2026年12月25日に、こども性暴力防止法が施行されます。
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、対象となる職員の犯罪事実確認だけでなく、職員研修、相談・報告体制、事案発生時の対応、情報管理などについて、事業所内のルールを整える必要があります。
制度の内容を理解した後に必要になるのが、
「何を、どの書類に落とし込むのか」
という整理です。
こども家庭庁からは、報告ルール、対応ルール、保護者・児童等向け周知資料、情報管理規程、権限設定表、取扱記録などのひな型が公表されています。
一方で、国のひな型が存在しない書類や、法令上の名称が決められていない内部管理資料もあります。
この記事では、児童発達支援・放課後等デイサービスが施行に向けて確認したい書類を、その位置づけとともに整理します。
すべてが「法定様式」ではない
最初に押さえておきたいのは、この記事で紹介する書類のすべてが、法令で名称や様式を指定された書類ではないという点です。
書類は、大きく次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
国のひな型が公表されているもの
こども家庭庁から具体的なひな型や参考例が公表されている書類です。
事業所の体制に合わせて内容を調整し、実際の運用に使用します。
法に基づく措置を実施したことを管理するためのもの
研修の実施状況や対象職員の判定など、事業所が対応状況を管理し、後から説明できるようにするための内部資料です。
必ずしも全国共通の様式が定められているわけではありません。
既存の書類へ組み込めるもの
相談窓口、緊急連絡先、事故対応、虐待防止、個人情報保護など、既存の規程や様式へ追記できるものです。
新しい書類を増やすのではなく、既存書類を見直すことで対応できる場合があります。
児発・放デイで確認したい主な書類
施行に向けて確認したい主な書類は、次のとおりです。
| 書類・資料 | 主な役割 | 国のひな型 |
|---|---|---|
| 対象職員一覧・判定記録 | 犯罪事実確認等の対象者を整理する | 原則として事業者が作成 |
| 報告ルール | 疑いや相談を把握した際の報告方法を定める | あり |
| 対応ルール・対応フロー | 報告後の初動や連絡、記録等を定める | あり |
| 職員向け研修資料 | 職員へ必要な知識や対応方法を伝える | あり |
| 研修実施記録 | 研修の実施状況を管理する | 事業者が作成 |
| 保護者・児童等向け周知資料 | 事業所の取組や相談方法を周知する | あり |
| 情報管理規程 | 犯罪事実確認記録等の管理方法を定める | あり |
| 権限設定表 | 情報を閲覧・取扱いできる者を定める | あり |
| 取扱記録 | 情報の作成、閲覧、伝達、廃棄等を記録する | あり |
| 採用関係書類 | 応募者や内定者へ必要事項を伝える | 参考例あり |
| 就業規則 | 職員の協力義務、服務規律等を整理する | 参考例あり |
これらをすべて別々の書類として作る必要はありません。
法人の規模や既存の規程に応じて、統合できるものと分けるべきものを判断します。
1.対象職員一覧・判定記録
まず、自事業所で犯罪事実確認等の対象となる職員を整理します。
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、管理者、児童発達支援管理責任者、児童指導員、保育士など、職種全体が対象になるものがあります。
一方、送迎担当者や事務職員などは、実際の業務内容に応じた個別判断が必要です。
対象職員一覧には、少なくとも次の事項を記載しておくと整理しやすくなります。
・氏名
・所属事業所
・職種
・雇用または契約形態
・担当業務
・こどもと接する場面
・一対一になる可能性
・他事業所との兼務状況
・対象または対象外の判断
・判断理由
・確認日
・確認者
この一覧は、国が全国共通の様式を定めた法定書類ではありません。
しかし、誰を対象者として判断したのかを説明できるようにするため、判定根拠を記録しておくことが重要です。
職員の採用、異動、退職、業務変更があった場合は、一覧も更新します。
2.報告ルール
報告ルールは、児童対象性暴力等の疑いを把握した場合に、職員が誰へ、どのように報告するかを定めるものです。
報告ルールには、次のような事項を記載します。
・報告が必要となる事象
・最初の報告先
・報告先が不在の場合の連絡先
・管理者等が関係者である場合の別ルート
・口頭、電話、書面等の報告方法
・緊急時の報告方法
・報告時に伝える事項
・報告内容の記録方法
・報告者の秘密保持
・報告を理由とする不利益な取扱いの禁止
こども家庭庁からは、報告ルールのひな型が公表されています。
ただし、役職名や連絡先を埋めるだけでは十分ではありません。
