2026年9月28日に開催された第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、就労系サービスの新規指定について、重要な見直しの方向が示されました。
今回の論点は、単に「指定申請の書類が増える」という話ではありません。
厚生労働省は、2025年11月に発出した**「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」**について、現場の指定権者から、ガイドラインだけでは事業者に強制力をもって働きかけることが難しいとの意見があると整理しています。
そこで今回、
ガイドラインで示した項目のうち、確実に実施すべき事項を施行規則や指定基準等に位置付けてはどうか
という方向が示されました。
検討されている内容には、
- 管理者が指定申請書や事業計画書を作成、または内容を把握すること
- 他事業所の申請書類や事業計画書の流用を原則認めないこと
- 地域ニーズを確認すること
- 市区町村や協議会等へ事業開始を説明すること
- 生産活動の内容や収入見込みを確認すること
- 利用定員の根拠や職員研修、地域連携等を事業計画へ記載すること
などが含まれています。
ただし、これらは現時点では令和9年度障害福祉報酬改定に向けた検討案です。
すでに全国一律の指定基準として施行されたわけではありません。
本記事では、第64回検討チーム資料と現在のガイドラインをもとに、新規指定で何が重視される方向なのかを整理します。
令和9年度障害福祉報酬改定の全体像はこちら
第63回・第64回で示された訪問系・就労系サービスの主要論点を、まとめ記事で整理しています。
第63回・第64回障害福祉報酬改定検討チームの重要論点まとめ
なぜ就労系サービスの新規指定が見直されるのか
背景には、就労継続支援事業所の新規参入をめぐる課題があります。
厚生労働省のガイドラインでは、
障害者の就労能力の向上に寄与しない事業が、就労継続支援サービスとして行われているとの指摘
があることが示されています。
また、指定権者側にも、
- 将来の運営に疑問が残っても、必要書類がそろっていれば指定申請自体を不受理にしにくい
- 生産活動や会計に関する専門知識が必要
- 指定・指導担当者の経験年数が短い自治体も多い
といった課題が整理されています。
そこで2025年11月のガイドラインでは、新規指定時に、
- 事業計画
- 地域ニーズ
- 生産活動
- 収入見込み
- 利用者募集
- 就労支援会計
- 運営体制
などを幅広く確認する考え方が整理されました。
今回の第64回では、さらに一歩進めて、その一部を法令や指定基準等のルールとして位置付けることが検討されています。
管理者が「申請内容を知らない」は通りにくくなる方向
今回示された検討事項の一つが、
指定申請書類や事業計画書等について、事業所の管理者が責任をもって作成する、または内容を把握すること
です。
これは実務上かなり重要です。
指定申請では、行政書士やコンサルタントなど外部の専門家が書類作成を支援する場合があります。
しかし、外部へ依頼したことと、
管理者自身が内容を理解していなくてもよい
ということは別です。
今回の方向性が制度化されれば、
「誰が書類を作ったか」だけでなく、「実際に事業を運営する管理者が、その内容を理解しているか」
がより明確に問われることになります。
外部専門家を利用すること自体を否定する議論ではありません。
むしろ、申請支援を受ける場合でも、
- なぜこの事業を行うのか
- どのような利用者を想定しているのか
- どのような支援を行うのか
- どのような生産活動を行うのか
- 収入見込みはどう計算したのか
を、管理者自身が説明できる状態にしておくことが重要になります。
他事業所の申請書類・事業計画の流用は原則認めない方向
第64回資料では、
他事業所の指定申請書類や事業計画書等の流用を原則認めない
という方向も示されています。
もちろん、事業計画には共通する項目があります。
しかし、地域も、利用者像も、生産活動も、職員体制も異なる事業所で、他事業所の計画をほぼそのまま使えば、実態とのずれが生じます。
今回の検討は、
形式的に整った事業計画書があるか
ではなく、
その事業所自身の状況に基づいて作られた計画か
を見る方向といえます。
事業計画書に求められる内容も具体化する方向
今回の資料では、事業計画書に記載する内容として、かなり具体的な項目が示されています。
たとえば、
- 就労系障害福祉サービスの事業計画
- 事業の目的
