はじめに|制度開始後の大阪府内の実態が数字で公表された
大阪府は2026年9月2日、「令和8年度第1回大阪府障がい者自立支援協議会就労支援部会」の配布資料を公表しました。
その資料3「就労選択支援事業に係る大阪府内の状況」では、府内の市町村と就労選択支援事業所を対象にした調査結果が示されています。
なかでも注目されるのが、調査対象となった利用者477人のうち、利用前に就労継続支援B型を希望していた人が331人だったのに対し、アセスメント結果ではB型247、B型以外の選択肢128と示された点です。
この数字だけを見ると、
「B型を希望していた84人がB型を利用できなくなった」
「128人がB型に不適と判定された」
と受け取られるかもしれません。
しかし、どちらも資料からは断定できません。
今回の記事では、大阪府の調査結果から何が分かり、何は分からないのかを整理します。
結論からいうと、この調査は、就労選択支援が本人の希望を否定して進路を振り分ける制度ではなく、本人の希望を出発点に、複数の可能性や必要な環境を整理する制度であることを、実際の数字から考える材料になります。
調査の対象と回答状況
大阪府の資料によると、事業所調査の概要は次のとおりです。
- 調査対象:2026年6月1日時点で指定を受けている就労選択支援事業所
- 事業所数:24市町村・95事業所
- 調査期間:2026年6月24日から7月24日
- 回答事業所:90事業所
- 回答率:94.7%
- 利用者数:477人
利用者477人の障害種別は、知的障害217人、精神障害168人、発達障害58人、身体障害22人、その他12人とされています。
また、計画相談支援を利用している人は281人で、全体の58.9%でした。
この調査は回答率が高く、大阪府内で制度開始後に就労選択支援がどのように利用されているかを考えるうえで、重要な一次資料です。
一方、2026年6月1日時点の指定事業所と、回答した90事業所の利用者を対象とする調査であり、府内のすべての対象者や、その後のすべての利用を網羅する統計ではありません。
利用前にB型を希望していた人は331人
利用前の希望進路は、次のように示されています。
- 一般就労:47人
- 就労移行支援:15人
- 就労継続支援A型:32人
- 就労継続支援B型:331人
- その他・未記入:52人
全477人のうち、利用前にB型を希望していた人は331人で、調査対象者の69.4%を占めています。
ただし、この割合には、就労選択支援の利用ルールそのものが影響しています。
調査時点では、新たにB型を利用しようとする人は、一定の例外を除き、先に就労選択支援を利用することが原則です。これに対し、A型や就労移行支援は、現時点では就労選択支援を利用せずに利用を開始できます。
そのため、就労選択支援の利用者を対象とした今回の調査では、制度の仕組み上、初めからB型希望者が多く含まれやすくなっています。
そのため、69.4%という数字を、就労を希望する人全体におけるB型希望者の割合や、大阪府内のB型ニーズの大きさとして捉えることはできません。
ここで確認できるのは、今回調査対象となった就労選択支援利用者477人のうち、利用前にB型を希望していた人が331人だったという事実です。
また、希望がB型である理由は一人ひとり異なります。本人が作業内容や支援環境を理解して希望している場合もあれば、学校や家族、相談支援などから紹介され、ほかの選択肢を十分に知らない段階で希望している場合も考えられます。
今回の調査結果だけでは、B型を希望した理由の内訳までは分かりません。
B型希望者331人のアセスメント結果
資料では、B型を希望していた331人に対するアセスメント結果として、次の数値が掲載されています。
- 一般就労:29
- 就労移行支援:28
- 就労継続支援A型:24
- 就労継続支援B型:247
- その他・不明:65
資料の概要欄では、これを**「就B247、就B以外の選択肢128(複数選択の場合有)」**と整理しています。
128を「128人」と読み替えてはいけない
最も注意が必要なのは、資料が「複数選択の場合有」と明記していることです。
したがって、アセスメント結果の各選択肢の数字を、そのまま互いに重複しない人数として扱うことはできません。
また、331人からB型247を単純に引き、残り84人がB型を否定されたと考えることもできません。
一人に対して、B型を含む複数の選択肢が示された可能性があります。たとえば、現時点ではB型を利用しながら、将来的にA型や一般就労を検討する方向性が整理された場合もあり得ます。
ただし、これは制度上考えられる例であり、この調査の個別ケースが実際にそうだったと断定するものではありません。
