障がい福祉事業所の休止・廃止手続とは?届出期限と利用者の引継ぎを解説

人員不足や収支の悪化などにより、障がい福祉サービス事業所の運営を続けることが難しくなる場合があります。

そのとき、経営者や管理者の頭に浮かぶのが、

  • 事業をしばらく休止するべきか
  • 事業規模を縮小して続けるべきか
  • 廃止を決断するべきか
  • 利用者の支援をどう引き継ぐか

という問題です。

事業所の休止・廃止は、単に営業を止めれば終わるものではありません。

指定権者への届出だけでなく、現在利用している方が必要な障がい福祉サービスを継続して受けられるように、他の事業所や相談支援事業所等との連絡調整を行う必要があります。

この記事では、障がい福祉サービス事業所を休止・廃止するときに確認したい手続と、利用者の引継ぎについて解説します。

目次

休止と廃止の違い

まず、休止と廃止は同じではありません。

休止とは

休止は、指定を直ちに終了させるのではなく、一定期間、事業の運営を停止することです。

例えば、

  • 職員の急な退職で人員基準を満たせない
  • 管理者やサービス管理責任者等を確保できない
  • 建物や設備の修繕が必要になった
  • 一時的に事業運営が困難になった

ものの、今後再開する意思がある場合に検討されます。

大阪市では、職員の急な退職等によって一時的に事業者としての要件を満たさなくなった場合で、事業継続の意思があるときなどを、休止手続の例として示しています。

休止時には、再開に向けた取組状況を記載した書類の提出も必要です。

廃止とは

廃止は、その事業所における指定障がい福祉サービスの提供を終了することです。

再開を予定していない場合や、今後も事業を継続できる見通しが立たない場合には、休止ではなく廃止を検討することになります。

単に再開時期を決められないという理由だけで休止を選ぶのではなく、

  • 再開する意思があるか
  • 人員確保の見通しがあるか
  • 資金繰りを維持できるか
  • 物件や設備を維持できるか
  • 再開までの具体的な計画があるか

を整理して判断する必要があります。

休止・廃止は1か月前までに届け出る

指定障がい福祉サービス事業者が事業を廃止または休止しようとするときは、原則として、廃止・休止予定日の1か月前までに指定権者へ届け出る必要があります。

これは障害者総合支援法に定められている手続です。

例えば、9月30日をもって事業を廃止する場合には、原則として8月31日までに届出を行う必要があります。

ただし、届出書を提出する当日まで何も準備しなくてよいわけではありません。

利用者の移行先を探し、本人や家族、相談支援事業所、指定権者、関係機関と調整する期間を考えると、実際には廃止予定日のかなり前から準備を始める必要があります。

大阪市での届出方法

大阪市の障がい福祉サービス事業所が廃止・休止の届出を行う場合は、事前に電話予約をしたうえで、運営指導課へ来庁して必要書類を提出します。

大阪市の案内では、廃止・休止・再開・辞退の届出は、いずれも来庁による手続とされています。

手続方法は変更される可能性があるため、実際に届出を行う際には、大阪市が公開している最新情報を確認してください。

廃止時に大阪市へ提出する主な書類

大阪市が公表している廃止手続では、主に次の書類が求められています。

  • 廃止届出書
  • 指定書の原本
  • 利用者の引継ぎ状況が分かる書類
  • 請求状況を確認できる書類

請求状況を確認する資料としては、

  • 受給者証の写し
  • アセスメント
  • 個別支援計画
  • サービス提供記録
  • 日報・日誌
  • サービス提供実績記録票

などが示されています。

つまり、廃止届を提出するだけではなく、利用者への支援や報酬請求が適切に行われていたかについても確認される可能性があります。

廃止を検討する段階で、個別支援計画、支援記録、請求実績などに不足がある場合には、早めに事実関係を整理する必要があります。

過去に実施していない支援や会議を、実施済みであるかのように記録することはできません。

休止時に大阪市へ提出する主な書類

大阪市が公表している休止手続では、主に次の書類が求められています。

  • 休止届出書
  • 指定書の写し
  • 事業再開に向けた取組状況を記載した書類

大阪市の案内では、事業再開に向けた期間の目安として6か月以内が示されています。

再開に向けた取組状況には、休止理由に応じて、

  • 職員募集の状況
  • 管理者やサービス管理責任者等の確保
  • 建物・設備の修繕予定
  • 資金調達や経営改善
  • 再開予定時期
  • 再開後の人員配置

