障がい福祉事業が“個人経営OK”になった世界を想像すると…?〜行政書士の立場から考える〜

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もしも障がい福祉事業が「個人」で始められたら?

障がい者福祉事業、たとえばグループホームや就労継続支援B型などは、現行制度上「法人格を持つ事業者」でなければ開設できません。
ですが、もしも「個人事業主」でも福祉サービスを提供できたら…いったいどんなことが起こるのでしょうか?
本記事では、制度の根拠をたどりつつ、もしも個人でも福祉事業を開設できる世界だったら何が問題になるのか?を行政書士の視点で掘り下げていきます。

現行制度では「法人格」が必須。その根拠は?

厚生労働省の示す基準によると、障がい福祉サービス事業者として指定を受けるには、「法人であること」が要件とされています(障害者総合支援法 第29条第1項、同施行規則第7条)。
この要件は、事業の継続性・信頼性を担保するための重要な制度的歯止めとされています。

たとえば大阪市の指定申請マニュアルでも「法人であること」が申請要件の第一に挙げられています。
(参考:大阪市「障がい福祉サービス事業等 指定申請の手引き」)

なぜ「個人事業主」ではダメなのか?〜行政書士が考える4つの理由〜

① 経営の透明性と責任の明確化

法人には、会計帳簿の保存義務財務諸表の開示義務(法人税法・会社法)などがあり、第三者からのチェックが入りやすくなっています。
個人事業主にはこれらの義務が一部緩く、「どれだけお金が使われ、どこに支出されているか」が見えにくいというデメリットがあります。

これは、利用者の人権やサービスの質を守る上でも、重要な問題です。

📌参考:会社法第435条〜、法人税法第126条など

② 法的責任の所在と罰則の違い

法人には、法人自体に民事責任・刑事責任が課される可能性があるため、重大な法令違反や虐待が起きた際の「責任の取り方」が制度上設計されています。
個人事業だと、「個人の資産」で責任を取る仕組みになるものの、倒産=責任終了となってしまうリスクが高く、制度的な抑止力に欠けます。

また、法人は会社法が適用されるため、行政処分・業務改善命令・罰則などが体系化されており、行政も監督しやすいという側面があります。

③ 資金調達・運転資金の安定性

福祉事業は開設費用が数百万〜数千万円規模になることが多く、信用力のある法人でなければ融資や補助金の申請が通りづらい現実があります。
個人名義で借りる場合、住宅ローンや事業用融資の限度額に縛られ、安定した運営が困難になる恐れがあります。

📌参考:日本政策金融公庫「創業融資Q&A」、厚労省の補助金申請要件(法人対象)

④ 利用者保護の観点

福祉サービスは、利用者の生活や命に関わる重要なインフラです。
「家業」のような個人商売ではなく、運営体制や従業員確保、内部監査の仕組みを整備した“組織”でなければ、安定的なサービス提供は難しいと考えられます。
法人であることで、一定の人員配置基準や事業運営規則が課されることが制度的な「質の担保」になっています。

それでも“個人でもやりたい”という声は、なぜ生まれるのか?

実際には、福祉の現場で長年働いてきた個人が、「自分でもやってみたい」と思うのは当然のことです。
資金面や手続きのハードルが高く、「法人を作るのが大変」「時間がかかる」という声もあります。

また、地方部では“人手不足・法人不足”が深刻で、「個人でも始められる仕組みがあれば…」という地域ニーズも確かに存在します。

もしも「個人経営OK」だったら、どんな世界になっていたか?

たとえば、フリーランス的に働く支援員が、そのまま「個人事業主」としてサービス提供者になっていたとしたら――
きっと立ち上げは増えますが、以下のようなリスクも同時に拡大します:

  • 利用者に不利益があっても、責任追及が難しい
  • 運営の“質のばらつき”が広がる
  • 潰れやすく、事業継続性が担保できない
  • 行政の監査が追いつかない

制度は「不自由」さを伴う一方で、その不自由が利用者や地域を守る“盾”でもある。
行政書士として、あらためてこの「法人格」という制度的要件の意味を噛みしめたいと思います。

おわりに|“誰でもできる”福祉ではなく、“誰もが安心できる”福祉のために

制度のハードルは、時に挑戦者の足かせになります。
けれど、福祉事業の法人要件には、利用者を守り、支援者を守り、地域を守るための合理的な理由があると私は思います。

これから福祉事業を始めようとする人にとって、法人格は“壁”ではなく“土台”です。
行政書士として、これからも制度の意味を丁寧に解きほぐし、「安心して立ち上げられる事業者」を一人でも多くサポートしていきたいと思います。

法人設立や障がい者福祉開設のサポートのご相談はこちら

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