就労継続支援B型事業所では、日々の会話や面談を通じて、利用者の希望や困りごとを確認します。
しかし、利用者から不満を聞かなかったからといって、必ずしも「満足している」とは限りません。
利用者が事業所へ不満を伝えにくい背景には、さまざまな事情があります。
- 職員との関係を悪くしたくない
- 今後の利用に影響しないか不安
- 何を言っても変わらないと思っている
- 自分の希望を言葉にすることが難しい
- 他の事業所を選べる状況ではない
- 職員が忙しそうで話しかけにくい
事業所側が「何でも話してください」と伝えていても、利用者が安心して本音を話せるとは限りません。
利用者満足度を把握する際には、単にアンケートを配るだけでなく、意見を伝えても不利益を受けないと感じられる仕組みを整える必要があります。
「不満が出ていない」と「満足している」は同じではない
個別支援計画の面談で、利用者に次のように尋ねることがあります。
事業所で困っていることはありませんか?
これに対して「特にありません」と回答があれば、問題がないように見えます。
ただし、この質問だけでは、利用者の本音を十分に把握できない場合があります。
「困っていることはありますか」という質問は、利用者にとって答えにくいことがあるからです。
たとえば、次のように具体的に分けると、回答しやすくなります。
- 作業内容は自分に合っていますか
- 作業量や作業時間に負担はありませんか
- 職員へ相談しやすいですか
- 休憩を取りたいときに伝えられますか
- 他の利用者との関係で困ることはありませんか
- 工賃の仕組みについて説明を受けていますか
- 個別支援計画の目標に納得していますか
- 事業所で挑戦してみたいことはありますか
利用者満足度を確認する際には、「満足・不満」の二択だけでなく、事業所での具体的な経験を確認することが大切です。
職員との面談だけでは本音を話しにくいことがある
日常的に支援を担当している職員との面談には、大きな意味があります。
一方で、利用者から見ると、その職員は自分の支援内容や利用環境に影響を与える存在でもあります。
そのため、
本当は作業内容を変えてほしい
特定の職員の言い方が怖い
休憩を取りたいと言いにくい
支援計画の目標に納得していない
と感じていても、本人へ直接伝えられないことがあります。
これは、職員が高圧的だからとは限りません。
利用者が職員へ遠慮していたり、関係が悪くなることを心配していたりする場合もあります。
したがって、利用者の意見を把握する方法は、一つだけに限定しない方がよいでしょう。
匿名アンケートで確認できること
匿名アンケートには、対面では伝えにくい意見を出しやすくする効果が期待できます。
ただし、用紙に名前を書かないだけで、十分な匿名性が確保されるとは限りません。
小規模な事業所では、筆跡や回答内容から本人が推測されることがあります。
また、職員へ直接手渡す方法では、「誰がどの回答を出したか分かるのではないか」と不安を感じる利用者もいます。
匿名アンケートを行う場合は、次のような配慮を検討します。
- 氏名を記載しない
- 回答用紙を封筒へ入れる
- 回収箱を設置する
- 回答しないことも選べると説明する
- 個別の回答者を特定しない
- 回答内容による不利益はないと伝える
- 必要に応じて家族や支援者の補助を認める
大切なのは、「匿名です」と書くことではなく、利用者が実際に匿名だと感じられる方法にすることです。
アンケートの質問は分かりやすくする
質問項目が抽象的すぎると、利用者は何を基準に答えればよいか分かりません。
たとえば、
事業所の支援に満足していますか?
という質問だけでは、作業、職員対応、設備、工賃、人間関係などが一つにまとめられてしまいます。
質問は、できるだけ項目を分けます。
作業や活動について
- 作業内容は自分に合っている
- 作業の説明は分かりやすい
- 新しい作業へ挑戦する機会がある
- 疲れたときに休憩を申し出やすい
職員の対応について
- 職員は話を聞いてくれる
- 困ったときに相談できる
- 嫌なことを断ることができる
- 職員によって対応が大きく変わらない
個別支援計画について
- 自分の目標について説明を受けている
- 自分の希望が計画へ反映されている
- 計画の内容に納得している
- 目標を変更したいときに相談できる
事業所での生活について
- 安心して過ごせる
- 他の利用者との関係で困ったときに相談できる
- プライバシーが守られている
- 事業所のルールについて説明を受けている
回答方法も、「はい・いいえ」だけでなく、段階的に選べる形式や、「分からない」「答えたくない」という選択肢を用意すると、無理な回答を減らせます。
読み書きが苦手な利用者への配慮
アンケート用紙を配布するだけでは、すべての利用者が回答できるとは限りません。
文字の読み書きが苦手な人、質問の意味を理解しにくい人、自分の気持ちを選択肢から選ぶことが難しい人もいます。
必要に応じて、次のような方法を検討します。
- 質問文を短くする
- 難しい言葉を避ける
- ふりがなを付ける
- 絵や表情のマークを使う
- 一問ずつ読み上げる
- タブレットなどで回答する
- 本人が安心できる支援者に補助してもらう
- 日頃の表情や行動も参考にする
ただし、職員が質問を説明する際に、回答を誘導しないよう注意が必要です。
たとえば、
職員は優しくしてくれていますよね?
と尋ねれば、利用者は「はい」と答えやすくなります。
質問するときは、
職員に話しかけやすいですか?
話しかけにくいと感じることがありますか?
