障害福祉事業所で利用者との面談を行ったとき、
「特に困っていません」
「今のままで大丈夫です」
「分かりません」
という返答だけで終わることがあります。
支援者としては、
「本当は何か困っているのではないか」
「もっと深く聞いた方がよかったのではないか」
「本人の本音を聞けていないのではないか」
と不安になるかもしれません。
しかし、面談の目的は、支援者が本人の本音を無理に引き出すことではありません。
本人が必要な情報を得たうえで、自分の希望や不安を、伝えやすい方法で表明できる環境を整えることが重要です。
本人から意向を聞けないときは、質問の仕方だけでなく、普段の関係性、面談場所、選択肢の示し方、日々の記録などを含めて見直す必要があります。
「話さない」ことには理由がある
本人が面談で多くを話さないからといって、意見や希望を持っていないとは限りません。
本人は、次のように感じていることがあります。
- 不満を言うと職員との関係が悪くなるかもしれない
- 希望を伝えても実現しないと思っている
- 何を聞かれているのか分からない
- 選べる内容が分からない
- 家族や職員が望む答えを言った方がよいと思っている
- 面談する場所や相手に緊張している
- 自分の気持ちを言葉にすることが難しい
- その場では答えを決められない
このような状況で質問を重ねても、本人が安心して意思を表明できるとは限りません。
まずは、本人が答えにくい原因がどこにあるのかを考えます。
「本音を引き出す」よりも意思を表しやすくする
面談では、支援者が本人の中にある正解を見つけ出そうとしてしまうことがあります。
しかし、支援者が「これが本人の本音だろう」と決めてしまうと、本人の実際の希望よりも、職員の解釈が優先されるおそれがあります。
本人の意思を確認するときは、
- 本人が理解できるように情報を伝える
- 選択肢を分かりやすく示す
- 考える時間を確保する
- 言葉以外の反応も確認する
- 本人が答えを変更できるようにする
- 支援者の希望する答えへ誘導しない
ことが大切です。
本人がその場で答えられない場合も、「意向がない」と判断せず、別の方法や時期で確認します。
抽象的な質問は答えにくい
面談でよく使われるのが、
「困っていることはありますか」
「今後どうしたいですか」
「何か希望はありますか」
という質問です。
これらは一見、本人の意向を尊重した質問に見えます。
しかし、質問の範囲が広すぎるため、何を答えればよいか分からない利用者もいます。
その場合は、具体的な場面に分けて尋ねます。
たとえば、
- 最近、やりやすかった作業はありましたか
- 疲れやすかった曜日はありましたか
- 休憩を取りやすかったですか
- 職員へ相談しにくかった場面はありましたか
- 今の利用日数は多いですか、少ないですか
- 続けたい作業と、減らしたい作業はありますか
- 一人で行いたいことと、手伝ってほしいことはありますか
などです。
質問を具体化すると、本人が経験を思い出しながら答えやすくなります。
二つの選択肢だけで決めない
本人が自由に答えることが難しい場合、選択肢を示す方法は有効です。
ただし、
「続けますか、やめますか」
「できますか、できませんか」
「困っていますか、困っていませんか」
という二択だけでは、本人の希望を十分に表せないことがあります。
たとえば利用日数について確認する場合は、
- 現在のまま続ける
- 1日減らす
- 利用時間を短くする
- 体調に応じて調整する
- しばらく試してから決める
など、現実的に選べる内容を示します。
実際には選べない選択肢を示したり、事業所が対応できない希望を実現できるように説明したりしないことも重要です。
面談の場所や同席者も影響する
本人の意思表示は、周囲の環境から影響を受けます。
たとえば、
- 他の利用者や職員に会話が聞こえる
- 家族が隣に座っている
- 管理者や複数の職員に囲まれている
- 初めて入る部屋で面談する
- 時間が限られ、急いで答えるよう求められる
といった状況では、普段どおりに話せないことがあります。
本人が話しやすい職員、場所、時間帯を確認します。
家族や関係者の同席が必要な場合でも、本人だけで話せる時間を設けた方がよいことがあります。
一方で、本人が信頼する家族や支援者の同席を希望する場合は、その希望も尊重します。
本人の言葉をすぐに評価しない
本人が希望や不満を話した直後に、
「でも、それは難しいですよ」
「前にも同じことがありましたよね」
「今の方法が一番合っていると思います」
と返すと、本人は「希望を言っても否定される」と感じる可能性があります。
まずは、
「そう感じているのですね」
「どの場面が一番困りましたか」
「どうなれば少し楽になりそうですか」
と、本人が話した内容を確認します。
希望どおりに対応できない場合も、最初から否定するのではなく、
- 何を希望しているのか
- なぜその希望があるのか
- 一部でも実現できる方法はないか
- 代わりの方法を選べるか
を整理したうえで説明します。
言葉以外の反応も意向確認の材料になる
言葉による意思表示が難しい利用者についても、面談を省略してよいわけではありません。
本人の、
- 表情
- 視線
