「障がい福祉事業所を開設したいのですが、私は福祉関係の資格を持っていません。開設できますか?」
障がい福祉事業への参入を検討している方から、よく出てくる疑問です。
結論からいうと、障がい福祉事業所を経営する人が、必ずしも社会福祉士、介護福祉士、保育士などの資格を持っている必要はありません。
ただし、これは「資格や経験のある人が誰もいなくても開設できる」という意味ではありません。
開設するサービスに応じて、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、保育士、児童指導員など、一定の資格・実務経験・研修要件を満たす職員の配置が必要です。
また、必要な職種を採用しただけでは足りません。常勤・非常勤、専従・兼務、勤務時間、利用定員などを含めて、人員基準を満たす必要があります。
「経営者の資格」と「事業所の人員基準」は別の問題
まず整理したいのは、次の二つは別の問題だということです。
1.事業を経営する人に必要な資格
株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人などの代表者が、福祉関係の国家資格を持っていなければならないという共通ルールはありません。
そのため、福祉業界での勤務経験がない人や、福祉資格を持たない人が法人を設立し、障がい福祉事業へ参入すること自体は可能です。
2.事業所に配置しなければならない職員
一方、障がい福祉事業所として指定を受けるには、サービスごとに定められた職員を配置しなければなりません。
例えば、成人を対象とする障害福祉サービスでは、サービス管理責任者の配置が必要となる事業があります。
児童発達支援や放課後等デイサービスでは、児童発達支援管理責任者をはじめ、児童指導員や保育士などの配置が必要です。
つまり、経営者本人に資格がなくても、事業所全体として必要な人員体制を整えれば、指定を受けられる可能性があります。
サービス管理責任者は「資格名」ではない
障がい福祉事業の開設を検討する際、特に注意したいのがサービス管理責任者、いわゆる「サビ管」の確保です。
サービス管理責任者は、社会福祉士や介護福祉士のような単独の国家資格名ではありません。
一定の相談支援または直接支援の実務経験などを満たし、必要な研修を修了した人が、所定の要件のもとでサービス管理責任者として配置されます。
そのため、応募者が「福祉資格を持っている」というだけで、サービス管理責任者として配置できるとは限りません。
反対に、特定の国家資格を持っていなくても、これまでの実務経験や研修受講状況によって、要件を満たす可能性があります。
採用時には、履歴書だけで判断せず、次の内容を確認する必要があります。
- どの事業所・施設で勤務していたか
- どのような業務を担当していたか
- 相談支援業務か、直接支援業務か
- 常勤か非常勤か
- 勤務期間はどのくらいか
- 必要な研修をいつ修了したか
- 研修修了証が保管されているか
- 実務経験証明書を取得できるか
- 更新研修などが必要な状態ではないか
「前の職場でサビ管をしていた」という本人の説明だけでは、現在の事業所でも配置できるとは限りません。
指定申請前に、実務経験証明書や研修修了証などを確認し、指定権者にも相談することが重要です。
就労継続支援A型・B型の場合
就労継続支援A型・B型では、法人の代表者本人に福祉資格がなくても、法人として事業を運営することは可能です。
ただし、代表者本人が事業所の管理者を兼ねる場合は、サービスごとの管理者要件を確認する必要があります。特に就労継続支援A型の管理者は、社会福祉法上の一定の資格を有する者、社会福祉事業に2年以上従事した者、企業経営の経験を有する者、またはこれらと同等以上の能力を有すると認められる者でなければなりません。
事業所には、主に次のような職員を配置します。
- 管理者
- サービス管理責任者
- 職業指導員
- 生活支援員
管理者は、事業所全体の管理を担当します。
サービス管理責任者は、利用者のアセスメント、個別支援計画の作成、モニタリング、支援内容の調整など、サービス提供プロセスの管理を担います。
職業指導員と生活支援員は、就労・生産活動や日常生活上の支援を担当します
職業指導員や生活支援員については、配置されるすべての人に特定の国家資格が必要とされているわけではありません。
しかし、資格が不要だからといって、誰でも同じように支援できるわけではありません。利用者の障がい特性を理解し、支援記録を残し、個別支援計画に沿った支援を行える体制が必要です。
また、A型では利用者と雇用契約を締結するため、障害福祉制度だけでなく、労働関係法令や最低賃金などへの対応も必要になります。
放課後等デイサービスの場合
放課後等デイサービスについても、法人の代表者本人に、保育士や児童指導員などの資格が一律に必要となるわけではありません。
ただし、事業所には、主に次のような職員を配置します。
- 管理者
- 児童発達支援管理責任者
- 児童指導員または保育士など