夜間や休日、管理者が不在の場合、管理者本人に疑いがある場合なども想定して、実際に機能するルートへ調整します。
3.対応ルール・対応フロー
対応ルールは、相談や報告を受けた後に、事業者がどのように動くかを定めるものです。
主な内容は、次のとおりです。
・こどもの安全確保
・責任者への報告
・緊急性の判断
・関係機関への連絡
・保護者への連絡
・対象となった職員への対応
・事実確認の進め方
・情報共有の範囲
・記録の作成
・関係資料の保全
・再発防止策の検討
・事後のフォロー
こども家庭庁からは、対応ルールと対応フローのひな型が公表されています。
実際のルールでは、法人本部、事業所、行政機関、警察、児童相談所などとの連絡経路を明確にします。
個別事案で法的判断が必要になる場合は、弁護士等の専門家へ相談することも、対応ルールへ組み込んでおくとよいでしょう。
4.職員向け研修資料と研修実施記録
対象となる職員には、児童対象性暴力等の防止に関する研修を受講させる必要があります。
こども家庭庁からは、従事者向け研修資料、解説動画、演習資料、確認テストなどが公表されています。
事業所では、国の教材を使用するだけでなく、次のような自事業所のルールも併せて周知します。
・相談窓口
・報告先
・緊急連絡先
・こどもとの私的な連絡に関するルール
・写真や動画の撮影ルール
・一対一で支援する場合のルール
・送迎中の対応
・記録の作成方法
・情報管理上の注意事項
研修を実施した後は、実施状況を記録します。
研修実施記録には、次の事項を記載しておくとよいでしょう。
・実施日時
・実施方法
・研修内容
・使用教材
・講師または進行担当者
・対象者
・参加者
・欠席者
・欠席者への補講方法
・確認テスト等の実施状況
・記録作成者
研修記録について全国一律の様式が指定されているわけではありませんが、研修を実施したことを事業者が確認・説明できる状態にしておく必要があります。
5.保護者・児童等向け周知資料
事業所がどのような防止措置を講じ、どこへ相談できるのかを、保護者やこどもへ分かりやすく伝える資料も必要です。
周知資料には、次のような内容を記載します。
・制度の趣旨
・事業所が行う主な取組
・相談できる内容
・相談窓口と連絡方法
・緊急時の連絡先
・相談者の秘密への配慮
・相談を理由とする不利益な取扱いを行わないこと
・外部の相談窓口
こども家庭庁からは、保護者向け、児童向けなどの周知用資料のひな型が公表されています。
こどもの年齢や障がい特性によっては、文章だけでは内容を理解しにくい場合があります。
ふりがな、イラスト、写真、やさしい言葉、読み上げなどを用い、事業所を利用するこどもに伝わる方法を検討します。
6.情報管理規程
犯罪事実確認記録等は、取扱いを誤ると職員の権利やプライバシーを大きく侵害するおそれのある情報です。
事業者には、適正な情報管理措置が求められます。
こども家庭庁からは、情報の閲覧者数や、システム外で記録を保存するかどうかに応じて、複数の情報管理規程ひな型が公表されています。
具体的には、次のような運用の違いに応じて選択します。
・責任者一人だけが情報を確認し、システム外に記録を保存しない
・責任者を含む複数名が情報を確認し、システム外に記録を保存しない
・複数名が情報を確認し、システム外でも記録・保存等を行う
情報管理規程には、主に次の事項を定めます。
・情報管理責任者
・情報を取り扱える者
・閲覧権限
・端末やアカウントの管理
・情報の保存方法
・情報を共有できる範囲
・持出しや複製の制限
・保存期間
・廃棄方法
・漏えい等が発生した場合の対応
・責任者等が異動・退職した場合の権限変更
・職員への教育
どのひな型を使用するかは、法人の規模ではなく、実際に誰がどの情報を確認・保存するのかによって判断します。
7.権限設定表
権限設定表は、犯罪事実確認記録等へアクセスできる者と、その者が行える操作を整理する書類です。
たとえば、次のような権限を区分します。
・システムへのログイン
・犯罪事実確認の申請
・犯罪事実確認書の閲覧
・記録の作成
・記録の保存
・他の担当者への伝達
・情報の廃棄
・アカウントや権限の設定
「管理者だから閲覧できる」「本部職員だから共有する」と広く設定するのではなく、業務上必要な者へ限定します。
小規模な法人であっても、責任者が不在になった場合の対応や、権限を引き継ぐ方法を決めておく必要があります。
8.取扱記録
システム外で犯罪事実確認記録等を作成、保存、伝達する場合などには、その取扱状況を記録します。
こども家庭庁からは、取扱記録の様式案が公表されています。
記録する事項としては、次のようなものがあります。
・取扱日時
・取扱者
・対象となる情報
・取扱いの目的
・閲覧、作成、複製、伝達等の内容
・伝達先
・保存場所
・廃棄日
・廃棄方法
・確認者
ただし、システム外に情報を残さない運用を採用する場合まで、不要な犯罪事実確認記録を新たに作成・保存する必要はありません。
