就労選択支援事業所の開設費用と収支の考え方|報酬1,210単位と事業計画のポイント

目次

はじめに

2025年10月に始まった「就労選択支援」。

新しい障害福祉サービスということもあり、

「就労選択支援事業所を開設するには、いくら必要なのか」

「基本報酬はいくらなのか」

「何人利用すれば黒字になるのか」

といった疑問を持つ事業者も多いと思います。

ただし、就労選択支援の収支を考えるときに注意したいのが、制度として決まっている数字と、事業所ごとに異なる経営上の数字を混同しないことです。

例えば、基本報酬の「1,210単位」は国が定めている数字です。

一方、

  • 家賃
  • 人件費
  • 内装費
  • 利用者数
  • 稼働日数
  • 開設までに必要な資金

などは事業所によって大きく異なります。

そのため、「○人いれば必ず黒字になる」「開設後○か月で黒字化できる」と一律にいうことはできません。

この記事では、2026年8月時点の制度をもとに、就労選択支援の開設費用と収支を考える際のポイントを整理します。


まず知っておきたい|就労選択支援は誰でも開設できるわけではない

開設資金を計算する前に、非常に重要な確認があります。

就労選択支援は、法人を設立して物件と人員をそろえれば、誰でも新規参入できるサービスではありません。

国の基準では、就労選択支援事業者について、就労移行支援または就労継続支援の指定事業者で、過去3年以内に3人以上の利用者が新たに一般企業等へ雇用された事業者など、一定の就労支援経験・実績を有する事業者であることが求められています。

したがって、開設を検討する場合は、

「資金を用意できるか」より先に、「実施主体の要件を満たしているか」

を確認する必要があります。


就労選択支援の定員と人員配置

就労選択支援事業所には、10人以上を利用させることができる規模が必要です。

また、国の基準では、配置する職員として、

  • 管理者:1名
  • 就労選択支援員:利用者15人に対して常勤換算1人以上

とされています。新規開設時の利用者数については、推定数によって計算します。

就労継続支援A型・B型などとは人員基準の構成が異なるため、他サービスの人員配置をそのまま当てはめて収支を計算しないことが重要です。


サービス管理責任者の配置はどうなる?

就労選択支援の人員基準では、管理者と就労選択支援員が規定されており、サービス管理責任者は配置職種として規定されていません。

これは、就労移行支援や就労継続支援A型・B型との大きな違いの一つです。

ただし、

「サビ管が不要だから、その分だけ利益が増える」

と単純に考えるのは適切ではありません。

就労選択支援員の配置、アセスメント、ケース会議、関係機関との連絡調整など、就労選択支援独自の業務があります。

必要となる人件費は、実際の利用者数、職員の賃金、兼務状況などを踏まえて事業所ごとに計算する必要があります。


就労選択支援の基本報酬は1日1,210単位

就労選択支援の基本報酬である「就労選択支援サービス費」は、

1日につき1,210単位

です。

ここで注意したいのが、

1,210単位=12,100円ではない

ということです。

障害福祉サービスの報酬額は、単位数に地域区分等による1単位あたりの単価を掛けて計算します。

さらに実際の請求額は、

  • 各種加算
  • 各種減算
  • 利用実績

などによって変わります。

したがって、収支計画では「1日12,100円」と固定して計算するのではなく、指定予定地域に応じた単価を確認する必要があります。


売上を考えるときは「利用者数」より「延べ利用日数」

就労選択支援の売上を考える際は、単純な登録者数ではなく、

実際に何人が何日利用するのか

を見る必要があります。

基本部分だけを単位数で考えると、

1,210単位 × 延べ利用日数

が出発点になります。

例えば、月20日サービスを提供すると仮定した場合、

1日平均利用者数月20日利用した場合の基本報酬単位
4人96,800単位
5人121,000単位
6人145,200単位
7人169,400単位
8人193,600単位
10人242,000単位