資料から確実に言えるのは、B型希望者へのアセスメント結果として、B型だけでなく、一般就労、就労移行、A型、その他を含む選択肢が示されたということです。
就労選択支援は「B型の適否判定」ではない
就労選択支援は、本人を「一般就労できる人」「B型に行く人」と一方的に分類するための制度ではありません。
本人が自分に合った働き方や就労先を選択できるよう、作業場面などを活用したアセスメントを行い、本人の希望、強み、課題、必要な配慮、適切な環境などを本人と一緒に整理するための支援です。
大阪府資料に掲載されたアセスメント結果の例にも、単なるサービス種別だけではなく、次のような具体的な環境や支援の方向性が含まれています。
- 生活リズムや体調を整えながら利用できる事業所
- 少人数、送迎あり、個別対応など安心して通える環境
- B型からA型、一般企業へステップアップできる事業所
- 将来的な就職を見据えた訓練環境
- 在宅と通所を併用してプログラミングを学べる就労移行支援
ここから分かるのは、アセスメントがサービス名を一つ決めるだけではなく、本人が力を発揮しやすい条件や、今後の可能性を具体化する役割を持っていることです。
B型という選択肢が示された場合でも、「どのB型でも同じ」という意味ではありません。
本人が希望する作業、通所のしやすさ、必要な配慮、職員体制、将来像などを踏まえ、自分に合う事業所を選ぶ必要があります。
アセスメント日数には幅がある
アセスメント日数は、次のように集計されています。
- 1~5日:117人
- 6~10日:225人
- 11~15日:83人
- 16日以上:46人
- 未回答:6人
最も多いのは6~10日で、資料では50.3%とされています。5日以下も24.5%です。
この数字だけから、短いほど不十分、長いほど丁寧と判断することはできません。
本人の状況、確認すべき事項、作業場面、実習の必要性、関係機関との調整などによって、必要な日数は変わるからです。
一方、市町村からは、アセスメントの手法・日数・ツール等に事業所ごとのばらつきがあり、事業所の質の担保が課題として挙げられています。
また、事業所側からも、原則1か月という期間のなかで、実習調整、多機関連携、報告書作成まで行う時間が不足するとの課題が示されています。
つまり、日数を一律にそろえるだけで解決する問題ではありません。
限られた期間内で、本人に必要なアセスメントを行い、その根拠と経過を説明できることが重要です。
使用するアセスメントツールも一つではない
資料では、使用するツールとして、国の「就労支援のためのアセスメントシート」、地域独自様式、事業所独自様式、厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)、ワークサンプル幕張版などが挙げられています。
そのほか、MSFAS、BWAP2、TTAP、VRTなどを使用している事業所もあります。
複数のツールが使われていること自体が、直ちに問題というわけではありません。
ただし、ツールを埋めることが目的になり、本人との対話や実際の作業場面、関係機関からの情報と切り離されれば、本人の選択を支えるアセスメントにはなりません。
大切なのは、
- なぜそのツールを使ったのか
- 何を確認しようとしたのか
- どのような事実が把握できたのか
- 本人は結果をどう受け止めたのか
- 結果が選択肢や必要な配慮へどうつながったのか
を説明できることです。
自立支援協議会との連携は55.6%
回答した90事業所のうち、自立支援協議会との連携があると回答した事業所は50事業所で、連携率は55.6%でした。
具体例として、地域ネットワーク会議への参加、地域課題の共有、行政・相談支援・学校等との多機関連携、事業所間連携、研修・事例検討、共通様式・運用ルールの検討などが示されています。
一方、市町村調査では、就労選択支援に関する地域ネットワークが「有」と回答したのは16市町村、「無」は27市町でした。
事業所が所在しているか、地域の関係機関がどの程度制度を共有できているかによって、利用のしやすさや連携方法に差があることがうかがえます。
就労選択支援は、一事業所だけで完結する仕組みではありません。
本人、家族、相談支援、市町村、学校、就労支援機関、利用先候補などが、必要に応じて情報を共有し、本人の選択を支える必要があります。
ただし、関係者が多ければよいわけでもありません。本人の同意やプライバシーに配慮しながら、その人の選択に必要な関係者と連携することが基本です。
大阪府が示した課題|「就Bありき」の利用
市町村が感じている課題の一つとして、就労選択支援の趣旨・目的を地域全体で共有する難しさが挙げられています。
資料には、その例として**「就Bありきの利用」**が記載されています。
これは、B型を希望すること自体が否定されているという意味ではありません。
