2026年12月25日に、こども性暴力防止法が施行されます。
児童発達支援や放課後等デイサービスでは、対象となる職員の犯罪事実確認だけでなく、採用、配置、服務規律、懲戒などに関する社内ルールの確認も必要になります。
そこで出てくるのが、
「就業規則も変更しなければならないのか」
という疑問です。
結論から言えば、すべての事業所が、同じ条文を一律に追加すればよいわけではありません。
現在の就業規則や雇用関係書類に、法施行後の手続を行うために必要な根拠があるかを確認し、不足がある場合に見直すことになります。
この記事では、こども性暴力防止法への対応で確認したい就業規則等の内容と、社会保険労務士・弁護士・行政書士の役割分担を整理します。
国から就業規則の参考例が公表されている
こども家庭庁は、こども性暴力防止法の施行に向けて、事業者が活用できる次のような参考例を公表しています。
・募集要項・求人票の参考例
・誓約書・内定通知書の参考例
・就業規則の参考例
・児童対象性暴力等対処規程のひな型
・情報管理規程のひな型
・犯罪事実確認等に関する権限設定表
就業規則参考例には、犯罪事実確認や防止措置を円滑に行うため、あらかじめ就業規則へ定めておくことが考えられる事項が示されています。
ただし、これは全国の事業者が、そのまま同じ文章を貼り付ければよいという意味ではありません。
法人の既存規定、雇用形態、職員構成、事業所数、現在の採用手続などと整合するように検討する必要があります。
就業規則等で確認したい主な事項
こども性暴力防止法への対応では、主に次のような事項について、既存の就業規則や関連書類で対応できるかを確認します。
犯罪事実確認への協力
対象となる職員には、犯罪事実確認書の交付申請など、法令上必要な手続を行ってもらうことになります。
そのため、職員が必要書類を提出し、事業者の犯罪事実確認に協力することについて、就業規則や社内規程上の根拠を確認します。
必要な申告や届出
犯罪事実確認後に、対象となる事情が発生した場合など、職員から事業者への申告が必要になる場面があります。
どのような事項について、いつ、誰へ届け出るのかを整理する必要があります。
対象業務への配置
犯罪事実確認が完了していない場合や、法令上必要な措置を検討している間に、対象となる業務へ従事させることが適切かという問題も生じます。
一時的な配置変更を含め、事業者がどのような対応を取れるのかを確認します。
服務規律
こどもとの私的な連絡、SNSでの交流、個人的な写真撮影、事業所外での接触などについて、既存の服務規律で十分に対応できるかを確認します。
単に「不適切な行為を禁止する」と定めるだけでは、現場で何が禁止されているのか分かりにくいことがあります。
事業所の支援場面を踏まえ、禁止事項や事前承認が必要な行為を具体化することが重要です。
懲戒事由
職員が犯罪事実確認に必要な手続を正当な理由なく拒否した場合、虚偽の申告をした場合、服務規律に違反した場合などについて、既存の懲戒事由で対応できるかを確認します。
ただし、規定を設けたからといって、直ちに懲戒処分や解雇が認められるわけではありません。
実際の処分では、就業規則の内容だけでなく、行為の内容、職員への説明、手続の相当性、処分の重さなどを個別に検討する必要があります。
就業規則だけ見直せば終わりではない
こども性暴力防止法への対応で確認する書類は、就業規則だけではありません。
職員の採用から退職までの流れに沿って、次のような書類も確認する必要があります。
・募集要項、求人票
・採用時の誓約書
・内定通知書
・労働条件通知書、雇用契約書
・職員向けの説明資料
・服務規律や行動規範
・犯罪事実確認に関する社内規程
・情報管理規程
・相談・報告ルール
・退職時の秘密保持や資料返却に関する書類
たとえば、求人票では一定の採用条件を明示しているのに、内定通知書や誓約書には対応する記載がない場合、採用手続全体として整合しない可能性があります。
就業規則の一部分だけを変更するのではなく、採用、配置、服務、情報管理、退職までの書類を一連のものとして確認することが重要です。
就業規則の見直しは誰に依頼するのか
ここで、専門家の役割分担が問題になります。
社会保険労務士の役割
事業者が自ら就業規則を作成・変更することは可能です。
一方、外部の専門家へ報酬を支払って、就業規則の作成・変更や労働基準監督署への届出手続を依頼する場合は、社会保険労務士へ相談する領域です。
こども性暴力防止法への対応では、たとえば次のような事項が社労士への相談対象になります。
・就業規則の条文作成や変更
・服務規律や懲戒事由の見直し
・採用時に使用する労務関係書類の確認
・配置転換等に関する社内制度の確認
・労働基準監督署への届出
・既存の労務管理との整合性の確認
社会保険労務士法では、労働社会保険諸法令に基づく申請書や届出書等の作成、提出代行などが社会保険労務士の業務として定められています。
弁護士の役割
