コンプライアンスチェック バナー

「“障がい者”は日本だけの言い方?──言葉と制度に見る、日本と海外の“見え方”の違い」

「障がい者って、ほかの言い方ないの?」
そんな風に聞かれて、言葉につまったことがあります。
英語では“disorder”や“disability”のようにいろんな言葉があるのに、日本語では「障がい者」がほぼ唯一の総称
それに、日本では「視覚障がい」「聴覚障がい」「上肢障がい」など、部位別の表現がやたら豊富なのに対し、
英語ではあまりそういう“部位ベース”の分類って聞かないような…。
これは単なる言葉の違い?それとも、もっと深い文化や制度の違いがあるのでしょうか。
当事者の視点から感じたこととあわせて、少し掘り下げてみたいと思います。

目次

🔹「障がい者手帳」って日本だけのもの? 海外の制度を見てみる

日本には「障がい者手帳」と呼ばれる制度があります。
しかも、ひとくちに障がい者手帳といっても、以下のように分かれています。

  • 身体障害者手帳(視覚・聴覚・肢体などの機能障害)
  • 療育手帳(知的障がい。自治体ごとに運用が異なる)
  • 精神障害者保健福祉手帳(統合失調症、うつ、発達障がいなど)

このように部位や障がい特性によって、別の手帳が交付されるのが日本の特徴。
さらに、すべて「等級」がついて、制度や支援の対象が細かく決まっています。

じゃあ海外ではどうでしょうか?

🇩🇪ドイツ:「重度障がい者ID」

  • 国が発行するカード型の証明書。50%以上の障がいに対して交付され、交通機関の割引や雇用面での優遇が受けられる。

🇫🇷フランス:「障がい者モビリティカード」

  • 「障がいの有無」よりも、「移動や支援にどのくらい困難があるか」が判断基準。

🇬🇧イギリス:「Blue Badge」や「障がい手当(PIP)」

  • 一律の手帳制度はなく、「その人が必要とするサポート」に応じて制度が使い分けられる。

→つまり、海外では「何の障がいか?」よりも「何がどの程度困っているか?」に焦点が当たっているのが共通点です。

🔹日本語には「障がい者」の総称しかない。でも、部位ごとの言葉はやたら多い

「障がい者」という総称のほかに、日本語には「視覚障がい者」「聴覚障がい者」「内部障がい者」「発達障がい者」など、“部位ベース”の分類が非常に豊富です。

その背景には、次のような文化や制度の影響があります:

  • 日本では、支援制度の整備が“障がい部位ごと”に分かれて発展してきた
  • 医療の視点が強く「どこが悪いか」が支援の入口になる文化が根強い
  • 「配慮してもらうには、“根拠”が必要」という空気感が社会にある

そのため、病名や障がい名を明示することが「説明の一歩」とされてしまう場面も多くあります。

🔹英語では「部位+ディスオーダー」だけど、それが主ではない

英語にも「Autism Spectrum Disorder(ASD)」「Visual Impairment」「Mobility Disorder」など、障がいの部位や特徴を表す言葉はあります。
でも、それは医療や診断の場面で使われるテクニカルな言葉であって、日常的な人間関係や支援の現場で「その人を説明するための主語」にはなりにくい。

むしろ、英語圏では「Person with a disability」や「Person who needs support」といった、“人が先、障がいはあと”の表現が主流です。

この背景には、「社会モデル」という考え方が深く根付いています。

🔹「医療モデル」と「社会モデル」の違いが、制度と言葉の違いを生む

モデル障がいの捉え方問題の所在支援の出発点
医療モデル身体や精神の“欠損”本人診断・治療・矯正
社会モデル社会との不適合・障壁社会の側合理的配慮・調整

日本の制度は長年「医療モデル」に基づいて整備されてきました。
そのため「〇〇障がい者」という分類が重視され、「診断名がないと制度が使えない」ような構造ができあがっています。

一方、欧米では1980年代以降、障がいを「社会が作り出している壁」として捉える社会モデルが普及
だからこそ、「病名よりも“何に困っているか”を聞く」という文化が根付いているのです。

🔹ヘルプカードに見る、日本の“変わりつつある空気”

近年、日本でも「ヘルプカード」や「サポートブック」など、本人が“支援の中身”を伝える手段が少しずつ浸透してきました。
これは、「障がい名を伝えるのではなく、“してほしいこと”を伝える」ための一歩だと思います。

それでもなお、現場では「配慮してもらうには病名を言わないといけない」空気が残っていたり、「どこが悪いの?」と真っ先に聞かれる場面もまだまだ多い。
制度も社会も、過渡期の中にある──それが今の日本のリアルかもしれません。

締めのひとこと

「この人はここが悪い」ではなく、「この人には何が必要か」。
たった一言の違いが、当事者にとっては大きな差になります。
後編では、支援を受けてきた立場から、これから支援する側になる自分が感じていること、
そして「どう関わっていきたいか」という想いについてお話ししたいと思います。

ご家族の将来の不安を解決したい方はこちら: 親なきあと・障害年金・後見制度など、制度と法務の全てを見る

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

シェアお願いいたします!
  • URLをコピーしました!
目次