はじめに|就労継続支援の「更なる対応」が改定論点に
2026年8月27日、厚生労働省・こども家庭庁は、第62回「障害福祉報酬改定検討チーム」で、「令和9年度障害福祉報酬改定に向けた主な論点(案)」を公表しました。
その中で、就労継続支援A型・B型事業所にとって注目しておきたい記載があります。
厚生労働省がすでに公表している、
「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」
などの内容を踏まえ、今後さらに対応を検討していくことが論点として示された点です。
ここだけを見ると、
「A型・B型の新規指定が厳しくなるのではないか」
「既存事業所への確認が強化されるのではないか」
「報酬要件が変わるのではないか」
と気になる方もいると思います。
しかし、まず確認しておきたいのは、今回示されたものはあくまで「主な論点(案)」だということです。
現時点で、新規指定要件の変更や新しい減算、報酬単位の変更などが決まったわけではありません。
そこで今回は、すでに公表されている就労継続支援事業所向けガイドラインと、今回の報酬改定の論点を分けて確認しながら、A型・B型事業所が今後どこに注目しておきたいのかを整理します。
「指定就労継続支援事業所のガイドライン」とは?
厚生労働省は2026年1月、
「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」
を公表しました。
このガイドラインは、就労継続支援B型だけを対象としたものではありません。
就労継続支援A型・B型の両方について、指定権者が新規指定時や指定後の運営状況を確認する際の視点や手順などを整理したものです。
新規指定時の確認だけではなく、既存事業所の運営状況の把握・指導まで含まれている点が重要です。
なぜ、このガイドラインが作られたのか
厚生労働省の資料では、背景の一つとして、
障害者の就労能力の向上に寄与しない事業を、就労継続支援サービスとして行っている事業者の参入がある
との指摘が示されています。
就労継続支援は、単に「仕事を用意するサービス」ではありません。
障害のある方に対し、就労や生産活動の機会を提供するとともに、知識や能力の向上に必要な支援を行う障害福祉サービスです。
そのため、運営には障害福祉制度だけではなく、
- 就労支援
- 生産活動
- 事業収支
- 就労支援会計
- 工賃・賃金
- 取引先や受注の継続性
などについての理解も必要になります。
厚生労働省は、こうした就労継続支援特有の部分も含めて、自治体が新規指定や運営状況を適切に確認できるよう、ガイドラインを整理しています。
新規指定では「書類がそろっているか」だけではない
ガイドラインでは、新規指定における取組の例として、
事前説明・確認、事業計画書等の審査、必要に応じた専門家会議による審査、指定申請審査、現地確認、指定
という流れが示されています。
確認事項も、単に人員基準や設備基準を満たしているかという話だけではありません。
たとえば、
その地域でなぜ事業を行うのか
地域のニーズをどのように把握しているのか
なぜ就労継続支援というサービスを選択したのか
利用者をどのように募集するのか
どのような生産活動を予定しているのか
どの程度の収入を見込んでいるのか
など、指定後に継続して事業を運営できるのかという視点が含まれています。
これは、A型・B型の開設を考える際にかなり重要なポイントです。
指定申請書類を完成させることだけではなく、
指定を受けた後、どのように障害福祉サービスとして運営していくのか
まで考えておく必要があります。
生産活動は「仕事があるか」だけでは判断できない
就労継続支援では、生産活動は非常に重要な要素です。
しかし、
利用者が行う仕事を用意できている
というだけでは、十分とはいえません。
厚生労働省のガイドラインでは、
- 障害者福祉制度や障害者支援について必要な知識があるか
- 就労支援会計など事業運営に必要な知識があるか
- 就労に関する知識や能力を高める支援になっているか
- 安定した収益が見込める生産活動を確保できるか
といった視点が示されています。
つまり、
福祉としての支援
と、
継続可能な生産活動
の両方を見る必要があります。
A型では雇用契約に基づく賃金の支払いがあります。
B型では、生産活動による収入から必要経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払うという制度上の仕組みがあります。
両者は制度設計が異なりますが、いずれも生産活動の実態と利用者への就労支援を切り離して考えることはできません。
ガイドラインは既存事業所の運営も対象
このガイドラインで特に確認しておきたいのは、対象が新規指定だけではないことです。
既存事業所についても、
「運営状況の把握・指導」
