一般就労か福祉かの二択ではない?「雇用と福祉の相互往来」から考える障害者就労のこれから

目次

はじめに

厚生労働省の「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」で示された、「雇用と福祉の果たすべき機能・役割と連携の基本的考え方(中間とりまとめ案)」

このシリーズでは、ここまで5回にわたり、

  • 雇用と福祉の役割の再整理
  • 就労継続支援B型の工賃と支援の質
  • 就労継続支援A型と一般就労の境界
  • 就労選択支援とアセスメント
  • 障害者雇用の「質」

について見てきました。

最終回となる第6回では、それらをつなぐ「雇用と福祉の相互往来」という考え方を取り上げます。

これまで障害者就労は、

福祉 → 一般就労

という一方向の流れで語られることが少なくありませんでした。

就労移行支援を利用する。

A型やB型で経験を積む。

一般企業へ就職する。

そして一般就労できれば「次の段階へ進んだ」と評価される。

もちろん、一般就労を希望する人が、その機会を得られることは重要です。

しかし、人の状態は一度決まったら変わらないものではありません。

体調が良くなることもあります。

悪化することもあります。

経験を積んで能力が高まることもあります。

年齢を重ねて、以前と同じ働き方が難しくなることもあります。

今回の中間とりまとめ案では、この変化を前提として、雇用と福祉の間を必要に応じて行き来できる仕組みを考える必要性が示されています。厚労省は、本人の状態像の変化に応じて雇用・福祉それぞれが提供する機能や役割も変化すると整理し、精神障害者の復職支援を含む「雇用と福祉の相互往来」を今後の継続検討事項としています。

なお、今回も現時点では中間とりまとめ案です。

具体的な制度変更が決定したものではありません。


障害者就労は「一方向のステップアップ」だけではない

就労系障害福祉サービスでは、一般就労への移行が重要な成果として位置付けられています。

これは当然です。

一般就労を希望し、その可能性がある人に対して、その機会を提供することは重要な支援です。

しかし、

B型 → A型 → 就労移行支援 → 一般就労

というように、常に一方向へ進むものとして考えると、現実と合わない場面が出てきます。

例えば、

B型を利用していた人が、支援を受ける中で能力を高め、一般就労を希望するようになる。

これは福祉から雇用への移行です。

一方で、

一般就労していた人が、加齢や体調変化によって以前と同じ働き方を続けることが難しくなり、B型などの利用を希望する。

これは雇用から福祉への移行です。

さらに、

精神障がいのある人が休職し、福祉的な支援を受けながら状態を整え、再び元の職場へ復職する。

これも、雇用と福祉の間を行き来する一つの形です。

厚労省は、障害のある人の就労能力や希望は、成長、状態の改善・悪化、加齢などによって変化すると整理しています。

その前提に立てば、

一度一般就労したら福祉に戻ってはいけない

という考え方も、

一度B型を利用したらずっとB型

という考え方も適切ではありません。


「一般就労に行けたら成功」という考え方の限界

障害福祉の現場では、一般就労への移行が分かりやすい成果になります。

利用者が企業に就職した。

これは確かに大きな成果です。

しかし、そこで支援が終わったと考えてよいのでしょうか。

前回の記事で取り上げたように、一般就労には「雇用の質」という問題があります。

本人に合った仕事なのか。

必要な配慮があるのか。

能力を発揮できているのか。

適切に評価されているのか。

安定して働き続けられるのか。

厚労省も、一般就労後に生活上の困難が生じた場合には継続的な支援が必要であり、障害者就業・生活支援センター等との連携が欠かせないとしています。

つまり、

就職はゴールではなく、その人の働き方の一つの局面

と考えた方が現実に近いでしょう。


一般就労後にも、生活面の支援は必要になる

働くことと生活することは切り離せません。

仕事そのものは順調でも、

  • 睡眠リズムが崩れる
  • 家事ができなくなる
  • 金銭管理が難しくなる
  • 通院が不安定になる
  • 人間関係のストレスが蓄積する
  • 疲労が強くなる

といった生活上の問題が起これば、就労の継続にも影響します。

厚労省の参考資料でも、就労定着支援について、

働く人の生活面の支援に軸足を置くべきではないか

という意見が示されています。

さらに、就労定着支援の一定期間が終了した後でも、一般就労の中で生活面の課題が生じることはあるため、継続的な支援の仕組みを検討すべきではないかという意見もあります。

