こんにちは。行政書士の田中慶です。
僕は、障がい福祉事業所の運営や書類整備を支援する行政書士として、大阪市を中心に活動しています。
ただ、僕が障がい福祉を専門にしている理由は、単に将来性のある分野だと思ったからでも、過去の職歴が福祉と関係していたからでもありません。
僕自身がうつ病を発症し、障がい者として福祉制度や福祉事業所を利用してきた当事者だからです。
この記事では、僕が行政書士になった理由と、現在の仕事で大切にしていることをお伝えします。
介護施設の開設申請に関わった20代
20代の頃、僕は介護施設の開設申請に関わる仕事をしていました。
行政へ提出する書類を整え、制度上の要件を確認しながら、施設の開設に向けて準備を進める仕事です。
当時は行政書士ではありませんでしたが、制度や書類を通じて福祉事業の立ち上げに関わる経験をしました。
その後はコールセンターへ転職し、約10年間勤務しました。
長く働き続けるなかで、少しずつ心身の調子を崩し、ある時、これまでと同じように働くことができなくなりました。
診断は、うつ病でした。
働けなくなって初めて知った、制度を利用する難しさ
うつ病を発症した後、僕はさまざまな制度や支援機関を利用しました。
- 医療機関
- 区役所
- 福祉事務所
- ハローワーク
- 就労移行支援
- 障がい者雇用
- 就労継続支援A型
制度としては、それぞれに役割があります。
しかし、心身が弱っている時に、自分で制度を調べ、必要な窓口を探し、事情を何度も説明し、書類を整えることは簡単ではありませんでした。
窓口ごとに担当が分かれ、どこへ相談すればよいのか分からない。
制度の説明を受けても、今の自分に何が必要なのか判断できない。
支援を受けるために動かなければならないのに、動くための力が残っていない。
僕自身、そのような状態を経験しました。
制度が存在していても、必要な人が適切にたどり着けるとは限りません。
そして、制度の説明が正しくても、それだけで本人の不安がなくなるわけではありません。
就労移行支援から、もう一度働く生活へ
うつ病を発症した後、最初に利用した障害福祉サービスが就労移行支援でした。
そこで支援員の方々に助けてもらいながら、生活リズムを整え、再び働くための準備を進めました。
その後、トライアル雇用、障がい者雇用、就労継続支援A型などを経験しました。
順調に前へ進み続けたわけではありません。
体調を崩したり、自信を失ったり、これからどう生きていけばよいのか分からなくなったこともあります。
それでも、その都度、支援者の方々に支えてもらいました。
本人以上に本人の可能性を信じ、すぐに結果を求めず、必要な時には立ち止まることを認めてくれる人がいました。
その経験は、現在の僕の支援姿勢に大きく影響しています。
行政書士を目指した理由
僕が行政書士を目指した理由は、自分と同じように制度の前で立ち止まっている人を支えたいと思ったからです。
当初は、障がいのある本人や家族に対する手続支援を、強く意識していました。
「どこへ相談したらよいのか分からない」
「書類を読むだけで苦しくなる」
「自分の状況をうまく説明できない」
そのような人と一緒に情報を整理し、手続を進められる行政書士になりたいと考えていました。
行政書士として開業した現在も、その思いは変わっていません。
ただ、実際に仕事を始めるなかで、もう一つ重要なことに気づきました。
障がいのある本人を支えるためには、本人が利用する福祉事業所が安定して運営されていることも必要だということです。
現在は福祉事業所の運営支援を中心にしている
現在、僕は障がい福祉事業所に対する支援を主な業務としています。
具体的には、次のような相談に対応しています。
- 支援記録と個別支援計画の整合性確認
- 運営書類や記録類の整理
- 法定研修・委員会・訓練の年間運用
- 運営指導に向けた現状確認
- 新規指定申請や開設準備
- 制度改正や行政通知の読み解き
福祉事業所には、多くの書類と運用ルールがあります。
しかし、現場では利用者への支援が最優先です。
記録や計画、研修資料の整備まで十分に手が回らないこともあります。
書類に不足があるからといって、現場の職員が支援を軽視しているとは限りません。