- 事業所に求められる責務についての理解
- 法人の理念
- そのサービスを選択した理由
- 支援員の人員体制
- 職員研修の計画
- 利用定員の根拠
- 地域の関係機関との連携
などです。
単なる売上計画や収支予測だけではありません。
障害福祉サービスとして何を実現しようとしているのか
まで、事業計画の中で説明する方向です。
「なぜこの地域で開設するのか」を確認する方向
特に注目したいのが、地域ニーズの確認です。
第64回資料では、指定を希望する事業者が、
- 市区町村または協議会等へ事業開始について説明する
- 開設予定地域における就労系障害福祉サービスのニーズを確認する
- その確認に関する議事録等を作成・提出する
- 指摘事項があれば改善したうえで指定申請を行う
という方向が示されています。
これは、かなり意味のある変化です。
従来以上に、
「指定基準を満たす物件と人員が見つかったから開設する」
だけではなく、
この地域にどのような利用ニーズがあるのか
既存事業所の状況はどうなのか
どのような役割を新しい事業所が担うのか
を確認する方向になります。
地域ニーズが少なければ指定できなくなるのか
ここは誤解しない方がいいところです。
今回示されたのは、地域ニーズを確認することを指定申請過程に組み込む方向です。
現時点で、
「自治体が事業所数は十分と判断すれば、指定を拒否できる」
と決まったわけではありません。
したがって、
「地域ニーズ確認=総量規制」
と断定するのは早すぎます。
重要なのは、事業者側に、
なぜこの地域でこのサービスを始める必要があるのか
を説明することが、これまで以上に求められる可能性があるという点です。
生産活動は「何をするか」だけでは足りない
就労継続支援A型・B型では、生産活動そのものについても確認を強化する方向が示されています。
現在のガイドラインでも、新規指定時には、
- 生産活動の具体的な内容
- 収入見込み
- 利用者が従事できる内容か
- 安定した収益が見込めるか
- 取引先
- 生産活動の継続性
などを確認する考え方が整理されています。
第64回の検討方向は、その一部をより実効性のある仕組みにするものです。
つまり、
「軽作業を行います」
「ネット販売を行います」
「清掃を行います」
と書くだけではなく、
その仕事が本当に継続して存在し、利用者が従事でき、一定の収入が見込める根拠
まで説明することが重要になります。
「収入見込み」の根拠も問われる方向
生産活動を事業計画に書く場合、
月の売上見込みは100万円です
という数字だけでは十分ではありません。
今後より重要になると考えられるのは、
- どこから受注するのか
- どの程度の数量を受注できるのか
- 単価はいくらか
- どの程度の経費がかかるのか
- 利用者が実際にどの程度従事できるのか
- 継続受注の見込みはあるのか
といった数字の根拠です。
現在のガイドラインでも、安定した生産活動収入を得られるか、生産活動シート等を活用して確認する考え方が示されています。
前回の記事で取り上げた「生産活動収支≧工賃総額」の検討とも、ここはつながっています。
新規指定時から生産活動の実現可能性を確認し、指定後も生産活動シートなどで実態を確認する。
指定時と指定後を連続して見る方向が見えてきます。
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B型では、生産活動収支と工賃総額の関係そのものを指定基準に位置付ける案も示されています。
B型に「生産活動収支≧工賃総額」?工賃・生産活動シート・補填の考え方を整理
新規指定と運営指導がつながっていく
今回の議論で重要なのは、新規指定だけを厳しくする話ではないことです。
厚生労働省のガイドラインでは、
新規指定時
- 地域ニーズ
- 事業計画
- 生産活動
- 利用者募集
- 収入見込み
などを確認し、
指定後
- 生産活動収支
- 取引先情報
- 生産活動の実態
- 会計情報
- 工賃・賃金支払状況
などを、生産活動シート等も活用して確認する仕組みが整理されています。
つまり、
指定を取るための事業計画
と、
実際に指定後に行っている事業
が別物になっていないかを見る方向です。
これは今後の指定申請を考えるうえで非常に重要です。
「指定が取れる書類」から「指定後も説明できる計画」へ
今回の検討を一言で整理するなら、
指定申請書類を完成させること自体がゴールではなくなる方向
だと私は考えています。
もちろん、これまでも指定を受けた後は、申請内容に沿って適切に事業を運営する必要がありました。