ここからも、

福祉を卒業して一般就労したら、もう福祉との関係は終わり

という発想では足りないことが分かります。


一般就労からB型へ。「加齢問題」が示すもの

今回の中間とりまとめ案で、相互往来を考えるうえで象徴的なのが、いわゆる「加齢問題」です。

障害者雇用が拡大し、多くの障がい者が一般企業で働くようになりました。

その結果、企業で働く障がい者自身も高齢化しています。

厚労省資料では、個人差はあるものの、加齢によって気力や体力が大きく低下し、一般就労を続けることが難しくなった一方で、B型事業所等で働くことを希望するケースが増えていると指摘されています。

もちろん、

「年齢を重ねたから福祉へ」

と単純に考えるべきではありません。

厚労省もまずは雇用主として、

  • 就業時間の短縮
  • 業務内容の変更
  • その他の働き方の工夫

を検討することが望ましいとしています。

それでも一般就労の継続が難しい場合には、福祉的就労が新たな選択肢になります。

これは「後退」ではありません。

その時点の本人の状態に合った働き方へ移る

ということです。


「福祉に戻る=失敗」ではない

ここは、私はかなり重要だと思っています。

一般就労からB型やA型へ移ることを、

「一般就労に失敗した」

と捉えてしまうと、本人にとって非常に大きな心理的負担になります。

しかし、働き方を変える理由はさまざまです。

体力が変わった。

病状が変わった。

家族状況が変わった。

職場環境が変わった。

年齢を重ねた。

必要な支援量が増えた。

その結果として、今までと違う働き方を選ぶ。

これは障害のある人に限った話ではありません。

障害のない人でも、

フルタイムから短時間勤務へ変える。

正社員から別の働き方へ変える。

仕事内容を変える。

休職する。

転職する。

ということがあります。

障害者就労でも同じように、

その時々の状態に合わせて働き方を変えられること

そのものを制度として支える必要があります。


精神障害者の「復職支援」も相互往来の一つ

中間とりまとめ案では、今後検討すべき事項として、

精神障害者の復職支援を含めた雇用と福祉の相互往来

が明記されています。

精神障がいのある人の場合、

一般企業で働いていたものの、体調を崩して休職する。

治療を受ける。

生活リズムを整える。

働くための準備をする。

そして職場に戻る。

という経過をたどることがあります。

この過程では、

医療だけでも、

企業だけでも、

福祉だけでも、

十分に支えられない場合があります。

本人を中心に、

  • 医療
  • 福祉
  • 企業
  • 就労支援機関

が連携しながら、復職に向けた支援を行う必要があります。

つまり相互往来とは、

福祉サービスと一般就労を単純に乗り換えることだけではありません。

雇用関係を維持しながら、一時的に福祉的な支援を活用し、再び職場へ戻る。

こうした動きも含まれます。


重度障害者の一般就労も「境界」を揺らす

もう一つ、今回の資料で今後の検討事項として示されているのが、

重度障害者等の一般就労における支援

です。

これまで、

「常時介助が必要なら一般就労は難しい」

と考えられてきた人でも、支援の仕組みや働き方によっては一般就労できる可能性があります。

参考資料でも、障害者雇用は広がった一方で、常時介助を必要とする重度障害者が一般就労につながる状況には十分至っておらず、利用機会の格差や手続面の課題を検討する必要があるという意見が出ています。

