2025年10月1日から、新しい障害福祉サービス「就労選択支援」が始まりました。
就労選択支援は、障がいのある方が就労先や働き方についてより良い選択ができるよう、短期間の作業体験やアセスメントを通じて、本人の希望、適性、得意なこと、必要な配慮などを整理するサービスです。
就労移行支援、就労継続支援A型・B型のいずれかへ、単純に振り分けることが目的ではありません。
本人が自分に合った働き方を考え、必要な支援を選ぶための意思決定を支えることが、制度の中心です。
一方、障がい福祉事業者にとっては、
- どのような人が利用対象となるのか
- 既存の就労系サービスと何が違うのか
- どの事業者が指定を受けられるのか
- どのような人員配置が必要なのか
- 既存事業所と一体的に運営できるのか
など、確認すべき点が少なくありません。
この記事では、就労選択支援の制度全体を理解するための入口として、対象者、支援内容、実施主体、人員配置、就労選択支援員の要件を整理します。
※この記事は、2026年7月時点で公表されている国および大阪市の資料をもとに作成しています。
就労選択支援とは
就労選択支援は、短期間の生産活動やその他の活動を通じて、本人の就労に関する適性、知識、能力などを評価し、本人の希望や必要な配慮を整理する障害福祉サービスです。
具体的には、本人が実際の作業などを体験しながら、
- どのような作業が得意か
- どのような環境で力を発揮しやすいか
- どのような場面で負担を感じるか
- 働くうえでどのような配慮が必要か
- 本人がどのような働き方を望んでいるか
などを確認します。
その結果を本人や関係機関と共有し、その後の就労先や支援方法を検討します。
就労選択支援は、事業所側が本人の進路を決めるサービスではありません。
アセスメントの結果を踏まえながら、本人が自分に合った進路を考え、選択することを支えるサービスです。
就労選択支援の利用期間
就労選択支援の支給決定期間は、市町村の判断により1か月または2か月とされています。
長期間にわたって職業訓練を行うサービスではなく、短期間の活動や面談を通じて、本人の就労面の特徴を整理することが想定されています。
ただし、「短期間だから簡単な面談だけでよい」というものではありません。
作業場面の観察、本人との面談、関係機関からの情報収集、ケース会議、結果の取りまとめなどを行い、本人のその後の選択に役立つ情報として整理する必要があります。
就労選択支援では何をするのか
就労選択支援では、一般的に次のような流れで支援が行われます。
1.本人への説明と希望の確認
まず、本人に就労選択支援の目的や実施内容を説明します。
そのうえで、本人が希望する働き方、これまでの就労経験、得意なこと、苦手なこと、不安に感じていることなどを確認します。
2.作業体験などを通じたアセスメント
生産活動やその他の活動を通じて、本人の作業面や対人面などを確認します。
例えば、
- 作業への理解
- 集中力や持続力
- 正確さ
- 作業速度
- 指示の受け取り方
- 困ったときの伝え方
- 疲労や体調の変化
- 周囲とのコミュニケーション
などが考えられます。
ただし、本人を一方的に評価することが目的ではありません。
本人自身が作業を振り返り、自分の得意なことや必要な配慮に気づけるよう支援することも重要です。
3.関係機関からの情報収集
必要に応じて、相談支援事業所、学校、医療機関、障害者就業・生活支援センター、現在利用している障害福祉サービス事業所などと連携します。
本人の同意を得たうえで、これまでの生活状況や支援経過などを確認し、事業所内の短期間の様子だけで判断しないことが大切です。
4.ケース会議の開催
アセスメントで確認した内容について、本人や関係機関を交えてケース会議を行います。
ケース会議では、事業所が一方的に結論を示すのではなく、本人の希望を中心に、今後考えられる選択肢や必要な支援について話し合います。
