はじめに
厚生労働省の「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」で示された、「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方(中間とりまとめ案)」。
第1回では、一般就労と福祉の役割をあらためて整理しようとしている全体像を、第2回では就労継続支援B型、第3回では就労継続支援A型について取り上げました。
第4回では、就労選択支援に焦点を当てます。
就労選択支援は、障がいのある人が自分の働き方を考え、一般就労や就労系障害福祉サービスなどの選択肢を検討するために、本人との協同によるアセスメントや情報提供を行うサービスです。厚労省は、障害者本人や支援者が就労能力や一般就労の可能性を十分に把握できず、適切なサービスにつながっていないという指摘を踏まえて、この仕組みを創設したと整理しています。
今回の中間とりまとめ案では、この就労選択支援を含む就労アセスメントのあり方そのものが、今後の重要な論点として位置付けられています。
特に注目したいのは、
- アセスメントの標準化
- 客観性の向上
- 中立・公正性の担保
- 本人の希望の捉え方
です。
これは単なる手続論ではありません。
就労選択支援のアセスメント結果は、その人が一般就労を目指すのか、就労移行支援を利用するのか、A型やB型を利用するのかといった今後の選択に大きく関わります。
だからこそ、
「誰が、どのような基準で、その人の可能性を捉えるのか」
という問題が非常に重要になります。
なお、本記事で扱う内容も現時点では中間とりまとめ案や構成員意見の段階です。
今後の制度変更が決定したものではありません。
就労選択支援は、何のためにつくられたのか
厚労省資料によると、就労選択支援が創設された背景には、
障害者本人や支援者が、本人の就労能力や一般就労の可能性を十分に把握できていない
という課題がありました。
その結果、
- 本人に合った働き方が十分に検討されない
- 適切な障害福祉サービスにつながらない
- 一般就労の可能性が十分に検討されない
といった問題が起こり得ます。
そこで2022年の総合支援法改正により就労選択支援が創設され、現在の就労系障害福祉サービス体系につながっています。
就労選択支援では、
本人との協同によるアセスメント
と、
本人への情報提供
を通じて、その人自身が自分の働き方を考えることを支援します。
つまり、本来は、
「あなたはB型です」
「あなたは一般就労です」
と支援者側が一方的に振り分けるための制度ではありません。
本人が自分の状態や能力、希望を理解し、選択肢を知ったうえで、自分に合った働き方を考えるための支援です。
就労選択支援が今後さらに重要になる理由
今回の中間とりまとめ案では、雇用と福祉の役割について、
- 一般就労が可能な状態像にある人には、一般就労で雇用機会を設ける
- 一般就労が困難な人には、福祉で一般就労への移行支援または就労の場を設ける
という基本的な考え方が示されています。
しかし、ここで当然一つの問題が出てきます。
「一般就労が可能かどうかを、どう判断するのか」
という問題です。
一般就労の働き方は、この20年間で大きく変化しています。
短時間勤務などの柔軟な働き方が広がり、以前であれば一般就労が難しいと考えられていた人が、現在では一般企業で働けるケースもあります。
一方で、
- 障がい特性
- 体調
- 生活状況
- 職場環境
- 通勤
- 業務内容
- 必要な合理的配慮
によって、同じ人でも働ける環境は大きく変わります。
だからこそ厚労省は、福祉側でも就労に関するアセスメント機会を広く設けることが必要だとしています。
「本人の希望」を、その言葉どおりに受け取ればよいのか
今回の資料で、私が特に重要だと思うのがこの部分です。
厚労省は、
本人の「希望」を、本人が発言した内容のまま捉えるのではない
という考え方を示しています。
例えば、
「一般就労はしたくありません」
という本人の発言があったとします。
それだけを聞けば、
「本人は一般就労を希望していない」
という結論になります。
しかし、その背景には、
- 過去に職場でつらい経験をした
- 自分にはできないと思っている
- 一般就労の具体的なイメージがない
- どのような配慮を受けられるか知らない
