2026年9月28日に開催された第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、就労選択支援について、対象者、中立性、本人の意思決定、特定法人への誘導防止など、今後の制度運用に大きく関わる論点が示されました。
就労選択支援は、2025年10月に始まった比較的新しい障害福祉サービスです。
その目的は、障害者本人が就労先や働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用し、本人の希望、就労能力、適性等に合った選択を支援することにあります。
現在すでに、B型を新たに利用しようとする人については、原則として就労選択支援によって就労面の課題等を把握した人が対象となっています。
さらに2027年4月以降は、
- 新たに就労継続支援A型を利用しようとする人
- 就労移行支援を標準利用期間の2年を超えて利用しようとする人
についても、就労選択支援によるアセスメントを経た人を対象とする予定です。
加えて、第64回では、
- 利用者本人に複数の選択肢を示すこと
- 本人が選択に至った過程を記録すること
- 本人の希望と実際の利用先が異なる場合、その理由を記録すること
- 自法人等の特定事業所への誘導を防ぐこと
- 特定事業所集中減算を見直すこと
- 利用更新や事業所変更時の中立性を確保すること
なども検討されています。
今回の議論は、単に「就労選択支援を利用する人が増える」というだけではありません。
本人がどのような情報を得て、どのように考え、どの選択肢を選んだのかまで、より丁寧に確認する制度へ進む可能性
があります。
ただし、今回示された内容の多くは、令和9年度障害福祉報酬改定に向けた検討案です。
現時点ですべてが決定したわけではありません。
令和9年度障害福祉報酬改定の全体像はこちら
第63回・第64回で示された訪問系・就労系サービスの主要論点を、まとめ記事で整理しています。
第63回・第64回障害福祉報酬改定検討チームの重要論点まとめ
就労選択支援とは何をするサービスなのか
就労選択支援では、短期間の生産活動等を通じて、
- 就労に関する適性
- 知識・能力
- 就労に関する本人の意向
などを整理するアセスメントを行います。
そのうえで、
一般就労を目指すのか
就労移行支援を利用するのか
A型を利用するのか
B型を利用するのか
どのような働き方が本人に合うのか
を考えるための材料を本人へ提供します。
重要なのは、就労選択支援事業所が本人の進路を決めるサービスではないという点です。
あくまで、
本人が自分で選択するための情報整理と意思決定を支えるサービス
です。
2027年4月からA型利用前にも原則利用へ
現在、就労選択支援との関係で特に大きな制度変更が予定されているのが、就労継続支援A型です。
厚生労働省資料では、2027年4月以降、
新たにA型を利用する場合についても、就労選択支援によって就労面の課題等が把握されている人を対象とする予定
とされています。
つまり、A型を希望した人が、
A型を利用したい
↓
そのままA型利用開始
ではなく、
A型を希望
↓
就労選択支援によるアセスメント
↓
本人の希望・適性等を整理
↓
利用するサービスを選択
という流れが基本になる方向です。
「A型に行けない人を選別する制度」ではない
ここは誤解しやすいところです。
就労選択支援は、
A型やB型を利用できるかどうかを判定するためだけの制度ではありません。
厚生労働省が示している趣旨は、
本人の希望、就労能力、適性等に合った選択を支援する
ことです。
本人がA型を希望していたとしても、
- 一般就労という選択肢
- 就労移行支援
- B型
- 別のA型
- その他の働き方
などを比較しながら、
本人自身がより納得して選択できるようにする
ことが制度の中心です。
就労移行支援の「2年超利用」にも就労選択支援
就労移行支援の標準利用期間は2年間です。
必要性が認められた場合には、市町村審査会の個別審査を経て最大1年間更新できます。
2027年4月以降は、この標準利用期間を超えて就労移行支援を利用しようとする場合についても、就労選択支援を利用する方向が予定されています。
つまり、
「まだ就労移行支援を続けた方がよい」
という事業所側の判断だけではなく、
本人の希望や就労能力、ほかの選択肢も含めて、改めて客観的に整理する機会
を設ける方向です。
将来的にはA型・B型の「利用継続」でも活用する方向
今回の第64回資料では、現在就労継続支援や就労移行支援を利用している人が、
- 受給者証を更新する
- 事業所を変更する
際に就労選択支援を利用する場合についても、中立性確保のルールが示されています。
ここから見えるのは、
就労選択支援を「サービス利用開始前だけのアセスメント」にとどめず、利用継続や進路変更の節目でも活用する方向
