家族に支援方針を説明したものの、なかなか理解してもらえない。
事業所では落ち着いて過ごしているのに、家族からは「家では全く違う」と言われる。
本人にとって必要だと考えている支援について、家族から異なる希望が示される。
障害福祉の現場では、家族と事業所の間で、本人の状態や支援方針について認識が合わないことがあります。
このような場面で、事業所側が「説明しても分かってもらえない」、家族側が「本人のことを理解してもらえていない」と感じ始めると、話し合いそのものが難しくなります。
ただ、認識が異なるからといって、どちらかが間違っているとは限りません。
家族と事業所では、本人と接する場面、時間、役割が異なります。それぞれが持っている情報の違いを整理し、本人の意思を中心に置き直すことが、連携を進める第一歩です。
家族と事業所は、本人の異なる場面を見ている
家族は、家庭での生活だけでなく、これまでの成育歴、体調の変化、過去のつまずき、本人の好みや苦手なことなど、長期間にわたる情報を持っています。
一方、事業所は、サービス利用中の行動、活動への参加状況、職員の働きかけに対する反応、他の利用者との関係などを継続的に見ています。
たとえば、事業所では落ち着いて作業している本人が、帰宅後には疲れて動けなくなることがあります。
この場合、事業所が見ている「作業中の安定」と、家族が見ている「帰宅後の疲労」は、どちらも本人の実際の姿です。
一方だけを正しい情報として扱うのではなく、両方をつなげて考えることで、初めて本人の生活全体が見えてきます。
支援方針が伝わらない背景には、説明内容の違いがある
事業所が家族へ説明する際、支援者同士であれば通じる言葉をそのまま使ってしまうことがあります。
たとえば、
- 見守りを中心に支援しています
- 本人の自主性を尊重しています
- 不適応行動が見られました
- 環境調整を行っています
といった表現です。
これらの言葉だけでは、実際に何をしたのか、なぜその対応をしたのか、本人がどのように反応したのかが分かりません。
家族から見ると、「何もしてもらえていないのではないか」「本人が困っているのに任せきりなのではないか」と受け取られる可能性もあります。
支援方針を共有するときは、専門用語だけで終わらせず、具体的な場面と対応をあわせて伝えることが大切です。
たとえば、
「作業を急かすと手が止まる様子があったため、職員からすぐに声をかけず、本人が再開するまで少し待ちました。その後、本人から『続きをする』と話し、作業へ戻りました」
と伝えれば、事業所が考える「見守り」の内容が具体的になります。
家族の希望と本人の意思は、同じとは限らない
家族から示される希望は、本人を心配する気持ちや、将来への不安、家庭での負担などを背景としていることがあります。
その希望を丁寧に聞くことは重要です。
ただし、家族の希望をそのまま本人の希望として扱うことには注意が必要です。
障害福祉サービスの提供では、本人の自己決定を尊重し、意思決定を支援することが基本となります。本人が言葉で希望を表しにくい場合にも、表情、行動、選択、拒否、日常の様子などから意思や選好を確認し、関係者が情報を持ち寄って検討することが求められます。
家族と事業所の意見が異なるときも、「どちらの意見を採用するか」だけで考えるのではなく、本人はどのように感じているのか、本人の反応から何が読み取れるのかを確認する必要があります。
認識のずれを整理する3つの情報
家族との話し合いでは、多くの情報を一度に説明するより、次の3点を分けて整理すると伝わりやすくなります。
1.確認できた事実
まずは、評価や推測を入れず、実際に確認した行動や発言を伝えます。
たとえば、
- 午前中に3回席を離れた
- 職員の声かけに「今はしない」と答えた
- 別の作業を提示すると本人が選択した
- 休憩後は20分間作業を継続した
といった情報です。
「集中力がない」「意欲が低い」などの評価だけでは、事業所と家族で受け止め方が変わりやすくなります。
2.事業所が行った支援
次に、その場面で事業所がどのような対応をしたかを伝えます。