- 今の事業所を離れることが不安
といった事情があるかもしれません。
逆に、
「一般就労したい」
という言葉があっても、
- どのくらい働きたいのか
- どのような仕事を希望しているのか
- 収入をどの程度必要としているのか
- 働き続けるためにどのような支援が必要なのか
まで確認しなければ、本当の希望は見えてきません。
厚労省は、本人の不安に寄り添い、十分な情報提供やエンパワーメントを行ったうえで、丁寧なアセスメントによって本人の本当の意思やニーズを引き出す支援が必要だとしています。
これは非常に重要な考え方です。
「本人の希望を尊重する」と「希望をそのまま受け取る」は違う
障害福祉では、本人の意思決定支援が重要です。
だからこそ、
本人が言ったことに従えば、それで本人主体になる
と考えてしまうと少し危険です。
本人が選択するためには、その前提として、
- 選択肢を知っていること
- メリットとデメリットを理解していること
- 自分の状態を把握していること
- 必要な支援を知っていること
が必要です。
情報を持たないまま選んだ結果と、十分な情報提供を受けたうえで選んだ結果は、同じ「本人の希望」でも意味が違います。
就労選択支援が目指しているのは、
本人の意思を支援者が代わりに決めることでも、本人の言葉を無条件に追認することでもない
ということだと思います。
本人が自分自身の働き方を考えられるよう、必要な情報と経験を提供し、その意思形成を支える。
このプロセスが重要です。
一般就労の可能性は「本人の能力」だけで決まらない
厚労省資料では、もう一つ重要な指摘があります。
一般就労が実現するかどうかは、
本人の能力だけで決まるものではない
ということです。
一般就労が可能かどうかは、
- 本人の能力
- 適性
- 業務内容
- 職場環境
- 支援体制
- 配慮の内容
など、複数の要素の組み合わせで変わります。
例えば、同じ人でも、
長時間勤務を前提とする仕事では難しくても、短時間勤務なら可能かもしれません。
対人業務が多い職場では難しくても、個人作業中心の仕事なら能力を発揮できるかもしれません。
視覚的な指示では難しくても、文章や手順書があれば安定して働けるかもしれません。
つまり、
「この人は一般就労できる人」
「この人は一般就労できない人」
と、人そのものに固定的なラベルを貼るような判断は、本来かなり難しいということです。
実際の企業での結果も判断材料になる
中間とりまとめ案では、一般就労の可能性を判断する際には、
企業による採否結果など、実際の状況も考慮する必要がある
としています。
これは興味深いポイントです。
アセスメント室の中だけで、
「この人は働けそう」
「まだ一般就労は難しそう」
と判断しても、実際の職場では結果が違うことがあります。
逆に、アセスメント上は課題が多く見えても、実際に企業実習をすると高い適応力を示すこともあります。
だからこそ、
- 企業実習
- 職場体験
- 実際の採用活動
- 企業側からのフィードバック
などを通じて、実際の環境との適合性を見ることも重要になります。
ここは、机上の評価だけでは判断できない就労支援の難しさでもあります。
なぜ「アセスメントの標準化」が必要なのか
今回の中間とりまとめ案では、
一般就労の可能性の捉え方は必ずしも容易ではない
と明記されています。
そのうえで、
- 標準化
- 客観性の向上
- 中立・公正性の担保
といった観点から、アセスメント機能の強化や実施方法を検討する必要があるとしています。
参考資料では、さらに具体的に、
- アセスメント手法の統一
- 実務担当者の目線合わせ
- アセスメント結果を支給決定にどう勘案するか
についてルール整備が必要ではないか、という構成員意見が示されています。
なぜこうした標準化が必要なのでしょうか。
理由は単純です。
同じ利用者でも、
事業所Aでは「一般就労可能」
事業所Bでは「B型が適切」
と評価が大きく違えば、本人にとって非常に不安定な制度になります。
もちろん、支援者による評価が完全に同じになることはありません。
しかし、最低限、
- 何を見るのか
- どのように評価するのか
- どのような根拠で判断するのか
について一定の共通理解が必要です。
なぜ「中立性」が問題になるのか
さらに参考資料では、
特定の事業所へ誘導されないよう、中立性・公平性を担保する必要がある