という項目が設けられています。
具体的な確認の視点として、
- 管理者業務
- 人員配置
- 利用者への誘因行為
- 障害福祉サービス等情報公表制度への対応
- 生産活動の実態
- 生産活動による収入や取引先
- 利用者への支援内容の実施状況・適切性
- 会計情報
- 賃金・工賃の支払状況
- 在宅支援
- 施設外就労
などが示されています。
また、A型については、経営改善計画書に関する確認も含まれています。
つまり、国が確認しようとしているのは、
「指定基準を満たして開設したか」だけではなく、「指定後も就労継続支援として適切な運営が続いているか」
というところまで含まれています。
「生産活動シート」で何を確認するのか
ガイドラインでは、運営状況を確認するためのツールとして**「生産活動シート」**も示されています。
ここでは、生産活動の収支や取引先などを整理します。
生産活動について、
「何の仕事をしているのか」
だけではなく、
その仕事からどの程度の収入が得られているのか
どのような取引先があるのか
継続性があるのか
といった事業としての実態も確認していく考え方です。
就労継続支援では、福祉サービスであることと、生産活動を行うことの両方が存在します。
この二つを無関係なものとして運営するのではなく、事業所全体として説明できる状態にしておくことが重要だと考えます。
「利用者への支援内容」も確認される
もう一つ、私が特に重要だと考えているのが、
利用者への支援内容の実施状況と適切性
が確認の視点として明記されていることです。
就労継続支援は、作業場所を提供するだけの制度ではありません。
利用者一人ひとりについて、
- どのような希望があるのか
- どのような課題があるのか
- どのような支援目標を設定したのか
- 日々どのような支援を行ったのか
- 本人にどのような変化があったのか
- モニタリングでどのように評価したのか
といった流れがあります。
生産活動の実態を確認することと、利用者への支援内容を確認すること。
この二つが同じガイドラインの中に置かれていることには、意味があると思います。
生産活動と個別支援計画を分断しない
ここからは、行政書士として障がい福祉事業所の運営を見る中での私の考えです。
就労継続支援では、
「生産活動」と「個別支援」を別々のものとして扱わないこと
が大切だと考えています。
たとえば、利用者が商品の袋詰めをしているとします。
「袋詰めを行った」
という事実だけでも記録はできます。
しかし、障害福祉サービスとして考えるなら、
その作業を通じて、
「手順をどこまで理解できたのか」
「どのような声掛けや支援が必要だったのか」
「集中できる時間に変化があったのか」
「本人はどのように感じていたのか」
「個別支援計画の目標とどのようにつながっているのか」
まで考えていくことが重要です。
個別支援計画は個別支援計画。
日々の支援は日々の支援。
生産活動は生産活動。
支援記録は支援記録。
それぞれが独立して存在してしまうと、事業所として何を目指して支援しているのかが説明しにくくなります。
令和9年度改定で「更なる対応」が論点になった
ここで、2026年8月27日の令和9年度障害福祉報酬改定の資料に戻ります。
今回の「主な論点(案)」では、事業者の質の確保に関連して、
「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」
などをこれまでに公表してきたことを踏まえ、更なる対応を検討することが論点として示されています。
これが、今回の記事で最も重要なポイントです。
国はガイドラインを作って終わりではなく、その内容を今後の制度や報酬の議論でも踏まえていく方向を示しました。
ただし、新しい規制が決まったわけではない
ここは明確に分けておく必要があります。
現時点で、
A型・B型の新規指定基準が変更される
指定が以前より難しくなる
新しい減算が創設される
報酬が引き下げられる
と決まったわけではありません。
今回の資料で示されているのは、あくまで検討論点です。
「事業者の質の確保」の想定される検討事項として示されているのは、
サービスの質を確保するための運営基準や報酬算定要件等のあり方
や、
管理者等の要件・研修など、支援の質を確保するための方策
です。
具体的に何をどう変えるのかは、これからの議論を確認する必要があります。
就労継続支援だけを対象とした議論でもない
さらに注意したいのは、今回の「事業者の質の確保」という論点そのものは、就労継続支援だけを対象にしたものではないということです。
障害福祉サービス全体について、
運営基準、報酬算定要件、指定・指導、管理者等の要件、研修などを含めて、質を確保する方策を検討していくものです。
その中で、就労継続支援についてはすでに専用のガイドラインが公表されているため、A型・B型事業所としては特に注目しておきたい、という位置づけになります。