となります。

※上記は「1,210単位×平均利用者数×20日」だけを計算した例です。実際の報酬額ではありません。加算・減算、地域区分、実利用日数等は含んでいません。

この表からも分かるとおり、

「定員10名だから毎月10名分の報酬が入る」

わけではありません。

実際の利用状況によって収入は大きく変わります。


就労選択支援特有の「短期間」という特徴

就労選択支援は、長期間継続して同じ利用者が通い続けることを前提としたサービスではありません。

支給決定期間は1か月または2か月で、市町村が決定します。国は1か月を原則とし、一定の場合に2か月とする考え方を示しています。

つまり、B型などのように、

「一定数の利用者が長期間継続利用する」

という収益モデルとは性質が異なります。

一人の利用が終了すれば、次の利用者につながっていく必要があります。

そのため収支計画では、

現在何人利用しているか

だけではなく、

毎月どの程度新たな利用者につながる可能性があるか

も重要になります。


2026年時点ではまだ新しいサービス

就労選択支援は2025年10月に開始された制度です。

厚生労働省は現在も全国の就労選択支援事業所の指定状況を継続して公表しており、2026年6月末時点の指定事業所数・事業所一覧も公開しています。

つまり、2026年時点ではまだ制度開始から1年も経過していません。

そのため、

「平均的な利益率は○%」

「1日○人利用すれば必ず黒字」

「年間○万円儲かる」

といった一般化された経営モデルを示せるほど、実績が蓄積されたサービスとは言いにくい状況です。

開設判断では、制度上の報酬単価だけではなく、自社の地域・人員・利用者確保の見込みから個別に収支を組むことが重要です。


開設資金はいくら必要?

就労選択支援について、

「開設には必ず○百万円必要」という公的な基準はありません。

必要な資金は、物件や人員、既存事業との併設の有無などによって大きく変わります。

主な費用項目としては、次のようなものが考えられます。

物件取得費

  • 敷金
  • 礼金
  • 保証金
  • 仲介手数料
  • 前家賃

既存事業所内で実施する場合と、新たに物件を借りる場合では必要資金が大きく異なります。

内装・設備費

物件の状態によって、

  • 内装工事
  • 消防設備
  • 相談スペース
  • 机・椅子
  • パソコン
  • 通信環境

などの費用が発生します。

必要な工事については、契約前に指定権者や建築・消防関係の確認を行うことが重要です。

人件費

  • 管理者
  • 就労選択支援員
  • 必要に応じた事務職員等

について、開設前から給与が発生する可能性があります。

特に新規指定では、指定開始前に人員を確保する必要があるため、報酬が入る前の人件費を資金計画に入れておく必要があります。

備品・システム費

  • PC
  • プリンター
  • 電話
  • インターネット
  • 記録システム
  • 請求ソフト
  • セキュリティ対策

なども検討します。

運転資金

指定を受けた直後から、障害福祉サービス報酬が即日入金されるわけではありません。

そのため、

  • 人件費
  • 家賃
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • その他固定費

を一定期間支払えるだけの運転資金を確保しておく必要があります。


開設費用は「相場」ではなく見積りで作る

収支計画を作る場合は、

「障害福祉事業なら大体このくらい」

という相場から逆算するよりも、

項目自社の見積額
物件取得費
内装・設備工事
家具・備品
PC・ICT環境
開設前人件費
採用費
広告・営業費
専門家報酬
運転資金
その他
合計

という形で、実際の見積額を積み上げていく方が安全です。

これなら「400万円で足りるはずだったのに、実際は大幅に超えた」といったズレを防ぎやすくなります。


毎月の固定費も事業所ごとに計算する

同じように月額運営費についても、一律に「80万円~170万円」などと考えるのではなく、実額で計算します。

例えば、

月額費用自社の予定額
人件費
社会保険等
家賃
水道光熱費
通信費
システム利用料
保険
採用・広告費
消耗品
専門家・外注費
その他
固定費等合計

として整理します。

この固定費と想定収入を比較して、初めて損益分岐点を計算できます。


損益分岐点は「4人」「6人」と固定できない

就労選択支援について、

「平均4人利用すれば黒字」

「平均6人いれば損益分岐」

と一律に決めることはできません。

損益分岐点は、

固定費 ÷ 1人1日あたりの限界利益

などによって個別に計算する必要があります。

そして実際には、

  • 地域区分
  • 加算・減算
  • 職員給与
  • 社会保険料
  • 家賃
  • 営業日数
  • 利用率
  • 欠席等
  • 利用者の入れ替わり