という意見も示されています。
これは就労選択支援の制度設計上、かなり重要な問題です。
例えば、就労選択支援を行う法人が、
- 就労移行支援
- A型
- B型
などを同じ法人内で運営している場合。
アセスメント結果によって、その法人の別事業所へ利用者がつながる可能性があります。
もちろん、それ自体が問題というわけではありません。
しかし、本人にとって最適な選択肢ではなく、
「自法人のサービスにつなげやすいから」
という理由で方向が決まるようなことがあれば、制度の目的から外れてしまいます。
だからこそ、
アセスメントを行う側の中立性
が問われます。
自立支援協議会などによる相互評価という案も
参考資料では、さらに、
自治体が就労選択支援事業者を指定する際に、自立支援協議会の就労部会等への参加を求め、
事業者間でアセスメント結果を相互評価する
ことで、客観性を高め、互いに学び合う仕組みをつくってはどうか、という意見も出ています。
これも現時点で制度化が決まったわけではありません。
ただし、方向性としては興味深いものです。
アセスメントを各事業所だけで完結させるのではなく、
地域全体で評価の質を高める
という考え方です。
就労支援は、事業所単独で完結するものではありません。
ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、相談支援、企業、医療、家族など、多くの関係者が関わります。
その意味でも、地域で共通理解をつくるという考え方には一定の合理性があります。
家族や支援者への情報提供も重要
参考資料では、本人だけではなく、
家族や身近な支援者に対する丁寧な情報提供や合意形成への配慮
も必要ではないか、という意見が出ています。
就労の選択は本人のものです。
しかし、現実には、
- 家族が一般就労を強く勧めている
- 家族が一般就労を不安視している
- 支援者の評価と本人の希望が違う
- 本人と家族で将来像が違う
といったこともあります。
そのような場合、
「本人が決めることだから」
と周囲との対話を切り離せばよいわけでもありません。
本人の意思決定を中心に置きながら、必要な情報を共有し、関係者が理解できるよう調整する。
この部分も就労選択支援の質に関わると思います。
就労選択支援は「B型利用前の手続」ではない
就労選択支援について、現場ではどうしても、
「B型を利用する前に受けるサービス」
という理解になりやすいかもしれません。
しかし、今回の中間とりまとめ案を見ると、厚労省が考えている役割はそれより広いものです。
既に就労継続支援を利用している人に対しても、定期的に就労選択支援に関する情報提供を行い、その後、一般就労が可能となったと見込まれる場合には、本人の希望を尊重しながら就労移行支援や一般就労等の選択機会を提供することとされています。
つまり、就労選択支援は、
一度だけ利用して進路を決める制度
ではなく、
本人の状態や希望が変化したときに、働き方を見直すための仕組み
としても位置付けられています。
ここは今後さらに重要になる可能性があります。
アセスメントは「振り分け」ではなく、選択肢を広げるためのもの
就労選択支援のアセスメントというと、
「一般就労」
「就労移行」
「A型」
「B型」
のどこに振り分けるかを決めるものと考えられがちです。
しかし、本来の役割はもう少し違います。
本人が自分の働き方を考えるために、選択肢を増やすこと。
これが中心です。
例えば、
「B型しか無理だと思っていたが、短時間の一般就労なら可能かもしれない」
「一般就労しか考えていなかったが、まず就労移行支援で経験を積む方法もある」
「今はA型で安定して働きながら、将来一般就労を検討する」
など、本人が自分の状況に応じて選べるようにする。
そのためのアセスメントであるべきだと思います。
事業所が今、確認しておきたいこと
今回の議論を踏まえると、就労系障害福祉サービス事業所も、自らのアセスメントや支援の進め方を振り返る価値があります。
1.結論ありきのアセスメントになっていないか
「この人はB型」
「この人は一般就労は難しい」
と最初から決めてしまっていないでしょうか。
利用開始時の評価が、そのまま何年も固定されていないか確認する必要があります。
2.本人の希望の背景まで確認できているか
「一般就労したくない」