児童発達支援管理責任者は、こどもと家族の状況を把握し、個別支援計画の作成やモニタリング、関係機関との調整などを行います。
児童指導員は、単一の資格の名称ではありません。
大学で所定の課程を修了している場合、教員免許を持つ場合、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持つ場合、一定の児童福祉事業での実務経験がある場合など、複数の任用要件があります。
採用予定者が「学校や福祉施設で働いていた」だけで、必ず児童指導員として配置できるわけではありません。
学歴、履修科目、保有資格、勤務先の事業種別、実務経験年数などを個別に確認する必要があります。
共同生活援助(グループホーム)の場合
共同生活援助、いわゆる障がい者グループホームについても、経営者本人に福祉資格がなければ参入できないわけではありません。
事業所では、主に次のような職員を配置します。
- 管理者
- サービス管理責任者
- 世話人
- 生活支援員
- 夜間支援を行う職員など
必要となる人員は、共同生活援助の類型、利用者数、利用者の障害支援区分、夜間支援の方法などによって異なります。
世話人は、食事の準備、家事、生活相談など、利用者の日常生活を支える職員です。
世話人について、すべての人に特定の国家資格が必要とされているわけではありません。一方で、利用者の日常生活を適切に支援する能力が求められます。
また、グループホームでは、単に住宅を用意して職員を配置すればよいわけではありません。
夜間・緊急時の対応、消防設備、避難体制、近隣環境、居室面積なども含めて、事業として運営できる体制を整える必要があります。
「有資格者を採用すれば開設できる」とは限らない
開設準備では、「サービス管理責任者を採用できたので、人員面は問題ない」と考えてしまうことがあります。
しかし、確認すべきことは職員の肩書だけではありません。
例えば、次のような点を確認する必要があります。
- 実務経験と研修の要件を満たしているか
- 常勤として配置する必要があるか
- 他事業所との兼務が認められるか
- 管理者との兼務が可能か
- 営業時間中に必要な勤務時間を確保できるか
- 利用定員に応じた職員数を満たすか
- 開設予定日までに勤務を開始できるか
- 退職予定や長期休業の可能性はないか
- 資格証、研修修了証、実務経験証明書を提出できるか
採用契約を締結していても、指定申請上の要件を満たしていなければ、その人を必要職員として算入できない可能性があります。
さらに、指定を受けた後に必要職員が退職し、人員基準を満たせなくなれば、減算、変更届、利用者受入れの見直しなどが必要になる場合があります。
人員確保は、指定申請時だけの問題ではなく、開設後も継続して管理すべき経営上の重要事項です。
資格以外にも開設要件がある
経営者本人に資格がないことだけを理由に、障がい福祉事業の開設を諦める必要はありません。
一方、必要職員を確保できれば、それだけで開設できるわけでもありません。
障がい福祉事業所の指定では、一般に次のような項目を確認します。
- 法人格
- 人員基準
- 設備基準
- 運営基準
- 物件の使用権限
- 建築関係法令
- 消防関係法令
- 事業計画と資金計画
- 運営規程などの書類
- 指定権者との事前協議
- 地域によって設けられている開設上の条件
特に、人員と物件は互いに影響します。
採用を先に進めても、使用できる物件が見つからなければ、開設時期が遅れます。反対に、物件を先に契約しても、必要職員を確保できなければ、家賃だけが発生し続けることになります。
資格、人員、物件、資金、指定申請のスケジュールを一体として考える必要があります。
開設前に確認したい3つのこと
1.どのサービスを開設するのか
障がい福祉事業と一口にいっても、サービスによって人員・設備・運営基準は異なります。
最初に、対象者、支援内容、利用定員、営業日、送迎の有無などを具体化します。
2.誰をどの職種として配置するのか
採用予定者について、保有資格、実務経験、研修履歴、勤務可能時間を確認します。
「福祉経験者」「サビ管経験者」という大まかな情報だけで判断しないことが重要です。
3.指定権者へいつ確認するのか
人員基準の解釈や必要書類は、サービスや自治体、申請内容によって異なる場合があります。
採用や物件契約を確定する前に、指定権者への事前相談が必要です。
まとめ
障がい福祉事業所を開設する経営者本人に、福祉資格が一律に必要となるわけではありません。
ただし、事業所には、サービスに応じた職員を配置し、人員基準を満たす必要があります。
重要なのは、「資格を持つ人を一人雇うこと」ではありません。
その人の資格、実務経験、研修履歴、勤務形態を確認し、他の職員を含めた事業所全体として、指定基準を満たす体制を整えることです。
また、人員基準だけでなく、法人、物件、消防、資金、運営体制などの条件も並行して確認しなければなりません。
資格がないから開設できないのではなく、必要な体制を具体的に組み立てられるかが、障がい福祉事業への参入を判断するポイントになります。