などを記載することが考えられます。

単に「いずれ再開する予定」と記載するのではなく、再開可能性を具体的に説明できる状態にしておく必要があります。

利用者の引継ぎは事業者の義務

事業を廃止・休止する場合、現在の利用者に対して、必要なサービスが継続的に提供されるよう配慮しなければなりません。

障害者総合支援法では、廃止・休止の届出日前1か月以内にサービスを利用していた方のうち、廃止・休止後も同等のサービスを希望する方に対して、他の事業者や関係者との連絡調整などの便宜を提供することが求められています。

このため、

廃止日を伝えたので、後は利用者や家族に次の事業所を探してもらう

という対応だけでは不十分です。

利用者の引継ぎでは、少なくとも次の事項を確認します。

  • 廃止・休止後もサービス利用を希望するか
  • どの地域・曜日・時間帯での利用を希望するか
  • 必要な支援内容は何か
  • 医療的配慮や行動面の支援が必要か
  • 送迎の必要性があるか
  • 他の事業所に受入れ可能性があるか
  • 相談支援事業所や自治体との調整が必要か
  • 本人・家族が移行先に同意しているか

本人や家族の意向を確認しないまま、事業所側だけで移行先を決めることは適切ではありません。

引継ぎ状況を記録する

大阪市の廃止手続では、利用者の引継ぎ状況が分かる書類の提出が求められています。

書式は任意とされていますが、利用者ごとに次のような内容を整理しておくとよいでしょう。

  • 利用者氏名
  • 受給者証番号
  • 廃止後のサービス利用希望
  • 本人・家族への説明日
  • 相談支援事業所への連絡日
  • 紹介・調整を行った事業所
  • 見学・面談の状況
  • 移行予定先
  • 移行予定日
  • 引継ぎ資料の交付状況
  • 未解決の課題

個人情報を他の事業所へ提供する場合には、本人や家族への説明と同意にも注意が必要です。

移行先の事業所へ必要以上の情報を渡すのではなく、継続支援に必要な範囲を整理して提供します。

事業所の都合だけで利用を終了させない

事業所を廃止・休止する場合であっても、利用者の生活はその後も続きます。

特に、

  • 日中活動の場がほかにない
  • 家族の介護負担が大きい
  • 医療的ケアが必要
  • 強度行動障がいへの対応が必要
  • 地域に同種サービスが少ない
  • 本人が環境変化に強い不安を感じる

といった場合には、移行先の確保に時間がかかることがあります。

廃止日だけを先に決めて一律に利用終了を通知するのではなく、指定権者や相談支援事業所等と早期に協議することが重要です。

職員への説明と労務手続

事業所の休止・廃止では、利用者対応だけでなく、職員への対応も必要です。

例えば、

  • 休止・廃止時期
  • 最終勤務日
  • 雇用契約の取扱い
  • 配置転換の有無
  • 給与・賞与・退職金
  • 有給休暇
  • 社会保険・雇用保険
  • 離職票等の手続
  • 利用者への説明方法
  • 個人情報や記録の持出し禁止

などを整理します。

解雇、雇止め、休業手当などの判断には労働法上の問題が関係するため、必要に応じて社会保険労務士や弁護士へ相談する必要があります。

行政書士が扱う指定関係の届出と、社会保険労務士等が扱う労務手続は分けて進めることが大切です。

報酬請求と加算の確認

休止・廃止時には、最後の報酬請求も慎重に確認します。

主な確認項目は、

  • 最終サービス提供日
  • 利用実績
  • サービス提供実績記録票
  • 欠席時対応等の算定
  • 送迎加算
  • 食事提供体制加算
  • 各種体制加算
  • 利用者負担額
  • 上限額管理
  • 過誤申立ての必要性
  • 未請求月の有無