本人がB型を希望しているのであれば、その希望はアセスメントの重要な出発点です。
問題になるのは、本人の希望や必要な配慮を十分に確認せず、最初から結論をB型に固定して、アセスメントを形式的な通過手続にしてしまうことです。
逆に、本人のB型希望を軽視し、「一般就労の可能性があるから」という理由だけで、本人の意思に反して別の進路へ誘導することも、本人主体の選択支援とはいえません。
必要なのは、本人の希望を尊重したうえで、
- なぜB型を希望しているのか
- どのような働き方や環境を求めているのか
- ほかにどのような選択肢があるのか
- それぞれの選択肢にどのような利点と課題があるのか
- 今すぐの選択と将来の可能性をどう考えるのか
を本人と一緒に整理することです。
B型事業所の受入れ実務で変わること
今回の調査は就労選択支援事業所の実態を中心とするものですが、B型事業所にも無関係ではありません。
評価結果を「利用可否の判定書」にしない
評価結果は、B型事業所が利用者を機械的に選別するための判定書ではありません。
本人の希望、得意なこと、苦手な場面、必要な配慮などを理解し、自事業所でどのような支援ができるかを検討する資料として扱います。
見学・面談で本人の希望を改めて確認する
アセスメント後も本人の考えは変化します。
評価結果だけを見て決めるのではなく、本人がなぜ自事業所を希望するのか、どのような活動をしたいのか、何に不安を感じているのかを直接確認します。
個別支援計画へ具体的につなげる
アセスメントで把握した強み、希望、必要な配慮を、受け入れ後の個別支援計画へ反映します。
ただし、評価結果をそのまま転記するのではなく、本人との面談や事業所でのアセスメントを踏まえ、自事業所で実際に行う支援として具体化することが必要です。
日々の支援記録とモニタリングで検証する
個別支援計画に位置づけた支援が、実際に行われているか。本人の状態や希望に変化がないか。環境調整が適切か。
日々の支援記録とモニタリングを通じて確認し、必要に応じて計画を見直します。
この調査から断定できないこと
数字の影響が大きい資料だからこそ、断定できないことも明確にしておきます。
- 128人がB型不適と判定された、とは言えない
- B型希望者が一律に別サービスへ変更された、とは言えない
- 就労選択支援によってB型利用者が減少する、とは断定できない
- 5日以下のアセスメントは不適切、とは言えない
- 特定のアセスメントツールを使えば質が担保される、とは言えない
- 自立支援協議会と連携していない事業所が不適切、とは言えない
今回の資料は、制度開始後の状況を把握し、課題を検討するための調査結果です。
個別の利用者の支給決定や進路選択、個別事業所の適否を判断する資料ではありません。
まとめ|大切なのは「B型かどうか」だけではない
大阪府の調査では、利用者477人のうち331人が利用前にB型を希望していました。
そのアセスメント結果として、B型247に加え、一般就労、就労移行、A型、その他を含むB型以外の選択肢128が示されています。ただし、複数選択の場合があるため、128をそのまま人数や「B型不適判定」の数として扱うことはできません。
この数字が示しているのは、B型希望を否定することではありません。
本人の希望を出発点にしながら、本人が力を発揮しやすい環境、必要な配慮、今の選択、将来の可能性を具体的に考えることが、就労選択支援に求められているということです。
B型事業所にとっても、評価結果を受け取って終わりではありません。
本人の希望・アセスメント結果 → 自事業所でのアセスメント → 個別支援計画 → 日々の支援記録 → モニタリング
という流れをつくり、本人と一緒に支援を見直していく必要があります。
就労選択支援が形式的な「B型利用の入口」になるのか、それとも本人が自分に合う働き方を考える機会になるのか。
その違いは、制度の名称ではなく、現場で行われるアセスメント、対話、連携、記録の質によって生まれるのだと思います。
一次情報・参考資料
RECORD & SUPPORT PLAN REVIEW
アセスメントで把握した本人の希望や強みが、
計画・記録・モニタリングまでつながっていますか?
行政書士田中慶事務所の「支援記録・個別支援計画 整合性レビュー」では、利用者1名分から、個別支援計画・支援記録・モニタリングのつながりを確認し、記録の具体性や見直すべきポイントを整理します。
支援記録・個別支援計画 整合性レビューを見る※本サービスは、利用者ごとの計画・記録・モニタリングを中心に確認するレビューです。就労選択支援のアセスメント実施そのものや、利用先・支給決定についての最終判断を代行するものではありません。
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