5.結果の作成と情報提供
最後に、アセスメントやケース会議の内容を整理し、本人へ分かりやすく説明します。
結果は、その後に利用する障害福祉サービス事業所や関係機関にも、本人の同意を得たうえで共有されます。
就労移行支援・A型・B型との違い
就労選択支援と既存の就労系障害福祉サービスでは、目的が異なります。
就労選択支援
本人が就労先や働き方を選ぶために、希望、適性、能力、必要な配慮などを整理します。
就労移行支援
一般企業などへの就職を目指し、就労に必要な知識や能力の向上、求職活動、職場定着などを支援します。
就労継続支援A型
事業所と雇用契約を結び、支援を受けながら働く障害福祉サービスです。
就労継続支援B型
雇用契約を結ばず、本人の体調や特性に応じて、生産活動などの機会と就労に必要な支援を提供します。
就労選択支援は、これらのサービスの代わりに継続的な就労支援を行うものではありません。
本人がどのような働き方や支援を選ぶかを考えるための、短期間のアセスメントと意思決定支援を行います。
就労選択支援の対象者
就労選択支援は、就労移行支援や就労継続支援A型・B型の利用を希望する人、または既に就労系障害福祉サービスを利用しており、今後の働き方を改めて検討する人などが利用対象となり得ます。
特別支援学校などの在学中に、卒業後の進路を考えるために利用する場面も想定されています。
ただし、すべての人が必ず同じ時期に就労選択支援を利用しなければならないわけではありません。
2025年10月からは、新たに就労継続支援B型を利用する場合について、原則として就労選択支援などによって就労面の課題を把握していることが利用要件となりました。
一方、過去に一般就労の経験がある人など、就労選択支援を経ずにB型を利用できる場合もあります。
また、A型の新規利用や、就労移行支援の標準利用期間を超えた利用については、支援体制の整備状況を踏まえ、2027年4月から段階的な適用が予定されています。
実際の支給決定や利用の要否については、本人の状況や自治体の運用を確認する必要があります。
就労選択支援事業所を開設できる事業者
就労選択支援は、どの法人でも新規参入できるサービスではありません。
原則として、就労移行支援または就労継続支援A型・B型の指定を受けている事業者であり、過去3年以内に、同一事業者が運営する事業所から3人以上を一般就労へ移行させた実績が必要です。
または、それと同等の障害者就労支援の経験と実績があると、指定権者から認められる必要があります。
したがって、
- 就労系サービスを運営している
- 法人格がある
- 人員や設備を用意できる
というだけで指定を受けられるわけではありません。
一般就労への移行実績または同等の就労支援実績を、客観的な資料によって説明できるかが重要になります。
必要な人員配置
就労選択支援事業所には、主に次の職員を配置します。
管理者
事業所ごとに管理者を1人配置します。
管理者は、原則として管理業務に従事します。
ただし、事業所の管理に支障がない場合は、就労選択支援事業所内の他の業務や、他事業所などの職務を兼務できる場合があります。
就労選択支援員
就労選択支援員は、利用者数15人に対して、常勤換算で1人以上の配置が必要です。
利用者数は、原則として前年度の平均利用者数を用います。新規指定時は、推定される利用者数によって計算します。
就労選択支援員は、原則として就労選択支援の業務に専従します。
ただし、利用者への支援に支障がない場合には、他の職務を兼務できる場合があります。
兼務を検討する際は、単に勤務形態一覧表の人数を合わせるだけではなく、
- 実際の勤務時間
- 利用者への支援時間
- 既存サービス側の人員基準
- ケース会議や関係機関との連絡調整
- 記録作成に必要な時間
まで確認する必要があります。
サービス管理責任者は必要?