など、特定の回答を前提にしない聞き方が望まれます。
アンケート結果だけで判断しない
満足度アンケートは有効な方法ですが、その結果だけで事業所の支援の質を判断することはできません。
利用者がすべての項目で「満足」と回答していても、支援記録や面談内容を見ると、困りごとを抱えている場合があります。
反対に、一つの不満が記載されていたからといって、事業所全体の支援が否定されたわけでもありません。
利用者の意向を把握するときは、次の情報を組み合わせます。
- 利用者アンケート
- 本人との個別面談
- 個別支援計画
- モニタリング記録
- 日々の支援記録
- 苦情や相談の内容
- 家族や相談支援専門員からの情報
- 欠席や早退などの変化
- 利用中の表情や行動
ただし、家族の意見を本人の意向と同一視しないよう注意が必要です。
本人と家族の希望が異なる場合には、それぞれの意見を分けて整理します。
第三者が聞き取る場合にも注意が必要
事業所の職員ではない第三者が利用者から話を聞くことで、意見を出しやすくなる場合があります。
しかし、第三者であれば誰でもよいわけではありません。
実施する際には、少なくとも次の点を明確にしておく必要があります。
- 誰が聞き取るのか
- 何のために聞き取るのか
- 回答内容を誰へ伝えるのか
- 本人の名前を事業所へ伝えるのか
- 回答しないこともできるのか
- 緊急性の高い内容が出た場合にどう対応するのか
- 個人情報をどのように管理するのか
特に、虐待や権利侵害が疑われる内容については、単なる満足度調査の結果として処理せず、必要な対応へつなげなければなりません。
第三者による聞き取りは、事業所へ批判を集めるためのものではありません。
利用者が安心して意見を伝え、その内容を支援や運営の改善へつなげるために行うものです。
調査結果は「集めて終わり」にしない
利用者満足度調査で最も起こりやすい問題の一つが、アンケートを実施しただけで終わることです。
結果をファイルへ保管しても、支援や運営が何も変わらなければ、利用者は次第に回答しなくなります。
調査後は、次の流れで整理します。
結果を集計する
個人を特定しない形で、回答の傾向を確認します。
たとえば、
- 職員へ相談しにくいという回答が多い
- 休憩の取り方が分からない利用者がいる
- 個別支援計画の内容を理解していない人が多い
- 新しい作業を希望する意見がある
など、共通する課題を整理します。
対応を検討する
すべての要望を実現できるとは限りません。
その場合でも、
- すぐに改善できること
- 法人内で検討すること
- 個別に確認すること
- 対応が難しいこと
- 他機関との調整が必要なこと
に分けて検討します。
利用者へ結果を伝える
個人情報へ配慮したうえで、調査結果と事業所の対応方針を利用者へ伝えます。
意見を出しても何も変わらない
と思われないためにも、実施した改善だけでなく、対応できない事項についても理由を説明することが大切です。
個別の意見は個別支援計画へつなげる
アンケートの中には、事業所全体の運営課題ではなく、特定の利用者の支援に関わる意見が含まれることがあります。
たとえば、
- 作業時間を短くしたい
- 別の作業へ挑戦したい
- 一般就労について相談したい
- 特定の場面で強い不安を感じる
- 職員への希望を伝えたい
といった内容です。
本人が個別相談を希望している場合には、改めて意向を確認し、必要に応じてアセスメント、個別支援計画、モニタリングへ反映します。
アンケート回答だけを根拠に、本人へ確認せず計画を変更するのは適切ではありません。
アンケートは本人の意思を推測して決めるためではなく、本人と話し合うきっかけとして使うものです。
事業所全体の課題は運営改善へつなげる
複数の利用者から同じ意見が出ている場合は、個別支援だけでなく、事業所全体の運用を見直す必要があります。
たとえば、
職員へ休憩を申し出にくい
という回答が複数あれば、個々の利用者へ「遠慮せず言ってください」と伝えるだけでは十分ではありません。
- 休憩のルールは分かりやすいか
- 職員によって対応が違わないか
- 作業中に声を上げにくい雰囲気はないか
- 休憩を申し出た利用者が否定的に扱われていないか
- 職員間で対応方法を共有しているか
といった運用を確認します。
満足度調査は、利用者を評価するものではありません。
事業所側の支援方法や環境を見直すための材料です。
行政書士田中慶事務所が支援できること
行政書士田中慶事務所では、大阪市の障害福祉事業所を対象に、利用者の意向を支援と書類へ反映するための整理を支援しています。
主な対応内容は次のとおりです。
- 利用者アンケート様式の見直し
- 回収・集計方法の整理
- 個人情報の取扱方法の確認
- アンケート結果と個別支援計画のつながりの確認
- モニタリング記録への反映方法の整理
- 支援記録との整合性確認
- 苦情受付や相談対応の記録様式の整理
- 調査後の改善記録や会議録の整備
行政書士が利用者の心理状態を診断したり、専門的な心理検査を実施したりするものではありません。
また、虐待や重大な権利侵害が疑われる場合は、満足度調査の範囲にとどめず、関係機関への相談を含めた対応が必要です。
まとめ|満足度調査は「本音を聞くこと」より、その後が重要
利用者満足度調査は、アンケート用紙を配布すれば完了するものではありません。
大切なのは、
- 利用者が安心して回答できること
- 質問が分かりやすいこと
- 面談以外の方法も用意すること
- 回答を個人の不満として片付けないこと
- 個別の意見を支援計画へつなげること
- 共通する課題を事業所全体の改善へつなげること
- 事業所の対応を利用者へ伝えること
です。
利用者が意見を言わないのは、満足しているからとは限りません。
そして、意見を集めただけでは、事業所への信頼は高まりません。
伝えた意見が受け止められ、支援や運営の変化につながったと感じられること。
そこまで含めて、利用者満足度を確認する取組といえます。
