※この記事は行政書士事務所の開業準備中に執筆したものです。
現在は大阪市中央区で行政書士事務所を開業し、障がい福祉事業所の運営支援・開業支援を行っています。
内容は2026年8月時点の制度に合わせて確認・更新しています。
はじめに:「106万円の壁」の見直しが決まりました
2025年5月16日、政府は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」を国会に提出しました。その後、同法は2025年6月13日に成立し、6月20日に公布されました。
今回の改正では、短時間労働者の社会保険加入要件のうち、月額8.8万円以上とする賃金要件の撤廃と、企業規模要件の段階的な縮小・撤廃が決まっています。
本記事では、「106万円の壁」の基本的な仕組みと見直し内容、A型事業所で働く方や事業所への影響を整理します。
そもそも「106万円の壁」とは?誰に関係するのか
「106万円の壁」の基本的な仕組み
「106万円の壁」とは、短時間労働者の社会保険加入要件の一つである**「所定内賃金が月額8.8万円以上」**という基準を、年収に換算した通称です。
したがって、「年収106万円を超えたら誰でも社会保険に加入する」という意味ではありません。
正社員等の所定労働時間・所定労働日数の4分の3未満で働く短時間労働者については、2026年8月時点では、原則として次の要件をすべて満たす場合に厚生年金保険・健康保険の加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 学生ではない
- 厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働いている
なお、正社員等の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上働く場合には、この短時間労働者向けの要件とは別に社会保険の加入対象となります。
なぜ「壁」なのか?働く人の不利益とは
社会保険の加入対象になると、健康保険料・厚生年金保険料の本人負担が生じるため、加入直後には手取り額が減る場合があります。
このため、「社会保険に加入しない範囲で働きたい」と考え、就労時間を調整する人がいることが、いわゆる「年収の壁」の問題として指摘されてきました。
一方、社会保険へ加入することで、厚生年金の対象となるほか、健康保険の給付が充実する場合もあります。そのため、単純に「加入すると不利益」と考えるのではなく、本人の働き方や生活状況を踏まえて考える必要があります。
「106万円の壁」はいつ、どう変わる?
「月額8.8万円以上」の賃金要件を撤廃
2025年の年金制度改正により、短時間労働者の社会保険加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件は撤廃されることが決まりました。
2026年8月時点では、2026年10月の撤廃が予定されています。 賃金要件が撤廃されると、「年収約106万円」という金額そのものを基準として社会保険加入を判断する仕組みではなくなります。
また、企業規模要件も段階的に縮小されます。
- 2027年10月:被保険者数36人以上の企業等
- 2029年10月:21人以上
- 2032年10月:11人以上
- 2035年10月:企業規模要件を撤廃
つまり、将来的には企業規模にかかわらず、週20時間以上働く短時間労働者が社会保険の適用対象となる方向です。
就労時間の調整からの解放が期待される
A型事業所で働く障がい者の中には、支給される障害年金や手当への影響を気にして就労収入を抑えている方がいます。「106万円の壁」もその一因でした。
より柔軟な就労が可能となり、本人の希望に応じた働き方が実現しやすくなります。
年金・手当との関係には引き続き注意が必要
ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金を受給している場合は、本人の所得による支給制限があります。また、各種手当についてもそれぞれ所得要件等が異なるため、個別に確認する必要があります。
A型事業所の支援員や必要な専門家と連携しながら確認することが重要です。
A型事業所で働く人にはどんな影響がある?
「106万円以内に抑える」という考え方は変わっていく
賃金要件が撤廃されると、社会保険への加入を避けるために「年収約106万円以内に抑える」という考え方は、制度上の意味を失っていくことになります。
一方で、週20時間以上という労働時間要件は残ります。
そのため、「106万円を超えるか」だけを見るのではなく、自分の週の所定労働時間、勤務先の企業規模、社会保険加入後の手取りや保障などを含めて働き方を考える必要があります。
障害年金と「106万円の壁」は別の制度
A型事業所を利用している方の中には、障害年金を受給しながら働いている方もいます。
ただし、社会保険の「106万円の壁」と障害年金の支給要件は別の制度です。
障害年金は、原則として「年収が106万円を超えた」という理由だけで停止されるものではありません。
ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金には本人所得による支給制限があり、各種手当にもそれぞれ所得要件が設けられている場合があります。
そのため、社会保険、障害年金、各種手当を一つの「年収の壁」としてまとめて考えず、それぞれの制度を分けて確認することが重要です。
A型事業所の運営にはどんな影響がある?
社会保険の加入対象者を改めて確認する必要がある
賃金要件や企業規模要件の見直しが進むことで、これまで社会保険の対象ではなかった利用者が、新たに加入対象となる可能性があります。
A型事業所は利用者と雇用契約を締結する事業であるため、事業者側でも、
- 週の所定労働時間
- 雇用契約の内容
- 社会保険の加入対象となる時期
- 本人負担・事業主負担となる社会保険料
などを確認しておく必要があります。
労働時間の変更はA型の運営にも影響する
利用者本人の希望等により労働時間を延長する場合には、雇用契約や勤務シフト、支援体制などの見直しが必要になることがあります。
また、就労継続支援A型の基本報酬はスコア方式で評価されており、「1日の平均労働時間」も評価項目の一つです。
そのため、利用者の労働時間の変化は、単なる労務管理だけではなく、A型事業所の運営や報酬上の評価にも関係する可能性があります。
ただし、社会保険に加入させるためだけに労働時間を延ばすのではなく、本人の希望や体調、個別支援計画、実際の業務内容などを踏まえて検討することが重要です。
行政書士が対応できる業務とは
行政書士は、行政書士の業務範囲で、A型事業所の指定・運営に関する行政手続や書類整備などを支援できます。
- 障害福祉サービス事業所の指定申請・変更届等の行政手続
- 運営規程や行政提出書類の整備
- 障がい福祉制度や行政通知に関する情報整理
- 行政書士が取り扱うことのできる補助金等の申請書類作成
社会保険に関する手続きは社労士の業務
一方、社会保険の資格取得・喪失等の手続きや、労働・社会保険関係法令に基づく書類作成・提出などは、社会保険労務士の専門分野です。
A型事業所で社会保険の加入対象者が変わる場合には、必要に応じて社会保険労務士へ確認しながら対応することが重要です。
行政書士と社会保険労務士では取り扱う業務範囲が異なるため、それぞれの専門分野に応じて連携して進めることになります。
まとめ|「106万円」だけで働き方を判断しない
2025年の年金制度改正により、短時間労働者の社会保険については、
- 月額8.8万円以上という賃金要件の撤廃
- 企業規模要件の段階的な縮小・撤廃
が決まっています。
2026年8月時点では、賃金要件は2026年10月の撤廃が予定されています。
A型事業所で働く方にとっても、今後は「年収106万円を超えるか」だけではなく、週の所定労働時間、社会保険加入後の保障、障害年金・各種手当との関係などを分けて考えることが重要です。
また、A型事業所側も、対象者の確認、雇用契約、勤務時間、支援体制、社会保険料の事業主負担などを含めて準備する必要があります。
社会保険の具体的な加入手続や労務管理については社会保険労務士、障害福祉サービス事業所の指定・運営に関する行政手続や書類整備については行政書士など、内容に応じて専門家へ確認してください。
※本記事は2026年8月26日時点の厚生労働省・日本年金機構の公表情報をもとに作成しています。今後の施行時期や制度内容は変更される可能性があるため、最新の公表情報をご確認ください。

