2026年9月28日に開催された第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、就労移行支援、就労継続支援A型・B型の在宅支援について、かなり具体的な見直し案が示されました。
現在、就労系サービスは原則として通所による支援を前提としています。
一方で、障害特性や地理的事情などにより、在宅で支援を受けることが本人の「知識及び能力の向上」につながる場合もあるため、一定の要件のもとで在宅支援が認められています。厚生労働省は今回、その運用について、適切な在宅支援が行われている事業所がある一方、就労支援としての実態が乏しいケースも指摘されていると整理しています。
今回の検討方向には、
- 在宅支援の対象者要件を見直す
- 在宅支援の基本報酬を一定程度引き下げる
- 定員に対する在宅支援利用者割合に上限を設ける
- 積極的な在宅支援を行う場合は従前どおりの単価・上限なしとする
- 指定権者へ在宅支援のチェックリストを提出する
- 市町村・指定権者が支援実態を確認できる仕組みを設ける
といった内容が含まれています。
ただし、これらはすべて令和9年度障害福祉報酬改定に向けた検討案です。
現時点で、基本報酬が下がることや、在宅利用割合の上限が決定したわけではありません。
この記事では、第64回検討チーム資料をもとに、今回の在宅支援見直し案を整理します。
令和9年度障害福祉報酬改定の全体像はこちら
第63回・第64回で示された訪問系・就労系サービスの主要論点を、まとめ記事で整理しています。
第63回・第64回障害福祉報酬改定検討チームの重要論点まとめ
なぜ在宅支援が見直されるのか
厚生労働省資料では、在宅支援について大きく二つの側面が示されています。
一つは、在宅支援が必要で、実際に効果的な支援が行われているケースがあることです。
たとえば、
- 重度障害があり通所が難しい
- 離島や豪雪地帯など地理的に通所が難しい
- ひきこもり状態などで、まず在宅から支援を始める必要がある
- 将来的な在宅就労を目指し、在宅での訓練が必要
といった場合です。
一方で、資料では、
- 就労に必要な知識・能力の向上につながらない自習
- 生産活動として適切とは言いにくい活動
- 実際の支援内容が外部から確認しにくいケース
なども課題として挙げられています。
つまり今回の見直しは、
「在宅支援をなくす」ことではなく、「必要な在宅支援と、支援実態の乏しい在宅利用をどう区別するか」
が中心の論点です。
現在の在宅支援の考え方
コロナ禍以前は、在宅支援の対象者は、
「通所利用が困難で、在宅による支援がやむを得ないと市町村が判断した場合」
に限られていました。
その後、コロナ禍を経て、
「在宅でのサービス利用を希望し、在宅でのサービス利用による支援効果が認められると市町村が判断した場合」
まで対象が広がっています。
ただし、第64回資料では、この「支援効果が認められる」という部分について、特段の共通基準が設けられていないことも課題として整理されています。
そのため今回、在宅支援の対象者をもう少し明確にする方向が示されました。
対象者を「通所を上回る支援効果が認められる者」へ
今回の検討案では、在宅支援の対象者について、
単に「在宅でも支援効果がある」だけではなく、「通所を上回る支援効果が認められる者」としてはどうか
という方向が示されています。
その具体例として、次の3類型が提示されています。
1.通所が困難な人
たとえば、
- 重度障害がある
- 離島に住んでいる
- 豪雪地帯など地理的事情がある
といったケースです。
2.通所につなげるために、まず在宅支援が必要な人
たとえば、ひきこもり状態にあり、いきなり通所することが難しい人などです。
在宅支援そのものを最終形とするのではなく、通所へつなげるための段階的支援として位置付ける考え方です。
3.在宅での一般就労を目指すため、在宅支援が必要な人
在宅での一般就労を希望し、在宅環境での訓練が将来の就労に直接つながるケースです。
資料では、この類型について、集中力があり、自立して作業できる人に限定するイメージも示されています。
在宅支援の基本報酬を一定程度引き下げる案
今回、特に注目されるのが報酬です。
厚生労働省は、
在宅支援では事業所の運営費等が一定程度抑えられていると考えられることから、基本報酬を一定程度引き下げてはどうか
という案を示しています。
これは、