情報を多く残すほど安全になるわけではなく、必要以上に情報を保有しないことも重要な管理方法です。
9.採用関係書類
法施行後は、新たに対象業務へ従事させる者についても、犯罪事実確認の手続が関係します。
そのため、採用時に使用する次のような書類を確認します。
・募集要項、求人票
・応募者への説明資料
・誓約書
・内定通知書
・労働条件通知書
・雇用契約書
・採用時チェックリスト
こども家庭庁からは、募集要項・求人票、誓約書、内定通知書等の参考例が公表されています。
ただし、労働条件や採用条件に関する文言は、既存の採用手続や就業規則との整合性が必要です。
雇用関係書類や就業規則の作成・変更について外部の専門家へ依頼する場合は、社会保険労務士へ相談します。
個別の内定取消しや採用拒否などに関する法律判断が必要な場合は、弁護士への相談が必要です。
児童対象性暴力等対処規程は義務対象事業者の必須書類ではない
ここは、書類を整理するうえで特に注意が必要です。
こども家庭庁からは、「児童対象性暴力等対処規程」のひな型も公表されています。
しかし、この規程は、認定対象事業者が認定申請を行う際に必要となる書類です。
児童発達支援・放課後等デイサービスなどの義務対象事業者について、同じ名称の規程を作成することが一律に義務づけられているわけではありません。
義務対象事業者でも、児童対象性暴力等を防止し、早期把握し、事案発生時に対応するためのルールは必要です。
ただし、それを必ず「児童対象性暴力等対処規程」という一つの規程にまとめなければならないわけではありません。
報告ルール、対応ルール、服務規律、情報管理規程、既存の虐待防止規程などへ分けて整備する方法もあります。
既存書類との重複を確認する
児童発達支援・放課後等デイサービスには、既に次のような規程や体制があります。
・虐待防止
・身体拘束等の適正化
・事故発生時の対応
・苦情解決
・個人情報保護
・安全計画
・緊急時対応
・職員研修
・就業規則、服務規律
こども性暴力防止法への対応として新たな書類を作る前に、既存書類で対応できる部分を確認します。
たとえば、相談窓口を複数の規程で別々に定めると、職員がどこへ報告すべきか分からなくなるおそれがあります。
事故対応フローと性暴力に関する対応フローで、緊急連絡先や責任者が食い違う場合もあります。
新しい書類を増やすことではなく、既存の仕組みと矛盾しない、実際に使える体制にすることが重要です。
書類を整備する順序
書類整備は、次の順序で進めると整理しやすくなります。
1.対象となる職員を整理する
2.既存の規程・様式を確認する
3.不足するルールや書類を洗い出す
4.報告ルールと対応ルールを整える
5.相談窓口と責任者を確定する
6.情報管理方法と権限を決める
7.職員研修と周知を行う
8.保護者・児童等へ周知する
9.採用関係書類や就業規則との整合性を確認する
10.職員の異動等に合わせて定期的に更新する
先にひな型をダウンロードして空欄を埋めるだけでは、事業所の実態と合わない書類になる可能性があります。
まず、実際の組織体制や業務の流れを決め、その内容を書類へ反映させることが必要です。
まとめ
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、こども性暴力防止法の施行に向けて、主に次の書類を確認します。
・対象職員一覧・判定記録
・報告ルール
・対応ルール・対応フロー
・職員向け研修資料
・研修実施記録
・保護者・児童等向け周知資料
・情報管理規程
・権限設定表
・取扱記録
・採用関係書類
・就業規則
重要なのは、すべてを新しい書類として作ることではありません。
国のひな型を利用するもの、事業所独自に作成するもの、既存書類へ追加するものを分けて整理します。
また、児童対象性暴力等対処規程は、認定対象事業者向けの書類であり、児発・放デイなどの義務対象事業者に同じ規程の作成が一律に義務づけられているわけではありません。
書類の名称や数ではなく、職員がルールを理解し、必要な場面で実際に動ける状態をつくることが大切です。
こども性暴力防止法の書類整備でお困りの事業所様へ
行政書士田中慶事務所では、大阪市内の児童発達支援・放課後等デイサービス等の事業所様を対象に、こども性暴力防止法の施行に向けた書類整備を支援しています。
現在使用している規程や様式、職員体制、支援場面、情報管理方法を確認したうえで、国のひな型をそのまま増やすのではなく、事業所の実情に合った形へ整理します。
対象職員一覧、報告・対応ルール、研修資料、保護者・児童等向け周知資料、情報管理規程、権限設定表、取扱記録などについて、既存の虐待防止、事故対応、個人情報保護等の体制と整合するように検討します。
就業規則や雇用関係書類の作成・変更、個別の労務・法律判断が必要な場合は、社会保険労務士や弁護士等の専門家と連携して対応します。