今、A型・B型事業所が確認しておきたいこと
では、改定内容がまだ決まっていない段階で、事業所は何をすればよいのでしょうか。
私は、将来の制度改正を予想して新しい書類を作ることよりも、
今の運営が説明できる状態になっているか
を確認する方が重要だと考えています。
生産活動の実態を説明できるか
どのような仕事を行い、どのような取引があり、どの程度の収入につながっているのか。
実際の運営として説明できるか確認します。
利用者への支援と生産活動がつながっているか
単に作業を提供するのではなく、その活動が利用者への就労支援としてどのように位置づけられているのかを確認します。
個別支援計画・日々の支援・記録・モニタリングがつながっているか
個別支援計画を作って終わりではありません。
実際の支援、支援記録、モニタリング、次の計画まで一つの流れとして機能しているかを見ることが大切です。
人員や運営書類と実際の運営が一致しているか
勤務表、人員配置、運営規程、研修・委員会・訓練、各種加算などについて、書類上の内容と実際の運営が一致しているか確認します。
一次情報を継続して確認する
今回の段階では、まだ具体的な改定内容は決まっていません。
報酬改定の議論はこれから進んでいきます。
SNSや二次情報だけで「A型・B型が厳しくなる」と判断するのではなく、厚生労働省・こども家庭庁が公表する資料を継続して確認することが重要です。
新規開設では「指定を取ること」をゴールにしない
これからA型・B型を開設しようとしている事業者にとっても、今回の流れは重要です。
指定申請では当然、人員・設備・運営に関する基準を満たす必要があります。
しかし、指定を取得すれば事業が完成するわけではありません。
そこから、
利用者への支援、生産活動、職員配置、個別支援計画、支援記録、工賃・賃金、各種研修や委員会などの日常運営が始まります。
だからこそ、新規指定の段階から、
「どうすれば指定を取れるか」だけではなく、「指定後にどう運営していくか」
まで考えた事業計画が重要になります。
まとめ|就労継続支援は「指定後の実態」まで見る流れへ
厚生労働省は、就労継続支援A型・B型について、新規指定だけでなく、既存事業所の運営状況まで確認するガイドラインをすでに公表しています。
そして2026年8月27日の令和9年度障害福祉報酬改定の「主な論点(案)」では、そのガイドラインの内容も踏まえた更なる対応が検討論点として示されました。
ただし、現時点で具体的な改定内容は決まっていません。
今すぐ新しい書類を作ったり、将来の減算を予想して運用を変更したりする段階ではありません。
一方で、国が何を確認しようとしているのかは、すでに公表されたガイドラインから読み取ることができます。
生産活動の実態。
会計や工賃・賃金。
人員配置。
そして、
利用者にどのような支援を行っているのか。
A型・B型の運営では、書類だけ、生産活動だけ、個別支援だけを切り離して考えるのではなく、それぞれが実際の事業運営の中でつながっていることが重要です。
令和9年度改定で具体的に何が変わるのかは、これからの議論を見なければ分かりません。
だからこそ今は、将来を予想して慌てるのではなく、
現在の運営を振り返り、事業所として行っている支援や生産活動をきちんと説明できる状態になっているか確認する。
そこから始めることが、最も現実的な備えではないでしょうか。
当ブログでも、具体的な改定案や通知等が公表され次第、一次情報を確認したうえで引き続き解説していきます。
一次情報・参考資料
・厚生労働省「第62回 障害福祉報酬改定検討チーム」
・厚生労働省「令和9年度障害福祉報酬改定に向けた主な論点(案)」
・厚生労働省「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドラインについて」
・厚生労働省「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」
今の事業所運営を、
一度整理してみませんか?
「書類や記録はあるけれど、実際の運営とつながっているか確認したい」
「個別支援計画・支援記録・人員関係・研修や委員会など、どこから見直せばよいか分からない」
「運営指導等の通知が来る前に、事業所の現在地を把握しておきたい」
という場合は、平時のうちに一度整理しておくこともできます。
行政書士田中慶事務所の「障がい福祉事業所 運営リスク点検」では、
現在の運営書類、利用者個別書類、支援記録、人員・勤務関係、
研修・委員会・訓練、主要な加算関係などを確認し、
リスクや不足、確認・見直し事項、今後の優先順位を整理します。
※運営指導等の通知が来る前の平時点検を目的としたサービスです。
※行政機関から指摘を受けないこと、報酬返還・減算等が生じないことを保証するものではありません。