今回新しいのは、その考え方をより明確に、
- 地域ニーズ
- 事業計画
- 生産活動
- 支援体制
- 管理者の理解
- 指定後の実態確認
まで一連のものとして捉えようとしている点です。
したがって、新規指定を検討する事業者にとっては、
「どうすれば指定が取れるか」
だけではなく、
「指定後もこの事業計画どおりに運営し、その根拠を説明できるか」
という視点がより重要になります。
既存事業所には関係ない話なのか
今回の中心は新規指定ですが、既存事業所にも無関係ではありません。
なぜなら、今回のガイドラインは、新規指定だけでなく、運営状況の把握・指導まで対象としているからです。
既存事業所でも、
- 当初の事業計画と現在の運営が大きくずれていないか
- 生産活動が実態を伴っているか
- 取引先や収支を説明できるか
- 管理者が現在の運営内容を把握しているか
- 利用者にとって意味のある支援になっているか
といった点は、今後より確認されやすくなる可能性があります。
ただし、今回示された新規指定時の事項が、すべて既存事業所へそのまま遡って適用されると決まったわけではありません。
ここは分けて考える必要があります。
これから新規指定を考える事業者はいま何をすればいいのか
現時点では、今回の検討案を前提に新しい書類を独自に作る必要はありません。
まだ制度化されていないからです。
ただし、新規指定を予定しているのであれば、今の段階から、
- なぜこの地域で事業を行うのか
- どのような利用者を想定しているのか
- 利用定員の根拠は何か
- どのような支援を行うのか
- 職員をどう育成するのか
- どのような生産活動を行うのか
- その収入見込みの根拠は何か
- 地域の関係機関とどう連携するのか
を整理しておくことには意味があります。
これらは、令和9年度改定がなくても、安定した障害福祉事業所を運営するうえで本来必要な検討事項だからです。
まとめ|新規指定は「書類審査」から「事業の実現可能性確認」へ
第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、就労系サービスの新規指定について、現在のガイドラインで示されている事項の一部を、施行規則や指定基準等へ位置付ける方向が示されました。
主な検討事項は、
- 管理者が申請書・事業計画の内容を把握する
- 他事業所の書類流用を原則認めない
- 地域ニーズを確認する
- 市区町村・協議会等へ事業開始を説明する
- 利用定員の根拠を示す
- 生産活動の内容・収入見込み・継続性を説明する
- 職員体制・研修・地域連携を事業計画に盛り込む
といった内容です。
まだ改定決定ではありません。
一方、資料から見える方向は比較的明確です。
「指定に必要な書類をそろえる」だけではなく、「この事業が地域で必要とされ、実際に継続して運営できる根拠を示す」方向へ。
指定申請そのものと、指定後の実際の事業運営を、より一体として確認する考え方が強まっています。
これから指定を受ける事業所にとって重要なのは、
指定を取るためだけの計画ではなく、指定後も実際に使える事業計画を作ること
になりそうです。
一次資料
今回の記事は、主に以下の厚生労働省資料をもとに整理しています。
- 厚生労働省「第64回障害福祉報酬改定検討チーム」
2026年9月28日開催。議題は「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(就労系サービス)」です。資料一覧から「就労系サービスに係る報酬・基準について」を確認できます。厚生労働省
第64回障害福祉報酬改定検討チーム資料 - 厚生労働省「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドラインについて」
新規指定時の確認、事業計画、生産活動シート、指定後の運営状況把握・指導などの基本資料です。厚生労働省
新規指定・運営状況把握ガイドライン
新規指定の前後を問わず、事業所運営で気になる点はありませんか?
今回示された内容は、まだ令和9年度改定として決定したものではありません。
制度を先取りして対応する必要はありません。
行政書士田中慶事務所では、新規指定申請を主力として積極的にご案内しているわけではありません。
現在は、既存の障がい福祉事業所を中心に、運営状況の整理、記録・計画の確認、運営リスクの点検などを行っています。
新規指定を含むご相談についても、内容や状況を確認したうえで対応可否をご案内します。
