2026年12月25日に、こども性暴力防止法が施行されます。
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、対象となる職員について犯罪事実確認を行うだけでなく、その手続で取り扱う情報を適正に管理する体制が必要です。
犯罪事実確認に関する情報は、職員のプライバシーや就労に大きな影響を与え得る情報です。
管理方法を誤れば、情報漏えいだけでなく、事業所内での不必要な共有、うわさ、差別的な取扱いなどにつながるおそれがあります。
この記事では、児発・放デイが施行までに決めておきたい、犯罪事実確認情報の管理方法を整理します。
最初に決めるのは「誰が見るか」と「システム外に残すか」
こども家庭庁は、事業者の情報管理方法に応じて、3種類の情報管理規程ひな型を公表しています。
どのひな型を使用するかは、主に次の2点で決まります。
・犯罪事実確認書を閲覧するのが、責任者一人か複数名か
・こまもろうシステム以外で、犯罪事実確認記録等を作成・保存するか
したがって、最初に「紙で保存するか、電子データで保存するか」を選ぶのではありません。
まず、誰が情報を確認し、その情報をシステム外へ残す必要が本当にあるのかを決めます。
情報管理規程の3つのパターン
こども家庭庁が公表している情報管理規程ひな型は、次の3つに分かれています。
パターン1|責任者一人・システム外保存なし
責任者一人だけが、こまもろうシステム上で犯罪事実確認書を確認し、システム外では犯罪事実確認記録等を作成・保存しない運用です。
小規模な法人や、犯罪事実確認を担当する者を一人に限定できる場合に考えられます。
この運用では、閲覧者を最小限に抑えられ、システム外に情報が残らないため、情報漏えいの経路も限定しやすくなります。
一方、責任者が休職、退職、長期不在となった場合に、誰が業務を引き継ぐのかを決めておく必要があります。
パターン2|複数名・システム外保存なし
責任者を含む複数名が、こまもろうシステム上で犯罪事実確認書を確認するものの、システム外では犯罪事実確認記録等を作成・保存しない運用です。
複数事業所を運営している法人や、本部と事業所で担当者を分ける必要がある場合などが考えられます。
ただし、「法人の役員だから」「管理者だから」という理由だけで閲覧者を増やすべきではありません。
その人が犯罪事実確認や、その後の措置を行ううえで、情報を確認する必要があるかを個別に判断します。
パターン3|複数名・システム外保存あり
責任者を含む複数名が情報を確認し、こまもろうシステム外でも犯罪事実確認記録等を作成・保存・伝達する運用です。
この場合は、システム外に情報が存在するため、より厳格な管理が必要になります。
保存場所、閲覧権限、伝達方法、複製、持出し、保存期間、廃棄方法などを具体的に定めます。
システム外保存が可能だからといって、念のために情報を残しておくことが適切とは限りません。
その情報を残さなければ業務を行えないのか、保存する目的と必要性を先に確認する必要があります。
基本は「必要以上に情報を持たない」
犯罪事実確認に関する情報は、多く保存しておけば安全になるものではありません。
保存する情報が増え、閲覧できる人が増えるほど、漏えいや目的外利用のリスクも高くなります。
事業所では、次の点を確認します。
・システム外へ情報を残す必要があるか
・保存する場合、何を保存するのか
・誰が閲覧する必要があるのか
・誰へ伝達する必要があるのか
・いつまで保存するのか
・保存期間終了後にどう廃棄するのか
「念のため印刷する」「担当者のパソコンへ保存する」「管理者全員へ共有する」といった運用を、目的や必要性を検討せずに行うことは避ける必要があります。
閲覧者は必要最小限に限定する
犯罪事実確認書や犯罪事実確認記録等を閲覧できる者は、業務上必要な者に限定します。
たとえば、次のような点を確認します。