です。
ただし、
A型・B型のすべての利用者が、更新のたびに必ず就労選択支援を利用する
と決定したわけではありません。
現段階では、今後の制度設計を確認する必要があります。
なぜ「本人の意思決定」がこれほど重視されるのか
就労選択支援は、本人に合った働き方を一緒に整理するサービスです。
そのため、制度そのものに中立性が求められます。
たとえば、就労選択支援を運営している法人が、
- A型
- B型
- 就労移行支援
も運営している場合を考えてみます。
就労選択支援の結果として、自法人の事業所ばかりを利用者へ案内してしまえば、
本人のための選択支援なのか、自法人への利用者誘導なのか
が分からなくなります。
第64回資料では、この点についてかなり具体的な見直し案が示されています。
比較できる複数の選択肢を本人へ示す方向
今回の検討案では、誘導行為を防止するため、
利用者本人に比較可能なさまざまな選択肢を提供したうえで、本人の意思を確認する
ことが重要とされています。
さらに、就労移行支援やA型・B型について情報提供する場合には、
- 所在地・通所方法
- 定員・空き状況
- 支援内容
- 訓練・生産活動の内容
- 一般就労への移行実績
- 工賃・賃金
- 利用時間
- 支援体制
など、一定の項目を提供することを義務付ける案も示されています。
これはかなり重要です。
単に、
「こちらの事業所がおすすめです」
と紹介するのではなく、
本人が複数の事業所を比較できるだけの情報をそろえて提示する
方向だからです。
「本人がどう選んだか」を記録する方向
今回の議論では、
本人が選択に至った過程を記録し、後から検証できるようにする
ことも示されています。
さらに、
- 本人が最終的にどのような希望を示したのか
- 本人の最終的な希望と実際の利用先が異なる場合、その理由
を、サービス提供記録やアセスメント結果等へ必須記載する案も示されています。
ここは、日々の支援実務にも影響し得る部分です。
重要になるのは、
「どこの事業所に決まったか」
だけではありません。
どのような情報を提供し、本人が何を希望し、どのような過程で最終判断に至ったのか
というプロセスです。
自法人への誘導として禁止が想定されている行為
第64回資料では、本人の選択肢を不当に狭める行為として、かなり具体的な例が示されています。
たとえば、
- 自法人の事業所など、特定の事業所利用を実質的に指定する
- 他事業所の情報を意図的に提供しない
- 自法人の事業所だけを詳しく説明する
- 見学先を自法人の事業所だけに限定する
- 本人が希望していないのに、自法人の事業所利用を繰り返し勧める
といった行為です。
これらを運営基準等で禁止する方向が検討されています。
つまり、
形式上は本人が選んだように見えても、実際には選択肢が誘導されていないか
まで見る方向です。
特定事業所集中減算も見直しへ
現在、就労選択支援には特定事業所集中減算があります。
正当な理由なく、就労選択支援後の移行先について、同一事業者の就労移行支援・A型・B型への集中割合が80%を超えた場合、200単位を減算する仕組みです。
今回、この基準について、
- 同一法人への移行率の基準を引き下げる
- 例として「80%→30%」も検討
- 現在の法人単位から関連法人まで対象を広げる
- 減算割合も見直す
方向が示されています。
ただし、「30%に決定した」わけではありません。
30%は検討資料に示された例です。
減算だけでなく、指導・監査につなげる方向
今回の検討で特徴的なのは、
集中していたら減算する
だけではないことです。
資料では、特定事業所集中減算の報告等をきっかけに、指定権者が必要に応じて支援実態を確認し、
問題があれば、
- 指導
- 監査
- 行政処分
につなげる流れを制度的に担保することが重要とされています。
つまり、数字だけでなく、
なぜ特定法人への移行が多いのか、その過程に不適切な誘導がなかったか
まで確認する方向です。
更新・事業所変更時には「同一法人の就労選択支援を使わない」案
もう一つ注目したいのが、すでにサービスを利用している人の更新や事業所変更です。
第64回資料では、就労継続支援や就労移行支援を利用中の人が、
- 受給者証の更新
- 事業所の変更
を検討する際に就労選択支援を利用する場合、
現在利用しているサービス事業所と同一法人が運営する就労選択支援は利用できない
とする方向が示されています。
目的は、アセスメントや情報提供の客観性を確保することです。
ただし、近隣に別法人が運営する就労選択支援事業所や就労移行支援事業所がない場合には、同一法人による利用を認める例外案も示されています。
「同じ事業所を続けたい」という本人の希望はどうなるのか
中立性が強化されると、
本人が今の事業所を気に入っていても、変更を勧められるのでは?