- 身体の動き
- 発声
- 拒否
- 行動の変化
- 活動へ近づく、離れる
- 介助を受け入れる、避ける
といった反応を確認します。
ただし、一回の反応だけで本人の意思を決めつけないことが大切です。
複数の場面での反応や、本人をよく知る家族・支援者からの情報、過去の記録などを合わせて検討します。
日々の支援記録が面談の材料になる
面談のときに突然、
「最近どうですか」
と尋ねても、本人が数か月間の出来事を整理して答えることは簡単ではありません。
日々の支援記録に、
- 本人が楽しそうに取り組んだ場面
- 不安や拒否が見られた場面
- 本人が選んだ内容
- 本人から出た言葉
- 支援方法を変えた結果
- 以前と異なる反応
- 職員へ相談できた場面
を残しておけば、具体的な出来事を示しながら確認できます。
たとえば、
先月から新しい作業を3回行いました。続けたいですか。それとも以前の作業の方がよいですか。
と尋ねれば、本人も経験を思い出しやすくなります。
記録は、職員が本人を評価するためだけでなく、本人が自分の経験を振り返るためにも活用できます。
職員間で質問の目的を共有する
職員によって面談の方向性が大きく異なると、本人も何を話せばよいか分からなくなることがあります。
ある職員は利用日数について尋ね、別の職員は作業能力を重視し、さらに別の職員は一般就労の希望ばかりを確認する、といった状態です。
面談前には、
- 今回確認する個別支援計画の目標
- 最近見られた変化
- 本人へ確認したいこと
- 事業所側から説明すること
- 選択可能な支援方法
を整理します。
全職員が同じ質問をする必要はありませんが、面談の目的と現在の支援方針は共有しておく必要があります。
面談内容を個別支援計画へ反映する
本人の希望を聞いても、その内容が支援へ反映されなければ、本人は次第に意見を伝えなくなる可能性があります。
面談で確認した内容については、
- 現在の支援を継続する
- 支援方法を変更する
- 目標を変更する
- まず一定期間試す
- 関係機関と調整する
- 希望どおりにできない理由を説明する
など、今後の対応を整理します。
継続的な支援内容に関わる場合は、個別支援計画への反映も検討します。
また、本人へ、
「話してくれた内容を、今後このように支援へ反映します」
と伝えることも重要です。
本人の意思は変わることがある
一度確認した希望が、その後も変わらないとは限りません。
体験して初めて分かることや、体調、生活環境、人間関係の変化によって、本人の考えが変わることがあります。
以前「続けたい」と話していたからといって、現在も同じ希望であるとは限りません。
一度決めた内容を守らせることではなく、本人が必要に応じて選び直せることが大切です。
面談だけでなく、日常の支援やモニタリングを通じて、継続的に意向を確認します。
支援者が気をつけたい誘導的な質問
支援者が無意識に、望ましいと思う答えへ誘導することがあります。
たとえば、
「この作業を続けたいですよね」
「週5日通えるようになりたいですよね」
「一般就労を目指したいですよね」
「今の支援で困っていませんよね」
という質問です。
このような尋ね方では、本人が反対の意見を言いにくくなります。
代わりに、
「この作業を続ける、別の作業を試す、どちらがよいですか」
「今の利用日数をどう感じていますか」
「今後、働き方について考えたいことはありますか」
と、中立的に確認します。
支援者がよいと考える方向と、本人が望む方向が一致するとは限りません。
面談後に記録しておきたいこと
面談記録には、単に「本人の意向を確認した」と書くのではなく、次の内容を整理します。
- 面談した日時と参加者
- 本人へ説明した内容
- 使用した資料や選択肢
- 本人の言葉
- 表情や反応
- 家族や職員の意見
- 本人と他の関係者の意見が異なる点
- 今後の対応
- 個別支援計画変更の要否
本人の発言と職員の評価は、可能な範囲で分けて記載します。
たとえば、
本人は「現在の作業を続けたい」と話した。一方で、作業後に疲労が強くなる日が週2回程度見られている。本人へ作業時間の短縮も選べることを説明したところ、「まずは週1回だけ短くしたい」と希望した。
と記載すれば、本人の意向と支援上の検討事項が分かります。
まとめ
障害福祉事業所の面談で本人から多くを聞けないとき、質問の技術だけが原因とは限りません。
本人の意思表示は、
- 職員との関係性
- 面談する場所や同席者
- 情報の伝え方
- 選択肢の示し方
- 質問の具体性
- 日々の支援経験
- 本人の意思が支援へ反映された経験
などから影響を受けます。
大切なのは、支援者が本人の本音を当てることではありません。
本人が安心して、自分の希望を伝えたり、選んだり、後から変更したりできる環境を整えることです。
面談だけで本人の意思を確認しようとせず、日々の支援記録、本人の反応、体験の機会、関係者からの情報をつなぎながら、個別支援計画と実際の支援へ反映していくことが重要です。
※本記事は2026年7月30日時点の厚生労働省「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」等をもとに作成しています。