在宅支援だから必ずコストが低い
と断定しているわけではありません。
実際、資料では、積極的な在宅支援を行っている事業所では、利用者との円滑なコミュニケーション環境を整備するなど、通所支援に劣らない費用が生じている場合もあると整理されています。
そのため、
すべての在宅支援を一律に低い報酬にする案ではない
点が重要です。
「積極的な在宅支援」なら従来単価を維持する案
第64回資料では、
在宅支援の基本報酬を一定程度引き下げる
一方で、
積極的な在宅支援を行っている場合には、従前どおりの単価とする
案も示されています。
つまり、今後は同じ「在宅支援」であっても、
- 最低限の連絡だけで済ませている支援
- 支援体制を整え、利用者の能力向上につながる支援を行っているケース
を、同じ報酬で評価しない可能性があります。
ここで重要になるのが、
「在宅で何をしているか」ではなく、「事業所が在宅でどのような支援をしているか」
です。
在宅利用者の割合に上限を設ける案
もう一つの大きな変更候補が、在宅利用者の割合です。
厚生労働省は、
定員に対する在宅支援利用者の割合に一定の上限を設けてはどうか
としています。
ただし、具体的な上限割合は、厚生労働省の「検討の方向性」ではまだ確定していません。
関係団体ヒアリングでは、「在宅利用者数・利用日数をいずれも5割以内に」といった意見も出ていますが、これは関係団体からの提案であり、厚生労働省が5割上限を決定・提案したものではありません。
ここは発信上、明確に分ける必要があります。
積極的な在宅支援なら「割合上限なし」も検討
一方で、
積極的な在宅支援を行っている場合は、在宅利用者割合の上限を設けない
という例外案も示されています。
つまり、制度設計としては、
在宅利用者が多いこと自体を問題とする
というより、
多数の在宅利用者に対して、本当に適切な支援を提供できる体制があるのか
を見る方向に近いと考えられます。
「在宅支援の内容に関するチェックリスト」を提出する案
在宅支援を行う事業所については、
あらかじめ指定権者へ「在宅支援の内容に関するチェックリスト」を提出する
案も示されています。
資料では、チェック項目のイメージとして、
- 運営規程に在宅支援が明記されているか
- どのような作業・支援を行うのか
- 報酬算定要件を満たしているか
- 従来単価を算定するための要件を満たしているか
などが示されています。
これは、在宅支援について、
「請求後に問題がないかを見る」だけではなく、「実施前から支援体制を確認する」
方向といえます。
市町村と指定権者の両方が確認する仕組みへ
今回の資料では、在宅支援の確認について、
市町村
利用者の支給申請時に、在宅支援の対象者要件を満たしているか確認する。
指定権者
事業所から提出されたチェックリストを確認し、報酬算定要件を満たす支援体制があるか確認する。
という流れが示されています。
さらに、支給決定後に在宅支援の報酬請求があった場合、市町村が必要に応じて事業所や指定権者へ確認し、報酬算定の可否を判断する仕組みも検討されています。
つまり、
利用者側の必要性と、事業所側の支援体制の両方を見る仕組み
へ整理する方向です。
運営指導でも在宅支援の実態確認を強める方向
今回の検討は、書類提出だけでは終わりません。
資料では、指定権者がチェックリストを確認した後も、運営指導時に実際の在宅支援が適切に行われているか確認する方向が示されています。
そのため、今後重要になる可能性があるのは、
- 在宅利用の必要性
- 個別支援計画とのつながり
- 日々どのような連絡・支援をしたか
- 作業内容
- 進捗確認
- 緊急時の対応体制
- 支援結果
などを、実際の記録から説明できることです。
ここは、単なる「在宅利用の可否」の話ではなく、支援実態をどう示すかという運営上の問題でもあります。
在宅支援は「LINEで確認すればよい」ではない
関係団体ヒアリングでは、LINE確認や動画指導だけのリモート対応と、対面で丁寧に支援を行う場合が同じ単価であることへの問題提起も出ています。
もちろん、これは関係団体からの意見であって、厚生労働省の決定事項ではありません。
ただ、今回の検討方向全体を見ると、
連絡手段があること自体ではなく、それによって利用者の知識・能力向上につながる支援が実際に提供されているか
を確認しようとしていることは読み取れます。
在宅支援のすべてが問題視されているわけではない