と感じるかもしれません。
しかし、本来の目的は逆です。
重要なのは、
本人が今の事業所を続けることも含め、複数の選択肢を知ったうえで本人自身が選ぶこと
です。
現在のサービスを続けるという結論になっても、その理由が本人の希望やアセスメントに基づくものであれば、それ自体を否定する制度ではありません。
今回の検討で重視されているのは、
結論がどこになったか
より、
その結論へ至るまでに、本人の意思がきちんと尊重されたか
という部分です。
事業所はいま何を確認しておけばいいのか
現段階で、第64回の検討案を先取りして独自の書式を作る必要はありません。
まだ決定していないからです。
一方、現在の就労支援でも、
- 本人の希望を十分に確認しているか
- 利用可能な選択肢を一方的に狭めていないか
- 自法人だけでなく地域の他事業所も把握しているか
- 本人へ伝えた情報を説明できるか
- 本人が最終的に何を希望したか記録しているか
- 本人の希望と実際の利用先が異なる場合、その理由を説明できるか
といった点は重要です。
特に就労選択支援事業所に限らず、
A型・B型・就労移行支援側も、「本人がなぜこのサービスを選んだのか」という視点を持つこと
が、今後より重要になる可能性があります。
就労選択支援は「判定」より「選択」の制度へ
今回の議論を読むうえで、私はここを最も重要だと考えています。
就労選択支援は、
この人はA型
この人はB型
と分類するための制度ではありません。
本来は、
本人自身が、これからどのように働きたいかを考えるための制度
です。
今回示された、
- 選択肢の比較
- 情報提供
- 本人の希望
- 選択過程の記録
- 誘導防止
- 中立性確保
という論点は、すべてこの目的につながっています。
まとめ|「どこを利用したか」より「どう選んだか」が問われる方向へ
第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、就労選択支援について、
- 2027年4月から新規A型利用前にも利用を予定
- 就労移行支援の標準利用期間を超える場合にも利用を予定
- 更新・事業所変更時の活用
- 比較可能な複数の選択肢の提示
- 本人が選択に至った過程の記録
- 本人の希望と利用先が異なる場合の理由記載
- 自法人等への誘導行為の禁止
- 特定事業所集中減算の見直し
- 更新等の場合の同一法人による就労選択支援利用の制限
などが示されました。
ただし、今回示された内容の多くはまだ検討段階です。
一方で、制度の方向性として見えているのは、
「どのサービスを利用することになったか」だけではなく、「本人がどのような情報を得て、どのように考え、そのサービスを選んだのか」まで重視する
という流れです。
制度改定を先回りして運用を変える必要はありません。
まずは現在の支援の中で、
本人の希望と意思決定過程を、きちんと確認・説明できているか
を見直しておくことが重要です。
一次資料
今回の記事は、以下の厚生労働省の一次資料をもとに整理しています。
- 厚生労働省「第64回障害福祉報酬改定検討チーム」
2026年9月28日開催。議題は「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(就労系サービス)」です。資料一覧から、今回使用した「就労系サービスに係る報酬・基準について」を確認できます。
第64回障害福祉報酬改定検討チーム資料一覧 - 厚生労働省「就労系サービスに係る報酬・基準について」
就労選択支援については、A型利用前、就労移行支援の標準利用期間超過時、本人の意思決定、中立性確保、自法人への誘導防止、特定事業所集中減算の見直しなどが整理されています。
就労系サービスに係る報酬・基準について(PDF) - 厚生労働省「就労選択支援について」
就労選択支援の制度概要、通知、実施マニュアル、Q&A、指定申請の標準様式、支給決定関係資料などを確認できる公式ページです。現行制度と今回の見直し案を区別して確認する際の基礎資料になります。
厚生労働省「就労選択支援について」
本人の「希望」と「実際の支援」、きちんとつながっていますか?
今回示された見直し案は、まだ令和9年度改定として決定したものではありません。
検討案を先取りして、新しい書式や運用を導入する必要はありません。
一方、本人の希望、個別支援計画、日々の支援記録、モニタリングが実際の支援とつながっているかは、現在の適正な事業運営でも重要です。
行政書士田中慶事務所では、既存の障がい福祉事業所を中心に、運営状況の整理、記録・計画の確認、運営リスクの点検などを行っています。