実際に特定の職員について問題が生じた場合は、一般的な就業規則の整備とは別に、個別の法的判断が必要になります。
たとえば、次のような場合です。
・採用内定を取り消せるか
・対象業務から外すことができるか
・配置転換を命じることができるか
・自宅待機や出勤停止を命じられるか
・懲戒処分が可能か
・解雇が認められるか
・本人への説明をどのように行うか
・紛争や損害賠償請求にどう対応するか
これらは、職員ごとの具体的事情を踏まえた法律判断です。
就業規則に条文があるだけで結論が決まるものではないため、弁護士へ相談する必要があります。
行政書士の役割
行政書士は、就業規則そのものの作成・変更や、個別の懲戒・解雇判断を担当する専門家ではありません。
行政書士法でも、他の法律によって業務が制限されている事項については、行政書士が業務を行うことはできないとされています。
一方、こども性暴力防止法への対応では、就業規則以外にも、事業所内で整理すべき事項が多数あります。
行政書士田中慶事務所では、次のような支援を行います。
・制度対応全体のチェックリスト作成
・対象事業所、対象職員の整理
・現在使用している規程や様式の確認
・相談窓口、報告フローの整理
・職員向けの周知資料、研修資料の作成
・保護者、児童向け周知資料の整理
・児童対象性暴力等対処規程の整備支援
・情報管理規程や記録様式の整備支援
・社労士や弁護士へ相談すべき論点の切り分け
行政書士が制度対応の全体像と事業所の現状を整理し、就業規則の変更が必要な部分は社会保険労務士へ、個別の法的判断が必要な部分は弁護士へつなぐという進め方が考えられます。
「最初から社労士へ相談すればよい」とは限らない
就業規則の変更が中心課題であることが明確であれば、最初から社会保険労務士へ相談するのが適切です。
一方で、
・誰が犯罪事実確認の対象なのか分からない
・事業所内で何を準備すべきか整理できていない
・既存の規程のうち、どれを見直すのか分からない
・研修、相談窓口、報告ルール、情報管理も未整備である
・社労士や弁護士へ何を相談すべきか言語化できない
という段階では、まず制度対応全体の現在地を整理する必要があります。
制度対応の全体像を整理したうえで、就業規則の変更が必要な箇所を抽出すれば、社会保険労務士へ相談する内容も明確になります。
逆に、個別の職員について既に懲戒、解雇、配置転換などを検討している場合は、一般的な制度整理より先に、弁護士や社会保険労務士へ相談すべき場合があります。
相談先を判断する目安
相談先は、次のように整理できます。
行政書士への相談が中心となるもの
・法対応の全体像を整理したい
・対象職員を洗い出したい
・相談窓口や報告フローを整えたい
・研修や周知資料を準備したい
・児童対象性暴力等対処規程を整えたい
・情報管理や記録様式を整理したい
・他士業へ相談すべき論点を整理したい
社会保険労務士への相談が中心となるもの
・就業規則を作成または変更したい
・服務規律や懲戒事由を見直したい
・雇用契約書等の労務関係書類を確認したい
・配置転換等に関する労務管理を確認したい
・労働基準監督署への届出を依頼したい
弁護士への相談が中心となるもの
・特定の職員に対する処分を検討している
・内定取消しや解雇を検討している
・職員との紛争が生じている
・事案発生後の法的対応を判断したい
・被害申告や損害賠償請求へ対応する必要がある
実際には、複数の領域が重なることもあります。
その場合は、一人の専門家にすべてを任せるのではなく、担当範囲を明確にして連携することが重要です。
まとめ
こども性暴力防止法への対応では、犯罪事実確認への協力、必要な申告、対象業務への配置、服務規律、懲戒事由などについて、就業規則や関連書類を確認する必要があります。
ただし、国の参考例をそのまま貼り付ければ対応が完了するわけではありません。
既存の就業規則や採用手続、事業所内の規程との整合性を確認し、事業所の実情に合った内容にする必要があります。
役割分担としては、
・制度対応全体と事業所内規程等の整理は行政書士
・就業規則等の労務管理は社会保険労務士
・懲戒、解雇、配置転換等の個別の法律判断は弁護士
という整理が基本になります。
こども性暴力防止法への対応は、一つの書類や一つの専門職だけで完結するものではありません。
まず自事業所で不足している対応を整理し、その内容に応じて適切な専門家へつなぐことが、無理のない準備につながります。
こども性暴力防止法への対応を整理したい事業所様へ
行政書士田中慶事務所では、大阪市内の児童発達支援・放課後等デイサービス等の事業所様を対象に、こども性暴力防止法への対応状況を整理しています。
対象職員、相談・報告体制、研修、周知、児童対象性暴力等対処規程、情報管理、記録様式などを確認し、社会保険労務士や弁護士へ相談すべき事項を切り分けます。
就業規則の作成・変更や個別の労務・法律判断については、それぞれの専門家と連携して進めます。