就労選択支援の人員基準では、サービス管理責任者の配置は定められていません。
就労移行支援や就労継続支援A型・B型とは異なり、就労選択支援は短期間のアセスメントを中心とするサービスだからです。
また、就労選択支援では、就労移行支援やB型などで作成する個別支援計画とは異なる形で、アセスメント、ケース会議、結果の整理と情報提供を行います。
ただし、サービス管理責任者が不要だからといって、支援内容や記録を簡略化できるわけではありません。
就労選択支援員が中心となって、アセスメントの経過、作業時の状況、本人の意向、ケース会議の内容、関係機関との連携などを適切に記録する必要があります。
就労選択支援員になるための要件
就労選択支援員として配置されるためには、原則として「就労選択支援員養成研修」を修了する必要があります。
養成研修の受講対象となるためには、原則として、
- 障害者就労支援に関する基礎的研修を修了している
- 障害者の就労支援分野で一定の実務経験がある
などの要件を確認する必要があります。
また、制度開始時には経過措置も設けられています。
経過措置の対象となる研修や期間は限定されているため、「これまで就労支援に携わっていた」というだけで就労選択支援員として配置できるとは限りません。
指定申請を検討する場合は、配置予定者が修了した研修の名称、修了日、実務経験などを早い段階で確認する必要があります。
設備と事業所の規模
就労選択支援事業所は、10人以上の利用者を受け入れられる規模を有している必要があります。
また、事業の運営に必要な訓練・作業スペース、相談室、事務室、洗面所、便所などについて、指定基準や指定権者の取扱いを確認します。
既存の就労移行支援、A型、B型事業所と同じ建物で実施する場合でも、
- 各サービスの専用区画
- 設備の共用が認められる範囲
- 利用者の動線
- 同一時間帯の利用人数
- 既存事業の運営への影響
などを確認する必要があります。
大阪市で開設する場合の手続き
大阪市で就労選択支援事業所の指定を受ける場合は、指定申請の前に事前協議が必要です。
大阪市は、就労選択支援について独自の指定スケジュールを設けており、希望する指定月によって事前協議や指定申請の期限が決められています。
指定申請を検討する場合は、
- 実施主体の要件
- 一般就労への移行実績
- 人員配置
- 就労選択支援員の研修修了
- 事業所の区画と設備
- 運営規程
- 支援の実施方法
- 関係機関との連携体制
などを事前協議の前に整理しておく必要があります。
物件を契約した後や、職員を採用した後に実施主体の要件を満たさないことが判明すると、大きな負担になります。
まず、自法人が指定対象になり得るかを確認してから、具体的な準備を進めることが重要です。
既存の就労系事業所への影響
就労選択支援を自法人で開設しない場合でも、既存の就労移行支援、A型、B型事業所には関係があります。
就労選択支援の利用者が、その後に既存事業所の利用を希望する場合、アセスメント結果の情報提供を受けることが考えられます。
その際、結果に書かれた内容だけで利用の可否を判断するのではなく、本人の現在の希望や状態を改めて確認することが必要です。
また、既に利用している人が就労選択支援を利用する場合には、現在の支援状況や本人の様子について情報提供を求められることもあります。
既存事業所には、
- 本人同意の確認
- 提供する情報の範囲
- 支援記録との整合性
- 個別支援計画との関係
- 相談支援事業所などとの役割分担
を整理したうえで連携することが求められます。
まとめ
就労選択支援は、障がいのある方を既存サービスへ振り分けるための制度ではありません。
短期間の作業体験やアセスメントを通じて、本人の希望、適性、得意なこと、必要な配慮などを整理し、本人が就労先や働き方を選ぶことを支えるサービスです。
事業所の開設を検討する場合は、特に次の点を確認する必要があります。
- 就労移行支援または就労継続支援の指定事業者であるか
- 一般就労への移行実績など、実施主体の要件を満たすか
- 就労選択支援員を必要数配置できるか
- 配置予定者が研修要件を満たすか
- 必要な設備と事業所規模を確保できるか
- アセスメントやケース会議を適切に実施できるか
- 関係機関との連携体制を構築できるか
制度名や人員基準だけを確認して開設準備を進めるのではなく、自法人の実績、人員、設備、支援体制を一体として整理することが大切です。