ここも重要です。

「重度だから福祉」

「軽度だから一般就労」

という単純な線引きではなく、

どのような支援があれば働けるのか

を見る必要があります。


一般就労の可能性は「本人だけ」で決まらない

このシリーズで何度も触れてきましたが、今回の資料では、

一般就労できるかどうかは本人の能力だけで決まるものではない

という考え方が強調されています。

本人の能力・適性と、

  • 業務内容
  • 労働時間
  • 職場環境
  • 合理的配慮
  • 支援体制

がどの程度合っているかによって結果は変わります。

例えば、

週40時間では難しい。

でも週20時間なら働ける。

対人業務は難しい。

でも個人作業なら能力を発揮できる。

一般就労そのものが難しいのではなく、

その職場、その業務、その働き方が合わない

だけかもしれません。

逆に、今は一般就労できていても、状態が変化すれば別の支援が必要になることもあります。

だからこそ、雇用と福祉を固定的な二つの世界として考えることには限界があります。


「一般就労」と「福祉」の間に上下関係をつくらない

ここで一つ、私が大切だと思うことがあります。

一般就労と福祉的就労を、

一般就労の方が上

福祉はその下

という序列で捉えないことです。

一般就労を希望し、その力がある人が一般就労の機会を得られないことは問題です。

一方で、一般就労が難しい人が福祉の中で働き、社会参加することにも大きな価値があります。

厚労省の基本的考え方も、

一般就労が可能な人には一般就労の雇用機会を、

一般就労が困難な人には福祉で一般就労への移行支援または就労の場を、

それぞれ設けるという整理です。

つまり、どちらか一方だけを正解にしているわけではありません。

重要なのは、

その人にとって、その時点でどの働き方が適しているか

です。


相互往来を実現するには「記録」が重要になる

ここからは事業所実務の話です。

雇用と福祉の間を柔軟に行き来できるようにするためには、

本人の状態変化を把握できなければいけません。

そのために重要になるのが、

  • アセスメント
  • 個別支援計画
  • モニタリング
  • 日々の支援記録
  • 関係機関との情報共有

です。

例えば、

「一般就労への希望が出てきた」

という変化があった。

そのとき、

いつ頃からそう思うようになったのか。

何が変化したのか。

作業能力はどう変わったのか。

本人はどのような働き方を希望しているのか。

どのような不安があるのか。

こうした情報が記録として積み重なっていれば、次の支援につなげやすくなります。

逆に、

毎日の記録が、

「作業に取り組んだ」

「問題なく過ごした」

だけで終わっていれば、その人の変化を後から捉えることは困難です。


「変化を見つける支援」がこれから重要になる

これからの就労支援では、

今の状態を支えること

だけでなく、

変化を見つけること

も重要になるのではないかと思います。

以前より疲れやすくなった。

作業速度が落ちた。

一般就労について話すようになった。

新しい仕事に興味を持った。

生活リズムが安定した。

通所日数が増えた。

逆に欠席が増えた。

こうした小さな変化の積み重ねが、

「今の働き方を続けるのか」

「別の支援を検討するのか」

を考える材料になります。

制度がどれだけ柔軟になっても、現場が本人の変化に気づかなければ相互往来は機能しません。


一つの事業所だけで完結させない

雇用と福祉の相互往来を実現するうえでは、

一つの事業所ですべてを抱え込まないこと

も重要です。

厚労省は、一般就労後も障害者就業・生活支援センターをはじめとする関係者との継続的な連携が必要だとしています。

状況によって、

  • 就労選択支援
  • 就労移行支援
  • A型・B型
  • 就労定着支援
  • ハローワーク
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 相談支援
  • 医療機関
  • 企業