などです。

廃止後であっても、過去の請求について自治体から確認を求められることがあります。

事業を終了したからといって、請求関係の資料をすぐに廃棄してはいけません。

記録や書類は廃止後も保存する

個別支援計画、支援記録、契約書、請求資料、事故記録、苦情記録などは、事業所を廃止した後も、法令や自治体の基準に従って保存する必要があります。

事務所や物件を退去する場合には、

  • 誰が記録を保管するか
  • どこで保管するか
  • 紙資料と電子データをどう管理するか
  • 保存期限が過ぎた資料をどう廃棄するか
  • 行政から照会があった場合に誰が対応するか

を決めておきます。

廃止後に法人を解散する場合には、法人清算や税務手続との関係も含めて保管体制を検討してください。

「休止すれば問題を先送りできる」とは限らない

休止は、事業を再建するための一時的な措置です。

しかし、

  • 再開の資金がない
  • 人材確保の見通しがない
  • 物件を維持できない
  • 指定基準を再び満たせる可能性が低い
  • 再開時期を具体的に説明できない

という状態で休止を選ぶと、家賃、設備、法人維持費などの負担だけが続く場合があります。

廃止への罪悪感から、具体的な再開計画がないまま休止を選ぶことが、必ずしも利用者や職員のためになるとは限りません。

休止と廃止のどちらが適切かは、感情だけでなく、

  • 人員
  • 資金
  • 物件
  • 利用者の状況
  • 再開可能性
  • 法人全体の経営

を整理して判断する必要があります。

休止・廃止を決める前に確認したいこと

事業を止める前に、次のような選択肢も検討します。

  • 新規利用者の受入れを一時的に止める
  • 利用定員を減らす
  • 営業日やサービス提供時間を見直す
  • 法人内の他事業所と人員を調整する
  • 採用や外部連携を進める
  • 算定している加算を見直す
  • 不採算業務や重複業務を整理する
  • 事業譲渡を検討する

ただし、人員基準を満たしていない状態や、安全な支援を提供できない状態で、結論を先送りして運営を続けてはいけません。

現在の体制に問題がある場合には、早めに指定権者へ相談することが重要です。

休止・廃止手続の流れ

一般的には、次のような順序で進めます。

  1. 経営・人員・安全面の現状を整理する
  2. 休止・廃止・縮小等の選択肢を検討する
  3. 指定権者へ事前相談する
  4. 廃止・休止予定日を決める
  5. 利用者・家族・相談支援事業所等へ説明する
  6. 移行先の調整を進める
  7. 職員への説明と労務対応を進める
  8. 届出書と添付資料を準備する
  9. 予定日の1か月前までに届出を行う
  10. 最終請求と記録保存の体制を整える

実際の順番は、利用者数、サービス種別、法人の状況などによって変わります。

まとめ

障がい福祉サービス事業所の休止・廃止では、

  • 原則として予定日の1か月前までに届け出る
  • 利用者が必要なサービスを継続して受けられるよう調整する
  • 引継ぎ状況を記録する
  • 最終請求や加算を確認する
  • 職員への説明と労務手続を進める
  • 廃止後も必要な記録を保存する

ことが重要です。

事業を続けることだけが、常に利用者を守る方法とは限りません。

一方で、経営が苦しいという理由だけで、利用者への説明や引継ぎを十分に行わず事業を終了することもできません。

休止・廃止を検討する段階では、届出書を作る前に、

  • 現在の利用者をどう支援するか
  • どの時期に何を説明するか
  • 誰と連携するか
  • どの書類を整えるか

を計画的に整理することが必要です。

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