- 作業量を少なくして提示した
- 休憩するか続けるかを本人に選んでもらった
- 周囲の音が少ない席へ移動した
- 本人から話し始めるまで待った
対応内容が具体的であれば、支援方針も理解されやすくなります。
3.支援後の本人の様子
最後に、その支援によって本人がどう変化したかを伝えます。
- 表情が和らいだ
- 自分から作業を再開した
- 「この席の方がいい」と話した
- その後は離席せず過ごした
支援の結果が分かれば、家族も事業所の対応の意図を判断しやすくなります。
ただし、一度の結果だけで支援方法が正しいと決めるのではなく、一定期間の記録を通じて傾向を確認することが必要です。
家庭での様子も、支援を考えるための重要な情報になる
事業所から家族へ一方的に説明するだけでは、十分な連携とはいえません。
家庭での睡眠、服薬、食事、休日の過ごし方、帰宅後の疲労、本人が家庭で話していることなどは、事業所での支援を考えるうえでも重要です。
たとえば、事業所で活動量が落ちている原因が、支援内容ではなく睡眠不足や体調変化にある場合もあります。
家族から得た情報は、必要に応じて支援記録やアセスメントへ反映し、個別支援計画の見直しにもつなげます。
障害福祉サービスは、利用者一人ひとりについて個別支援計画を作成し、利用目的に沿った支援を提供する仕組みです。本人の生活を支えるためには、事業所内だけで完結させず、家庭や相談支援などの情報とつなげる視点が欠かせません。
話し合いの目的を「合意すること」だけにしない
家族との面談では、すべての認識を一致させようとすると、かえって話し合いが難しくなることがあります。
生活場面や役割が違う以上、見方が完全に一致しないこともあります。
大切なのは、
- どの点について認識が異なるのか
- それぞれがどの情報をもとに判断しているのか
- 本人の意思や反応はどうか
- 次に何を試し、何を記録するのか
を整理することです。
その場で結論が出ない場合は、一定期間試したうえで再度確認する方法もあります。
たとえば、「今後1か月は活動前に本人が作業を選べるようにし、そのときの選択と終了後の様子を記録する」と決めれば、次回は具体的な情報をもとに話し合えます。
「家族対応」ではなく、本人を中心とした連携として考える
家族との認識が合わない場面を、単に「家族対応の難しさ」として処理すると、本人の存在が置き去りになることがあります。
家族も事業所も、本人の生活を支える関係者です。
それぞれが持つ情報は違いますが、違うからこそ、持ち寄る意味があります。
事業所には、サービス提供中の事実と支援経過を整理して伝える役割があります。
家族には、家庭やこれまでの生活から見える本人の情報があります。
そして、その中心に置くべきなのは、本人の希望、選択、拒否、表情、行動などから確認される意思です。
認識のずれをなくすことだけを目標にするのではなく、ずれがあることを前提として情報を整理し、本人にとってよりよい支援を一緒に検討することが、家族連携の基本だと考えます。
まとめ
家族と事業所の認識が異なるのは、どちらかが本人を理解していないからとは限りません。
家庭と事業所では、本人と接する場面や持っている情報が異なります。
支援方針を共有するときは、
- 確認した事実
- 事業所が行った支援
- 支援後の本人の様子
を具体的に整理します。
さらに、家庭での情報も受け取り、本人の意思を中心に置きながら、必要に応じて個別支援計画や日々の支援へ反映することが重要です。
完全な意見の一致を急ぐより、何が違って見えているのかを確認し、次に試す支援と記録方法を決める。
その積み重ねが、家族と事業所の信頼関係と、本人に合った支援につながります。
記録と計画のつながりを、一度整理してみませんか
支援記録の書き方に迷う背景には、記録だけでなく、個別支援計画・モニタリング・日々の支援内容のつながりが整理できていないことがあります。
外部の視点で確認することで、「足りない部分」と「今のままでよい部分」を整理し、今後の記録・計画作成に活かしやすくなります。
支援記録・個別支援計画の整合性レビューを見る