際には、当ブログでも一次情報を確認したうえで、引き続き解説していきます。


一次情報・参考資料

今回の記事では、以下の厚生労働省一次情報を中心に確認しています。

RECORD & SUPPORT PLAN REVIEW

本人の希望・日々の支援・記録、
きちんとつながっていますか?

「個別支援計画の目標と毎日の記録がつながっているか確認したい」 「利用者の変化や本人の希望が、記録から十分に伝わっているか気になる」 「モニタリングを次の支援計画へどうつなげればよいか整理したい」 という場合は、利用者1名分から確認することができます。

行政書士田中慶事務所の「支援記録・個別支援計画 整合性レビュー」では、 個別支援計画・日々の支援記録・モニタリングのつながりを確認し、 現在の記録の方向性や優先して見直したいポイントを整理します。

支援記録・個別支援計画 整合性レビューを見る

※事実と異なる記録の作成や、未実施の支援・会議・モニタリング等を 実施済みとする記録の作成は行いません。
※行政判断、加算算定、運営指導等の結果を保証するサービスではありません。

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この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

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