「ずっとこの事業所にいたい」
という言葉だけで終わらず、
その理由や不安、情報不足の有無まで確認できているでしょうか。
3.アセスメントの根拠を説明できるか
なぜその支援方針になったのか。
どのような情報をもとに判断したのか。
本人の希望をどう確認したのか。
これらが、アセスメント記録、個別支援計画、モニタリング等につながっていることが重要です。
4.他機関の視点を取り入れているか
事業所内だけの評価で完結せず、
- 相談支援
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
- 医療機関
- 企業
など、必要な関係機関と情報共有・連携できているでしょうか。
客観性を高めても「正解」が一つになるわけではない
ここで誤解してはいけないのは、
アセスメントを標準化すれば、誰が評価しても同じ答えになる
ということではありません。
人の働き方に、完全な正解はありません。
本人の状態も変わります。
地域の雇用環境も違います。
企業によって求める能力も違います。
だからこそ、標準化の目的は、
答えを一つにすること
ではなく、
判断の根拠を透明にすること
だと私は考えます。
「なぜその結論になったのか」
「どの情報をもとに判断したのか」
「他の選択肢は検討したのか」
これを説明できることが重要です。
まとめ
今回の中間とりまとめ案では、雇用と福祉の役割を整理するうえで、
本人の希望と状態像を踏まえた丁寧なアセスメント
が重要な前提として置かれています。
そして、
- 就労アセスメントの機会を広く設ける
- 本人の希望を表面的な発言だけで捉えない
- 一般就労の可能性を本人の能力だけで判断しない
- アセスメントの標準化と客観性を高める
- 中立・公正性を担保する
といった方向が示されています。
就労選択支援は、
「どのサービスを使うかを決めるための仕分け」
ではありません。
本人が自分の働き方を理解し、選択肢を知り、自分自身で考えるための支援です。
だからこそ、そのアセスメントには高い質と中立性が求められます。
今後、就労選択支援がどこまで就労支援体系全体の入口として機能するようになるのか。
そして、アセスメント結果が支給決定やその後の支援にどのように位置付けられるのか。
この点は引き続き注視する必要があります。
次回は、一般就労側に目を移し、**障害者雇用の「質」**について取り上げます。
シリーズ記事
第1回
「障害者就労はどう変わる?厚労省『雇用と福祉の中間とりまとめ案』から読む今後の方向性」
第2回
「就労継続支援B型は『工賃』だけで評価できるのか?高齢化・重度化する利用者と今後の役割」
第3回
「就労継続支援A型の役割はどう変わる?一般就労との境界から読む厚労省の議論」
第4回
「就労選択支援は今後どうなる?アセスメントの客観性・中立性を厚労省資料から読む」
第5回
「障害者雇用は『人数』から『質』へ?厚労省資料が示す一般就労と福祉の新たな関係」
第6回
「一般就労か福祉かの二択ではない?『雇用と福祉の相互往来』から考える障害者就労のこれから」
一次情報・参考資料
- 厚生労働省「第6回障害者就労に係る雇用福祉横断検討会(資料)」
- 厚生労働省「資料1-1 雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方について (中間とりまとめ案)」
- 厚生労働省「参考資料2【参考】個別施策に関する構成員からのこれまでの御意見」
アセスメントの結果と、
日々の支援はつながっていますか?
就労支援では、利用開始時のアセスメントだけでなく、
本人の希望や状態の変化を継続して確認し、
その内容を個別支援計画・モニタリング・日々の支援記録へ
つなげていくことが重要です。
「なぜこの支援方針なのか」
「本人の希望をどのように確認したのか」
「状態が変わったときに支援内容を見直せているか」
が、書類と実際の支援の両方から説明できるでしょうか。
行政書士田中慶事務所では、
記録・個別支援計画、運営書類、研修、職員体制など、
現在の支援と運営の状況を確認しながら、
優先して整理したい点を一緒に確認します。
※制度改正や報酬改定の内容が決定する前に、対応を先取りすることを目的としたものではありません。
※現在の支援・運営状況を確認し、必要な範囲で整理や改善方法を検討します。