・犯罪事実確認の責任者は誰か
・システムを操作する担当者は誰か
・確認結果を踏まえた措置を検討する者は誰か
・法人本部の職員が閲覧する必要はあるか
・各事業所の管理者が閲覧する必要はあるか
・責任者不在時の代行者をどうするか
・担当変更時に権限をどう引き継ぐか
犯罪事実確認の対象となった職員の直属の上司であっても、業務上必要でなければ、詳細な情報を当然に共有できるわけではありません。
現場での配置調整に必要な情報と、犯罪事実確認に関する具体的な情報を分けて考えることも重要です。
権限設定表で「誰が何をできるか」を明確にする
こども家庭庁からは、犯罪事実確認情報の取扱権限を整理するための権限設定表が公表されています。
権限設定表では、担当者ごとに、たとえば次の操作ができるかを整理します。
・システムへログインする
・犯罪事実確認を申請する
・犯罪事実確認書を閲覧する
・システム外で記録を作成する
・記録を保存する
・他の担当者へ情報を伝達する
・記録を廃棄する
・利用者の権限を設定・変更する
「情報管理担当者」という肩書だけを決めるのではなく、その担当者が具体的に何を行えるのかを明確にします。
担当者が異動、休職、退職した場合は、速やかにアカウントや閲覧権限を見直す必要があります。
システム外へ保存する場合の管理方法
こまもろうシステム外で犯罪事実確認記録等を作成・保存する場合は、保存媒体に応じた管理が必要です。
紙で保存する場合
・施錠できる保管場所を使用する
・鍵を管理できる者を限定する
・一般の人事書類と区別して保管する
・無断で複写・持出しできないようにする
・廃棄時は復元できない方法を使用する
電子データで保存する場合
・閲覧権限を限定する
・個人のデスクトップや私物端末へ保存しない
・共有フォルダのアクセス権限を確認する
・パスワードや多要素認証を適切に管理する
・USBメモリ等へのコピーを制限する
・バックアップ先にも同じ管理を適用する
・削除時は復元可能性も考慮する
クラウドサービスを使用する場合も、そのサービスを利用しているだけで安全が確保されるわけではありません。
誰がアクセスできるのか、事業所外から閲覧できるのか、退職者のアカウントが残っていないかなどを確認します。
取扱記録は何のために作るのか
こども家庭庁からは、犯罪事実確認記録等の取扱状況を記録するための様式案も公表されています。
取扱記録は、情報を作成、保管、伝達、廃棄した状況を残し、後から適正な取扱いであったかを確認できるようにするものです。
主な記録事項としては、次のようなものが考えられます。
・取扱日時
・取扱者
・対象となる情報
・取扱いの目的
・作成、閲覧、複製、伝達等の内容
・伝達先
・保存場所
・廃棄日時
・廃棄方法
・確認者
ただし、システム外に犯罪事実確認記録等を残さない運用を選択した事業者が、取扱記録を作るためだけに、不要な犯歴情報を転記・保存することは適切ではありません。
選択した情報管理パターンに合わせて、何を記録する必要があるのかを判断します。
口頭での共有も情報の取扱いになる
情報管理というと、紙や電子データの保存だけを考えがちです。
しかし、職員同士の会話、電話、オンライン会議などで情報を伝えることも、情報の取扱いです。
次のような行為にも注意が必要です。
・他の職員がいる場所で確認結果を話す
・支援現場で対象職員の事情を話題にする
・必要のない職員へ「念のため」と伝える
・私用のメールやチャットで連絡する
・会議資料へ必要以上の情報を記載する
・本人を特定できる形で事例を研修に使用する
配置変更などを現場へ伝える必要がある場合でも、犯罪事実確認の具体的な内容まで共有する必要があるとは限りません。
共有する相手、目的、情報の範囲を分けて判断します。
情報管理責任者・担当者への研修も必要
情報管理規程を作成しても、責任者や担当者が内容を理解していなければ適切に運用できません。