今回の資料を、
在宅支援を減らす方向になった
とだけ捉えるのは正確ではありません。
厚生労働省自身、
- 重度障害者への支援
- 離島・豪雪地帯などでの支援
- 在宅での一般就労を目指す支援
など、在宅支援が有効なケースを認めています。
また、関係団体からも、在宅訓練が通勤困難な利用者の一般就労につながる重要なステップになっているため、一律制限を避けるべきだとの意見が出ています。
今回の方向性は、
在宅支援そのものを否定するのではなく、「なぜ在宅なのか」「何を支援しているのか」をより明確にする
ものと捉える方が近いでしょう。
事業所はいま何を確認しておけばいいのか
現時点で、在宅利用者を減らしたり、新しい独自チェックリストを作ったりする必要はありません。
まだ検討段階だからです。
一方、今の制度のもとでも、
- 在宅利用が本人にとって必要な理由を説明できるか
- 個別支援計画に在宅支援の目的が位置付けられているか
- 在宅で行う作業・訓練が本人の能力向上につながっているか
- 日々の支援内容を記録しているか
- 進捗確認や相談対応の方法が決まっているか
- 緊急時に対応できる体制があるか
は確認しておく意味があります。
これらは令和9年度改定対策というより、現在の在宅支援が本当に障害福祉サービスとして説明できる状態かを確認する作業です。
今回の見直しで一番重要なのは「在宅か通所か」ではない
今回の議論で本質的なのは、
在宅支援は良い
通所支援は良い
在宅支援は悪い
という二者択一ではありません。
問われているのは、
その利用者にとって、その支援方法が適切なのか
ということです。
ある人には通所支援の方が効果的かもしれません。
別の人には、在宅支援だからこそ力を発揮できる場合もあります。
今回の改定案は、その違いを、
- 利用者要件
- 事業所要件
- 報酬
- 支援記録
- 行政による確認
によって、より明確にしていこうとするものです。
まとめ|在宅支援は「利用しているか」から「なぜ・どう支援しているか」へ
第64回障害福祉報酬改定検討チームでは、就労系サービスの在宅支援について、
- 対象者要件の見直し
- 基本報酬の一定程度の引下げ
- 在宅支援利用者割合への上限
- 積極的な在宅支援を行う場合の例外
- チェックリストの提出
- 市町村・指定権者による確認
- 運営指導での支援実態確認
といった案が示されました。
ただし、すべて現時点では検討案です。
基本報酬の引下げ幅や在宅利用割合の上限など、具体的な数字はまだ示されていません。
その一方で、方向性としては、
「在宅利用している」という事実だけではなく、「なぜ在宅支援が必要で、何を目的に、どのような支援を行っているのか」
を説明できることが、これまで以上に重要になる可能性があります。
制度を先取りして慌てる必要はありません。
まずは現在行っている在宅支援について、本人の必要性、個別支援計画、日々の支援記録が一つにつながっているかを確認しておくことが大切です。
一次資料
今回の記事は、以下の厚生労働省資料をもとに整理しています。
- 厚生労働省「第64回障害福祉報酬改定検討チーム」
2026年9月28日開催。議題は「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(就労系サービス)」です。資料一覧から、今回使用した「就労系サービスに係る報酬・基準について」も確認できます。厚生労働省
第64回障害福祉報酬改定検討チーム資料一覧 - 厚生労働省「就労系サービスに係る報酬・基準について」
全125ページの資料で、在宅支援については「論点3 在宅支援について(就労移行支援、就労継続支援)」として整理されています。対象者要件、基本報酬、在宅利用割合、チェックリスト、指定権者・市町村による確認などの検討方向が示されています。厚生労働省
就労系サービスに係る報酬・基準について(PDF)
在宅支援の「必要性」と「日々の支援」、説明できる状態になっていますか?
今回示された見直し案は、まだ令和9年度改定として決定したものではありません。
制度を先取りして運用を変更する必要はありません。
一方、在宅利用の理由、個別支援計画、日々の支援記録、モニタリングが実際の支援とつながっているかは、現在の適正な事業運営でも重要です。
行政書士田中慶事務所では、既存の障がい福祉事業所を中心に、現在の運営状況や記録・計画の整理、運営リスクの確認を行っています。