によって変わります。

同じ定員10名の事業所でも、家賃20万円の事業所と5万円の事業所では当然、損益分岐点は違います。


収支は3つのシナリオで考える

事業計画では、一つの数字だけを作るより、

慎重シナリオ

想定より利用者確保が遅れた場合。

標準シナリオ

計画どおりに利用者が確保できた場合。

好調シナリオ

紹介等が順調で、高い利用率を維持できた場合。

の3パターン程度を作るのがおすすめです。

例えば、

項目慎重標準好調
1日平均利用者4人7人10人
月営業日20日20日20日
延べ利用日数80日140日200日
基本報酬単位96,800169,400242,000

とします。

ここに、

地域区分による単価
+算定可能な加算
-該当する減算

を反映させ、実際の収入見込みを計算します。

さらに固定費を引けば、各シナリオでの収支が見えてきます。


「加算を最大限取る」ことを前提にしない

元々の事業計画でありがちなのが、

「取れる加算を全部入れて売上を作る」

という考え方です。

しかし、加算にはそれぞれ算定要件があります。

厚生労働省が定める就労選択支援の報酬にも各種加算・減算が設けられています。

事業計画では、

確実に算定できる基本報酬をベースにし、加算は要件を満たすことが確認できたものだけ追加する

方が安全です。


大阪市で開設する場合は独自の指定スケジュールにも注意

大阪市では、就労選択支援の指定申請について事前協議が必要です。

また、就労選択支援については指定スケジュールが独自に設定されており、事前協議、面談、会議、審査等を経て指定へ進む仕組みになっています。

そのため、

「物件を契約したので来月から開業する」

という進め方はできません。

家賃や人件費が先に発生する期間も考えて、指定予定日から逆算して資金計画を立てる必要があります。


就労選択支援は「高単価だから儲かる」とは限らない

基本報酬1,210単位だけを見ると、他のサービスより高く感じるかもしれません。

しかし、就労選択支援には、

  • 原則1か月という短い利用期間
  • 新規利用者につながり続ける必要性
  • アセスメント
  • ケース会議
  • 関係機関との連携
  • 情報提供
  • 就労選択支援員の配置

など、サービス固有の特徴があります。

したがって、

「1,210単位だから採算性が高い」

とは一概にいえません。

報酬単価だけでなく、地域でどの程度の利用ニーズがあるのか、継続的に利用者につながる仕組みを作れるのかまで含めて判断する必要があります。


まとめ|開設判断は「報酬単価」より収支の前提条件を見る

就労選択支援の基本報酬は1日1,210単位です。

また、事業所は10人以上を利用させることができる規模が必要で、就労選択支援員は利用者15人に対して常勤換算1人以上という基準があります。

しかし、

基本報酬が分かることと、事業として利益が出ることは別問題です。

開設判断では、

  • 実施主体の要件を満たしているか
  • 指定を受けられる見込みがあるか
  • 初期投資はいくらか
  • 毎月の固定費はいくらか
  • 地域で利用ニーズがあるか
  • 毎月何人程度の利用につながるか
  • 利用終了後も新たな利用者につながる仕組みがあるか

を具体的に確認する必要があります。

就労選択支援は制度開始からまだ日が浅いサービスです。

「高単価だから儲かりそう」という理由だけで開設を判断するのではなく、

自社の地域・人員・既存事業・利用者確保の見込みを数字に落とし込んでから判断すること

が重要です。


※本記事は2026年8月26日時点の厚生労働省および大阪市の公表資料をもとに作成しています。報酬、指定基準、申請手続等は今後変更される可能性があります。実際の開設・指定申請にあたっては、厚生労働省および指定権者の最新情報をご確認ください。

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開設は、物件・人員・制度を順番に整理することで、進め方が見えやすくなります。

物件・人員・制度の順序を整理しておくことで、途中の手戻りを減らしやすくなります。

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この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

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