新年度を目前に控え、多くの管理者が「板挟み」の苦しみに直面しています。
掲げた理念に沿った、手厚い支援を届けたい。 けれど、現場の疲弊や人員の限界を考えると、これ以上は無理をさせられない。
「理想を追えば現場が壊れ、現場を守れば理想が死ぬ」。 そんな二者択一の問いに、どう向き合えばいいのでしょうか。4月1日を前に、一度立ち止まって整理してみたいと思います。
理念は「アクセル」ではなく「羅針盤」
まず、自分自身を責めている管理者に伝えたいことがあります。 「理念通りにできないこと」は、あなたの無能さの証明ではありません。
理念とは、常に踏み続けなければならないアクセルではなく、迷った時にどちらへ進むべきかを示す「羅針盤」です。 荒天の海(人手不足や制度改正)で、羅針盤が指す方向に今すぐ全速力で進めないのは、船長として「船と乗組員を守る」という、より上位の義務を果たしているからです。
判断の優先順位を「時間軸」で分ける
理想と現実が衝突したとき、私は次のような優先順位で判断することをお勧めしています。
- 【今】守るべきは「安全」と「法(コンプライアンス)」 まず、4月1日に最低限クリアすべきはここです。どれだけ理念が崇高でも、事故が起きたり運営基準を割ったりしては、継続そのものが断たれます。
- 【次】整えるべきは「スタッフの余白」 安全が確保できたら、次に優先するのは利用者の理想的な支援ではなく、スタッフの心身の余裕です。スタッフが「回らない」と叫んでいる状態で理念を強いても、それは形骸化し、やがて組織を腐らせます。
- 【未来】に繋ぐのが「理念の体現」 理想の支援は、この「安全」と「余白」の土台の上に、少しずつ積み上げていくものです。
「今はやらない」という勇気ある退却
「4月1日にすべての理想を詰め込まない」と決めることは、敗北ではありません。 むしろ、現状の戦力を冷静に見極め、全滅を避けるための「戦略的な退却」です。
「今年度は、この部分の理念体現は一旦脇に置き、まずは土台作りに専念する」
その判断をスタッフと共有できたとき、現場の「回らない」という悲鳴は、「ここまでは守り抜こう」という結束に変わります。
最後に
理念は逃げません。 今、理想の100%に届かなくても、羅針盤が正しい方向を向いている限り、あなたの事業所は一歩ずつ目的地に近づいています。
判断に迷ったとき、理念と現場の両方を守る視点を一緒に整理することも、私たち専門家の役割の一つだと思っています。
4月1日。完璧なスタートではなく、「持続可能な一歩」を。 スタッフと一緒に、まずはその土台に旗を立てることから始めてみませんか。