などが、それぞれ役割を担います。

本人の状態が変化したときに、

次の支援先へつなげられる関係があるか。

ここも、事業所の支援力の一つになっていくと思います。


人口減少の中で「地域の支援資源」も課題になる

今回の中間とりまとめ案では、人口減少についても触れられています。

都市部以外では、今後さらに人口減少が進み、就労移行支援を中心として、すでに事業所数が減少している地域もあるとされています。

これは相互往来を考えるうえで無視できません。

制度上、

「就労移行支援を利用する」

「B型へ移る」

という選択肢があっても、

その地域に事業所がなければ利用できません。

厚労省も、地域によるリソースの偏在がさらに進む可能性を踏まえ、限られた資源でニーズの変化に対応できる姿を目指す必要があるとしています。

つまり、

制度上の選択肢を増やすこと

だけではなく、

地域で実際に選べること

まで考える必要があります。


事業所が今、確認しておきたいこと

今回の中間とりまとめ案を受けて、今すぐ何か制度対応をする必要はありません。

ただし、現在の支援を振り返る材料にはなります。

1.利用者の状態を固定して見ていないか

「この人はB型の人」

「この人は一般就労は難しい」

という評価が何年も変わっていない場合、現在の状態をあらためて確認する必要があります。

2.小さな変化を記録できているか

体調、作業能力、希望、生活状況などの変化が、日々の記録やモニタリングに残っているでしょうか。

3.別の働き方を選べる情報を提供しているか

一般就労だけではありません。

A型、B型、就労移行支援、短時間就労など、本人が選択肢を知ることが重要です。

4.他機関につなぐ準備があるか

事業所内だけでは対応できないときに、どこへ相談するのか。

地域の支援機関との関係を確認しておく必要があります。

5.「今の支援を続ける理由」を説明できるか

なぜ今このサービスを利用しているのか。

なぜこの支援方針なのか。

その根拠が本人の希望、状態、計画、記録につながっているでしょうか。


「相互往来」は制度の話であると同時に、支援の考え方でもある

雇用と福祉の相互往来という言葉だけを見ると、制度間の連携の話に見えます。

しかし、私はそれだけではないと思います。

もっと根本にあるのは、

人は変化する

という当たり前の事実です。

昨日できなかったことが、今日できるようになる。

反対に、以前できていたことが難しくなる。

その変化に合わせて支援も変える。

働き方も変える。

必要であれば別の制度につなぐ。

その人を一つのカテゴリーに固定しない。

これが「相互往来」の根底にある考え方ではないでしょうか。


まとめ

今回の中間とりまとめ案では、

一般就労が可能な人には一般就労の機会を、一般就労が困難な人には福祉による移行支援または就労の場を提供する

という雇用と福祉の基本的な役割が再確認されました。

しかし同時に、

本人の就労能力や希望は、

  • 成長
  • 状態の改善
  • 状態の悪化
  • 加齢

によって変化することも明確にされています。

だからこそ、

福祉から一般就労へ

だけではなく、

一般就労から福祉へ

休職から福祉的支援を経て復職へ

といった、さまざまな移動を支える必要があります。

一般就労か福祉か。

そのどちらかを一度選べば終わりではありません。

本人の状態と希望に応じて、その時々で必要な働き方や支援を選び直せる。

今回の中間とりまとめ案が目指している方向を一言で表すなら、

「制度に人を合わせるのではなく、人の変化に制度と支援がついていく」

ということなのではないかと、私は考えています。

そして事業所に求められるのは、未来の制度改正を予想することではありません。

本人の変化を丁寧に見つけ、その理由と支援経過を記録し、必要になったときに別の支援や雇用へつなげられる状態をつくっておくこと。

それが、制度がどう変わったとしても変わらない就労支援の基本だと思います。


シリーズ記事

第1回
「障害者就労はどう変わる?厚労省『雇用と福祉の中間とりまとめ案』から読む今後の方向性」

第2回
「就労継続支援B型は『工賃』だけで評価できるのか?高齢化・重度化する利用者と今後の役割」

第3回
「就労継続支援A型の役割はどう変わる?一般就労との境界から読む厚労省の議論」

第4回
「就労選択支援は今後どうなる?アセスメントの客観性・中立性を厚労省資料から読む」

第5回
「障害者雇用は『人数』から『質』へ?厚労省資料が示す一般就労と福祉の新たな関係」

第6回
「一般就労か福祉かの二択ではない?『雇用と福祉の相互往来』から考える障害者就労のこれから」


一次情報・参考資料

BUSINESS SUPPORT

利用者の「変化」を、
支援と記録に反映できていますか?

就労能力や本人の希望は、ずっと同じとは限りません。 状態の改善・悪化、加齢、経験の積み重ねなどによって、 必要な働き方や支援が変化することがあります。

大切なのは、その変化を日々の支援の中で捉え、 アセスメント、個別支援計画、モニタリング、支援記録へつなげ、 「なぜ今この支援を行っているのか」を説明できることです。

行政書士田中慶事務所では、 記録・個別支援計画、運営書類、研修、職員体制など、 現在の支援と運営の状況を確認しながら、 事業所ごとに優先して整理したい点を一緒に確認します。

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※制度改正や報酬改定の内容が決定する前に、対応を先取りすることを目的としたものではありません。
※現在の支援・運営状況を確認し、必要な範囲で整理や改善方法を検討します。

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この記事を書いた人

大阪市を拠点に、障がい福祉事業所の記録・個別支援計画、運営書類、法定研修、制度対応などの整理と運用を支援する行政書士です。
自身の福祉サービス利用経験と福祉現場での経験を踏まえ、制度の内容を解説するだけでなく、事業所、ご本人、ご家族が「次に何を確認し、どう動けばよいか」を分かりやすく整理することを大切にしています。
本ブログでは、障がい福祉の制度改定、事業所運営、支援記録、個別支援計画、親なきあとに関する制度・法務などについて、現場で役立つ視点から発信しています。

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