むしろ、利用者への対応を優先し続けた結果、書類が後回しになっていることもあります。
だから僕は、書類の不足だけを見て事業所を責めるのではなく、
- 現在、何ができているのか
- 何が不足しているのか
- 今から改善できることは何か
- 現場で無理なく続けられる方法は何か
を一緒に整理することを大切にしています。
当事者経験があるから、何でも分かるわけではない
僕は、うつ病の当事者であり、就労移行支援やA型事業所などを利用した経験があります。
ただし、同じ診断名や同じサービスの利用経験があれば、相手の気持ちをすべて理解できるとは考えていません。
障がいの状態も、家庭環境も、働き方も、困りごとも、一人ひとり違います。
自分の経験を相手に重ねすぎると、かえって本人の声を見失うことがあります。
当事者経験は、相手を理解したつもりになるためのものではありません。
僕にとっては、
制度の説明だけでは解決しない不安があることを忘れないための経験
です。
書類上は同じ状況に見えても、本人や事業所が抱えている事情は異なります。
だからこそ、最初から答えを決めつけず、話を聞き、事実を確認し、一緒に整理することを重視しています。
行政を敵にしない、事業所にも迎合しない
障がい福祉事業所を支援していると、行政と事業所の考え方がぶつかる場面があります。
事業所側から見れば、行政の説明が現場の実情に合っていないと感じることがあります。
一方、行政には、制度の公平性や利用者保護、公費の適正な支出を守る役割があります。
どちらか一方を悪者にしても、問題は解決しません。
僕は、行政の考え方を事業所へ伝え、事業所の実情を行政へ説明しながら、現実的な落としどころを探すことも行政書士の役割だと考えています。
不正や偽装に協力することはできません。
過去に実施していない研修や支援を、実施済みであるかのように記録することもできません。
しかし、現在の問題を整理し、今後どのように改善するかを考えることはできます。
過去を取り繕うのではなく、今から整えていく。
それが、僕の基本姿勢です。
「伴走する」とは、何でも代わりにすることではない
僕は、事務所の理念として「あなたと伴に私は走りつづけます」という言葉を掲げています。
ただし、伴走とは、依頼者の代わりにすべてを決めることではありません。
行政書士ができることには限界があります。
最終的な経営判断や支援方針は、事業所自身が決める必要があります。
僕が担うのは、制度や書類を整理し、選択肢とリスクを示し、事業所が自分で判断できる状態をつくることです。
必要な時には前へ進む方法を考え、急ぐべきでない時には立ち止まることも提案します。
僕が「積極的な待ち」と呼んでいる考え方です。
何もしないまま待つのではなく、状況を確認し、必要な準備を進めながら、動くべき時期を見極める。
福祉支援にも、事業所経営にも、行政手続にも必要な姿勢だと考えています。
福祉に支えてもらったから、今度は支える側へ
僕は、福祉制度や福祉事業所に支えてもらいました。
その経験がなければ、再び働くことも、行政書士として開業することもできなかったと思います。
現在は、行政書士として福祉事業所を支援するとともに、福祉の現場でも働いています。
支援を受ける側と、支援をする側。
利用者と、事業者。
制度を利用する当事者と、制度を扱う専門職。
僕は、その複数の立場を経験してきました。
どの立場にも、それぞれの事情があります。
だからこそ、一方から見える正しさだけで判断せず、制度・現場・本人の間に立って考えたいと思っています。
最後に
僕は、完璧な行政書士ではありません。
障がい福祉のすべてを知っているわけでも、どのような問題でも解決できるわけでもありません。
それでも、自分の経験を強みに変え、制度と現場の間で困っている人や事業所と一緒に考えることはできます。
分からないことを分かったふりはしない。
できないことをできるとは言わない。
そのうえで、できる方法を探す。
これからも、障がいのある本人、家族、福祉事業所、行政、それぞれの立場を尊重しながら、一つずつ問題を整理していきます。
それが、うつ病と福祉事業所の利用経験を経て行政書士になった僕の、現在の仕事です。
