障がい者手帳を取得した直後、僕は焦っていました。
「このままじゃいけない」「働かなきゃ」──そんな思いで検索を重ね、たどり着いたのが“就労移行支援事業所”。でも、制度のことも、福祉のことも、なにも知らなかった僕には、それが行政サービスなのか、民間のサービスなのかさえわからなかった。
理解できないまま、ひとりで動き出して、気づけば利用料がかかっていた。
何がどうなっているのか、誰に聞けばいいのかすら、わからなかった。
この文章は、7年前の僕の体験をもとに綴った、ひとつの記録です。
制度を使うはずが、制度のなかで迷子になったあの頃。
同じように、今、不安や孤独のなかにいる誰かに届きますように──。
「障がい者 転職 大阪」で検索した、あの日のこと
障がい者手帳を取得して、まず僕がやったのは、検索でした。
「障がい者 転職 大阪」。
体調も不安定で、頭もぼんやりしていたけれど、「このままじゃダメだ」と思って、なんとか動こうとしていた。
そこで出てきたのが、「就労移行支援事業所」でした。たくさんの事業所がヒットして、どこも「無料」「見学OK」と書いてある。正直、そのときの僕は「就労移行支援=行政のサービス」だと思っていた。ハローワークの出先機関みたいなものかな、って。(※当時の私の理解力で理解した内容となっております。料金説明やサービスの説明については、ホームページに書いてあります。)
福祉のことなんて、なにも知らなかった。
知識もない。体力もない。判断力もない。
そんな状態で、僕は“制度の入口”に立っていたんです。
見学から通所へ──わからないまま始まった支援
「見学はご自由に」という言葉に引かれて、家から近い事業所に足を運びました。
中に入るとスタッフの人が優しく説明してくれた。パンフレットももらった。
でも、頭にはほとんど入ってこなかった。
それでも、「ここに通えば、なんとかなるかもしれない」と思った。
それは、絶望と希望が入り混じった、苦しい選択だった。
体験を経て、通所を決めた。
でも「就労移行支援が、何のための場所なのか」さえ、本当の意味では理解できていなかった。
“無料じゃなかった”と気づいたときの衝撃
数か月が経ったころ、僕は月額1万円弱の利用料を支払っていたことに気づいた。
もちろん、最初の説明の中には入っていたはずだ。事業所は義務として説明してくれていた。
でも僕は、その説明を“わかってなかった”。「わかりました」と言いながら、理解していなかった。
「手帳を取ったら支援が受けられる」「無料と書いてあった」──そんな思い込みの中で、僕は支援を“行政サービス”のように捉えていた。
でも、就労移行支援事業所は株式会社が運営する「福祉サービス事業者」だった。
自己負担額は、前年の所得によって決まる。
退職直後だった僕には、過去の収入があった。そのため、利用料が発生した。
支援は受けていた。でも、お金は確実に減っていった。
だれにも相談できなかった──「味方がいない」と感じた瞬間
この頃、僕は親と同居し始めていた。
でも、うまく自分の状態を説明できなかったし、親も何を言えばいいかわからなかったのだと思う。
「とにかくご飯食べて、寝てたらよくなる」「あなたに分からないことが私にわかるはずがない」──親の言葉は、悪気のない、でも孤独にさせる響きを持っていた。
僕は、家族に何も相談しなかった。
というより、“相談できなかった”。
誰かに「わかってもらえない」と思うだけで、もう傷つく気がしていた。
当時の僕にとって、“わからない”と言われることは、「見捨てられた」と同じだった。
制度は、敵じゃない。でも、当事者がひとりで向き合うには重すぎる
今振り返っても、誰かが悪かったとは思っていない。
事業所は説明してくれていた。制度にも助けようとする意図があった。
どう接していいかわからないなりに、親は、近くで励まし続けてくれていた。
でも、“そのときの僕”は、制度を正しく理解できる状態ではなかった。
なのに、必要な手続きも、費用のことも、自分で全部やらないといけない状況にいた。
苦しさの中で「誰にも頼れない」と感じてしまうと、
本当は味方であるはずの制度も、ただの“壁”に見える。
ご家族の方へ──「わからない」は仕方ない。でも、最初の一歩を一緒に
もし、身近な人が精神的に苦しんでいる様子があれば、
どうか「私にはわからないから」とは言わないでください。
もちろん、わからないことはたくさんあると思います。
でも、だからこそ、「一緒にハローワーク行ってみようか」でも、「一緒に聞いてみようか」で十分なんです。
若しくは、「〇〇がしたいんだけど・・・。」や「こういうところがあるかな?」とご本人がおっしゃった時のために、事前に少しハローワークや専門家にお話を聞いておくことでもいいと思います。
最初の一歩を、当事者がひとりで踏み出すのは本当に怖い。
制度の説明を聞いても、何を言われているかわからない状態かもしれません。
だからこそ、横に誰かがいてくれるだけで、世界は少し違って見える。
そのあとは、専門家である僕たちに任せてください。
書類の作成や制度の活用はプロの仕事です。
でも、最初の一歩は、「身近な人」がいてくれたら、それで十分です。
あとがき──「助けて」が言えなかったあの頃の自分に、今ならこう言いたい
「あなたは、ちゃんと動いてたよ。がんばってたよ」
あのときの僕は、判断力も体力もない中で、誰にも頼れず、自分なりに動いてた。
そして、きっと同じような状況にいる人が、今もどこかにいる。
この文章が、そんな人の「もう一歩」を支えるものになれたら──
それが、あの頃の僕への、何よりの“報い”になるような気がしています。
「行政書士田中慶事務所ホームページはこちら」