情報を取り扱う者には、少なくとも次の事項を周知・研修します。
・取り扱う情報の範囲
・閲覧・保存・伝達できる条件
・権限設定の方法
・取扱記録の作成方法
・紙・電子データの保管方法
・禁止される取扱い
・異動・退職時の権限変更
・漏えい等が疑われる場合の報告方法
・規程違反があった場合の対応
こども家庭庁からは、3つの情報管理パターンに対応した解説動画・資料も公表されています。
事業所が選択するパターンに応じた教材を使用し、実際の保存場所や担当者、権限設定まで確認します。
漏えい等が起きた場合の対応を決めておく
情報漏えいを完全に防ぐための対策は重要ですが、万一発生した場合の対応も事前に決めておく必要があります。
たとえば、次の事項を整理します。
・最初の報告先
・情報管理責任者への連絡方法
・影響を受ける情報と対象者の確認
・アカウント停止やアクセス遮断
・誤送信先への削除依頼
・関係機関や専門家への相談
・本人への連絡や説明
・原因調査と再発防止
・対応経過の記録
「紛失したかもしれない」「誤送信した可能性がある」という段階でも、担当者だけで判断して処理せず、責任者へ速やかに報告できるルールが必要です。
複数事業所を運営する法人での注意点
複数の児発・放デイを運営している法人では、法人本部と各事業所の役割分担を決めます。
確認したいのは、次のような点です。
・犯罪事実確認を法人本部で一括して行うか
・各事業所の管理者が確認結果を見る必要があるか
・兼務職員の情報をどこで管理するか
・配置変更の情報を誰へ伝えるか
・本部と事業所で保存する情報を分けるか
・事業所間の異動時に権限をどう変更するか
法人本部で一括管理する場合でも、各事業所へすべての情報を共有する必要があるとは限りません。
各事業所が業務上必要とする情報だけを、必要な範囲で伝える仕組みにします。
施行前に決めておきたいこと
児発・放デイでは、施行前に少なくとも次の事項を整理しておきます。
1.情報管理責任者を決める
2.犯罪事実確認書を閲覧する者を決める
3.システム外で情報を作成・保存するか決める
4.3種類の情報管理規程ひな型から運用に合うものを選ぶ
5.権限設定表を作成する
6.紙・電子データの保存場所を決める
7.取扱記録が必要となる場面を決める
8.異動・退職時の権限変更手順を決める
9.漏えい等が疑われる場合の報告手順を決める
10.責任者・担当者へ研修を行う
ひな型を先に選んで空欄を埋めるのではなく、実際の運用方法を決めたうえで、それに合うひな型を選ぶことが大切です。
まとめ
こども性暴力防止法で取り扱う犯罪事実確認情報は、職員のプライバシーや就労に大きな影響を与え得る情報です。
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、次の2点を最初に決めます。
・犯罪事実確認書を閲覧するのは一人か複数名か
・こまもろうシステム外で犯罪事実確認記録等を作成・保存するか
その結果に応じて、こども家庭庁が公表している3種類の情報管理規程ひな型から、実際の運用に合うものを選びます。
重要なのは、情報を多く保存し、多くの職員で共有することではありません。
必要な情報だけを、必要な者が、必要な期間、定められた方法で取り扱う体制をつくることです。
犯罪事実確認情報の管理体制を整理したい事業所様へ
行政書士田中慶事務所では、大阪市内の児童発達支援・放課後等デイサービス等の事業所様を対象に、こども性暴力防止法の施行に向けた情報管理体制の整備を支援しています。
犯罪事実確認書を閲覧する者、システム外保存の有無、情報管理責任者、権限設定、取扱記録、保存・廃棄方法、漏えい時の報告ルールなどを確認し、事業所の運用に合う情報管理規程を整理します。
複数事業所を運営する法人についても、本部と各事業所の役割を切り分け、必要以上に情報を共有・保存しない運用を一緒に検討します。
